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おかえり4
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コンビニに着いて、奥に停めてた響の車に横付けすると。
その人から助手席に乗るよう促されて……
久しぶりにちゃんと映したその姿に、胸がぎゅっと掴まれる。
「……元気、だった?」
やっぱり痩せていて、少し心配になる。
「ん……憧子さんは?」
「うん、私も元気」
響をちゃんと安心させなきゃ。
そして沈黙……
そういえば、用は何だったんだろう?
「それで、今日はどうしたの?」
「うん、だから……
電話でも訊いたけど、会えるかなって」
思ってもない答えに、心臓がぶわっと騒めく。
「っ、どうして?」
「どうしてって……
彼女に会いに来ちゃ、ダメだった?」
またしても思わぬ言葉に、胸が強く揺さぶられる。
「っ、待って……
私たち、ちゃんとさよならしたしっ。
もう彼女じゃ、ないはずだけど?」
「っ、でもっ……
別れるなんて言ってないし。
俺はまだ、彼氏のつもり、なんだけど……」
聞き憶えのある屁理屈に、心がジンと嬉しくなる。
確かに私は、その言葉を口にしてない。
だって身代わり関係でそれは、大げさな気がしたし。
変に空気を重くする気がして。
なにより、さよならで充分伝わると思ってた。
でも本当は、口にしたくなかっただけかもしれない。
だけどそれで、響を中途半端な状態にさせてしまってたのなら……
ぎゅっと抵抗する唇を、ゆっくりこじ開けた。
「わかった……
じゃあちゃんと、別れよう?」
「っ、そんなに俺っ、邪魔でしかないっ?」
あまりにも辛そうに、誤解の言葉を口にするから……
つい。
「そんなわけっ……
ただ私はもう大丈夫だからっ、響はちひろさんのところに行ってあげてっ?」
「っ、えっ?」
ハッと口を押さえたけど、当然手遅れで……
「憧子さん、もしかして……
千景が来た時、居た?」
言い逃れが出来ない状況に、ためらいがちに頷いた。
「そっか……
じゃあ全部、聞いてたんだ?」
「……ごめん」
「っ、そっか……
だから別れようって……
っっ、そっか……」
その人は声を震わせて、片手で額を覆うようにして項垂れた。
「……響?」
苦しげな様子に困惑すると。
「……ごめん。
俺、一生隠し通すつもりだったのにっ……
しんどい思いさせてごめんっ。
好きになって……
愛してしまって、ごめんっ……」
その痛々しいほど悲痛な懺悔に、胸を打ち付けられながらも……
途中から意味がわからなくなる。
「っ、落ち着いて響っ。
話が支離滅裂になってる……
とにかく私なら大丈夫だし、響は何も悪くないからっ」
確かに、立ち聞きの内容も別れもしんどかったけど……
それは響のせいじゃなく、私がした事だし。
ちひろさんを愛してるのも最初からわかってる事だから、私に気兼ねする必要なんかない。
心の中でそう解釈した私を、その人は拍子抜けした様子で見つめた。
「じゃあ憧子さんの事……
ずっと好きでいても、しんどくない?」
刹那、思考が停止する。
「え……
っ、えっ?
ちょっと待って、意味がわからないっ……」
混乱する私に、響も狼狽えて……
ハッとした様子で尋ねられる。
「憧子さん、千景との話、どこまで聞いた?」
「どこまでって……
付き合ってる人がいるって、断ったとこまでだけど……」
「じゃあ、そのあとは?」
それには首を横に振って答えると。
「うわ、何やってんだろ俺っ……」
両手で頭を抱えるようにして、また項垂れる響。
「っ、ちょっと……
1人で納得しないでよっ。
ねぇそのあと、なんて言ったの?」
「……それはいいよ。
聞いたら憧子さん、今度こそしんどくなるから」
しんどくなる?
ー「しんどい思いさせてごめんっ。
好きになって……
愛してしまって、ごめんっ」
「じゃあ憧子さんの事……
ずっと好きでいても、しんどくない?」ー
関連付いた2つのセリフに、胸が大きく高鳴る。
「しんどく、ならないから……聞きたい」
響は視線を逸らして、溜め息を漏らすと。
「どっちにしろ、もうバレバレだよね」と、話の続きを口にした。
*
*
*
「ごめんっ……
もう、付き合ってる人がいるんだ……」
「っっ……
そっ、だよねっ……
今さらだよねっ。
響なら女の子がほっとくワケないしっ……
私なら気にしないでっ?
あの時出来なかった後悔を、挽回出来て良かったと思ってるからっ」
「っっ、ごめんっ……」
「っ、謝らないでっ?
私こそごめんねっ……
でも、1つだけ聞いていい?
その人の事、愛してるの?」
「……うん、愛してる。
言葉に出来ないくらい、愛してる」
*
*
*
「っっ、うそっ……」
胸が壊れそうなほど掴まれて、なおもぎゅううと締め付けられる。
「……ごめん、嘘じゃない。
だからその会話を聞かれたとかと思って。
俺の気持ちがしんどかったから、この関係を終わらせたのかと思ったんだけど……」
ー「愛が欲しいけど、実際もらうとしんどくない?」
「……うん、無理」ー
だからあんな悲痛にごめんって……
私たちは、同じ想いを抱いてたんだ。
愛してしまって。
でもその愛で、しんどい思いをさせたくなくて。
そして、この関係を終わらせたくなくて……
その人から助手席に乗るよう促されて……
久しぶりにちゃんと映したその姿に、胸がぎゅっと掴まれる。
「……元気、だった?」
やっぱり痩せていて、少し心配になる。
「ん……憧子さんは?」
「うん、私も元気」
響をちゃんと安心させなきゃ。
そして沈黙……
そういえば、用は何だったんだろう?
