元カノがめんどくさい

よつば猫

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平行線6

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「奈々、飲んでる?」
意外にもお酒が強いほうな彼女に、そうビール瓶を傾けると。

「あっ、いえ私はっ、ゆっくりで……
おなかがいっぱいになると、なんだか入らなくてっ」

「じゃあ焼酎に変える?
僕もこのあとそうするつもりだし」

「あ、はいっ。
じゃあ、これを飲んでから変えますっ」

と、ぬるくなって更に飲みにくくなったビールとにらめっこ。

「無理しなくていいよっ。
すぐ作るから、それ僕にちょうだい?
あ、芋がいい?麦がいい?」

 そうやって、奈々がチョイスした麦の水割りを作ってると……
ガブガブ飲み始めた元カノを前に、口を出さずにはいられなくなる。

「てゆうか本庄さんはあんま強くないんだから、ペース考えなよ」

「っ、うっさいなぁ!
楽しく飲んでんだから小姑みたいな事言わないでよっ……
ねぇ~?奈々ちゃんっ」

 はいはい、余計なお世話でしたねっ。

「でもなんか、いいコンビって感じですっ」
そんな僕らを奈々がフォロー。

「まぁ、くされ縁ってゆーの?
今さら気づかう仲でもないだけぇ?」

 腐れ縁なの!?
てゆうか、僕の方は大いに気遣ってるけどね……

「てか知ってたぁ?
蓮斗、奈々ちゃんのコト天使って呼んでるからねっ」なんて。

 いきなりなカミングアウトをぶち込んで、キャハハと笑う……

「本庄さんっ!!」
なに言っちゃってくれてんのっ!

「うんうん、(俺らの間で)有名な話だよなっ」

「遥さんまでっ!」
ああもうっ、2人揃ってめんどくさい!

「(ある意味)最強コンビですね……」
棒読みで、2人に冷めた視線を投げかけた。

「ほんとか!?蓮斗君!
でっ、でっ?
司沙は俺の事なんて言ってるっ?」

 ええっ、そう来るっ!?
しかも当事者から、変な事言うなと言わんばかりの視線を浴びながら……

「えっ、と……運命の人?」
口にした、自分の言葉で胸がやられる。

「なっにィ~!!
ほんとか!?司沙っ。
嬉しいぞ俺はっ!」
と、喜びのあまりその人を抱きしめる遥さん。

 いやっ、僕の目の前で勘弁して下さい!!
なんて、思う資格もないんだけど……

 ああ、胸が痛い。
胸が痛くてたまらない……


 そして今、痛手の根源なその人と少しだけ2人きり。
奈々がトイレに行ったのと同時、上司から電話が入った遥さんまで席を外した。

 このわずかな時間を無駄にしたくない気がするのに。
なんでか何も言えなくて、むしろ言える事なんかなくて……
ただ沈黙。
を、先に破ったのは本庄さん。

「奈々ちゃんて、いいコだね。
だいたいあの手のタイプはさぁ、実は腹黒なんて場合が多いんだけど。
あのコは本物だよ、ほんとにいいコ」

 ひとりごとみたいに呟くその人は……
微笑んでるのに、どこか寂しそうに見えた。

「……うん。
てゆうかそっちこそ、遥さんすごくいい人じゃん」

「とーぜんっ。
だって私の彼氏だよっ?
サイアクだったのは大学時代に2年付き合った人だけでーす」

「っ、今それゆっちゃう!?」

「別にいーじゃん。今ゆっちゃいけない法律でもあるワケぇ?
あっ、もしかして時効だと思ってるぅ!?」

「そうじゃないけどっ……ごめん」

「キャハハ!
冗~談!もぉいーよっ」

「え、なにがっ?どこがっ!?」
めんどくさっ!

「おおっ?なんだなんだぁ?
なんだか楽しそうだな~!」
そこに遥さんが戻って来て。

 後を追うようにして戻って来た奈々と、僕は目配せをすると……
持って来てた手みやげで、デザートタイムに移った。


「くぅ~!
鍋の後に食べるアイスは最高だな!」

「しかもコレっ、いろんな味が絶妙~っ!」

 遥さんと本庄さんがそう感激の声をあげたのは、高級アイスのタルトグラッセ。
アイスの美味しさもさる事ながら。
鍋パ終了のサインとして待ち望んでた事もあって、なおさら美味しい!

 この冷たさが、僕の痛手までクーリングしてくれるよう。

 そうして、みんなで「ごちそうさま!」をすると。
主催者カップルからの遠慮の声を押し切って、「少しだけ」と片付けを手伝い始めた奈々。

 そのまま本庄さんとキッチン作業に流れ込み。
僕と遥さんは半分くつろぎながら、テーブル周りを片付ける。
すると、ふいに。

「なぁ、蓮斗君。
これからも司沙と、仲良くしてやってくれな?
あいつがのびのびと楽しそうにしてるの見ると、嬉しんだ」
なんて、愛しそうに笑う遥さん。

 僕は完全にノックアウトをくらう。

 その言葉が意図するように、本庄さんが僕の前で"のびのびと楽しそうにしてる"なら……
当然不安でたまらないはずなのに。

 嬉しいだなんて、仲良くしてだなんて……
それが余裕からくるものじゃないのは、愛しそうな笑顔が物語ってて。
彼女の気持ちを1番に想う、なんて愛情深い人なんだろう……
そんな彼が、キミの選んだ運命の人。

 寂しさとか不安で浮気したような僕とは。
遥さんと楽しそうに話してたキミに、そんな資格もない立場で拗ねてた僕とは。
今日だって、自分の痛手ばっかに振り回されてた僕とは。
なんかもう世界が違いすぎて……
まさしく論外で、張り合うどころか足下にも及ばない。

 ここまで相手ならないと、もはや清々しくて。
このモヤモヤした何かも吹き飛んでくよ……

 だから、遥さんならキミを任せてもいい気がした。
なんて、上から目線で申し訳ないけど……

「はいっ。
遥さんも、本庄さんの事、」

 お願いします、と続けるつもりが……
僕が言うのは違う気もしたし、言いたくはなくて。

「っ、頑張って下さい!
けっこう、めんどくさかったりするんでっ」

 自分で言っときながら、頑張る?と思って。
その理由を言い添える。

「お、おうっ。
挫けそうになったら、フォロー頼むな?蓮斗君」

「ちょっと遥、蓮斗ぉ!?
思いっきり聞こえてるんだけどっ!」

 恐るべき地獄耳&復活した皮肉センサーさんの声に……
僕と遥さんは目を見合わして、視線を泳がす。

「ね、奈々ちゃ~ん?
蓮斗の事でヤな事とかあったらいつでも言ってねっ?
私と遥でしばいとくから!」

 いや怖いので、そんな事にならないように尽力します。

「それと遥ぁ?
挫けそうになったら私がケツ叩いてあげる」

 いや最後のセリフ、声が低すぎて怖いんですけど!
そんな僕らを、奈々はクスクス笑ってた。


 なんだかこーゆうの、悪くない。
色々と痛手もあったけど……
実は意外と楽しかったし、塩バター鍋は最高に美味しかったし。

 いんだ僕たちはこれで。
キミは元カノだけど、大切な友人で……
キミにとっての僕も、きっとそうだと思いたい。

 キミには遥さんがいて、僕は奈々を大事にして……
付かず、だけど離れず続いてく。
ある意味、永遠のパートナー。
おじいちゃんとおばあちゃんになっても、いい茶飲み友達になってそう。

 そんな平行線なら、悪くないかも。



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