1 / 46
始まり1
しおりを挟む
目に映る景色はいつも、モノクロで歪んで見えた。
◇
「罪歌!
今から俺の客が枝連れてくんだけど、お前も付けよ」
そう声掛けて来たのは友人の巧。
常にナンバー3入りしてる巧は、こんな風に枝……つまり指名ナシのフリー客を回してくれる。
店では煌って源氏名の巧に誘われて、俺はホストクラブで働いてた。
罪歌ってのは俺の源氏名。
バカ女達に罪科を下す。
そんなつもりで、漢字と読みを少し変えて付けた名前。
巧に誘われなくても、この仕事は俺にピッタリだと思ってた。
女ってゆう、バカな生き物に復讐出来る。
「煌~!
今日はこの子の誕生日祝いだから、カフェパ入れてぇ~。あ、ピーチでっ」
得意気にオーダーする巧の指名客。
連れて来た枝は、誕生日の女も合わせて全部で3人。
お祝いをダシにした売上貢献だろうな。
安いとはいえシャンパン(スパークリングワイン)を入れたのも、主役を省いた3人で割れば負担が軽くなるし。
主役以外の枝にとっては想定外の出費だろうけど、その不満も俺らが楽しませれば問題ない訳で。
ずる賢いけど、少しは使える客だ。
「結歌誕生日おめでとう~!」
乾杯と共に祝いの言葉が飛び交う。
それも束の間。
巧は人気なだけあって、そのトークもビジュアルも秀逸だ。
すぐにその席の注目を奪って、他のキャストは取り残されないように必死に食らいつく。
挙句、テーブルマナーが疎かになる。
まぁ、気付いた俺がするからいんだけど。
巧はそれを解ってて、俺を自分の席に呼ぶんだと思う。
もちろん、それだけじゃないのは解ってる。
売上とか指名に興味ない俺を、サポートしてくれてるんだ。
仕事はちゃんとする。
だけど、興味はバカ女への罪科だ。
女なんて、みんな同じだろ?
感情的な割に計算高くて。
優しさや思いやりだって、目的の為の計算か、自己陶酔からくる偽善だろ。
自分が1番で、ここの客同様。
お姫様でいたい、守られたいだけの生き物だよ。
走れメロスだって女じゃ成り立たないよな?
感情に流されて、周りを踏み台にして、自分の為なら何だって裏切る生き物だ。
だからって、誰にでも罪科を下す訳じゃない。
誰かを陥れたり犠牲にしてまで、ホストにのめり込むバカ女がターゲットだ。
例えば、ライバルの客を陥れたり、子供を放置して遊んでたり……
例を挙げればキリがないけど。
そんな奴らは色恋営業で惚れさせて、散々金を巻き上げて、使えなくなったら冷酷に切り捨てる。
そのバカ女な部分を理由に、嫌いになって当然だろ?って。
自業自得なんだよ。
最も、そんな女は受けた悲しみしか映らなくて。
与えた悲しみなんか理解も出来ないだろうけど。
その時、枝の1人が煙草を灰皿に押し潰した。
すぐに俺は、右隣の客の話に相槌を打ちながら、新しい灰皿に手を伸ばす。
途端、スッと使用済の灰皿がこっちに寄せられた。
それはほんの少しの移動だったけど……
俺が無理なく交換出来る位置まで動かされてて。
それをしたのは左隣の、ユイカと呼ばれてた誕生日の女だった。
驚いて一瞬、右隣の下らない話が頭に入らなかった。
するとちょうどオチの部分だったようで、スルーしてしまった俺に。
「サイカくんって働き者だね。
1番下っ端なの?」
なんて皮肉が向けられた。
「ごめん、無駄に几帳面でさ。
その分、女の子に対してはマメだよ?
てかマリちゃんは、どんなタイプが好き?」
さっき自己紹介を済ませたその女に、適当な言い訳とフォローを零しながら。
新しい灰皿を上に重ねた使用済の灰皿を、ヘルプの側に寄せると。
「ああっ、すいません!」
ようやく気付いた新人ヘルプが、その役目の怠慢を謝罪して。
新しい灰皿を配置した。
それを見たマリちゃんは、誰が1番下っ端なのか気付いたようで。
「可愛いイケメン、仕事しろ~」と茶化す。
まぁホスト慣れしれたら、丸イスに座ってる状況でヘルプだって分かるだろうけど。
「これでも頑張ってるんすよ~。
新人なんで見逃して下さいっ」
「ど~しよっかなぁ?
