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シロオビアゲハ3
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「けどそれで、アンタが傷つくのは、避けらんねぇから……
だから俺が、仁希さんに頼まれて、慰めたんだ」
「どうしよう、全然止まんないっ。
ううっ、どうしようっ…」
望はそれどころじゃなく、泣きながら止血場所に体重をかけた。
「落ち着けって、大丈夫だから」
だんだん呼吸が苦しくなりながらも。
平静を装って、力なく笑いを浮かべる倫太郎。
*
*
*
「ちゃんと念押したのに、なーに足引っ張ってんだ?」
「っせーな、自業自得だろ。
オマエのせいでヤケんなって、あの男とこーなったんだし」
「だからって、バディならフォローしてくれよ。
俺の計画聞いたくせに、足洗えば?はないだろ~」
そう、今足を洗われたら勝負を投げ出されるかもしれないからだ。
「俺はもうオマエらが傷付くの見たくねんだよっ」
「っ、見たくっ?
お前はいつも聴いてるだけじゃん」
心打たれたのを隠して、小馬鹿に笑う。
「ふざけんなよっ。
こっちはオマエの事で色々気ィ回してんのに」
倫太郎はこの前の嫌な勘で……
もしかして目的を達成したら、仁希が死んでしまうんじゃないかと邪推していて。
自らの意志なのか、組織によるものなのかは分からないものの。
その話を躱された事からも、疑惑を強めていたのだ。
そしてそれを察した仁希は、また躱すようにして、倫太郎の言葉を逆手に取った。
「気ィ回してる?
だったら一度くらい、望の手料理分けてくれたっていんじゃないか?」
「いやムリだろ。
オマエいつ来れるか分かんねぇし、残したらアイツに悪いし」
「あと、独り占めしたかったからだろ?
俺の気持ち知ってるくせに、平気で望の部屋に行こうとするしな?」
「あの状況で断る方が不自然だろっ。
それでも、メール見てすぐ断ったってのに」
その時仁希は、ちょうどリアルタイムで聴いていて。
嫉妬で邪魔したのもそうだが……
これ以上2人が親密になったら、作戦に響くと考え。
〈部屋には行くな〉と指示したのだった。
「はは、邪魔して悪かったな。
けどそれ考えたら、あの男とくっついてる方がマシかもな」
つまり倫太郎より鷹巨を相手にした方が、まだ勝算があると踏んだのだ。
「どーゆう意味だよ。
アイツがあの男と付き合ってても平気なのか?」
「まさかっ。
あんな電話の様子聴かされたんじゃ、意地でも妨害するよ」
「それで今日来たのかっ?」
「だって悔しいと思わないか?
人生って不平等だなって。
ずっと望を大事に守って来たのは、俺らなのに。
望の幸せのために、身を引いてるだけなのに。
どんなに想ってても、死ぬほど愛してても……
望なしの人生なんか生きていけないくらいでも!
おいしいとこだけ横取りしてるヤツに、好きにされてんのを……
指くわえて見守る事しか出来ないなんてっ」
仁希はそれと似たような気持ちを、ずっと倫太郎にも抱いてきた。
だけど倫太郎は自分の気持ちを押し殺して、約束通り決して望に手を出さなかったため。
いつしか同じ気持ちを抱く戦友のように思えていたのだった。
それでも望と接触してからは、やきもちを抑えられない時もあった。
例えば、心配される倫太郎が羨ましくて……
自分なんかが心配されるわけがないと思いながらも、怪我したフリして来店したり。
他にも色々と……
そんな馬鹿な事をしてしまうほど、これまでずっと苦しんできたのだ。
だんだん惹かれ合っていく望と倫太郎に、胸が数え切れないほど切り刻まれて。
でもその状況を作ったのは自分で、ただただ見守る事しか出来なくて。
狂いそうなほど自分の運命を恨んで、苦しくて苦しくて吐くほど苦しんで。
心が死にそうなほど、のたうちまわって……
それでも望の幸せを優先してきたのだった。
「やっぱりオマエ、死ぬ気なんじゃ……」
望なしの人生なんか生きていけないという言葉に、疑惑が確信のようなものに変わる。
「死ぬ気っ?
どんな妄想してんだよ、お前厨二病だったのか~」
「茶化すなよ!