「それで、今日はどうしたの?」
「うん、だから……
電話でも訊いたけど、会えるかなって」
思ってもない答えに、心臓がぶわっと騒めく。
「っ、どうして?」
「どうしてって……
彼女に会いに来ちゃ、ダメだった?」
またしても思わぬ言葉に、胸が強く揺さぶられる。
「っ、待って……
私たち、ちゃんとさよならしたしっ。
もう彼女じゃ、ないはずだけど?」
「っ、でもっ……
別れるなんて言ってないし。
俺はまだ、彼氏のつもり、なんだけど……」
聞き憶えのある屁理屈に、心がジンと嬉しくなる。
確かに私は、その言葉を口にしてない。
だって身代わり関係でそれは、大げさな気がしたし。
変に空気を重くする気がして。
なにより、さよならで充分伝わると思ってた。
でも本当は、口にしたくなかっただけかもしれない。
だけどそれで、響を中途半端な状態にさせてしまってたのなら……
ぎゅっと抵抗する唇を、ゆっくりこじ開けた。
「わかった……
じゃあちゃんと、別れよう?」
「っ、そんなに俺っ、邪魔でしかないっ?」
あまりにも辛そうに、誤解の言葉を口にするから……
つい。
「そんなわけっ……
ただ私はもう大丈夫だからっ、響はちひろさんのところに行ってあげてっ?」
「っ、えっ?」
ハッと口を押さえたけど、当然手遅れで……
「憧子さん、もしかして……
千景が来た時、居た?」
言い逃れが出来ない状況に、ためらいがちに頷いた。
「そっか……
じゃあ全部、聞いてたんだ?」
「……ごめん」
「っ、そっか……
だから別れようって……
っっ、そっか……」
その人は声を震わせて、片手で額を覆うようにして項垂れた。
「……響?」
苦しげな様子に困惑すると。
「……ごめん。
俺、一生隠し通すつもりだったのにっ……
しんどい思いさせてごめんっ。
好きになって……
愛してしまって、ごめんっ……」
その痛々しいほど悲痛な懺悔に、胸を打ち付けられながらも……
途中から意味がわからなくなる。
「っ、落ち着いて響っ。
話が支離滅裂になってる……
とにかく私なら大丈夫だし、響は何も悪くないからっ」
確かに、立ち聞きの内容も別れもしんどかったけど……
それは響のせいじゃなく、私がした事だし。
ちひろさんを愛してるのも最初からわかってる事だから、私に気兼ねする必要なんかない。
心の中でそう解釈した私を、その人は拍子抜けした様子で見つめた。
「じゃあ憧子さんの事……
ずっと好きでいても、しんどくない?」
刹那、思考が停止する。
「え……
っ、えっ?
ちょっと待って、意味がわからないっ……」
混乱する私に、響も狼狽えて……
ハッとした様子で尋ねられる。
「憧子さん、千景との話、どこまで聞いた?」
「どこまでって……
付き合ってる人がいるって、断ったとこまでだけど……」
「じゃあ、そのあとは?」
それには首を横に振って答えると。
「うわ、何やってんだろ俺っ……」
両手で頭を抱えるようにして、また項垂れる響。
「っ、ちょっと……
1人で納得しないでよっ。
ねぇそのあと、なんて言ったの?」
「……それはいいよ。
聞いたら憧子さん、今度こそしんどくなるから」
しんどくなる?
ー「しんどい思いさせてごめんっ。
好きになって……
愛してしまって、ごめんっ」
「じゃあ憧子さんの事……
ずっと好きでいても、しんどくない?」ー
関連付いた2つのセリフに、胸が大きく高鳴る。
「しんどく、ならないから……聞きたい」
響は視線を逸らして、溜め息を漏らすと。
「どっちにしろ、もうバレバレだよね」と、話の続きを口にした。
*
*
*
「ごめんっ……
もう、付き合ってる人がいるんだ……」
「っっ……
そっ、だよねっ……
今さらだよねっ。
響なら女の子がほっとくワケないしっ……
私なら気にしないでっ?
あの時出来なかった後悔を、挽回出来て良かったと思ってるからっ」
「っっ、ごめんっ……」
「っ、謝らないでっ?
私こそごめんねっ……
でも、1つだけ聞いていい?
その人の事、愛してるの?」
「……うん、愛してる。
言葉に出来ないくらい、愛してる」
*
*
*
「っっ、うそっ……」
胸が壊れそうなほど掴まれて、なおもぎゅううと締め付けられる。
「……ごめん、嘘じゃない。
だからその会話を聞かれたとかと思って。
俺の気持ちがしんどかったから、この関係を終わらせたのかと思ったんだけど……」
ー「愛が欲しいけど、実際もらうとしんどくない?」
「……うん、無理」ー
だからあんな悲痛にごめんって……
私たちは、同じ想いを抱いてたんだ。
愛してしまって。
でもその愛で、しんどい思いをさせたくなくて。
そして、この関係を終わらせたくなくて……
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