まっ、顔が好みだから許す!
あっ、サイカくんの方が断然イケメンだけど、私カワイイ系が好みでさ」
「羨ましいな、瞬。
マリちゃんみたいな魅力的な子に、そんな事言われて」
わざと拗ねながらも。
俺はなぜか、マリちゃんの興味がヘルプに向いてホッとした。
心の中にはユイカという女の、さっきの動作が引っかかってた。
俺は女のそーゆう行動が嫌いだ。
男に媚びてるようで、いい子ぶってるようで、気が利くアピールのようで……
鬱陶しい。
だけど、さっきのそれは違った。
笑顔で「はい!」と渡すどころか、ヘルプの瞬と盛り上がっててこっちを視界にも入れてなかった。
まるで手がぶつかったってくらい自然で。
邪魔だから退けたってくらいさりげなく。
でも自分の前の灰皿じゃない訳で、明らかに俺の作業を補助してくれたものだった。
しかもその補助はあまりに控えめで……
仕事も奪わず、作業も遮らず、気も使わせず。
話し込んでる状況は、お礼を言う隙すら与えない。
どんな子なんだろう?
ここまで完璧な気遣いに、興味が湧いた。
すかさず。
話してた瞬に放置されて、席内オンリーになったその左隣に話を振る。
「ユイカちゃんも、可愛い系が好き?」
こっちを向いたその子をちゃんと見ると。
ものすごくキュートで、芯の強そうな顔をしてた。
もちろんパッと見もダントツで可愛いかったから、敢えてマリちゃんを可愛いじゃなく魅力的と褒めた。
「ん~、私は……」
「結歌の好みは変わりもんでしょ?
この子ってば、いつもヘンな男ばっか好きになるの!」
お前に聞いてねぇよ右隣、いいから瞬と話しとけよ。
横ヤリにイラっとするも。
「うん、そーだね!
ちょっと個性的な人を好きになって来たかなっ」
ユイカちゃんは楽しそう答えてた。
◇
「罪歌!
今から俺の客が枝連れてくんだけど、お前も付けよ」
そう声掛けて来たのは友人の巧。
常にナンバー3入りしてる巧は、こんな風に枝……つまり指名ナシのフリー客を回してくれる。
店では煌って源氏名の巧に誘われて、俺はホストクラブで働いてた。
罪歌ってのは俺の源氏名。
バカ女達に罪科を下す。
そんなつもりで、漢字と読みを少し変えて付けた名前。
巧に誘われなくても、この仕事は俺にピッタリだと思ってた。
女ってゆう、バカな生き物に復讐出来る。
「煌~!
今日はこの子の誕生日祝いだから、カフェパ入れてぇ~。あ、ピーチでっ」
得意気にオーダーする巧の指名客。
連れて来た枝は、誕生日の女も合わせて全部で3人。
お祝いをダシにした売上貢献だろうな。
安いとはいえシャンパン(スパークリングワイン)を入れたのも、主役を省いた3人で割れば負担が軽くなるし。
主役以外の枝にとっては想定外の出費だろうけど、その不満も俺らが楽しませれば問題ない訳で。
ずる賢いけど、少しは使える客だ。
「結歌誕生日おめでとう~!」
乾杯と共に祝いの言葉が飛び交う。
それも束の間。
巧は人気なだけあって、そのトークもビジュアルも秀逸だ。
すぐにその席の注目を奪って、他のキャストは取り残されないように必死に食らいつく。
挙句、テーブルマナーが疎かになる。
まぁ、気付いた俺がするからいんだけど。
巧はそれを解ってて、俺を自分の席に呼ぶんだと思う。
もちろん、それだけじゃないのは解ってる。
売上とか指名に興味ない俺を、サポートしてくれてるんだ。
仕事はちゃんとする。
だけど、興味はバカ女への罪科だ。
女なんて、みんな同じだろ?
