欲情プール

よつば猫

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溺れる身体2

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 もう一度だけ……
その一度に欲の消化を託して。
拒否の傷を癒されたくて。
もしくは。
はっきり断られれば、ちゃんと割り切れるじゃないかと思った。


「っん?どうしたっ?」

 お疲れ様の挨拶を終えても、ドアの前から動かず。
専務を見つめてた私に……
気付いたその人は、少し戸惑いがちに伺った。

「……あの、専務。
もう一度……
慧剛って呼んでも、いいですか?」

 自分から誘うなんて初めてで、こんな伝わり難い表現しか出来なかったけど。
それは辛うじて伝わったようで……
専務は大きくした目で私を捕らえて、動揺を示した。

 心臓はずっと、壊れそうな程バクバクしてて。
頭の中では、言っちゃダメだって叫び声が聞こえてるけど……
もう止まらない。

「私、もう一度専務とっ、」
近づいて来る専務を映しながら、明確に告げようとするも。

「悪い茉歩」
遮ってきた拒否の言葉に、胸が突き刺される。

 だけど次の瞬間。

「もう、一度じゃ終われない」

 そう続いて、唇を奪われた。

 そのまま私達は、我を忘れて……
唇を、夢中で弄り合って。
舌を、悶えるように絡みあわせて。
荒ぶる吐息と、艶かしい水音を漏らしながら。
もっと、もっとと……
お互い激しく欲し合う。

 そして欲に取り憑かれたかのように、お互いの身体を貪り合って……
専務の指が蜜の奥をかき混ぜたと同時、味わった事のない快感が突き抜ける。

「あああっっ!」「茉っ……」

 慌てて専務は、私の口を塞いだ。

 いくら、終業時間はとっくに過ぎてても。
この部屋はオートロックで、用がある時は先に内線が入る事になっていても。
誰かに聞かれる危険性は免れない。
それが常務なら、絶好の付け入る隙を与えてしまう。

 なにやってるんだろう!
なんだか、自分の身体じゃないみたい……

 専務はすぐに私を抱きかかえると、奥にあるベッドルームに移動した。


 そうして……

「専っ、慧剛っ……」
私は何度も、その愛しい名前を口にして。

 私達は、何度も何度も抱き合った。





「茉歩がこんなに感じ易いとは思わなかったよ」
束の間のピロートークで、嬉しそうに零す慧剛。

「もうっ、恥ずかしい事、言わないで」
ベッドでは敬語を禁止されて、慣れない口調で言い返す。

 でも実際、自分でも今日の感度は異常だと思ってる。
それは、前回の比じゃないほど。

 そんな前回は元より、こんなに感じたのは慧剛が初めてで……
いけない行為だからなのは、もちろん。
拒否されたと思ってた相手から、受け入れられた喜び。
そして、こんなに激しく求められたのも初めてだったから、やたらと興奮したんだと思う。

 だけど……
こんなに激しく、誰を求めてた?

ー「俺達は別に、愛し合ってもなければ」ー
だから、私だとは思えなくて。
やっぱり私を身代わりに、別れた彼女さんを求めてた?

「……どした?」
優しい眼差しで問い掛けながら、私の髪を梳き撫でる慧剛。

 それだけで、身体が溶けそうになる。

「……ううん。
ただ、もしもね?
会社が目的の規模まで成長した時、まだ前の彼女さんが待ってたら……
どうする?」

 途端、慧剛は驚きを帯びて僅かに戸惑う。

「っ、どうもしないよ。
その頃俺は、とっくに婚約者と結婚してるだろうし。
第一、あいつは待ってたりしない」
そう寂しそうに微笑した。

 やっぱり、まだ愛してるんだ……
胸が切なさで押し潰される。

「何でそう、言い切れるの?」

「……お前より仕事の方が大事だって。
結婚するなら、会社の役に立つ女とするって……
そう傷付けたから」

「どうしてそんなっ……
愛してたんでしょっ?」

「だからだよ。
愛し合ってる状況で別れたら、忘れられずに苦しむだろ?
それに、俺がこの道を選んだのは事実だから」

 そんなの、選ばざるを得なくて選んだくせに。
愛する人の為に、その人から敢えて嫌われる行動を取るなんて……
そんなに愛してたんだ?

 それは、切な過ぎるだけじゃなく。
ほんとにこの人は!と、ますますほっとけなくなる。

「だったら私は……
その道を何としてでも、成し遂げれるようサポートします」
力強く訴えると。

「ふっ、敬語!」
ダメ出しと共に、柔らかい笑顔が返って来た。

 その笑顔に胸をくすぐられて……
そんな笑顔を向けて貰えるだけで、充分だと思えた。


 とはいえ……

ー「もう、一度じゃ終われない」ー
その言葉通り。
それからの私達は、毎日のように抱き合った。

 欲の消化どころか、まさしくミイラ取りがミイラ状態で……
休日も、聡には次のプロジェクトが忙しいと嘘を吐いて、専務室に通ったり。
聡の為に止めていたピルも再開して。
私はどんどん、慧剛の身体に溺れていった。

 不倫じみた事なんかしたくないとか、罪悪感とか……
どうでもよくなってて。
自分にこんな恐ろしい欲が眠ってたなんて、信じられないくらいだった。

 もしかしたら私はそれを目覚めさせないように、今まで無意識にクールさを保ってたのかもしれない。

 ともあれ。
一時的にしか満たされないこの欲は、増える一方で……
もっともっと、慧剛が欲しいと。
溜まってく欲に、溺れ続けた。


 ねぇ、慧剛。
それが私への愛じゃなくても、動物的なただの欲でも。
激しく求められただけで……
私はもう、底なしの欲に溺れる。




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