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自覚2

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 そうして……
新たな悪妃作戦が決まったヴィオラは、さっそくサイフォスの元を訪れた。

「ちょうど良かった。
俺もヴィオラに頼みがあったんだ」

「本当ですかっ?」

 気持ちを自覚してしまったせいか……
頼られて嬉しいのもさる事ながら。
ようやく会えた、その愛しい姿を目にしただけで。
その心地よい低音ヴォイスで、名前を呼ばれただけで。
今まで以上に胸が高鳴り、思わず声が弾んでしまう。

ーーダメ!落ち着いてっ。
私は悪妃、悪妃なの!
呪文のようにそう嗜めて、慌てて気持ちを隠すと。

「それで、頼みとは?」
咳払いで仕切り直して、冷たく聞き返した。

「いや、まずはヴィオラの要件から言ってくれ」

「私は、残りの公務の引き継ぎを催促に来ました」

「……わかった。
だが、明日でもいいか?」

 相変わらず頑張りすぎているように思えて、少しためらったものの。
前回から期間が空いたため、聞き入れる事にしたサイフォス。

 一方ヴィオラは、「構いません」と答えたものの……
了承に至るまで、間があった事と。
今まで即日対応だった事が、翌日でなければ対応出来ない状況に。
それほど忙しいのかと、心配になっていた。

 そのため、新たな悪妃作戦を実行するのが忍びなかったが……
サイフォスの命を守るためだと意を決して、切り出した。

「それともうひとつ。
王太子妃の公務を、全て引き継いだら。
私はもう、殿下と対等だとみなし……
以後、敬語敬称は使わず。
サイフォス、と呼ばせていただきます」

「っっ!
わ、かった……」
思わぬ申し出に面食らいながらも。
その呼び捨てに胸を射抜かれて、内心喜ぶサイフォス。

 その一方でウォルター卿は……
何と無礼な!と、憤慨しながらも。
自ら公務を懇願し、それを過剰にこなしていたのは、それが狙いだったのかと。
絶対何か企んでいるとは思っていたが、その程度の事で殿下を蔑ろにし、権威を誇示するためだったのかと。
あまりに浅はかで幼稚なやり口に、呆れ果てていた。

 しかし、そんな心情に相反して……

「私からは以上です。
殿下の要件をどうぞ」

「……ああ」
返事をしながらも、早く名前で呼んでほしいと思うサイフォス。

「今日の午後、時間を少しもらえないか?」

「それは、構いませんが……」
引き継ぎを明日にされた事から、公務より重要な事なのかと懸念するも。

「よかった。
ならば、水上庭園でお茶でもしよう」

「っ、はいっ?」
思わぬ申し入れに、今度はヴィオラが面食らう。
と同時、一気に胸が躍り狂う。

ーーちょっと待って嬉しいっ。
どうしよう嬉しい!
嬉しいけどっ……

 そう、そんな事をすればラピズに怪しまれるため。
了承するわけにはいかなかったのだ。

 かといって、サイフォスを傷付けたくはないため。
断るわけにもいかず、返事をためらう。

「……そんな事をする暇があったら、引き継ぎの方をお願いします。
お茶は、その合間に飲めばいいのでは?」
結局、そう折り合いをつけたヴィオラだったが……

「そう根を詰めるな。
それに、俺も息抜きしたいんだ。
邪魔がてら、付き合ってくれ」
と、上手く押し切られてしまう。

 というのも、サイフォスからしてみれば……
慰めてくれた時と打って変わった、冷たい態度や。
嬉しいとはいえ、敬語等をやめるといった発言から。
ヴィオラが再び悪妃と化している事が窺えたため。
「邪魔がてら」と、それを名目に上げた事が功を成していたのだった。

 それなら公務の邪魔をする事にもなるため、悪妃の体裁を保てるうえに。
サイフォスの息抜きにもなるため、悪評には繋がらないと踏んだからだ。

 また、自分を心配してくれるヴィオラなら。
もう無理をさせたくない、と言っていたヴィオラなら。
こっちの息抜きには、むしろ積極的に協力してくれるとも思っていた。

 そんなサイフォスの目論み通り、ヴィオラは了承するしかなかったわけだが……
実のところ、その息抜きはヴィオラのためであり。
その茶会は、頑張っているヴィオラへの労いだった。


 そうしてヴィオラは……
ラピズには、公務の邪魔をする事にしたと告げて。
約束した時刻の少し前に、その水上庭園を訪れた。

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