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8月ー2
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「では桜菜姫、どこに行きたいですかっ?」
心配をかけた分、思いっきり楽しませようと。
片膝をついて手を差し出すと。
「やっぱりパパだねっ!ママとおんなじっ。
ママもそーゆうんだよっ?」
日に日に元気を取り戻してる桜菜から、嬉しい驚きをもらって。
結歌のキャラを真似たからとはいえ、なんだか凄くくすぐったくなる。
それから、うさぎに会いたいとゆうリクエストを受けて……
手を繋いで、ふれあい動物園を訪れた。
「パパみてみてー!
パパとおんなじうさぎっ。
こっちはママとおんなじでしょっ?」
まだ慣れないパパ呼びに、いちいち胸を騒がせながら。
「じゃあこれは桜菜うさぎっ」
こーゆう場所も初めてだったから、一緒になってはしゃいでた。
「えーっ!ぜんぜんちがうよ~」
なに基準かわからないけど……
そんな事が楽しくて仕方ない。
写真嫌いな俺だけど、結歌が目覚めたら自慢しよう!なんて企んで。
桜菜との写メを撮りまくった。
「どれにする?」
園内のクレープ屋で、小腹を満たそうとすると。
「ティラミスあじ!
サナのだいこーぶつなんだよっ?
いっつもねー、ママがつくってくれてたのっ」
瞬間、瞳が潤みそうになる。
「っ、そっか……
っパパも、っママの作ったティラミスが、大好物なんだ。
っママが元気になったら、また作ってもらおっか!」
口にするパパやママに戸惑いながらも。
繋がってる遺伝子とか、思い出を繋いでくれた結歌に……
胸が詰まってく。
一緒に食べたティラミスのクレープは、別に大した事ない味なのに……
すごくすごく、美味しかった。
◇
「疲れて寝ちゃってます」
「よほど、はしゃいだんでしょうね」
夕方、電話で誘導された広部さんの家に桜菜を送り届けた。
「いつもすみません。
桜菜が良ければ、俺が連れて帰りたい所なんですが……」
「桜菜が良くても、それは難しいと思います。
子育ては、想像以上に大変ですよ?」
「だったら尚更、申し訳ないです。
でも俺なら大丈夫ですからっ」
「早坂さんが無理するだけじゃすみませんよ?
それは桜菜にも影響します。
とりあえず、その事も含めてお話ししましょう。
せっかく桜菜も眠ってますし」
確かに俺も話したかった。
結歌の両親から病状を聞いたんじゃないかって……
早くそれを知りたくて、内心気が気じゃなかった。
桜菜を布団に寝かせると、さっそくリビングで話に移った。
「まず、結歌の病状ですが……」
真っ先に切り出されたそれは、急性広範型肺血栓塞栓症。
治療により一命は取り留めたものの、一時は心肺停止をきたして……
今は生命維持装置で命を繋いでる状態らしい。
「助かるん、ですかっ?」
愕然とした事実に、動揺しながらも。
必死にそれを抑え込む。
「それを信じて……
結歌が目覚めるのを、願うしかありません」
何で結歌ばっかり!
やり切れない現実に潰れそうになる……
「しっかりして下さい!
私達が回復を信じなければ、結歌に不安が伝わりますよっ?
この7年間、結歌を諦めなかったんですよねっ?
あなたなら当然、諦めませんよね?」
広部さんの喝に、ハッとする。
「っ、もちろんです。
ありがとうございます」
そして頼もしい彼女を前に、ふと過ぎる。
ー戦友、ですかね。
子供の頃からの付き合いですー
「……俺にとっても戦友のようです。
結歌も心強かったと思います」
「その事ですが……
結歌の両親や周りには、戦友関係を秘密にしてもらえますか?
