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覚醒2
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週末。
「ねぇ、お弁当作ったんだけど……
よかったら食べて?」
朝早くからコソコソ作ったそれを差し出すと。
目を大きくして固まる響。
「え、俺にっ?」
「他に誰がいるの?
実は、今ちょっと料理にはまっててね?
響さえ良ければ、私のと一緒に毎日作ろうかと思ってるんだけど」
料理にはまってて….…
それはあながち嘘じゃなく。
まだ始めたばかりだけど、中途覚醒の改善に向けて食事療法に取り組んでた。
私の分を作るのも、その為なのと。
そうした方が、響が気遣わなくてすむと思ったからだ。
「うわ、どうしよう……
すげー嬉しいっ。
ヤバい、超嬉しいっ!
ありがとう憧子さんっ」
徐々に実感して、はしゃぐ響。
そんなに喜ばれると、ある意味プレッシャーなんだけど……
でも私まで、すごく嬉しい。
◇
4月。
忙しい響も、今月は落ち着くだろうか?
そう思ってたのに……
「異動?」
「うん、まだ決定じゃないけど」
なんでも、今働いてる会社が新店舗を立ち上げるらしく。
響はそこのサロンディレクターに抜擢されたらしい。
その若さでその役職に選ばれるのは、異例だそうで……
「うそ、すごいじゃないっ」
「うんっ、だから嬉しんだけどっ……
正直、ちょっと悩んでる」
「どうして?」
どうやら、サービスとクオリティを重視してる今の店に比べ……
新しい店は、ハイスキルによるハイローテーションを狙ってるらしく。
そこのサロンディレクターともなると、指名をいくつもまたいだり。
他のスタイリストに任せる施術が増えたり、料金が上がったりするそうだ。
「もちろん、給料や知名度も上がるんだけど。
うちの会社、料金にはシビアだからさっ。
どんな失礼な状況でもしっかり徴収するだろうし。
なんか、今までのお客さんに申し訳ないっていうか、俺はもっと一人一人の施術を大事にしたいから……
ちょっと、向いてないかもって」
確かに、響ならそう思うだろう。
でも……
ー「千景は俺がカリスマ美容師になるのを夢見てくれてたから、それを目標に」ー
だったら新店舗の方がそれに近づく。
「私は……
響が今まで築いて来た、お客さんとの信頼関係があれば、大丈夫なんじゃないかと思うし。
お客さんを大切にして、その一人一人と真剣に向き合ってる響を見たら、わかってくれるんじゃないかと思うけど……
やるだけやってみたら?
やってみなきゃわからないし、答えを出すのはそれからでも遅くないんじゃない?」
するとその人は、目を覚ましたような表情を覗かせて……
瞼を伏せて、噛みしめるように笑った。
「なんか、勇気出てきた。
ちょっと怖じ気付いてたのかも……
ありがとう、憧子さんっ。
俺、新店舗で頑張ってみるよ」
「うん。
私も支えるから、一緒に頑張ろう?」
途端。
驚いた顔をしたその人から、力強く抱きしめられる。
「んっ……ありがとう……」
背中を押してあげれて良かったと思いながらも。
自ら誘導したとはいえ、ちひろさんとの夢を目指してる響に……
なぜだか寂しさを感じて、胸が締め付けられていた。
しかもしばらくは、異動準備に追われるようで……
さらに今月は行きたいセミナーもあるらしく、また第3日曜日を一緒に過ごせない。
そんな忙しい響に、ますます寂しさを煽られていた。
だけど、どんなに忙しくても疲れてても……
響は、私への時間を惜しまない。
昨晩カラーリングし直してくれた髪を、手に取って眺めてると……
ー「うちの会社、料金にはシビアだからさっ。
どんな失礼な状況でもしっかり徴収するだろうし」ー
ふと、この前の会話が頭をよぎる。
そういえば、響の美容室で施術してもらった時。
料金にVIPルーム代が含まれてなかったから、払おうとしたのに。
俺が勝手にした事だし、空いてたからサービスしてくれたって断られたけど……
料金にシビアな店が、3000円もサービスするだろうか?
もしかして、響が自腹を切ってくれたんじゃ?
