虹色アゲハ【完結】

よつば猫

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プロローグ

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 裏切りへのカウントダウン……


ーーー3

 はぁはぁと息を切らして、廃れた街並を走る少女。
だけど追手らしき複数の足音は、間近まで迫っていて……
キョロキョロと、隠れ場所を探して辺りを見回す。

「こっち」
ふいに手を掴まれて、路地裏に引き込まれる。

「追われてんだろ?かくまってやるよ」
そう言って少年は、少女の手を引いて裏道を駆け抜けた。


 少女は事故で両親を亡くし、施設暮らしを余儀なくされ。
そこでも学校でも執拗なイジメを受けていて、こんなふうに逃げ回る日々を送っていた。

 そして少年もまた、義父によって不遇な人生を余儀なくされ。
少女をかくまった秘密基地で、その現実から逃避していた。


「なんかあったら、いつでもココに逃げ込んで来なよ」

「いいの?」

 そんな2人に友情が芽生えるのは当然で……
いつしかそれは、恋愛関係へと発展していった。



ーーー2

「ずっと思ってたんだけど、この匂い大好き」
少年の胸に抱かれ、少女はそれを幸せそうに吸い込む。

「え、どんな匂い?」

「ん~、なんか甘い匂い」

「なんだろ、何も付けてないけど……
フェロモン?」
少年が猫みたいな目を細めて、そうおどけると。

「だから吸い寄せられちゃうんだっ?」
話に乗っかって、じゃれるように唇を重ねる少女。

 途端、ローソファに横たわってた2人は、バランスを崩して落ちてしまう。

 だけど少年が、くしゃっと八重歯を覗かせて笑い飛ばすと。
少女もぷはっと吹き出して、どちらからともなく再び唇を重ね合った。


「あぁ、帰りたくないなぁ」

「でも帰んないとヤバいだろ」


 そうして、廃ビルの地下にある秘密基地から表に出ると……
夕空に架かった大きな虹が、視界に飛び込む。

「ねぇ知ってた?
虹は希望の象徴なんだって」

「ふぅん、じゃあ知ってた?
俺らの名前が希望になるって」

 すると2人はふふっと笑い合う。

「じゃあ一緒なら、この辛い雨も乗り越えられるよね?」

「うん、いつか俺が虹の向こうに連れてくよ」

 そして今度はあははと笑い合った。



ーーー1

「遺産?」

「そう、親の。
法律で未成年後見人の施設長が管理してるんだけど、何かと理由をつけて使い込んでるみたいで……
どうしよう、このままじゃ退所する頃にはなくなっちゃう!」

「……わかった、何かいい方法がないか考えてみる」
少年は深刻な面持ちで答えた。


 そして後日。

「結婚!?」

「うん、いつかはしたいと思ってたから。
この際、ちょっと早いけど」

 少女が16になる頃、少年は18で……
結婚すれば施設を退所出来るし、遺産もこちらに引き継がれる。

「……嫌?」

「ううん、ううんっ……
すごく、嬉しい」

 涙をぼろぼろ零す少女を、少年は優しく抱きしめた。


 ところが、ようやくその時を迎えると……
少年から思わぬ事実が告げられる。

 今まで名乗ってた名前は義父に付けられた通称で、戸籍に記載されてる内容が真実だと。
他言出来ない複雑な事情があるらしく。
少女は愛する人の言葉を素直に信じた。

 そして少女は、無理やり通わされてた高校を辞めると……
義父の所から逃げたいという少年の希望で、入籍後は遠くに移り住む事になり。
その手配をする少年に、遺産の管理も任せる事になった。



ーーー0

 だけど逃亡当日。
待ち合わせた駅のホームに、少年は来なかった。

 少年は義父の都合で携帯電話を持てず。
連絡はいつも公衆電話から、少女の携帯にかかってくるのみだった。

 ずっと秘密基地でこっそり会うだけで、他に何の接点もなく。
終電を見送ると、少女は秘密基地で待つしかなかった。

 冬の凍てつくその地下室で、何日も何日も……
けれど、どれだけ待っても少年が現れる事はなかった。


 そして後日、婚姻届に書かれた住所を訪ねると。
「息子とはとっくに縁を切った」と一蹴される。

 せめて手掛かりをと縋ると。
友人と映った写真を渡され、絶句する。

 それは全くの別人で……
その瞬間、少女は悟った。

 成りすましによる、結婚詐欺にあったのだと。
恐らく自分は、彼にとって都合のいい遊び相手で……
遺産の話をした事で、詐欺対象になったのだと。

 でも少女にとっては、少年が全てだった。
希望を与えてくれた人だった。
愛を教えてくれた人だった。

 なのに最後は何もかも奪われて……
絶望を与えられて、憎しみを教えられたのだった。



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