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償い1
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翌日の昼過ぎ。
ヴィオラが再び、王妃の部屋を訪れると……
「あら、上手く言い逃れるおつもりなのかと思ったのに。
本当にいらっしゃったのね」
先に訪れていたフラワベルに、そう声かけられる。
「……どうしてあなたがここに?」
「こちらのセリフですわ。
私は毎日のように、陛下のお見舞いに来てるのに。
妃殿下は今さら、どういう風の吹き回しなのかしら?」
そこで王妃も、フラワベルに口添える。
「そうね。
だから私にとっては、あなたの方が娘のように思ってるわ。
まぁじきに、そうなるでしょうけど」
「っ、どういう事ですかっ?」
「言葉の通りよ。
私はフラワベルを、サイフォスの側室に斡旋してるの」
ーーそんなっ!
王太子にとって、側室を娶るのは至極当然の事だったが。
そしてヴィオラ自身、分かっている事だったが……
サイフォスを愛している今となっては、耐え難い事だった。
「……サイフォス様は、なんと?」
「あの子も、満更でもなさそうだったわよっ?
あなたにそそのかされなければ、このフラワベルが王太子妃になっていたはずだもの」
「……そうですか。
では私は、床掃除に取り掛からせていただきます」
やり切れない気持ちを押し殺して。
とにかく今自分に出来る事をやろう!と、そう切り替えるヴィオラ。
「妃殿下!
陛下はご病人なんですから、ちゃんと埃を立てないように気をつけてくださいねっ?」
「もちろん、心得ています」
そう、フラワベルに指摘されるまでもなく。
ほうきを使うと埃が舞うため、まずは乾拭きでそれを取り始めた。
「それにしても、あの姿……
妃殿下には、王太子妃としての自覚がないのかしら?」
ヴィオラは作業しやすいように、慰問時に着ていた簡素なドレスを着用しており。
さらには跪いて汗を拭いながら作業していたため、それを嘲笑うフラワベル。
王太子妃ともあろう者が、双方の侍女たちも見ている前で。
下女のような働きをし、それを目下の者から笑い者にされるなど……
本来ならありえない屈辱で、とても許される事ではなかった。
しかしサイフォスに与えた屈辱を思えば、当然の報いだと……
ヴィオラはいっそう掃除に励んだ。
とはいえ広い部屋を、埃に細心の注意を払いながら1人で拭きあげるのは、並大抵の事ではなく。
いくら掃除経験があるとはいえ、勝手が違う慣れない作業に手間取ってしまい。
その上、のろまな気質も影響し……
「ちょっと、いつまでやってるのっ?
いいかげん目障りだわ」
そう王妃から叱責される。
「申し訳ございませんっ。
もう少々、お待ちくださいませっ」
慣れない重労働でクタクタの身体に鞭打って、必死に頑張るヴィオラ。
そうやってようやく拭きあげ、ふぅと安堵の息を漏らすと。
「片付けはお手伝いしますわ」
そう言ってフラワベルが、汚れた水桶を持ち上げた。
その途端。
「きゃあっ!」
なんとヴィオラ越しに、床にぶち撒けてしまう。
「やだ、ごめんなさいっ。
重くて力みすぎてしまいましたわ。
陛下、お部屋を汚してしまって、大変申し訳ございませんっ」
「いいのよ、また拭けばいいんだから。
ほら、さっさと拭いてちょうだい」
王妃は、そうヴィオラに指示するも。
汚水まみれの状態では、拭いた側から汚してしまう事になり。
かといって汚水だらけの床を放置して、着替えに戻るわけにもいかず。
しかも身体のあちこちが、悲鳴をあげているにもかかわらず。
やっとの思いで終えた側から、また拭き直さなければならなくなり。
誰の目から見ても、わざと零していたのは明白なのに。
王妃が許すとなれば、どんな理不尽にも耐え忍ぶしかなく。
悔しくて、さすがに辛くて、もうどうすればいいのかわからなくて……
思わず泣きそうになる。
しかし、償う立場で泣いてる場合じゃないと。
やると決めたからには、頑張るしかないと。
ぐっと涙を押し殺して、心を奮い立たせるヴィオラ。
そしてどうすればいいのか、深呼吸をして考えると……
「恐れ入りますが、このままでは逆に床を汚してしまうので。
着替えをすぐに用意出来る者に、服を借りてもよろしいでしょうか?」
そう願い出た。
すると王妃は、「いいわ」と微笑み。
自室の下女を呼び出し、その服を持って来させた。
身分の高い侍女の服ならまだしも。
王太子妃に、薄汚れた下女の服を着せるなど……
あってはならない侮辱だった。
それでも、背に腹は変えられず。
リモネは、ヴィオラの着替えをリネンで隠しながら……
何も出来ない口惜しさに、今にも泣きそうになっていた。
そうしてヴィオラは……
あまりに惨めな状況と、身体の痛みに歯を食いしばりながら、なんとかその日の床掃除を終えたのだった。
ヴィオラが再び、王妃の部屋を訪れると……
「あら、上手く言い逃れるおつもりなのかと思ったのに。
本当にいらっしゃったのね」
先に訪れていたフラワベルに、そう声かけられる。
「……どうしてあなたがここに?」
「こちらのセリフですわ。
私は毎日のように、陛下のお見舞いに来てるのに。
妃殿下は今さら、どういう風の吹き回しなのかしら?」
そこで王妃も、フラワベルに口添える。
「そうね。
だから私にとっては、あなたの方が娘のように思ってるわ。
まぁじきに、そうなるでしょうけど」
「っ、どういう事ですかっ?」
「言葉の通りよ。
私はフラワベルを、サイフォスの側室に斡旋してるの」
ーーそんなっ!
