12 / 18
平行線6
しおりを挟む
「奈々、飲んでる?」
意外にもお酒が強いほうな彼女に、そうビール瓶を傾けると。
「あっ、いえ私はっ、ゆっくりで……
おなかがいっぱいになると、なんだか入らなくてっ」
「じゃあ焼酎に変える?
僕もこのあとそうするつもりだし」
「あ、はいっ。
じゃあ、これを飲んでから変えますっ」
と、ぬるくなって更に飲みにくくなったビールとにらめっこ。
「無理しなくていいよっ。
すぐ作るから、それ僕にちょうだい?
あ、芋がいい?麦がいい?」
そうやって、奈々がチョイスした麦の水割りを作ってると……
ガブガブ飲み始めた元カノを前に、口を出さずにはいられなくなる。
「てゆうか本庄さんはあんま強くないんだから、ペース考えなよ」
「っ、うっさいなぁ!
楽しく飲んでんだから小姑みたいな事言わないでよっ……
ねぇ~?奈々ちゃんっ」
はいはい、余計なお世話でしたねっ。
「でもなんか、いいコンビって感じですっ」
そんな僕らを奈々がフォロー。
「まぁ、くされ縁ってゆーの?
今さら気づかう仲でもないだけぇ?」
腐れ縁なの!?
てゆうか、僕の方は大いに気遣ってるけどね……
「てか知ってたぁ?
蓮斗、奈々ちゃんのコト天使って呼んでるからねっ」なんて。
いきなりなカミングアウトをぶち込んで、キャハハと笑う……
「本庄さんっ!!」
なに言っちゃってくれてんのっ!
「うんうん、(俺らの間で)有名な話だよなっ」
「遥さんまでっ!」
ああもうっ、2人揃ってめんどくさい!
「(ある意味)最強コンビですね……」
棒読みで、2人に冷めた視線を投げかけた。
「ほんとか!?蓮斗君!
でっ、でっ?
司沙は俺の事なんて言ってるっ?」
ええっ、そう来るっ!?
しかも当事者から、変な事言うなと言わんばかりの視線を浴びながら……
「えっ、と……運命の人?」
口にした、自分の言葉で胸がやられる。
「なっにィ~!!
ほんとか!?司沙っ。
嬉しいぞ俺はっ!」
と、喜びのあまりその人を抱きしめる遥さん。
いやっ、僕の目の前で勘弁して下さい!!
なんて、思う資格もないんだけど……
ああ、胸が痛い。
胸が痛くてたまらない……
そして今、痛手の根源なその人と少しだけ2人きり。
奈々がトイレに行ったのと同時、上司から電話が入った遥さんまで席を外した。
このわずかな時間を無駄にしたくない気がするのに。
なんでか何も言えなくて、むしろ言える事なんかなくて……
ただ沈黙。
を、先に破ったのは本庄さん。
「奈々ちゃんて、いいコだね。
だいたいあの手のタイプはさぁ、実は腹黒なんて場合が多いんだけど。
あのコは本物だよ、ほんとにいいコ」
ひとりごとみたいに呟くその人は……
微笑んでるのに、どこか寂しそうに見えた。
「……うん。
てゆうかそっちこそ、遥さんすごくいい人じゃん」
「とーぜんっ。
だって私の彼氏だよっ?
サイアクだったのは大学時代に2年付き合った人だけでーす」
「っ、今それゆっちゃう!?」
「別にいーじゃん。今ゆっちゃいけない法律でもあるワケぇ?
あっ、もしかして時効だと思ってるぅ!?」
「そうじゃないけどっ……ごめん」
「キャハハ!
冗~談!もぉいーよっ」
「え、なにがっ?どこがっ!?」
めんどくさっ!
「おおっ?なんだなんだぁ?
なんだか楽しそうだな~!」
そこに遥さんが戻って来て。
後を追うようにして戻って来た奈々と、僕は目配せをすると……
持って来てた手みやげで、デザートタイムに移った。
「くぅ~!
鍋の後に食べるアイスは最高だな!」
「しかもコレっ、いろんな味が絶妙~っ!」
遥さんと本庄さんがそう感激の声をあげたのは、高級アイスのタルトグラッセ。
アイスの美味しさもさる事ながら。
鍋パ終了のサインとして待ち望んでた事もあって、なおさら美味しい!
この冷たさが、僕の痛手までクーリングしてくれるよう。
そうして、みんなで「ごちそうさま!」をすると。
主催者カップルからの遠慮の声を押し切って、「少しだけ」と片付けを手伝い始めた奈々。
そのまま本庄さんとキッチン作業に流れ込み。
僕と遥さんは半分くつろぎながら、テーブル周りを片付ける。
すると、ふいに。
「なぁ、蓮斗君。
これからも司沙と、仲良くしてやってくれな?