それは金銭面の問題だけじゃなく。
色々と公私混同だった状況を、悪く思われたりしてないだろうか……
今さらながら改めて、どれだけ助けてもらってるんだろう。
どれだけ支えられて、守られてるんだろう……
「ねぇ、お弁当作ったんだけど……
よかったら食べて?」
朝早くからコソコソ作ったそれを差し出すと。
目を大きくして固まる響。
「え、俺にっ?」
「他に誰がいるの?
実は、今ちょっと料理にはまっててね?
響さえ良ければ、私のと一緒に毎日作ろうかと思ってるんだけど」
料理にはまってて….…
それはあながち嘘じゃなく。
まだ始めたばかりだけど、中途覚醒の改善に向けて食事療法に取り組んでた。
私の分を作るのも、その為なのと。
そうした方が、響が気遣わなくてすむと思ったからだ。
「うわ、どうしよう……
すげー嬉しいっ。
ヤバい、超嬉しいっ!
ありがとう憧子さんっ」
徐々に実感して、はしゃぐ響。
そんなに喜ばれると、ある意味プレッシャーなんだけど……
でも私まで、すごく嬉しい。
◇
4月。
忙しい響も、今月は落ち着くだろうか?
そう思ってたのに……
「異動?」
「うん、まだ決定じゃないけど」
なんでも、今働いてる会社が新店舗を立ち上げるらしく。
響はそこのサロンディレクターに抜擢されたらしい。
その若さでその役職に選ばれるのは、異例だそうで……
「うそ、すごいじゃないっ」
「うんっ、だから嬉しんだけどっ……
正直、ちょっと悩んでる」
「どうして?」
どうやら、サービスとクオリティを重視してる今の店に比べ……
新しい店は、ハイスキルによるハイローテーションを狙ってるらしく。
そこのサロンディレクターともなると、指名をいくつもまたいだり。
他のスタイリストに任せる施術が増えたり、料金が上がったりするそうだ。
「もちろん、給料や知名度も上がるんだけど。
うちの会社、料金にはシビアだからさっ。
どんな失礼な状況でもしっかり徴収するだろうし。
なんか、今までのお客さんに申し訳ないっていうか、俺はもっと一人一人の施術を大事にしたいから……
ちょっと、向いてないかもって」
確かに、響ならそう思うだろう。
でも……
ー「千景は俺がカリスマ美容師になるのを夢見てくれてたから、それを目標に」ー
だったら新店舗の方がそれに近づく。
「私は……
響が今まで築いて来た、お客さんとの信頼関係があれば、大丈夫なんじゃないかと思うし。
お客さんを大切にして、その一人一人と真剣に向き合ってる響を見たら、わかってくれるんじゃないかと思うけど……
やるだけやってみたら?
やってみなきゃわからないし、答えを出すのはそれからでも遅くないんじゃない?」
するとその人は、目を覚ましたような表情を覗かせて……
瞼を伏せて、噛みしめるように笑った。
「なんか、勇気出てきた。
ちょっと怖じ気付いてたのかも……
ありがとう、憧子さんっ。
俺、新店舗で頑張ってみるよ」
「うん。
私も支えるから、一緒に頑張ろう?」
途端。
驚いた顔をしたその人から、力強く抱きしめられる。
「んっ……ありがとう……」
背中を押してあげれて良かったと思いながらも。
自ら誘導したとはいえ、ちひろさんとの夢を目指してる響に……
なぜだか寂しさを感じて、胸が締め付けられていた。
しかもしばらくは、異動準備に追われるようで……
さらに今月は行きたいセミナーもあるらしく、また第3日曜日を一緒に過ごせない。
そんな忙しい響に、ますます寂しさを煽られていた。
だけど、どんなに忙しくても疲れてても……
響は、私への時間を惜しまない。
昨晩カラーリングし直してくれた髪を、手に取って眺めてると……
ー「うちの会社、料金にはシビアだからさっ。
どんな失礼な状況でもしっかり徴収するだろうし」ー
ふと、この前の会話が頭をよぎる。
そういえば、響の美容室で施術してもらった時。
料金にVIPルーム代が含まれてなかったから、払おうとしたのに。
俺が勝手にした事だし、空いてたからサービスしてくれたって断られたけど……
料金にシビアな店が、3000円もサービスするだろうか?
もしかして、響が自腹を切ってくれたんじゃ?
それは金銭面の問題だけじゃなく。
色々と公私混同だった状況を、悪く思われたりしてないだろうか……
今さらながら改めて、どれだけ助けてもらってるんだろう。
どれだけ支えられて、守られてるんだろう……
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