バディだと思ってんなら、ほんとの事言えよ。
じゃねぇと、計画には協力しねぇ」
すると仁希は、ふぅと溜息を吐き出して……
「まぁ確かに、最初はそうだったよ。
俺にとって望はさ、生きる希望だったんだ」
観念した様子で語り始めた。
「ドス黒くて汚い世界に放り込まれて……
死んだ方がマシだって思いながら、毎日やり過ごしてた時。
望と出会って、一緒に過ごして、初めて生きたいって思えたんだ。
だけどその希望を断たれて……
それでも組織で上り詰めれば、いつか自由になれんじゃないかって。
必死に頑張ってきたのに、それが無理だってわかって……
もう生きてたくないって思ったんだ。
望と生きられない未来なら、要らないって。
でも死ぬ前に、望に一目会いたくて……
寝る間も惜しんで捜したのに、全然見つかんなくて。
1年かかってようやく見つけたら、俺のせいで詐欺師になってるし。
だから最後に、望の役に立って死のうって決めたんだ。
なのに人間って、欲深い生き物だよなっ。
いざ望と関わったら、また生きたくなって……
だから余計な心配はするなっ?」
しんみりした空気が、そう笑い飛ばされた。
でも倫太郎は、どこか腑に落ちないままで……
さらにその夜、仁希の妨害が失敗に終わり。
倫太郎は、立ち直れないほど傷つけ合った2人に……
遣る瀬ない思いで耐えられなくなる。
そして仁希も……
失敗を逆手に取って、駆け引きの引きに移ったものの。
それとは別に。
あそこまでの拒絶や、あんなにも傷付けてしまった事に……
自身も深く傷付き、何も出来なくなっていた。
そんな中、望が鷹巨にプロポーズされたのを機に。
倫太郎はそれを受けるように促して、再び足を洗わせようと働きかけた。
その結果。
「どういうつもりだ?
電話にも出ないし。
あの時も、俺はあんなに頼んだのに尽く無視して……
もしかしてイヤホンすら外してたか?」
「……悪かったよ。
けどもういいだろっ。
アイツの幸せのために動いてんなら、このままあの男と結婚させるのがベストだろっ」
「じゃあ罪はどうなる?
結婚して子供が出来て……
その時に逮捕されたり、復讐されて家族が犠牲になったら、それこそ一番苦しむだろっ」
もっともな意見に、言い返せなくなる倫太郎。
「それに望にとっての幸せは、金とか肩書きじゃなくて愛情だろ。
だったら本当に愛し合った相手と結ばれてほしいんだ」
そう、仁希は……
この3年に及ぶ日々、望を守るためだけに生きてくれた倫太郎に、望を託したかったのだ。
「ったく、こっちの気も知らないで……
しかも俺はちゃんとほんとの事を話したのに、協力どころか邪魔するし」
「よくゆうよ……
まだ隠してる事があんだろ」
「また妄想か?」
「いやよく考えたらおかしいだろっ。
アイツと関わってまた生きたいって思ったんなら、一生関わらないってのはその逆になんだろっ」
それも、計画を邪魔した理由だった。
「へぇ~、そこは頭が働いたんだ?」
「っざけんなよ!
これ以上邪魔されたくなかったら、全部話せよ」
「話しても邪魔するくせに……
お前ってほんと、クソ生意気なガキだよな」
でも倫太郎がそこまで反抗するのは、それほど心配しているからだと分かっていた仁希は……
言葉とは裏腹に、胸を詰まらせていた。
「けど、どうせ邪魔されるなら話してやるよ」
そう、自分の罪にするという事は……
仁希が元締めだという証拠を残すという事で。
望の存在を隠すために、他の詐欺師の罪も同様に被るとなると。
警察に目を付けられる可能性が高くなる。
なぜなら他の詐欺師は一般人をターゲットとしているため、被害者が訴える可能性が高いからだ。
そうなれば組織は秘密が漏れるのを恐れ、仁希を処分しかねないのだ。
「だから、この件が片付いたら海外に逃亡しようと思ってる。
一生関わらないって言ったのは、もう日本に戻って来ないからだ」
「……そうゆう事か。
けどもうアイツは足洗うって……」
「ほんとやらかしてくれたよなっ。
でもま、土壇場の方が判断力も鈍るだろうし。
そこで切り札を使うよ」
*
*
*
だから俺が、仁希さんに頼まれて、慰めたんだ」
「どうしよう、全然止まんないっ。
ううっ、どうしようっ…」
望はそれどころじゃなく、泣きながら止血場所に体重をかけた。
「落ち着けって、大丈夫だから」
だんだん呼吸が苦しくなりながらも。
平静を装って、力なく笑いを浮かべる倫太郎。
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「ちゃんと念押したのに、なーに足引っ張ってんだ?」
「っせーな、自業自得だろ。
オマエのせいでヤケんなって、あの男とこーなったんだし」
「だからって、バディならフォローしてくれよ。
俺の計画聞いたくせに、足洗えば?はないだろ~」
そう、今足を洗われたら勝負を投げ出されるかもしれないからだ。
「俺はもうオマエらが傷付くの見たくねんだよっ」
「っ、見たくっ?
