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代価2

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「……それでも俺は、ヴィオラを守りたい。
それに、無駄になるのはお金だけじゃないから」

「どういう事?」

「代価が無駄になるんだ」

「代価?」

 そこでヴィオラは……
~「足を治してやってくれ。
代価で頼む」~
そのサイフォスの言葉を思い出す。

 ラピズの説明によると……
魔法には、魔術士のスキルの他に。
原動力となる、エネルギーが必要だという。

 そのエネルギーは、魔法をかける対象によって異なり。
動物には生命エネルギー、植物には自然のエネルギー、無生物には物質のエネルギーを要すとの事。

 そしてそれらのエネルギーは、適した物を選べるといった理由で、魔術士が用意するのが通例で。
その用意したエネルギー代も含めて、対価として請求していた。

 ちなみに生命エネルギーとは、命や寿命の事で。
生贄として、家畜や小生物が使われていた。

 そんな中。
生贄を利用せず、または金銭的に利用出来ず。
自らの寿命をエネルギーとし、魔術士への報酬のみを支払うケースを、代価と呼んでいるとの事だった。

「待って、それじゃあ……
殿下は私の足を治すために、自分の寿命を使ったって事っ?」
そう訊いた途端。

「また殿下かよっ!」
苛立ちを吐き出すラピズに。
ビクリと慄くヴィオラ。

「……ごめん。
けど今は、俺の話をしてただろ?」

「ごめんなさい……
でも誰かに聞かれるかもしれないから、大声を出すのはやめて?」

「……ん、気を付ける」
ラピズは片手で頭を抱えて、そう自己嫌悪した。

「じゃあ話に戻るけど……
確かに殿下も、ヴィオラのために自分の寿命を使ってた」

ーーやっぱり!
どうしてそこまでっ……
胸が切り裂かれるヴィオラ。

 と同時に、その時の疑問も解消される。
そう、生贄を利用しないサイフォスは……
剣術大会での大怪我を治すのに、自分の寿命を使う事になるため、本末転倒になるからだ。

 そこでラピズから、さらなるショックを打ち明けられる。

「だけど、あれくらいの代価なら大した事ないよ。
だって俺は、ヴィオラを守るために……
この伝説魔法に寿命を注ぎ込んでるんだからっ」

 そう、ただでさえ伝説魔法は高額なのに。
これほど持続時間を要すとなれば……
騎士でしかないラピズに、生贄の分まで支払う余裕など、あるはずもなかったのだ。

「っっ、嘘でしょ……
どうしてそんな事っ!
それで私が、平気だと思ったのっ!?」

「思ってないよ!
だから今まで黙ってたんだっ。
けどあの程度の代価で、殿下だけ格好付けられたらたまんないしっ……
すでに払った代価を無駄にしないためにも、護衛騎士を辞めるわけにはいかないんだ!」

「っ、だからって……
今回はどれくらいの期間、その魔法をかけたのっ?」

「とりあえず3ヶ月。
けど状況次第で、俺はいくらでも延長するから」

 それは3ヶ月以内に離婚が成立しなければ、さらに寿命と大金を消費すると脅しているようなもので……

「そんなっ……
延長だけは、もう絶対しないでとお願いしても?」

「……ごめん、これは俺の問題だから。
それにその願いを聞いたら、離婚しないような気がするから」

「ラピズ……」

 ヴィオラは困惑しながらも。
その予想はあながち間違っていないかもと、返す言葉をなくした。
自分の一存ではどうにもならない上に。
これまでの状況から、サイフォスが離婚を切り出すとは思えなかったからだ。

 それでも3ヶ月という、差し迫ったタイムリミットがあれば。
どんな手を使ってでも、離婚に漕ぎ着けるしかないだろうが……
それがなければ、逆にどんどんサイフォスに絆されそうな気がしていたのだ。


 結局ヴィオラは、ラピズの命を守るために……
心を鬼にして、悪妃に徹するしかなかった。



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