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よつば猫

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3月ー1

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「うん、なかなか上出来だ。
お前ほんとセンスあるなぁ!」
俺の試作料理を味見する店長。

「わっ、なになにっ?新メニューですかっ?」

「いやいやっ、ただの料理指導だよ。
こいつが彼女へのホワイトデーに、コース料理をプレゼントするらしくてな」

「え、いーな彼女さんっ、羨ましい!
なんか愛されてるなぁ」

「だよなぁ!
こうやって連日、美味いもん食べさせようと頑張ってるんだからなぁ」

 割り込んで来たバイトの染谷さんと、俺の話で盛り上がるのはやめて欲しいけど……

「いえ、いつも休憩時間を割いてまで教えて下さって、ありがとうございます」

 家庭料理は得意でも、プロの本格的な料理はまだまだ駆け出しだから。
おせちの時もそうだけど、いつも快く教えてくれる店長には感謝してる。



 そしてホワイトデー当日。

 その日、姉妹店でトラブルが起きて……
俺が休憩時間を利用して、ヘルプする事になった。

 自ら引き受けたのは、その姉妹店が結歌の働いてるスイーツカフェの近くだからで……

 空腹も気にならない思いで、ヘルプ作業を終えると。
さっそくそのカフェを前にした。

 俺が現れたら驚くだろうな。
その反応を楽しみに、店内に目を向けると。
思ってもない光景に、俺の方が驚いた。

 キミはその鮮やかな笑顔を、ホスト時代の後輩の瞬に向けてて。
偶然の来客にしては、ずいぶん親しげな態度で接してて……

 極め付けは、瞬にリボンをかけた本を渡してた。

 とっさに俺はその場から立ち去って。
頭の中の混乱と、心の中のドス黒いものを封じ込めた。



「道哉!片付けはいいぞっ?
今日はもう上がって、早く彼女に美味しい料理を振舞ってやれっ」

「……いえ、大丈夫です」

「遠慮するな。
今日は休憩を犠牲にしてヘルプに行ってくれたんだから、その分だ」
そう店長の厚意に押し切られて。

 ありがたく受けたものの、俺は複雑な心境で帰路に着いた。



 だけど、とりあえず予定通りに事を進めて……
あらかじめ仕込んでた料理を仕上げると。
スパークリングワインと一緒に、まずは前菜からテーブルに並べた。

「うそ、スゴいっ!
勿体なくて食べらんないよっ……
そーだ!写メ撮ろっ」
キミは興奮ぎみに、ブルスケッタを写し始める。

 それは薄切りバケットにキャビアとクリームチーズ、そして生ハムで作った薔薇を乗せたもの。

「でもすごく簡単だよ?」

「そーなのっ?じゃあ今度教えてっ」

 そんな風に何気ない会話を交わしながらも……
心の中には瞬の事が渦巻いてた。


「……今日、忙しかっただろ?」

 次の料理のリングイネを食べ始めたキミに、職場の話題を振ってみた。

「うん、でも疲れが一気に飛んじゃったよっ。
だってもう、なにこのパスタっ。
すっごいモチプリなんだけど!
しかもこのウニクリーム、コクが絶品っ」
なんて、飛びっきりの笑顔をもらったのに。

 話を逸らされた気がして、素直に喜べなかった。


「今日みたいに忙しい日ってさ……
知り合いが来たら、どう対応してる?」

 次の料理を出しながら、もっと核心に迫った話題を振ってみたけど。

「そこは臨機応変にっ。
それよりこれ何!?ブイヤベースっ?
すっごい豪華!美味しそ~っ」

 またしてもはぐらかされた気がした。

「……オマール海老と魚介のアクアパッツァだよ。
まぁ、ブイヤベースと似たようなもんかな」
愛想笑いで答えると。

 俺の微妙な反応に気付いてくれたのか、キミは話を戻してくれた。

「へぇ~、アクアパッツァってゆんだっ?
ん~っ、いい匂い!早く食べよっ?
ところで、今日誰かお店に来たの?」

「えっ、あぁ……巧が来てさ。
忙しくて全然対応出来なかったけど」
とっさに嘘を吐いて、ホスト繋がりから瞬話題になるのを狙った。

 回りくどいのは解ってる。
でも俺は、結歌の口から聞いたかったんだ。
なのに。

「しょーがないよ、しかも道哉は厨房なんだし。
それに巧くんなら分かってくれてるんじゃないかなっ?」

「うん、まぁ……
結歌は?
今日誰か知り合い来た?」

「今日っ?
ん~、チラホラね。
でも忙しくて会釈ぐらいしか出来なかったけど。
それにしてもこの、アクアなんだっけ?
めちゃ美味しんだけどっ!」

 ここまで核心に迫っても。
キミは瞬の事を話してくれるどころか、やっぱりはぐらかしてるようにしか見えなかった。

 昼間の事を忘れる筈がない。
だとしたら、言えない様なやましい事でもあるのか?


「はい。牛ヒレ肉とフォアグラのロッシーニ風です」

「うわ、贅沢っ!
しかも早坂シェフ!
あ、この響きいい……
じゃなくてっ、なんてオシャレな盛り付けっ。
実はけっこーお腹が満たされてるんですがぁ、これは絶対食べなきゃな一品です!
もお~っ、写メ写メっ」

 そうやって呑気にはしゃいでる姿は、逆に俺をイラつかせた。
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