あいつがのびのびと楽しそうにしてるの見ると、嬉しんだ」
なんて、愛しそうに笑う遥さん。
僕は完全にノックアウトをくらう。
その言葉が意図するように、本庄さんが僕の前で"のびのびと楽しそうにしてる"なら……
当然不安でたまらないはずなのに。
嬉しいだなんて、仲良くしてだなんて……
それが余裕からくるものじゃないのは、愛しそうな笑顔が物語ってて。
彼女の気持ちを1番に想う、なんて愛情深い人なんだろう……
そんな彼が、キミの選んだ運命の人。
寂しさとか不安で浮気したような僕とは。
遥さんと楽しそうに話してたキミに、そんな資格もない立場で拗ねてた僕とは。
今日だって、自分の痛手ばっかに振り回されてた僕とは。
なんかもう世界が違いすぎて……
まさしく論外で、張り合うどころか足下にも及ばない。
ここまで相手ならないと、もはや清々しくて。
このモヤモヤした何かも吹き飛んでくよ……
だから、遥さんならキミを任せてもいい気がした。
なんて、上から目線で申し訳ないけど……
「はいっ。
遥さんも、本庄さんの事、」
お願いします、と続けるつもりが……
僕が言うのは違う気もしたし、言いたくはなくて。
「っ、頑張って下さい!
けっこう、めんどくさかったりするんでっ」
自分で言っときながら、頑張る?と思って。
その理由を言い添える。
「お、おうっ。
挫けそうになったら、フォロー頼むな?蓮斗君」
「ちょっと遥、蓮斗ぉ!?
思いっきり聞こえてるんだけどっ!」
恐るべき地獄耳&復活した皮肉センサーさんの声に……
僕と遥さんは目を見合わして、視線を泳がす。
「ね、奈々ちゃ~ん?
蓮斗の事でヤな事とかあったらいつでも言ってねっ?
私と遥でしばいとくから!」
いや怖いので、そんな事にならないように尽力します。
「それと遥ぁ?
挫けそうになったら私がケツ叩いてあげる」
いや最後のセリフ、声が低すぎて怖いんですけど!
そんな僕らを、奈々はクスクス笑ってた。
なんだかこーゆうの、悪くない。
色々と痛手もあったけど……
実は意外と楽しかったし、塩バター鍋は最高に美味しかったし。
いんだ僕たちはこれで。
キミは元カノだけど、大切な友人で……
キミにとっての僕も、きっとそうだと思いたい。
キミには遥さんがいて、僕は奈々を大事にして……
付かず、だけど離れず続いてく。
ある意味、永遠のパートナー。
おじいちゃんとおばあちゃんになっても、いい茶飲み友達になってそう。
そんな平行線なら、悪くないかも。
意外にもお酒が強いほうな彼女に、そうビール瓶を傾けると。
「あっ、いえ私はっ、ゆっくりで……
おなかがいっぱいになると、なんだか入らなくてっ」
「じゃあ焼酎に変える?
僕もこのあとそうするつもりだし」
「あ、はいっ。
じゃあ、これを飲んでから変えますっ」
と、ぬるくなって更に飲みにくくなったビールとにらめっこ。
「無理しなくていいよっ。
すぐ作るから、それ僕にちょうだい?
あ、芋がいい?麦がいい?」
そうやって、奈々がチョイスした麦の水割りを作ってると……
ガブガブ飲み始めた元カノを前に、口を出さずにはいられなくなる。
「てゆうか本庄さんはあんま強くないんだから、ペース考えなよ」
「っ、うっさいなぁ!
楽しく飲んでんだから小姑みたいな事言わないでよっ……
ねぇ~?奈々ちゃんっ」
はいはい、余計なお世話でしたねっ。
「でもなんか、いいコンビって感じですっ」
そんな僕らを奈々がフォロー。
「まぁ、くされ縁ってゆーの?
今さら気づかう仲でもないだけぇ?」
腐れ縁なの!?
てゆうか、僕の方は大いに気遣ってるけどね……
「てか知ってたぁ?
蓮斗、奈々ちゃんのコト天使って呼んでるからねっ」なんて。
いきなりなカミングアウトをぶち込んで、キャハハと笑う……
「本庄さんっ!!」
なに言っちゃってくれてんのっ!
「うんうん、(俺らの間で)有名な話だよなっ」
「遥さんまでっ!」
ああもうっ、2人揃ってめんどくさい!
「(ある意味)最強コンビですね……」
棒読みで、2人に冷めた視線を投げかけた。
「ほんとか!?蓮斗君!
でっ、でっ?
司沙は俺の事なんて言ってるっ?」
ええっ、そう来るっ!?
しかも当事者から、変な事言うなと言わんばかりの視線を浴びながら……
「えっ、と……運命の人?」
口にした、自分の言葉で胸がやられる。
「なっにィ~!!
ほんとか!?司沙っ。
嬉しいぞ俺はっ!」
と、喜びのあまりその人を抱きしめる遥さん。
いやっ、僕の目の前で勘弁して下さい!!
