上 下
39 / 123

意識2

しおりを挟む
 しかし2人っきりになったところで、ヴィオラはハッとする。

ーー待って、これじゃあ……
キスの続きを期待してるみたいじゃない!

 またしても恥ずかしくなって、どうしようと困惑しながら、チラとサイフォスの方を盗み見ると。
同じくサイフォスも、困惑した様子を覗かせており……
自分の部屋なのに、居た堪れなくなるヴィオラ。

 ところが、テーブル席に腰掛けると。
サイフォスはすぐに切り替えて、公務の説明を始めた。

「さっそくだが、ヴィオラには慈善活動を受け持ってもらいたい。
これがその資料だ。
ますは、活動の一覧から目を通してくれ」

「こんなにあるのですね」

「ああしかし、これ以降は今やる必要はない。
だから今日は、重要度の高いものだけ説明する」
と、全体の4分の1程度を説明対象として指し示した。

「……まさかそれだけしか、させないおつもりですか?」
負担をかけたくないと言っていたサイフォスの事だから、遠慮しているのではないかと睨むヴィオラ。

「いやまずは、それらを覚えてくれ。
一度に全て聞くより、ある程度要領を得てから増やした方が、身につきやすいだろう?
それに俺も、一度に時間を取られるより、手が空いた隙に教える方が助かる」
と、もっともな言い分で図星を誤魔化すサイフォス。

「わかりました」
殿下が助かるならばと思い、そのやり方に応じると。

「じゃあ上から、詳細と予算を説明する」
そう言ってサイフォスは……
同じ向きで書類を見るために、ヴィオラの横に立った。

 それだけで、ヴィオラの胸は騒ぎ出す。
でもすぐに、殿下をずっと立たせるわけにはと、隣に座るよう促そうとしたが……

ーーそれじゃあ誘ってるみたいじゃない!
と、変にまた意識しまう。

 そのせいで……

「……この事は知ってたか?」
そう訊かれて。

ーーどうしよう聞いてなかった!
と焦る羽目になる。

 というのも、それを言えば……
やる気がないと思われて、公務を減らされたり。
意識していると悟られるんじゃないかと思ったからだ。

 しかしサイフォスが指差していた箇所は、ちょうど難しい内容だったため。

「いえ。なのでもう一度詳しく、ご説明いただけますか?」

 するとサイフォスは、「わかった」とペンを取り。
書き加えるために、前屈みの姿勢になった。

 途端。
至近距離になったその顔に、ヴィオラの胸は跳ね上がる。

 さらには。
今度こそしっかり聞かなければと、懸命に集中しようとするも。
ドキドキと胸の音は、大きくなる一方で……

ーーどうしよう、殿下に聞こえてるんじゃっ?
と、思わずまた盗み見た。

 ところがサイフォスは、微塵も気にしている様子はなく……

ーー私ばっかり、なに意識してるのっ?
ヴィオラは恥ずかしさと情けなさでいっぱいになる。

 けれども、真剣に丁寧に教えてくれている姿を前に。

ーーああ、なんて素敵な人なんだろう……
思わずそう心を惹かれ。

 その誠意にしっかり答えたいと、気持ちをキリッと切り替えて。
ヴィオラも真剣に聞き入って、公務を学んだ。


 一方サイフォスはというと。
寝室で立ち去ろうとしたヴィオラの手を、とっさに掴んで引き止めたのは……
まだ離れたくなかったからで。
こうして部屋を訪れたのも、公務の説明のためではあったが……
中途半端に打ち切られたキスの、続きをしたいという下心も、当然持ち合わせていた。

 だがそのためにはまず、ヴィオラの要望である公務の引き継ぎを済ませなければと。
早々に説明を始めたわけだが……
それに集中していた最中、チラと顔を向けた途端。
あまりの至近距離に、心臓を撃ち抜かれていた。

 そして思わず、その唇を奪いそうになるも……
真剣に打ち込んでいる姿を前に。
そんな下心を抱いていた自分を、恥ずかしく情けなく思い。
同時に。 
そんなヴィオラを誇らしく、たまらなく愛おしく思っていたのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】昨日までの愛は虚像でした

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

処理中です...