お前はいつも聴いてるだけじゃん」
心打たれたのを隠して、小馬鹿に笑う。
「ふざけんなよっ。
こっちはオマエの事で色々気ィ回してんのに」
倫太郎はこの前の嫌な勘で……
もしかして目的を達成したら、仁希が死んでしまうんじゃないかと邪推していて。
自らの意志なのか、組織によるものなのかは分からないものの。
その話を躱された事からも、疑惑を強めていたのだ。
そしてそれを察した仁希は、また躱すようにして、倫太郎の言葉を逆手に取った。
「気ィ回してる?
だったら一度くらい、望の手料理分けてくれたっていんじゃないか?」
「いやムリだろ。
オマエいつ来れるか分かんねぇし、残したらアイツに悪いし」
「あと、独り占めしたかったからだろ?
俺の気持ち知ってるくせに、平気で望の部屋に行こうとするしな?」
「あの状況で断る方が不自然だろっ。
それでも、メール見てすぐ断ったってのに」
その時仁希は、ちょうどリアルタイムで聴いていて。
嫉妬で邪魔したのもそうだが……
これ以上2人が親密になったら、作戦に響くと考え。
〈部屋には行くな〉と指示したのだった。
「はは、邪魔して悪かったな。
けどそれ考えたら、あの男とくっついてる方がマシかもな」
つまり倫太郎より鷹巨を相手にした方が、まだ勝算があると踏んだのだ。
「どーゆう意味だよ。
アイツがあの男と付き合ってても平気なのか?」
「まさかっ。
あんな電話の様子聴かされたんじゃ、意地でも妨害するよ」
「それで今日来たのかっ?」
「だって悔しいと思わないか?
人生って不平等だなって。
ずっと望を大事に守って来たのは、俺らなのに。
望の幸せのために、身を引いてるだけなのに。
どんなに想ってても、死ぬほど愛してても……
望なしの人生なんか生きていけないくらいでも!
おいしいとこだけ横取りしてるヤツに、好きにされてんのを……
指くわえて見守る事しか出来ないなんてっ」
仁希はそれと似たような気持ちを、ずっと倫太郎にも抱いてきた。
だけど倫太郎は自分の気持ちを押し殺して、約束通り決して望に手を出さなかったため。
いつしか同じ気持ちを抱く戦友のように思えていたのだった。
それでも望と接触してからは、やきもちを抑えられない時もあった。
例えば、心配される倫太郎が羨ましくて……
自分なんかが心配されるわけがないと思いながらも、怪我したフリして来店したり。
他にも色々と……
そんな馬鹿な事をしてしまうほど、これまでずっと苦しんできたのだ。
だんだん惹かれ合っていく望と倫太郎に、胸が数え切れないほど切り刻まれて。
でもその状況を作ったのは自分で、ただただ見守る事しか出来なくて。
狂いそうなほど自分の運命を恨んで、苦しくて苦しくて吐くほど苦しんで。
心が死にそうなほど、のたうちまわって……
それでも望の幸せを優先してきたのだった。
「やっぱりオマエ、死ぬ気なんじゃ……」
望なしの人生なんか生きていけないという言葉に、疑惑が確信のようなものに変わる。
「死ぬ気っ?
どんな妄想してんだよ、お前厨二病だったのか~」
「茶化すなよ!