ここで知り合った事になっています」
そういえば……
子供の頃からの付き合いな筈なのに、結歌の両親に初めましてと言っていた。
「わかりました。
何か事情があるんですね?」
「はい。
早坂さんには隠す必要がないので、お話ししますが……
この関係が、虐待を打ち明けられる唯一の逃げ場所だったからです。
だからそれがバレないように隠して来ましたし。
今でも知られるのに抵抗があるので、隠し続けたいんです」
どおりで……
結歌の交友関係を当たっても、広部さんに辿り着かなかった訳だ。
「わかりました。
でも……
どうして結歌は、広部さんだけには心を許したんでしょうか」
ーあの子はね、誰にも心を許さないー
それは俺ですら、例外じゃなかったのに。
「それは……
それは私も、彼女と同じ境遇だったからです」
同じ境遇……
それは虐待されてた事を物語ってて。
思わず見開いた目をぶつけると。
広部さんは伏し目がちに頷いて、続きを口にした。
「彼女と出会ったのは、立ち入り禁止になっていた何かの施設跡地でした。
そこは私が、酷い虐待から逃げてきた時の隠れ家のような場所で……
ある日、泣いていた彼女がそこに居ました。
お互い、相手の怪我を目にして……
色んな状況から何となく、同じ境遇だと感じたんでしょうね。
最初は言葉も交わさずに、ただ一緒に居たんですが……
徐々に心を開き合って、いつしか戦友となりました」
だから広部さんは、結歌の精神状態に詳しかったのか……
「私の家は母子家庭で。
母親からの虐待は、それは酷いものでした。
中学卒業後、逃げるようにこっちで仕事を探して移り住みましたが……
戦友の存在が無ければ、とっくに人生を投げ出していたかもしれません。
そして結歌は、私ほど酷い虐待ではありませんでしたが……
ある意味、よりタチの悪いケースだったと思います。
歪んだ愛情で洗脳されて、仲の良い家族という幻に縛られて。
異常に世間体を気にする父親から、ペットのように扱われてると思いました。
良い子の時はものすごく可愛がる。
でもちょっとでも不備があると、恥をかかすなとか気遣いが出来てないとか……
要は、躾のつもりの虐待です。
なので虐待だという認識もなければ、認める事もありません。
仮に誰かに指摘されても、躾の範囲内だと主張を曲げないでしょう。
だから子供は、自分が悪いと信じ込む……
悲しい事です」
胸が、遣る瀬ない思いで締め付けられる。
「ですが彼女は、頑張ってそこから抜け出そうとしてました。
縁を切るという脅しに屈せず、1人暮らしに踏み切ったのを第1歩に。
そしてお話しした通り、あなたの為に」
ー行動してたらさっ?
何かが少しずつ変わってくんだよっー
突然降ってきたキミの言葉。
なんだか希望が湧いて来た。
そうだね、結歌……
キミが目覚めたくなるような行動をしつくして、この現状を変えてみせるよ。
そう言えば、そんな話をしてたっけ……
心配をかけた分、思いっきり楽しませようと。
片膝をついて手を差し出すと。
「やっぱりパパだねっ!ママとおんなじっ。
ママもそーゆうんだよっ?」
日に日に元気を取り戻してる桜菜から、嬉しい驚きをもらって。
結歌のキャラを真似たからとはいえ、なんだか凄くくすぐったくなる。
それから、うさぎに会いたいとゆうリクエストを受けて……
手を繋いで、ふれあい動物園を訪れた。
「パパみてみてー!
パパとおんなじうさぎっ。
こっちはママとおんなじでしょっ?」
まだ慣れないパパ呼びに、いちいち胸を騒がせながら。
「じゃあこれは桜菜うさぎっ」
こーゆう場所も初めてだったから、一緒になってはしゃいでた。
「えーっ!ぜんぜんちがうよ~」
なに基準かわからないけど……
そんな事が楽しくて仕方ない。
写真嫌いな俺だけど、結歌が目覚めたら自慢しよう!なんて企んで。
桜菜との写メを撮りまくった。
「どれにする?」
園内のクレープ屋で、小腹を満たそうとすると。
「ティラミスあじ!
サナのだいこーぶつなんだよっ?
いっつもねー、ママがつくってくれてたのっ」
瞬間、瞳が潤みそうになる。
「っ、そっか……
っパパも、っママの作ったティラミスが、大好物なんだ。
っママが元気になったら、また作ってもらおっか!」
口にするパパやママに戸惑いながらも。
繋がってる遺伝子とか、思い出を繋いでくれた結歌に……
胸が詰まってく。
一緒に食べたティラミスのクレープは、別に大した事ない味なのに……
すごくすごく、美味しかった。
◇
「疲れて寝ちゃってます」
「よほど、はしゃいだんでしょうね」
夕方、電話で誘導された広部さんの家に桜菜を送り届けた。
「いつもすみません。
桜菜が良ければ、俺が連れて帰りたい所なんですが……」
「桜菜が良くても、それは難しいと思います。
子育ては、想像以上に大変ですよ?」
「だったら尚更、申し訳ないです。
でも俺なら大丈夫ですからっ」
「早坂さんが無理するだけじゃすみませんよ?
