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悪妃作戦2
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「ならば逆に、何が食べたい?」
ーーうそ、これでも怒らないの?
食事はこの上なく豪華で、ヴィオラの好みに配慮されたものだった。
それをこのように踏み躙れば……
先程の無礼と相まって、さすがに怒るに決まっていた。
そこでヴィオラは、器が小さいなどと愚弄したり。
「私にお怒りなるのはお門違いです。
そんな女を選んだのは、殿下なのですから。
今後はご自分の愚かさと、選択ミスにお怒りください」と、離婚したくなるようにし向けるつもりだった。
ところがサイフォスは、怒る気配すらなく。
それほど心が広いのか、それほどベタ惚れしているのか……
だがその素っ気ない態度から、とてもベタ惚れしているようには見えなかった。
ーーだとしたらこの人なりに、一方的な求婚を申し訳なく思ってる?
しかし本来……
恋人などがいない状況下で、王太子からの求婚を不快に思う令嬢など、いるはずもなかった。
むしろ、この上ない名誉と幸運で……
それを与える側の王族が、申し訳なく感じる所以などあるはずもなかった。
ヴィオラは、サイフォスが何を考えているかと困惑しつつも……
「殿下と一緒に食べたいものなど、ございません。
なので今後は、お断りさせていただきます」
そう悪態をつく事しか出来なかった。
にもかかわらず。
リベンジさせてくれと、サイフォスから再び食事に招かれた。
ーー断るって言ったじゃない。
それでヴィオラは、ようやくサイフォスの考えが読めた気がした。
要は、相手の言動など気にもしてないのだと。
こちらの状況を気にもせず、一方的に求婚したように。
王太子という、何でも思い通りになる立場で育ってきたなら、至って自然な事だった。
「お断りします」
ヴィオラは使いで来ていたウォルター卿に、冷たく言い放つと。
卿の説得に聞く耳も持たず、追い返したのだった。
ところがサイフォスは、その後も懲りずに誘い続けた。
ーーどうしてこんなにしつこいのっ?
「妃殿下、どうかお願いいたします」
さすがに、使いのウォルター卿を不憫に感じたヴィオラは……
「……わかりました。
その代わり、どれだけお待たせするかわかりませんが」
そう告げたのだった。
そしてその心中では、もう2度と誘ってこないようにする手段を企んでいた。
その当日。
「妃殿下がいらっしゃいません!」
支度に訪れた宮廷侍女たちが騒ぎ出す。
「まさか、王太子殿下とのお食事をお忘れなのではっ!」
「それは有り得ませんっ。
今朝、ドレスの確認をしたばかりですっ」
リモネも焦った素振りでそう答えたが……
その頃ヴィオラは、こっそり宮殿を抜け出していた。
そして、リモネの協力と手配によって、潜ませていた馬車に乗り込むと。
生家であるシュトラント家に向かったのだった。
戻って来たのは夕食後で……
つまり、サイフォスとの昼食をすっぽかしたのだ。
しかも身を隠す事で、長時間待たせるという嫌がらせ付きで。
忙しい王太子に、それどころか国の2番手にここまでするのは、さすがにヴィオラも気が引けたが……
ここまでしなければ通用しないと判断しての事だった。
そして、これなら激怒するだろうと。
少なくとも、もう2度と誘って来ないだろうと踏んでいた。
誘っても、またすっぽかされるかもしれないからだ。
しかし、ヴィオラ自身もわかっていた事だが……
その代償は大きく。
戻った時、宮殿は王太子妃の失踪に大騒ぎで……
多くの人に迷惑をかけた事に、ヴィオラは心を痛めていた。
もちろんそれも、悪妃作戦の一環として狙った事だが……
生家でショックな出来事を知ったヴィオラは、もうどうすればいいのかわからなくなっていた。
とはいえ、悪妃作戦自体は功を成し。
謝罪も弁解もせず、憂いていた態度は……
これまでの悪態から、皆の心配を煩わしく思っているように見え。
じわじわ広がり始めていた悪妃の噂は、この騒ぎで一気に宮中に広まったのだった。
ーーうそ、これでも怒らないの?
