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意識2
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しかし2人っきりになったところで、ヴィオラはハッとする。
ーー待って、これじゃあ……
キスの続きを期待してるみたいじゃない!
またしても恥ずかしくなって、どうしようと困惑しながら、チラとサイフォスの方を盗み見ると。
同じくサイフォスも、困惑した様子を覗かせており……
自分の部屋なのに、居た堪れなくなるヴィオラ。
ところが、テーブル席に腰掛けると。
サイフォスはすぐに切り替えて、公務の説明を始めた。
「さっそくだが、ヴィオラには慈善活動を受け持ってもらいたい。
これがその資料だ。
ますは、活動の一覧から目を通してくれ」
「こんなにあるのですね」
「ああしかし、これ以降は今やる必要はない。
だから今日は、重要度の高いものだけ説明する」
と、全体の4分の1程度を説明対象として指し示した。
「……まさかそれだけしか、させないおつもりですか?」
負担をかけたくないと言っていたサイフォスの事だから、遠慮しているのではないかと睨むヴィオラ。
「いやまずは、それらを覚えてくれ。
一度に全て聞くより、ある程度要領を得てから増やした方が、身につきやすいだろう?
それに俺も、一度に時間を取られるより、手が空いた隙に教える方が助かる」
と、もっともな言い分で図星を誤魔化すサイフォス。
「わかりました」
殿下が助かるならばと思い、そのやり方に応じると。
「じゃあ上から、詳細と予算を説明する」
そう言ってサイフォスは……
同じ向きで書類を見るために、ヴィオラの横に立った。
それだけで、ヴィオラの胸は騒ぎ出す。
でもすぐに、殿下をずっと立たせるわけにはと、隣に座るよう促そうとしたが……
ーーそれじゃあ誘ってるみたいじゃない!
と、変にまた意識しまう。
そのせいで……
「……この事は知ってたか?」
そう訊かれて。
ーーどうしよう聞いてなかった!
と焦る羽目になる。
というのも、それを言えば……
やる気がないと思われて、公務を減らされたり。
意識していると悟られるんじゃないかと思ったからだ。
しかしサイフォスが指差していた箇所は、ちょうど難しい内容だったため。
「いえ。なのでもう一度詳しく、ご説明いただけますか?」
するとサイフォスは、「わかった」とペンを取り。
書き加えるために、前屈みの姿勢になった。
途端。
至近距離になったその顔に、ヴィオラの胸は跳ね上がる。
さらには。
今度こそしっかり聞かなければと、懸命に集中しようとするも。
ドキドキと胸の音は、大きくなる一方で……
ーーどうしよう、殿下に聞こえてるんじゃっ?
と、思わずまた盗み見た。
ところがサイフォスは、微塵も気にしている様子はなく……
ーー私ばっかり、なに意識してるのっ?
ヴィオラは恥ずかしさと情けなさでいっぱいになる。
けれども、真剣に丁寧に教えてくれている姿を前に。
ーーああ、なんて素敵な人なんだろう……
思わずそう心を惹かれ。
その誠意にしっかり答えたいと、気持ちをキリッと切り替えて。
ヴィオラも真剣に聞き入って、公務を学んだ。
一方サイフォスはというと。
寝室で立ち去ろうとしたヴィオラの手を、とっさに掴んで引き止めたのは……
まだ離れたくなかったからで。
こうして部屋を訪れたのも、公務の説明のためではあったが……
中途半端に打ち切られたキスの、続きをしたいという下心も、当然持ち合わせていた。
だがそのためにはまず、ヴィオラの要望である公務の引き継ぎを済ませなければと。
早々に説明を始めたわけだが……
それに集中していた最中、チラと顔を向けた途端。
あまりの至近距離に、心臓を撃ち抜かれていた。
そして思わず、その唇を奪いそうになるも……
真剣に打ち込んでいる姿を前に。
そんな下心を抱いていた自分を、恥ずかしく情けなく思い。
同時に。
そんなヴィオラを誇らしく、たまらなく愛おしく思っていたのだった。
ーー待って、これじゃあ……
キスの続きを期待してるみたいじゃない!
