悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫

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共同作戦2

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「……証拠は、あるんですか?」

「証拠っ?
公にされてないのに、あるわけないでしょう!?
この事はサイフォス様からも口止めされてるから、確認されても困るしっ……
強いて言えば!私がサイフォス様の状況を把握してるのが、特別な関係だという証拠よっ」

 その言い分も、もっともで……

~「無駄ですよ、言い出したら聞きませんから。
ですが……もし殿下に何かあったら、妃殿下のせいですから」~
ウォルター卿にそう言われた事や。
他でそんな話が出回ってない事から……

~「剣術大会の大怪我もっ、あなたのせいって話じゃない!」~
その話は、ウォルター卿から聞いたのを物語っており。

 サイフォスの耳に入れば、またウォルター卿が怒られる事から……
信頼している極親しい人だけに、愚痴を零した事が窺えるからだ。

 またサイフォスの、言い出したら聞かないという性質や。
ヴィオラに対しての、不器用なほどひたむきな愛情表現を考えると……
側妃を置かず、婚約破棄に至ったのも頷けたのだった。

「……わかりました。
ですが元婚約者では、今は部外者なのでは?」

「いいえ!
サイフォス様の幸せのためならと、身を引いたのに。
こんな辛い結婚なら、大人しく引き下がれるわけないでしょうっ?」

「では私にどうしろと?」

「あなたが身を引いて!
皆それを望んでるし、その方があなたの身のためよっ」

「私のため?」

「そうよっ?
このままじゃ反乱が起きて、暗殺されるかもしれないから」
フラワベルはそう不敵に笑った。

 それは、すると脅してるようなものだった。
フラワベルには、実行出来る力が充分にあるからだ。

「……ご忠告ありがとうございます。
ですが私に選択権はありません。
ここに来るより、殿下の方を説得なさってください」

「そんな事したら、嫉妬で嫌がらせしてると思われるじゃない!」

「それが嫌なら、大人しくしていてください」
ーーあなたを悪役にしたくないし。
ちゃんと離婚に漕ぎ着けてみせるから……

 しかしその言い方にカチンと来たフラワベルは、思わずヴィオラをドン!と突き飛ばしてしまい。

「きゃあ!」
ヴィオラは思いっきり転倒してしまう。

 当然、その声を聞きつけたランド・スピアーズは……
「妃殿下!」
すぐさま部屋に飛び込んで来た。

 フラワベルは、どうしようと動揺しながらも。
「じ、自業自得よっ!」
そう言い捨てて、去って行った。

「何があったんですかっ!?」
ランド・スピアーズは、慌ててヴィオラの側に駆け寄った。

「何でもないわっ。
ちょっと、転んだだけ」
そう立ち上がろうとした瞬間。

「痛っ……」
ズキリ!と足首に痛みが走る。

「ヴィッ……妃殿下!
何でもなくないじゃないですかっ!
あの女に、何かされたんですねっ?」

「騒がないでっ。
とにかく、手を貸してちょうだい」

 ラピズに隠す必要はなかったが……
誰がいるかわからないため、フラワベルを悪役にするわけにはいかなかったのだ。

 それにヴィオラは、この怪我を共同作戦に利用しようと考えていた。

 実は、ラピズの協力方法には続きがあり。
ヴィオラがサイフォスよりランド・スピアーズを大事にしたり、仲睦まじく接すれば……
サイフォスは怒ったりショックを受けたりして、さらに愛想を尽かすんじゃないかという内容だった。

 そしてその行動の理由として。
いつも守ってくれる護衛騎士を、1番に信頼するのは当然だと主張すれば……
公務で忙しいサイフォスには、真似出来ないうえに。
不敬罪にも問われないと考えたのだ。

 しかしヴィオラは……
サイフォスをこれ以上傷付けたくなくて。
出来るだけ裏切りたくなくて。
その提案を、危険だという口実で断っていた。

 だがフラワベルの話を聞いて……
一刻も早く、サイフォスをフラワベルの元に返さなければと思ったのだった。
それが本来の形であり。
その方がサイフォスにとっても幸せだと、以前から考えていたからだ。

 その矢先、足首を痛めたため。
かねてからの提案に打って付けだと考え、その作戦に踏み切る事にしたのだった。

 とはいえ。
ーーそんな重要な婚約を破棄してまで、私の事を……
ヴィオラは胸まで痛めていた。



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