食事はこの上なく豪華で、ヴィオラの好みに配慮されたものだった。
それをこのように踏み躙れば……
先程の無礼と相まって、さすがに怒るに決まっていた。
そこでヴィオラは、器が小さいなどと愚弄したり。
「私にお怒りなるのはお門違いです。
そんな女を選んだのは、殿下なのですから。
今後はご自分の愚かさと、選択ミスにお怒りください」と、離婚したくなるようにし向けるつもりだった。
ところがサイフォスは、怒る気配すらなく。
それほど心が広いのか、それほどベタ惚れしているのか……
だがその素っ気ない態度から、とてもベタ惚れしているようには見えなかった。
ーーだとしたらこの人なりに、一方的な求婚を申し訳なく思ってる?
しかし本来……
恋人などがいない状況下で、王太子からの求婚を不快に思う令嬢など、いるはずもなかった。
むしろ、この上ない名誉と幸運で……
それを与える側の王族が、申し訳なく感じる所以などあるはずもなかった。
ヴィオラは、サイフォスが何を考えているかと困惑しつつも……
「殿下と一緒に食べたいものなど、ございません。
なので今後は、お断りさせていただきます」
そう悪態をつく事しか出来なかった。
にもかかわらず。
リベンジさせてくれと、サイフォスから再び食事に招かれた。
ーー断るって言ったじゃない。
それでヴィオラは、ようやくサイフォスの考えが読めた気がした。
要は、相手の言動など気にもしてないのだと。
こちらの状況を気にもせず、一方的に求婚したように。
王太子という、何でも思い通りになる立場で育ってきたなら、至って自然な事だった。
「お断りします」
ヴィオラは使いで来ていたウォルター卿に、冷たく言い放つと。
卿の説得に聞く耳も持たず、追い返したのだった。
ところがサイフォスは、その後も懲りずに誘い続けた。
ーーどうしてこんなにしつこいのっ?
「妃殿下、どうかお願いいたします」
さすがに、使いのウォルター卿を不憫に感じたヴィオラは……
「……わかりました。
その代わり、どれだけお待たせするかわかりませんが」
そう告げたのだった。
そしてその心中では、もう2度と誘ってこないようにする手段を企んでいた。
その当日。
「妃殿下がいらっしゃいません!」
支度に訪れた宮廷侍女たちが騒ぎ出す。
「まさか、王太子殿下とのお食事をお忘れなのではっ!」
「それは有り得ませんっ。
今朝、ドレスの確認をしたばかりですっ」
リモネも焦った素振りでそう答えたが……
その頃ヴィオラは、こっそり宮殿を抜け出していた。
そして、リモネの協力と手配によって、潜ませていた馬車に乗り込むと。
生家であるシュトラント家に向かったのだった。
戻って来たのは夕食後で……
つまり、サイフォスとの昼食をすっぽかしたのだ。
しかも身を隠す事で、長時間待たせるという嫌がらせ付きで。
忙しい王太子に、それどころか国の2番手にここまでするのは、さすがにヴィオラも気が引けたが……
ここまでしなければ通用しないと判断しての事だった。
そして、これなら激怒するだろうと。
少なくとも、もう2度と誘って来ないだろうと踏んでいた。
誘っても、またすっぽかされるかもしれないからだ。
しかし、ヴィオラ自身もわかっていた事だが……
その代償は大きく。
戻った時、宮殿は王太子妃の失踪に大騒ぎで……
多くの人に迷惑をかけた事に、ヴィオラは心を痛めていた。
もちろんそれも、悪妃作戦の一環として狙った事だが……
生家でショックな出来事を知ったヴィオラは、もうどうすればいいのかわからなくなっていた。
とはいえ、悪妃作戦自体は功を成し。
謝罪も弁解もせず、憂いていた態度は……
これまでの悪態から、皆の心配を煩わしく思っているように見え。
じわじわ広がり始めていた悪妃の噂は、この騒ぎで一気に宮中に広まったのだった。
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