王太子にとって、側室を娶るのは至極当然の事だったが。
そしてヴィオラ自身、分かっている事だったが……
サイフォスを愛している今となっては、耐え難い事だった。
「……サイフォス様は、なんと?」
「あの子も、満更でもなさそうだったわよっ?
あなたにそそのかされなければ、このフラワベルが王太子妃になっていたはずだもの」
「……そうですか。
では私は、床掃除に取り掛からせていただきます」
やり切れない気持ちを押し殺して。
とにかく今自分に出来る事をやろう!と、そう切り替えるヴィオラ。
「妃殿下!
陛下はご病人なんですから、ちゃんと埃を立てないように気をつけてくださいねっ?」
「もちろん、心得ています」
そう、フラワベルに指摘されるまでもなく。
ほうきを使うと埃が舞うため、まずは乾拭きでそれを取り始めた。
「それにしても、あの姿……
妃殿下には、王太子妃としての自覚がないのかしら?」
ヴィオラは作業しやすいように、慰問時に着ていた簡素なドレスを着用しており。
さらには跪いて汗を拭いながら作業していたため、それを嘲笑うフラワベル。
王太子妃ともあろう者が、双方の侍女たちも見ている前で。
下女のような働きをし、それを目下の者から笑い者にされるなど……
本来ならありえない屈辱で、とても許される事ではなかった。
しかしサイフォスに与えた屈辱を思えば、当然の報いだと……
ヴィオラはいっそう掃除に励んだ。
とはいえ広い部屋を、埃に細心の注意を払いながら1人で拭きあげるのは、並大抵の事ではなく。
いくら掃除経験があるとはいえ、勝手が違う慣れない作業に手間取ってしまい。
その上、のろまな気質も影響し……
「ちょっと、いつまでやってるのっ?
いいかげん目障りだわ」
そう王妃から叱責される。
「申し訳ございませんっ。
もう少々、お待ちくださいませっ」
慣れない重労働でクタクタの身体に鞭打って、必死に頑張るヴィオラ。
そうやってようやく拭きあげ、ふぅと安堵の息を漏らすと。
「片付けはお手伝いしますわ」
そう言ってフラワベルが、汚れた水桶を持ち上げた。
その途端。
「きゃあっ!」
なんとヴィオラ越しに、床にぶち撒けてしまう。
「やだ、ごめんなさいっ。
重くて力みすぎてしまいましたわ。
陛下、お部屋を汚してしまって、大変申し訳ございませんっ」
「いいのよ、また拭けばいいんだから。
ほら、さっさと拭いてちょうだい」
王妃は、そうヴィオラに指示するも。
汚水まみれの状態では、拭いた側から汚してしまう事になり。
かといって汚水だらけの床を放置して、着替えに戻るわけにもいかず。
しかも身体のあちこちが、悲鳴をあげているにもかかわらず。
やっとの思いで終えた側から、また拭き直さなければならなくなり。
誰の目から見ても、わざと零していたのは明白なのに。
王妃が許すとなれば、どんな理不尽にも耐え忍ぶしかなく。
悔しくて、さすがに辛くて、もうどうすればいいのかわからなくて……
思わず泣きそうになる。
しかし、償う立場で泣いてる場合じゃないと。
やると決めたからには、頑張るしかないと。
ぐっと涙を押し殺して、心を奮い立たせるヴィオラ。
そしてどうすればいいのか、深呼吸をして考えると……
「恐れ入りますが、このままでは逆に床を汚してしまうので。
着替えをすぐに用意出来る者に、服を借りてもよろしいでしょうか?」
そう願い出た。
すると王妃は、「いいわ」と微笑み。
自室の下女を呼び出し、その服を持って来させた。
身分の高い侍女の服ならまだしも。
王太子妃に、薄汚れた下女の服を着せるなど……
あってはならない侮辱だった。
それでも、背に腹は変えられず。
リモネは、ヴィオラの着替えをリネンで隠しながら……
何も出来ない口惜しさに、今にも泣きそうになっていた。
そうしてヴィオラは……
あまりに惨めな状況と、身体の痛みに歯を食いしばりながら、なんとかその日の床掃除を終えたのだった。
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