それは桜菜にも影響します。
とりあえず、その事も含めてお話ししましょう。
せっかく桜菜も眠ってますし」
確かに俺も話したかった。
結歌の両親から病状を聞いたんじゃないかって……
早くそれを知りたくて、内心気が気じゃなかった。
桜菜を布団に寝かせると、さっそくリビングで話に移った。
「まず、結歌の病状ですが……」
真っ先に切り出されたそれは、急性広範型肺血栓塞栓症。
治療により一命は取り留めたものの、一時は心肺停止をきたして……
今は生命維持装置で命を繋いでる状態らしい。
「助かるん、ですかっ?」
愕然とした事実に、動揺しながらも。
必死にそれを抑え込む。
「それを信じて……
結歌が目覚めるのを、願うしかありません」
何で結歌ばっかり!
やり切れない現実に潰れそうになる……
「しっかりして下さい!
私達が回復を信じなければ、結歌に不安が伝わりますよっ?
この7年間、結歌を諦めなかったんですよねっ?
あなたなら当然、諦めませんよね?」
広部さんの喝に、ハッとする。
「っ、もちろんです。
ありがとうございます」
そして頼もしい彼女を前に、ふと過ぎる。
ー戦友、ですかね。
子供の頃からの付き合いですー
「……俺にとっても戦友のようです。
結歌も心強かったと思います」
「その事ですが……
結歌の両親や周りには、戦友関係を秘密にしてもらえますか?
ここで知り合った事になっています」
そういえば……
子供の頃からの付き合いな筈なのに、結歌の両親に初めましてと言っていた。
「わかりました。
何か事情があるんですね?」
「はい。
早坂さんには隠す必要がないので、お話ししますが……
この関係が、虐待を打ち明けられる唯一の逃げ場所だったからです。
だからそれがバレないように隠して来ましたし。
今でも知られるのに抵抗があるので、隠し続けたいんです」
どおりで……
結歌の交友関係を当たっても、広部さんに辿り着かなかった訳だ。
「わかりました。
でも……
どうして結歌は、広部さんだけには心を許したんでしょうか」
ーあの子はね、誰にも心を許さないー
それは俺ですら、例外じゃなかったのに。
「それは……
それは私も、彼女と同じ境遇だったからです」
同じ境遇……
それは虐待されてた事を物語ってて。
思わず見開いた目をぶつけると。
広部さんは伏し目がちに頷いて、続きを口にした。
「彼女と出会ったのは、立ち入り禁止になっていた何かの施設跡地でした。
そこは私が、酷い虐待から逃げてきた時の隠れ家のような場所で……
ある日、泣いていた彼女がそこに居ました。
お互い、相手の怪我を目にして……
色んな状況から何となく、同じ境遇だと感じたんでしょうね。
最初は言葉も交わさずに、ただ一緒に居たんですが……
徐々に心を開き合って、いつしか戦友となりました」
だから広部さんは、結歌の精神状態に詳しかったのか……
「私の家は母子家庭で。
母親からの虐待は、それは酷いものでした。
中学卒業後、逃げるようにこっちで仕事を探して移り住みましたが……
戦友の存在が無ければ、とっくに人生を投げ出していたかもしれません。
そして結歌は、私ほど酷い虐待ではありませんでしたが……
ある意味、よりタチの悪いケースだったと思います。
歪んだ愛情で洗脳されて、仲の良い家族という幻に縛られて。
異常に世間体を気にする父親から、ペットのように扱われてると思いました。
良い子の時はものすごく可愛がる。
でもちょっとでも不備があると、恥をかかすなとか気遣いが出来てないとか……
要は、躾のつもりの虐待です。
なので虐待だという認識もなければ、認める事もありません。
仮に誰かに指摘されても、躾の範囲内だと主張を曲げないでしょう。
だから子供は、自分が悪いと信じ込む……
悲しい事です」
胸が、遣る瀬ない思いで締め付けられる。
「ですが彼女は、頑張ってそこから抜け出そうとしてました。
縁を切るという脅しに屈せず、1人暮らしに踏み切ったのを第1歩に。
そしてお話しした通り、あなたの為に」
ー行動してたらさっ?
何かが少しずつ変わってくんだよっー
突然降ってきたキミの言葉。
なんだか希望が湧いて来た。
そうだね、結歌……
キミが目覚めたくなるような行動をしつくして、この現状を変えてみせるよ。
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