悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫

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真相1

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 数日後。
宮廷教育を終えたランド・スピアーズが、正式にヴィオラの元に配属された。

 形式的な挨拶を済ますと。
「さっそくだけど、散歩に行くからついて来てちょうだい」
そう言ってヴィオラは、リモネとランド・スピアーズを、専用の宮庭に連れ出した。

 そこはサイフォスがヴィオラために用意した庭園で、その許可がなければ誰も立ち入れないからだ。
といっても、用意した本人は例外だろうが……
今までヴィオラは、そんなサイフォスの計らいを無下にして。
王宮入りした時に案内されて以来、訪れた事はなかった。
しかし、早くランド・スピアーズと内密な話をしたかったため、今回利用するに至ったのだった。

 もちろん、部屋で話しても良かったが……
誰かに聞き耳を立てられる可能性もあるうえに。
配属直後の素性知れない者と、人払いして話すなど、不自然でしかなかったからだ。

 すると。
「っ!これはっ……」
そこを目前にして、ヴィオラは驚きの声を上げた。

 そこには、空を広げたようなネモフィラの絨毯と。
いくつも連なる、神々しいブルーローズのアーチ。
庭園を囲む、こぼれそうなほどの青紫陽花の壁。
そして様々な種類の、青い花のオブジェが移植されていて……

ーーなんて綺麗で、麗しいの……!
思わず心を奪われる。

 それは紛れもなく、サイフォスの計らいで。
ーー見るかもわからない、私のためにっ……
ヴィオラは胸を締め付けられる。

「でもどうやって?
それぞれ時期も違うのに……」

 その呟きに、ランド・スピアーズが答えた。

「恐らく、魔法でしょう」

「魔法っ?
詳しいのね。
けどその費用も、馬鹿にならないだろうに……」

 そう、魔法を利用するには……
その規模や持続時間等に見合った対価を、魔術士に払わなければならなかった。

 いくら裕福な王族とはいえ。
無駄に終わる可能性しかないような事に、陰ながら尽力していたなんてと。
ますます胸を痛めるヴィオラを……
ランド・スピアーズは切なげに見つめた。

 その視線に気付いたヴィオラは、ハッと気持ちを仕切り直した。

「それより、聞きたい事があります。
あなたは……
シュトラント家の騎士、ラピズの関係者ではありませんか?」

 途端、目を大きくして。
戸惑いを見せるランド・スピアーズ。

「なぜそう思うんですか?」

「それは、あなたがラピズにそっくりだからです」

 するとランド・スピアーズは、「ハハッ!」と嬉しそうに笑った。

「っ、何がおかしいのっ?」

「検討違いなので」

「そんなわけっ、」と食いついたヴィオラを。
「あと!」と遮って、ランド・スピアーズは続けた。

「あまりに嬉しくて」

「嬉しくて?」

「はい……
姿や声を変えても、気付いてくれたんだなって」

「……どういう事?」
混乱するヴィオラに。

「魔法で変えてもらったんだ。
つまり、関係者じゃなくて本人だよ」
そう微笑むランド・スピアーズ。

「う、そ……
ほんとに?
ほんとにラピズなのっ?」

「ほんとだよ、ヴィオラ」

 その瞬間。
ヴィオラから、ぶわりと涙が溢れ出す。

「っっ、よかった……
無事で良かった!」

 その言葉で。
自分が騎士を辞めて行方をくらませた事を、ヴィオラが知っていたのだと悟るラピズ。

「……ん。
心配かけてごめん」
そう抱きしめると。

「ううんっ、無事ならいいの」
ヴィオラも自然と抱き返した。

 リモネも、そんな2人の再会に涙したものの……
すぐに「妃殿下!」と、立場を知らしめる制止の言葉をかけた。

 そう、いくら他の者が立ち入らないとはいえ、油断は出来ない。
抱き合っているのを目撃されれば、2人とも処刑されかねないからだ。

 ハッと我に帰った2人は、慌てて離れるも。
すぐさまヴィオラは、罪悪感に襲われる。

 ラピズの事は、長年の慣れ親しんだ関係や。
安心した心境から、抱き返してしまっただけで……
王太子妃である限り、サイフォスを裏切る行為をするつもりはなかったからだ。
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