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よつば猫

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3月ー5

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「マリちゃんはっ、なんでそれを……」

「偶然、かな。
確かに結歌とは、小2の一時期は仲良かったの。
あの子、風邪で学校はよく休んでたけど……
お互いおてんばで、すごく気が合って。
その日もね?結歌んちの庭で宝探しごっこして遊んでたんだけど。
夜になって、お母さんに内緒で持ってった指輪を、忘れて来た事に気付いたの。

こっそり取りに行って、隠してた倉庫を開けたらさ……
頬っぺたを腫らした結歌が、真冬なのに薄いパジャマ姿で閉じ込められてた」

 胸が、ものすごい力で打ち付けられる。

「もうお互いびっくりしてさっ……
だけどすぐに結歌は、必死に首を横に振り始めたの。
その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、口からは血も出てて……
私は何だか怖くなって、そのまま家に帰っちゃったんだよね。

それから結歌は何日か学校を休んで……
理由は風邪だったけど、後になって気付いたの。
今までの多すぎる欠席も、風邪じゃなくて怪我だったんじゃないかって」

「結歌はなんてっ?
その事で何か話したっ?」

「もちろん話したわよ。
虐待だと思ったし、すごく心配だったから。
だけど、違うんだって。
晩ごはんが気に入らなかったから、倉庫に立てこもって。
そしたら落ちてきた物が顔に激突して、さらに寒さで風邪引いたんだって。
そんなはずないのにね。
って見た人にしか分かんないけど、とてもそんな感じじゃなかったの。

なのに。
家族を悪く言うなんて酷いって、私を避け始めて。
そのまま友情もジエンド。
こっちは心配してたってゆーのに、酷いのはどっちよ?って話。
結局私の事なんか、友達とも思ってなかったのよ。

まぁ実際?
表向きは絵に描いたような仲の良い家族だったし、いつも自慢してたから。
みんなに羨ましがられる存在でいたかったんでしょ。

とはいっても、同じクラスも多かったし気にはなってたから。
短大で再会してからはわだかまりも捨てて、一応は仲良くしたけどね」

 胸がただただ締め付けられる……

「……っ、そうじゃないよ」

ーすっごく仲良い家族なのっー
それは自慢とかじゃなく、願望だったのかもしれない。

 それに……

「抱えてる事って、そう簡単に話せるもんじゃないんだよ。
たとえどんなに大事な相手でも」

 俺と巧みたいに、共感出来る何かがないと難しい。
だから俺だって結歌に話せてない。

「でもマリちゃんも傷付いたよな?
その気持ちは、よく解るよ……
なのに水に流して受け入れたんだから、すごいよ」

「っ……
ごめん撤回、イイ男だわ。
むしろサイカくんこそ、恋人の失踪に相当傷ついたはずなのに。
今だに探してるなんてすごいよ」

「いや、俺の場合は……
居なくなるように仕向けたようなもんだから」

「え、何でっ!?
ケンカでもしたのっ?」

 その問いに苦笑いを返しながらも、驚いてた。
結歌はマリちゃんとあんなに電話で話してたのに。
恋人の失踪って表現通り……
別れた事も、その理由も話してなかったんだ?

 そういえばマリちゃんは、俺の名前を今だに罪歌って呼んでるし……
俺は結歌の話題にも出ない存在だったのかと、かなりショックを受けていた。


 それから、マリちゃんにお礼を言って別れると。
混乱で散らかった頭の中を片付け始めた。

ーあの子たぶん、虐待されてたんだよねー
キミはずっと、そんな辛い問題を抱えてたんだな……

 だから、あの挨拶の日。
キミは反論しなかったんじゃない……
出来なかったんだ。

 なのに俺は、自分の心を守るのに精いっぱいで……
キミを拒絶して、きっと更に追い詰めた。

 ごめん結歌っ……
ごめん……
今すぐ抱きしめたいのに、キミに会う事すら出来なくて。
悔しくて情けくて、どうにかなりそうだ!

 キミは今、どんな気持ちでいるだろうっ?
見すごしたサインが交錯する。

 急なアクションや大きな音に、やたら驚いてたのは……
虐待が原因だったのかもしれない。

 嫉妬で本を払い退けた時も、キミは酷く驚いて固まってた。
怖がらせてごめんな……

ー絵に描いたような仲の良い家族だったしー
ー言いがかりは止めて下さい!
私達は本当に仲の良い家族で、何の問題もありませんっー
必死に取り繕う、残酷な家族。

 もしかして右肩の大きな傷痕も、本当は……

ー私なんか要らないよねぇ!?ー
そう取り乱すキミが脳裏を過ぎって、胸が切り裂かれた。

 キミも俺と同じように……
愛を切望して、存在価値の強さを求めてたのかな。

 気付けなくてごめんな。
キミを信じられなくて、ほんとにごめん……



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