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よつば猫

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5月ー2

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「誕生日おめでとう」

 付き合って最初の、結歌の誕生日。
プレゼントの箱をテーブルの上に差し出すと。

「うわ、おっき!
え、なんだろぉ~!
ね、開けちゃうよっ?」
ハイテンションではしゃぎながら、開封を手掛けるキミ。

「ええっ!クレープメーカ~!?
うっそホントにっ?
え、嬉しいっ……
うそ嬉し~っ!
しかもこれ本格的じゃん!
も~ぉ道哉っ、ありがとうっ」

 賑やかな笑顔で感激する様子に、俺の胸が撫で下ろされる。

 最近クレープ作りに凝ってるキミは、フライパン調理での焼き具合や匂い移りに納得いかないようで。
力量に相応しいプロ仕様のものを贈る事にしたんだけど、実際はそこまで求めてなかったかもと不安だった。

「喜んでくれて良かったよ。
じゃあさっそく焼いてくれる?
中身は俺がイタリアンクレープに仕上げるから」

「焼くっ!
うわ、なんか楽しみっ!
じゃあスイーツクレープは私が作るねっ?」

 ほんとはそれも俺が作るつもりだったけど、この際任せる事にして……


 千川店長の下でクレープカフェごっこなんかしながら、それぞれ出来上がったものを披露する。

「えーと、右からカプレーゼクレープ。
ツナときのこのカルボナーラクレープ。
そしてパンチェッタと春キャベツのアンチョビクレープです」

「うわ~、生唾ごっくんモノですっ!
早く食べたいっ。
けどその前に私の力作発表です!」

 それは、キャラメルナッツとスイートポテトのチョコかけクレープと。
マンゴーとメープル&生クリームの紅茶葉生地クレープ。
さっそく実食タイムに移ると。

「んんー!すっごいモチふわっ!
やっぱ本格的な機材で作ると全っ然違うねっ」
まずは焼き上がりの食感にご満足頂けたようで。

「クレープってこんな手軽なのに、こんっな美味しいイタリアンまで楽しめるなんてすごくない!?」とか。

「この紅茶葉クレープ、絶品だね。
俺ハマるかもっ」とかって、お互いの出来具合に感嘆した。

 すると結歌が……
「この際ホントに、2人でクレープカフェでもやっちゃいますかっ!」
なんてゆうから。

 思わず。
「いいね。
まぁクレープに限らず、カフェは一緒にしよっか」
年初めに抱いてた新しい夢を口走ってしまった。

 途端キミは目を丸くして。
ハッとした俺は、内心焦ると。

「……え、いいの?
それホントにいーのっ!?」
その表情が輝き始める。

「うん……
むしろこっちこそ、勝手に夢重ねちゃってよかった?」

「大歓迎だよっ!
それどころかど~しよう!
ああヤバいっ、笑いが止まんないっ。
こんな嬉しいプレゼントもらって、こんっな最高の夢までもらっちゃって!
私っ、誕生日運使い果たしてないっ?」

「いつも頑張ってるから、不意のサプライズが訪れたんだよ」
前に言われたキミの言葉を借りて、その興奮をなだめると。

 ふふっと、屈託のない笑顔が零れて……
ホッとする。

 今まで新しい夢を口に出来なかったのは、未来を約束する勇気がなかったからだ。
また失うかもと、心のどこかじゃまだ人生を諦めてたし。
キミがどんな反応するのかも怖かった。

 だけど、散った桜の負けないエネルギーが背中を押してくれたのかな?
おかげで、この瞬間から俺たちの夢はひとつになった。


 そして、腹が満たされた後。

「あとさ、もう1つプレゼント」
今度はケーキボックスを差し出した。

「うそっ!ケーキ買ってくれてたの!?
ごめんっ、私がスイーツクレープなんか作ったりしたからっ……」

「そうじゃなくて、開けてみて?」

 キミは不思議そうな顔をして、側面から中身を引き出す。

「えっ……
え、すっごい!お花のケーキだぁ!」

 スイーツのプロにそこら辺のケーキを贈ってもと、それをクレープにして。
代わりに演出だけケーキを真似たサプライズ。
それには重要な役目もあった。

「しかもこれっ……」

「ん、短いけどリクエストのラブレター」

 事前にプレゼントのリクエストを聞いた時。
「いつも私がメッセージを贈ってるのでぇ~、一度は道哉からラブレターが欲しいですっ」
そう言われて。

 メッセージ本に見合うものを考えた結果、メッセージフラワーにその役目を託した。
花びらに刻まれたそれは……

Happy Birthday Yuika.
Your smile is my life.

「あなたの笑顔は私の、生活です?」
ニマニマ顔で俺を伺う。

「んん、そんな爽やかじゃないかな。
俺、クセのあるカツオ醤油だし?」
そう返すと、キミは吹き出して。

「おかげですっかりクセになっちゃいましたっ!
もう道哉ナシじゃいられませんよっ?
さぁ早く意味を教えて下さいっ」

 何の脈絡もない追究に、笑いを誘われながらも。

ーもう道哉ナシじゃいられませんよっ?ー
さりげなく零された言葉に胸を掴まれる。

「キミの笑顔は、俺の命です。
ってニュアンスかな」
その笑顔に見惚れるように答えを告げると。

 キミの瞳が大きく開いて、すぐにぎゅうっと閉じられた。

「~~~っ、クッサーーい!
もっ、なんでそーキザなのっ?
もおっ、どんな笑顔すればいーかわかんなくなったじゃん!」
困り顔で笑うキミ。

 でも、これはキザとかじゃないよ?
出会った去年の誕生日。
キミの笑顔が、世界を鮮やかに変えて……
俺に命を吹き込んでくれたんだ。





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