悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫

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その後3

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 そしてふと思い付く。
償いで王妃の部屋の床掃除をしていたように、今度はサイフォスの部屋や身辺を掃除するのはどうかと。
陰ながら家族ごと守ってくれたサイフォスのように、今度は自分が下女になって、陰ながらサイフォスの健康や環境を守りたいと……

 といっても、見限られた身でそんな事が許されるはずもなく。
ラピズのように伝説魔法で姿を変える方法に辿り着いたのだった。

 そのためには、以前挨拶を交わした闇魔術士のニケに依頼しなければならないが……

~「伝説なのに、そんな簡単にたどり着けるものなのっ?」
「簡単じゃなかったよっ。
だから俺は、下人出身だからこそ。
アンダーグラウンドの伝手を使って、無登録の魔術士を探す事にしたんだ」~

 そんな存在を、貴族令嬢で温室育ちのヴィオラが一人で探し出すのは不可能に近く。
ラピズに尋ねるより他はなかった。

 となると、当然理由を訊かれるに違いなく。
ラピズを騙している事を心苦しく思っていたヴィオラは、今ならサイフォスに害はないだろうと判断し。
本当の気持ちを打ち明けようと、腹を括ったのだった。

 そう、今のラピズなら……
王宮を去ったうえに、サイフォスに近付ける立ち位置も失ったため、暗殺は難しく。
本来なら処刑されるところを赦されたとなれば、命を救われたも同然であり。
その上実際は何も悪くないサイフォスから、身に余るほど絶大な詫びを受けたとなれば、どう転んでも恨みようがないからだ。

 なにより、別れても愛しているという事は……
他の女性と添い遂げようとも、愛しているという事は……
決して結ばれなくても、死に別れても、愛しているのと同然で。
つまりはサイフォスを暗殺しても、ヴィオラの心は取り戻せないという事になるため。
ラピズにとって、もうそれをする意味が無いと判断したのだった。





 そして数日後。
ヴィオラはリモネの案内で、ラピズの新しい屋敷を訪れた。

「突然どうしたんだっ?
王宮疲れの方は、もう大丈夫なのか?」

「うん、心配かけてごめんね?」

「いや、元気になって良かったよ。
俺こそ、中々見舞いに行けなくてごめん」

「ううん、そんな事全然……
私の方が何倍も、ラピズには申し訳ないと思ってる。
今日は、その事で話があって来たの。
2人っきりで話せる?」

「……わかった。
部屋に案内する」

 ラピズは、そう客室に誘導しながら……
ヴィオラの神妙な様子に、得体の知れない不安を感じていた。


 そのため、部屋に入るとすぐに。

「どうかな、俺の屋敷。
この部屋も、けっこういい感じだろう?」
そう話を切り替えた。

「え……
うん、とても素敵だと思う。
居心地も、すごくいいし……」

 そんな心境ではなかったものの。
すぐさま辺りを見回して、そう答えると。

「よかった。
ヴィオラのために造ったからさ、気に入ってもらえて嬉しいよ」

 そう返されて、面食らうヴィオラ。

 なぜならそれは、一緒に住むつもりだと言っているも同然だからで……
今から本当の気持ち打ち明けようとしていた手前、どうしようと困り焦る。

「っ、待ってラピズ……
ここは、あなたが人生を共にする場所でしょう?
なのに、私を基準にすべきじゃないわっ。
だって私たちが一緒に生きられる未来は、もうないって言ったはずよっ?」

「けどその時とは状況が変わっただろっ!
もう自由の身なんだ。
未来は今から、新しく作り直せばいい」
そう言って、プロポーズの言葉を口にしようとした矢先。

「でも変わらないものがあるって気付いたの!」
先にヴィオラが、本来の目的を切り出した。

「ずっと騙してて、ごめんなさい……
私は、サイフォス様を愛してるの。
たとえ2度と会えなくても、殿下が他の女性と再婚しても。
その気持ちは生涯、決して変わらないって気付いたのっ」

「っっっ、なんだよそれ……
やっぱり、俺の思った通りじゃないかっ……
よくもあんな酷い嘘、つけたもんだなぁ!」

「でもあなたに罪を犯させるよりマシだと思ったの!」

「都合のいい事言うなよ!
殿下を守りたかっただけだろうっ!?」

「違うわっ!
確かに、殿下の事は守りたかったけど……
でも同じくらい、あなたにそんな愚かな事をさせたくなかったのっ」
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