バディだと思ってんなら、ほんとの事言えよ。
じゃねぇと、計画には協力しねぇ」
すると仁希は、ふぅと溜息を吐き出して……
「まぁ確かに、最初はそうだったよ。
俺にとって望はさ、生きる希望だったんだ」
観念した様子で語り始めた。
「ドス黒くて汚い世界に放り込まれて……
死んだ方がマシだって思いながら、毎日やり過ごしてた時。
望と出会って、一緒に過ごして、初めて生きたいって思えたんだ。
だけどその希望を断たれて……
それでも組織で上り詰めれば、いつか自由になれんじゃないかって。
必死に頑張ってきたのに、それが無理だってわかって……
もう生きてたくないって思ったんだ。
望と生きられない未来なら、要らないって。
でも死ぬ前に、望に一目会いたくて……
寝る間も惜しんで捜したのに、全然見つかんなくて。
1年かかってようやく見つけたら、俺のせいで詐欺師になってるし。
だから最後に、望の役に立って死のうって決めたんだ。
なのに人間って、欲深い生き物だよなっ。
いざ望と関わったら、また生きたくなって……
だから余計な心配はするなっ?」
しんみりした空気が、そう笑い飛ばされた。
でも倫太郎は、どこか腑に落ちないままで……
さらにその夜、仁希の妨害が失敗に終わり。
倫太郎は、立ち直れないほど傷つけ合った2人に……
遣る瀬ない思いで耐えられなくなる。
そして仁希も……
失敗を逆手に取って、駆け引きの引きに移ったものの。
それとは別に。
あそこまでの拒絶や、あんなにも傷付けてしまった事に……
自身も深く傷付き、何も出来なくなっていた。
そんな中、望が鷹巨にプロポーズされたのを機に。
倫太郎はそれを受けるように促して、再び足を洗わせようと働きかけた。
その結果。
「どういうつもりだ?
電話にも出ないし。
あの時も、俺はあんなに頼んだのに尽く無視して……
もしかしてイヤホンすら外してたか?」
「……悪かったよ。
けどもういいだろっ。
アイツの幸せのために動いてんなら、このままあの男と結婚させるのがベストだろっ」
「じゃあ罪はどうなる?
結婚して子供が出来て……
その時に逮捕されたり、復讐されて家族が犠牲になったら、それこそ一番苦しむだろっ」
もっともな意見に、言い返せなくなる倫太郎。
「それに望にとっての幸せは、金とか肩書きじゃなくて愛情だろ。
だったら本当に愛し合った相手と結ばれてほしいんだ」
そう、仁希は……
この3年に及ぶ日々、望を守るためだけに生きてくれた倫太郎に、望を託したかったのだ。
「ったく、こっちの気も知らないで……
しかも俺はちゃんとほんとの事を話したのに、協力どころか邪魔するし」
「よくゆうよ……
まだ隠してる事があんだろ」
「また妄想か?」
「いやよく考えたらおかしいだろっ。
アイツと関わってまた生きたいって思ったんなら、一生関わらないってのはその逆になんだろっ」
それも、計画を邪魔した理由だった。
「へぇ~、そこは頭が働いたんだ?」
「っざけんなよ!
これ以上邪魔されたくなかったら、全部話せよ」
「話しても邪魔するくせに……
お前ってほんと、クソ生意気なガキだよな」
でも倫太郎がそこまで反抗するのは、それほど心配しているからだと分かっていた仁希は……
言葉とは裏腹に、胸を詰まらせていた。
「けど、どうせ邪魔されるなら話してやるよ」
そう、自分の罪にするという事は……
仁希が元締めだという証拠を残すという事で。
望の存在を隠すために、他の詐欺師の罪も同様に被るとなると。
警察に目を付けられる可能性が高くなる。
なぜなら他の詐欺師は一般人をターゲットとしているため、被害者が訴える可能性が高いからだ。
そうなれば組織は秘密が漏れるのを恐れ、仁希を処分しかねないのだ。
「だから、この件が片付いたら海外に逃亡しようと思ってる。
一生関わらないって言ったのは、もう日本に戻って来ないからだ」
「……そうゆう事か。
けどもうアイツは足洗うって……」
「ほんとやらかしてくれたよなっ。
でもま、土壇場の方が判断力も鈍るだろうし。
そこで切り札を使うよ」
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