またしても恥ずかしくなって、どうしようと困惑しながら、チラとサイフォスの方を盗み見ると。
同じくサイフォスも、困惑した様子を覗かせており……
自分の部屋なのに、居た堪れなくなるヴィオラ。
ところが、テーブル席に腰掛けると。
サイフォスはすぐに切り替えて、公務の説明を始めた。
「さっそくだが、ヴィオラには慈善活動を受け持ってもらいたい。
これがその資料だ。
ますは、活動の一覧から目を通してくれ」
「こんなにあるのですね」
「ああしかし、これ以降は今やる必要はない。
だから今日は、重要度の高いものだけ説明する」
と、全体の4分の1程度を説明対象として指し示した。
「……まさかそれだけしか、させないおつもりですか?」
負担をかけたくないと言っていたサイフォスの事だから、遠慮しているのではないかと睨むヴィオラ。
「いやまずは、それらを覚えてくれ。
一度に全て聞くより、ある程度要領を得てから増やした方が、身につきやすいだろう?
それに俺も、一度に時間を取られるより、手が空いた隙に教える方が助かる」
と、もっともな言い分で図星を誤魔化すサイフォス。
「わかりました」
殿下が助かるならばと思い、そのやり方に応じると。
「じゃあ上から、詳細と予算を説明する」
そう言ってサイフォスは……
同じ向きで書類を見るために、ヴィオラの横に立った。
それだけで、ヴィオラの胸は騒ぎ出す。
でもすぐに、殿下をずっと立たせるわけにはと、隣に座るよう促そうとしたが……
ーーそれじゃあ誘ってるみたいじゃない!
と、変にまた意識しまう。
そのせいで……
「……この事は知ってたか?」
そう訊かれて。
ーーどうしよう聞いてなかった!
と焦る羽目になる。
というのも、それを言えば……
やる気がないと思われて、公務を減らされたり。
意識していると悟られるんじゃないかと思ったからだ。
しかしサイフォスが指差していた箇所は、ちょうど難しい内容だったため。
「いえ。なのでもう一度詳しく、ご説明いただけますか?」
するとサイフォスは、「わかった」とペンを取り。
書き加えるために、前屈みの姿勢になった。
途端。
至近距離になったその顔に、ヴィオラの胸は跳ね上がる。
さらには。
今度こそしっかり聞かなければと、懸命に集中しようとするも。
ドキドキと胸の音は、大きくなる一方で……
ーーどうしよう、殿下に聞こえてるんじゃっ?
と、思わずまた盗み見た。
ところがサイフォスは、微塵も気にしている様子はなく……
ーー私ばっかり、なに意識してるのっ?
ヴィオラは恥ずかしさと情けなさでいっぱいになる。
けれども、真剣に丁寧に教えてくれている姿を前に。
ーーああ、なんて素敵な人なんだろう……
思わずそう心を惹かれ。
その誠意にしっかり答えたいと、気持ちをキリッと切り替えて。
ヴィオラも真剣に聞き入って、公務を学んだ。
一方サイフォスはというと。
寝室で立ち去ろうとしたヴィオラの手を、とっさに掴んで引き止めたのは……
まだ離れたくなかったからで。
こうして部屋を訪れたのも、公務の説明のためではあったが……
中途半端に打ち切られたキスの、続きをしたいという下心も、当然持ち合わせていた。
だがそのためにはまず、ヴィオラの要望である公務の引き継ぎを済ませなければと。
早々に説明を始めたわけだが……
それに集中していた最中、チラと顔を向けた途端。
あまりの至近距離に、心臓を撃ち抜かれていた。
そして思わず、その唇を奪いそうになるも……
真剣に打ち込んでいる姿を前に。
そんな下心を抱いていた自分を、恥ずかしく情けなく思い。
同時に。
そんなヴィオラを誇らしく、たまらなく愛おしく思っていたのだった。
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