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強引1

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 茶会を終えて、岸辺に戻ると。
ヴィオラはサイフォスのエスコートで下船しながら……

ーーまだ離れたくない!
名残惜しくて、思わずその手をぎゅっとしてしまう。

 当然サイフォスも、数倍名残惜しく感じており。
そこで、同じ気持ちだと言わんばかりのリアクションを受け。
嬉しくて堪らなくて、すかさず握り返すと、そのままぎゅうと繋ぎ続けた。

 ヴィオラも、嬉しくてたまらなくなるも……
ずっと苛立ちを募らせながら待ち侘びていた、ラピズの圧を感じて。

「っ、いつまで繋いでる気ですかっ?
いいかげん離してください!」
そう怒るしかなかった。

 しかしサイフォスは……
つい先程までとは打って変わった、人前では悪妃に戻るチグハグな言動や。
離してと言いながらも、なおもぎゅっとしがみついている矛盾した言動に。
キョトンと面食らって、フッと笑みを零すと。

「いや、部屋まで送らせてくれ」
そう言って、逆にぎゅっと指まで絡めた。

 ヴィオラはそんなサイフォスにキュンとして、どうしようもなく愛しさが込み上げるも……
ラピズにバレてはいけない!と、慌てて悪妃に扮した。

「っ、結構です!
何か勘違いしているようなので、この際はっきり言っておきます。
私は公務の件で、殿下に頭が上がらないだけで、決して心を許しているわけではありません。
なので全ての引き継ぎが終わり次第、約束通り対等にさせていただきます」

 結局サイフォスを傷付けている事に、そして自分の気持ちに嘘をつかなければならない事に、胸が千切れそうになりながらも……
サイフォスを守るために、そうラピズに悪妃アピールするヴィオラ。

 一方サイフォスは……
頭が上がらなかったから俺を受け入れてくれたのか!?と、ショックを受けるも。
あの慰めや心配の数々が、本心じゃないとは思えず……
自分だけに見せてくれた姿を信じる事にした。

「……わかった。
だが言い換えれば、今は俺に逆らえないという事だろう?
だから、このまま部屋まで送らせてもらう」

 そう言われては、何も言い返せず……
むしろ、願ったり叶ったりでしかなく。
ヴィオラはそんなサイフォスの、どこまでも強く真っ直ぐな想いに救われて。
今にも泣いてしまいそうなほど、嬉しくて愛しくてたまらなくなっていた。

 涙を堪えるヴィオラの姿は、逆らえずに悔しがっているように見えたものの……
ラピズは、やけに強引になって来たサイフォスを前に。
殿下を殺さなければ、2人が想い合うのも時間の問題だと、焦りを感じていた。


 そんな中、部屋に戻ったヴィオラは……
これからどうすればいいのかと、思い悩んでいた。

 先程、離れたくないと望んだように……
今のヴィオラは、サイフォスとずっと一緒に居たいと思っており。
つまりはもう、離婚を狙ってはおらず。
むしろ、離婚したくないと思っていた。

 しかし離婚しなければ……
ラピズはずっと、護衛騎士を続けるに違いなく。
つまりはずっと、寿命を代価に使い続ける事を意味しており。
これ以上そんな事をさせる訳にはいかないうえに。
これ以上過去の関係に縛り付ける訳にはいかないため。
ヴィオラは考えあぐねていた。

 そう仮に、もうラピズとやり直す気はないと言っても。
殿下を好きになったからだろう!と言われるのがオチで。
もう悪妃を演じるのが辛いなどと言っても、同様の指摘を返される事が窺え。

 どんな理由を並べたところで……
そんな事態を招いたサイフォスに、ラピズの憎しみがぶつけられるのは目に見えていた。

 となると。
サイフォスを守るためには、そしてラピズの寿命を守るためにも、離婚が最善の策で……
引き続きそれを狙う限り。
ヴィオラはサイフォスに、謝りたくても謝れず。
想いを告げたくても、そうするわけにはいかなかった。

 もちろん気持ちを隠す一番の理由は、サイフォスの命を守るためで……
相手からされたキスやスキンシップなどは、拒めなかったなどといくらでも言い訳出来るが。
自分から明確に告白したとなれば、言い逃れ出来そうになかったからだ。

 たとえ、誰にも聞かれないように告白しても。
それからのサイフォスの言動や、関係性に変化が現れるのは必至で……
どう誤魔化しても、通用しないだろうと思っていた。

 とはいえ。
どうしようもなく溢れる想いを、押し殺すのは苦しくて……
離婚が最善の策だとしても、サイフォスと離れるのは耐えられなくて……
結局ヴィオラは、どうすればいいのか答えを出せずにいた。



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