なんて、思う資格もないんだけど……
ああ、胸が痛い。
胸が痛くてたまらない……
そして今、痛手の根源なその人と少しだけ2人きり。
奈々がトイレに行ったのと同時、上司から電話が入った遥さんまで席を外した。
このわずかな時間を無駄にしたくない気がするのに。
なんでか何も言えなくて、むしろ言える事なんかなくて……
ただ沈黙。
を、先に破ったのは本庄さん。
「奈々ちゃんて、いいコだね。
だいたいあの手のタイプはさぁ、実は腹黒なんて場合が多いんだけど。
あのコは本物だよ、ほんとにいいコ」
ひとりごとみたいに呟くその人は……
微笑んでるのに、どこか寂しそうに見えた。
「……うん。
てゆうかそっちこそ、遥さんすごくいい人じゃん」
「とーぜんっ。
だって私の彼氏だよっ?
サイアクだったのは大学時代に2年付き合った人だけでーす」
「っ、今それゆっちゃう!?」
「別にいーじゃん。今ゆっちゃいけない法律でもあるワケぇ?
あっ、もしかして時効だと思ってるぅ!?」
「そうじゃないけどっ……ごめん」
「キャハハ!
冗~談!もぉいーよっ」
「え、なにがっ?どこがっ!?」
めんどくさっ!
「おおっ?なんだなんだぁ?
なんだか楽しそうだな~!」
そこに遥さんが戻って来て。
後を追うようにして戻って来た奈々と、僕は目配せをすると……
持って来てた手みやげで、デザートタイムに移った。
「くぅ~!
鍋の後に食べるアイスは最高だな!」
「しかもコレっ、いろんな味が絶妙~っ!」
遥さんと本庄さんがそう感激の声をあげたのは、高級アイスのタルトグラッセ。
アイスの美味しさもさる事ながら。
鍋パ終了のサインとして待ち望んでた事もあって、なおさら美味しい!
この冷たさが、僕の痛手までクーリングしてくれるよう。
そうして、みんなで「ごちそうさま!」をすると。
主催者カップルからの遠慮の声を押し切って、「少しだけ」と片付けを手伝い始めた奈々。
そのまま本庄さんとキッチン作業に流れ込み。
僕と遥さんは半分くつろぎながら、テーブル周りを片付ける。
すると、ふいに。
「なぁ、蓮斗君。
これからも司沙と、仲良くしてやってくれな?
あいつがのびのびと楽しそうにしてるの見ると、嬉しんだ」
なんて、愛しそうに笑う遥さん。
僕は完全にノックアウトをくらう。
その言葉が意図するように、本庄さんが僕の前で"のびのびと楽しそうにしてる"なら……
当然不安でたまらないはずなのに。
嬉しいだなんて、仲良くしてだなんて……
それが余裕からくるものじゃないのは、愛しそうな笑顔が物語ってて。
彼女の気持ちを1番に想う、なんて愛情深い人なんだろう……
そんな彼が、キミの選んだ運命の人。
寂しさとか不安で浮気したような僕とは。
遥さんと楽しそうに話してたキミに、そんな資格もない立場で拗ねてた僕とは。
今日だって、自分の痛手ばっかに振り回されてた僕とは。
なんかもう世界が違いすぎて……
まさしく論外で、張り合うどころか足下にも及ばない。
ここまで相手ならないと、もはや清々しくて。
このモヤモヤした何かも吹き飛んでくよ……
だから、遥さんならキミを任せてもいい気がした。
なんて、上から目線で申し訳ないけど……
「はいっ。
遥さんも、本庄さんの事、」
お願いします、と続けるつもりが……
僕が言うのは違う気もしたし、言いたくはなくて。
「っ、頑張って下さい!
けっこう、めんどくさかったりするんでっ」
自分で言っときながら、頑張る?と思って。
その理由を言い添える。
「お、おうっ。
挫けそうになったら、フォロー頼むな?蓮斗君」
「ちょっと遥、蓮斗ぉ!?
思いっきり聞こえてるんだけどっ!」
恐るべき地獄耳&復活した皮肉センサーさんの声に……
僕と遥さんは目を見合わして、視線を泳がす。
「ね、奈々ちゃ~ん?
蓮斗の事でヤな事とかあったらいつでも言ってねっ?
私と遥でしばいとくから!」
いや怖いので、そんな事にならないように尽力します。
「それと遥ぁ?
挫けそうになったら私がケツ叩いてあげる」
いや最後のセリフ、声が低すぎて怖いんですけど!
そんな僕らを、奈々はクスクス笑ってた。
なんだかこーゆうの、悪くない。
色々と痛手もあったけど……
実は意外と楽しかったし、塩バター鍋は最高に美味しかったし。
いんだ僕たちはこれで。
キミは元カノだけど、大切な友人で……
キミにとっての僕も、きっとそうだと思いたい。
キミには遥さんがいて、僕は奈々を大事にして……
付かず、だけど離れず続いてく。
ある意味、永遠のパートナー。
おじいちゃんとおばあちゃんになっても、いい茶飲み友達になってそう。
そんな平行線なら、悪くないかも。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる