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翌日。
ヴィオラはサイフォスの来訪を待ち望みながらも、複雑な気持ちでいた。
なんとか説得出来て良かったと思いながらも……
そのために傷付けてしまったラピズの前で、サイフォスと会うのは気が引けていたからだ。
ところが、そんな懸念を余所に……
その日サイフォスは、ヴィオラの部屋に来なかった。
ーーどうしたのかしら?
何かあったのかしら?
若干の心配と寂しさを抱きながらも。
忙しかったのかもと。
ラピズの手前、ワンクッション置けて逆に良かったと。
そう思って眠りに就いたのだった。
しかし次の日も、その次の日も、サイフォスは訪れず。
毎日来るとまで言っていた、誠実な人が……
何の連絡もなく、3日も来ない事に。
何かあったに違いないと、心配でたまらなくなるヴィオラ。
それでもラピズの手前。
用もないのに、自分からサイフォスに会いに行くのは気が引けて……
どうしようと困惑する。
そこでふと、説得の直後からこうなっている事に気付き。
ーーまさか、ラピズが何か!
思わず、そんな疑惑がよぎってしまう。
だけどすぐに。
ーー私ったらなんて事をっ……
ラピズはわかってくれたはず。
暗殺だって、踏みとどまってくれたはず!
そう自分をたしなめた。
とはいえ。
一刻も早く、サイフォスの安否を確かめずにはいられなくなったヴィオラは……
ラピズを気遣うどころではなくなり。
すぐさま、サイフォスの部屋を訪れたのだった。
ところが……
「しばらくは、誰ともお会いする気はないとの事です。
申し訳ございませんが、お引き取り願います」
ウォルター卿に、そう門前払いされてしまう。
「えっ……
何かあったのですかっ?
それとも、どこか悪いのですかっ?」
「いえ、何も。
ただ公務が立て込んでいるだけです」
と、冷たく返すウォルター卿。
「でしたら、私にもお手伝いさせてくださいっ」
「結構です。
そういった申し出も、お断りするよう申しつかっておりますので」
「そんなっ……」
あの優しいサイフォスが、約束をすっぽかしている状況下で、こうも拒絶を示すとは考えられず。
やはり何かあったのだと、確信するヴィオラ。
しかしウォルター卿が、それを教えてくれるとは思えず……
「わかりました」と答えると。
藁にも縋る思いで、王宮魔術士の元を訪れた。
とにかくサイフォスの無事だけでも、確かめずにはいられなかったため。
その治療等に携わっている彼女なら、大体の事は把握していると思ったからだ。
◇
「王太子妃殿下に、ご挨拶申し上げます」
「堅苦しい挨拶はいらないわっ。
それより、この前はありがとうございます。
色々と協力してくださって、本当に助かりました」
「滅相もございません。
むしろ私から提案したにもかかわらず、時間稼ぎが出来ずにすみません」
「いいえ、殿下とはちゃんと話せたので、問題ありません」
「そのようですね」
魔術士モエは、そうにっこり微笑んだ。
あれ以来、サイフォスがかつてないほど好調な事や。
公務に励む、ヴィオラのいい噂を耳にするようになった事。
そして前回とは打って変わった、ヴィオラの好意的な態度を、微笑ましく思ったからだ。
「それで、またお願いがあるのですが……」
「お伺いいたします」
「ありがとうございます。
では包み隠さず、本当の事を教えてください。
殿下は今、大丈夫なのでしょうか?」
「はい?
と、おっしゃいますと?」
「実は……」とヴィオラは、すっぽかされている状況や、ウォルター卿とのやり取りを話した。
「殿下の性格や、今まで行動から考えると。
私に負担をかけないように、何かを隠しているように思えて……」
「心配になったという訳ですね?」
ヴィオラがこくりと頷くと。
魔術士モエは、少し考える素振りをみせた。
「……確かに、妃殿下への行動とは思えないですね。
ですが、私の耳には何の異変も届いておりません」
「そうですか……」
モエの親身な態度から、嘘ではないと信じるヴィオラ。
「なので、また一緒に訪ねてみましょう」
モエの提案はこうだった。
所用でサイフォスの部屋を訪れ。
ヴィオラには、見えないところに隠れてもらい。
通されるタイミングで、用事を手伝っている設定のヴィオラに声掛け。
2人で中に入るといった内容だった。
それならヴィオラだけ拒むわけにはいかないうえに。
誰とも会う気はないといった通告も嘘になるため、付け入る隙も出来るのだ。
「ありがとうございますっ」
ヴィオラは深々頭を下げた。
「あなたには本当に、力になってもらってばかりで……
何とお礼をしたらいいか」
「いえ、大した事ではございませんし。
私も殿下の状態が気になりますので。
ただ、実行するのはもう少し日を空けてからがよろしいかと思います。
前回と同じような手口ですし、今日の今日では警戒されるやもしれませんので」
「……そうですね、そうします」
もっともだと思い。
すぐにでも確かめたい気持ちを、ぐっと抑え込むヴィオラ。
「ではその間に……
もうひとり心配な方がいるので、その方の事を教えていただけますか?」
「はい、私に分かる事でしたら……」
「実は、王妃陛下のお見舞いにお伺いしたいのですが、お見舞いの品を決めかねていて……
陛下の好物などを教えてください」
そう、ラピスとの関係がひとまず解決した事で……
もう離婚を狙う理由も、悪妃を演じる必要もなくなったため。
かねてから心配していた王妃の事を、ようやく見舞いに行けるからだ。
もちろん王の事も心配していたが、その病は極秘事項のため、そちらの見舞いには行けないのだった。
そうして。
「それなら存じ上げております」と答えたモエから、王妃の好物を聞き出したヴィオラは……
さっそくそれらの手配に出掛けたのだった。
ヴィオラはサイフォスの来訪を待ち望みながらも、複雑な気持ちでいた。
なんとか説得出来て良かったと思いながらも……
そのために傷付けてしまったラピズの前で、サイフォスと会うのは気が引けていたからだ。
ところが、そんな懸念を余所に……
その日サイフォスは、ヴィオラの部屋に来なかった。
ーーどうしたのかしら?
