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その後2
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そうまさに、サイフォスだけだったのだ。
ヴィオラが愛しているのも、もちろんそうだが……
サイフォスだけが、ヴィオラの事を何よりも大切にしてくれたのだ。
そう、父であるシュトラント公爵は、自身の地位や権力のためにヴィオラを犠牲にし。
恋人だったラピズですら、自身の気持ちばかりを押し付けて、ヴィオラの気持ちや立場を顧みなかったというのに。
サイフォスはむしろ、自身の気持ちや立場を顧みず、身体や努力さえも犠牲にしてまで、ヴィオラの事を第一に考えていたからだ。
シュトラント公爵が、そんなふうに取り乱すヴィオラを目にしたのは……
ヴィオラがまだ幼かった頃に、その母である妻が亡くなった時以来だったため。
しばし狼狽えるも……
まずは同調しなければと、泣き崩れる背中を優しくさすって声かけた。
「そうだな……
確かに殿下は、お前を本当に大切にしてくださっていた。
だからこそ、このシュトラント家まで守ってくださったのだろう」
「……どういう、事ですか?」
思わぬ情報に、気を引きつけられるヴィオラ。
「んん?
まさか、知らなかったのか?
知らずに、あれほど悪妃に扮していたのかっ?」
思わず呆れ驚くも。
今は慰めなければと、仕切り直す公爵。
「まぁ結果的に、有利に事が運んで良かったのだが……
なぜ私が、お前の悪行を黙って見過ごしていたと思っているのだ。
本来ならシュトラント家に悪影響が及ばぬよう、阻止するところだぞ?
しかし殿下が徹底的に、悪影響を防いでくださったから。
お前は好き放題出来て、私は一目置かれるようになり、むしろ好影響だったからだ」
「……なぜそれで、一目置かれるようになるのです?」
「殿下が我々のためだけに、発令してくださったからだ。
王太子として、妃やその一族に対する不敬や侮辱は絶対に許さないと。
さらに舞踏会のあとには……
夫である自分が許している妻の振る舞いを、他の者が批判するのは許さないと、厳しく警告なさり。
反した者は、処刑や国外追放される事になっているからだ」
そう、だからこそ。
多くの貴族から制裁が下される事もなければ。
フラワベルも、王妃を味方につけるまで表立った嫌がらせが出来なかったのだ。
ーー私はあれほど酷い仕打ちをしたというのに……
サイフォス様はそこまで私と、私の家族まで守ってくださってたなんて!
ヴィオラはますます涙が溢れ返り、いっそう想いを募らせて……
胸が狂おしいほど熱くなる。
「……そんなに殿下を愛しているなら、それほど後悔しているなら。
殿下が守ってくださったものを、疎かにするでない。
そうやっていつまでも塞ぎ込んでいては、せっかく守っていただいたその身も心も、ボロボロになってしまうぞ?
しかもお前がそんな状態では、安心して南部に行けぬゆえ。
せっかく与えていただいた公領も、荒らしてしまう事になるのだぞ?
殿下がしてくださった事を、無駄にする気か?」
そう言われては、塞ぎ込んでいるわけにはいかず……
「……わかりました。
ちゃんと、食べます」
公爵の思惑通りに、ヴィオラは立ち直り始めたのだった。
というのも、公爵の話でサイフォスへの想いはさらに募り。
会いたい気持ちも増すばかりで……
同時に償いたいという気持ちも、抑えきれなくなったからでもあった。
そう、そのためにも元気にならなけばと思い。
ヴィオラは体調を回復させながら……
どうにか会える方法はないか、償う方法はないかと、模索したのだった。
ヴィオラが愛しているのも、もちろんそうだが……
サイフォスだけが、ヴィオラの事を何よりも大切にしてくれたのだ。
そう、父であるシュトラント公爵は、自身の地位や権力のためにヴィオラを犠牲にし。
恋人だったラピズですら、自身の気持ちばかりを押し付けて、ヴィオラの気持ちや立場を顧みなかったというのに。
サイフォスはむしろ、自身の気持ちや立場を顧みず、身体や努力さえも犠牲にしてまで、ヴィオラの事を第一に考えていたからだ。
シュトラント公爵が、そんなふうに取り乱すヴィオラを目にしたのは……
ヴィオラがまだ幼かった頃に、その母である妻が亡くなった時以来だったため。
しばし狼狽えるも……
まずは同調しなければと、泣き崩れる背中を優しくさすって声かけた。
「そうだな……
確かに殿下は、お前を本当に大切にしてくださっていた。
だからこそ、このシュトラント家まで守ってくださったのだろう」
「……どういう、事ですか?」
思わぬ情報に、気を引きつけられるヴィオラ。
「んん?
まさか、知らなかったのか?
知らずに、あれほど悪妃に扮していたのかっ?」
思わず呆れ驚くも。
今は慰めなければと、仕切り直す公爵。
「まぁ結果的に、有利に事が運んで良かったのだが……
なぜ私が、お前の悪行を黙って見過ごしていたと思っているのだ。
本来ならシュトラント家に悪影響が及ばぬよう、阻止するところだぞ?
しかし殿下が徹底的に、悪影響を防いでくださったから。
お前は好き放題出来て、私は一目置かれるようになり、むしろ好影響だったからだ」
「……なぜそれで、一目置かれるようになるのです?」
「殿下が我々のためだけに、発令してくださったからだ。
王太子として、妃やその一族に対する不敬や侮辱は絶対に許さないと。
さらに舞踏会のあとには……
夫である自分が許している妻の振る舞いを、他の者が批判するのは許さないと、厳しく警告なさり。
反した者は、処刑や国外追放される事になっているからだ」
そう、だからこそ。
多くの貴族から制裁が下される事もなければ。
フラワベルも、王妃を味方につけるまで表立った嫌がらせが出来なかったのだ。
ーー私はあれほど酷い仕打ちをしたというのに……
サイフォス様はそこまで私と、私の家族まで守ってくださってたなんて!
ヴィオラはますます涙が溢れ返り、いっそう想いを募らせて……
胸が狂おしいほど熱くなる。
「……そんなに殿下を愛しているなら、それほど後悔しているなら。
殿下が守ってくださったものを、疎かにするでない。
そうやっていつまでも塞ぎ込んでいては、せっかく守っていただいたその身も心も、ボロボロになってしまうぞ?
しかもお前がそんな状態では、安心して南部に行けぬゆえ。
せっかく与えていただいた公領も、荒らしてしまう事になるのだぞ?
殿下がしてくださった事を、無駄にする気か?」
そう言われては、塞ぎ込んでいるわけにはいかず……
「……わかりました。
ちゃんと、食べます」
公爵の思惑通りに、ヴィオラは立ち直り始めたのだった。
というのも、公爵の話でサイフォスへの想いはさらに募り。
会いたい気持ちも増すばかりで……
同時に償いたいという気持ちも、抑えきれなくなったからでもあった。
そう、そのためにも元気にならなけばと思い。
ヴィオラは体調を回復させながら……
どうにか会える方法はないか、償う方法はないかと、模索したのだった。
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