何かあったのかしら?
若干の心配と寂しさを抱きながらも。
忙しかったのかもと。
ラピズの手前、ワンクッション置けて逆に良かったと。
そう思って眠りに就いたのだった。
しかし次の日も、その次の日も、サイフォスは訪れず。
毎日来るとまで言っていた、誠実な人が……
何の連絡もなく、3日も来ない事に。
何かあったに違いないと、心配でたまらなくなるヴィオラ。
それでもラピズの手前。
用もないのに、自分からサイフォスに会いに行くのは気が引けて……
どうしようと困惑する。
そこでふと、説得の直後からこうなっている事に気付き。
ーーまさか、ラピズが何か!
思わず、そんな疑惑がよぎってしまう。
だけどすぐに。
ーー私ったらなんて事をっ……
ラピズはわかってくれたはず。
暗殺だって、踏みとどまってくれたはず!
そう自分をたしなめた。
とはいえ。
一刻も早く、サイフォスの安否を確かめずにはいられなくなったヴィオラは……
ラピズを気遣うどころではなくなり。
すぐさま、サイフォスの部屋を訪れたのだった。
ところが……
「しばらくは、誰ともお会いする気はないとの事です。
申し訳ございませんが、お引き取り願います」
ウォルター卿に、そう門前払いされてしまう。
「えっ……
何かあったのですかっ?
それとも、どこか悪いのですかっ?」
「いえ、何も。
ただ公務が立て込んでいるだけです」
と、冷たく返すウォルター卿。
「でしたら、私にもお手伝いさせてくださいっ」
「結構です。
そういった申し出も、お断りするよう申しつかっておりますので」
「そんなっ……」
あの優しいサイフォスが、約束をすっぽかしている状況下で、こうも拒絶を示すとは考えられず。
やはり何かあったのだと、確信するヴィオラ。
しかしウォルター卿が、それを教えてくれるとは思えず……
「わかりました」と答えると。
藁にも縋る思いで、王宮魔術士の元を訪れた。
とにかくサイフォスの無事だけでも、確かめずにはいられなかったため。
その治療等に携わっている彼女なら、大体の事は把握していると思ったからだ。
◇
「王太子妃殿下に、ご挨拶申し上げます」
「堅苦しい挨拶はいらないわっ。
それより、この前はありがとうございます。
色々と協力してくださって、本当に助かりました」
「滅相もございません。
むしろ私から提案したにもかかわらず、時間稼ぎが出来ずにすみません」
「いいえ、殿下とはちゃんと話せたので、問題ありません」
「そのようですね」
魔術士モエは、そうにっこり微笑んだ。
あれ以来、サイフォスがかつてないほど好調な事や。
公務に励む、ヴィオラのいい噂を耳にするようになった事。
そして前回とは打って変わった、ヴィオラの好意的な態度を、微笑ましく思ったからだ。
「それで、またお願いがあるのですが……」
「お伺いいたします」
「ありがとうございます。
では包み隠さず、本当の事を教えてください。
殿下は今、大丈夫なのでしょうか?」
「はい?
と、おっしゃいますと?」
「実は……」とヴィオラは、すっぽかされている状況や、ウォルター卿とのやり取りを話した。
「殿下の性格や、今まで行動から考えると。
私に負担をかけないように、何かを隠しているように思えて……」
「心配になったという訳ですね?」
ヴィオラがこくりと頷くと。
魔術士モエは、少し考える素振りをみせた。
「……確かに、妃殿下への行動とは思えないですね。
ですが、私の耳には何の異変も届いておりません」
「そうですか……」
モエの親身な態度から、嘘ではないと信じるヴィオラ。
「なので、また一緒に訪ねてみましょう」
モエの提案はこうだった。
所用でサイフォスの部屋を訪れ。
ヴィオラには、見えないところに隠れてもらい。
通されるタイミングで、用事を手伝っている設定のヴィオラに声掛け。
2人で中に入るといった内容だった。
それならヴィオラだけ拒むわけにはいかないうえに。
誰とも会う気はないといった通告も嘘になるため、付け入る隙も出来るのだ。
「ありがとうございますっ」
ヴィオラは深々頭を下げた。
「あなたには本当に、力になってもらってばかりで……
何とお礼をしたらいいか」
「いえ、大した事ではございませんし。
私も殿下の状態が気になりますので。
ただ、実行するのはもう少し日を空けてからがよろしいかと思います。
前回と同じような手口ですし、今日の今日では警戒されるやもしれませんので」
「……そうですね、そうします」
もっともだと思い。
すぐにでも確かめたい気持ちを、ぐっと抑え込むヴィオラ。
「ではその間に……
もうひとり心配な方がいるので、その方の事を教えていただけますか?」
「はい、私に分かる事でしたら……」
「実は、王妃陛下のお見舞いにお伺いしたいのですが、お見舞いの品を決めかねていて……
陛下の好物などを教えてください」
そう、ラピスとの関係がひとまず解決した事で……
もう離婚を狙う理由も、悪妃を演じる必要もなくなったため。
かねてから心配していた王妃の事を、ようやく見舞いに行けるからだ。
もちろん王の事も心配していたが、その病は極秘事項のため、そちらの見舞いには行けないのだった。
そうして。
「それなら存じ上げております」と答えたモエから、王妃の好物を聞き出したヴィオラは……
さっそくそれらの手配に出掛けたのだった。
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