感情的な割に計算高くて。
優しさや思いやりだって、目的の為の計算か、自己陶酔からくる偽善だろ。
自分が1番で、ここの客同様。
お姫様でいたい、守られたいだけの生き物だよ。
走れメロスだって女じゃ成り立たないよな?
感情に流されて、周りを踏み台にして、自分の為なら何だって裏切る生き物だ。
だからって、誰にでも罪科を下す訳じゃない。
誰かを陥れたり犠牲にしてまで、ホストにのめり込むバカ女がターゲットだ。
例えば、ライバルの客を陥れたり、子供を放置して遊んでたり……
例を挙げればキリがないけど。
そんな奴らは色恋営業で惚れさせて、散々金を巻き上げて、使えなくなったら冷酷に切り捨てる。
そのバカ女な部分を理由に、嫌いになって当然だろ?って。
自業自得なんだよ。
最も、そんな女は受けた悲しみしか映らなくて。
与えた悲しみなんか理解も出来ないだろうけど。
その時、枝の1人が煙草を灰皿に押し潰した。
すぐに俺は、右隣の客の話に相槌を打ちながら、新しい灰皿に手を伸ばす。
途端、スッと使用済の灰皿がこっちに寄せられた。
それはほんの少しの移動だったけど……
俺が無理なく交換出来る位置まで動かされてて。
それをしたのは左隣の、ユイカと呼ばれてた誕生日の女だった。
驚いて一瞬、右隣の下らない話が頭に入らなかった。
するとちょうどオチの部分だったようで、スルーしてしまった俺に。
「サイカくんって働き者だね。
1番下っ端なの?」
なんて皮肉が向けられた。
「ごめん、無駄に几帳面でさ。
その分、女の子に対してはマメだよ?
てかマリちゃんは、どんなタイプが好き?」
さっき自己紹介を済ませたその女に、適当な言い訳とフォローを零しながら。
新しい灰皿を上に重ねた使用済の灰皿を、ヘルプの側に寄せると。
「ああっ、すいません!」
ようやく気付いた新人ヘルプが、その役目の怠慢を謝罪して。
新しい灰皿を配置した。
それを見たマリちゃんは、誰が1番下っ端なのか気付いたようで。
「可愛いイケメン、仕事しろ~」と茶化す。
まぁホスト慣れしれたら、丸イスに座ってる状況でヘルプだって分かるだろうけど。
「これでも頑張ってるんすよ~。
新人なんで見逃して下さいっ」
「ど~しよっかなぁ?
まっ、顔が好みだから許す!
あっ、サイカくんの方が断然イケメンだけど、私カワイイ系が好みでさ」
「羨ましいな、瞬。
マリちゃんみたいな魅力的な子に、そんな事言われて」
わざと拗ねながらも。
俺はなぜか、マリちゃんの興味がヘルプに向いてホッとした。
心の中にはユイカという女の、さっきの動作が引っかかってた。
俺は女のそーゆう行動が嫌いだ。
男に媚びてるようで、いい子ぶってるようで、気が利くアピールのようで……
鬱陶しい。
だけど、さっきのそれは違った。
笑顔で「はい!」と渡すどころか、ヘルプの瞬と盛り上がっててこっちを視界にも入れてなかった。
まるで手がぶつかったってくらい自然で。
邪魔だから退けたってくらいさりげなく。
でも自分の前の灰皿じゃない訳で、明らかに俺の作業を補助してくれたものだった。
しかもその補助はあまりに控えめで……
仕事も奪わず、作業も遮らず、気も使わせず。
話し込んでる状況は、お礼を言う隙すら与えない。
どんな子なんだろう?
ここまで完璧な気遣いに、興味が湧いた。
すかさず。
話してた瞬に放置されて、席内オンリーになったその左隣に話を振る。
「ユイカちゃんも、可愛い系が好き?」
こっちを向いたその子をちゃんと見ると。
ものすごくキュートで、芯の強そうな顔をしてた。
もちろんパッと見もダントツで可愛いかったから、敢えてマリちゃんを可愛いじゃなく魅力的と褒めた。
「ん~、私は……」
「結歌の好みは変わりもんでしょ?
この子ってば、いつもヘンな男ばっか好きになるの!」
お前に聞いてねぇよ右隣、いいから瞬と話しとけよ。
横ヤリにイラっとするも。
「うん、そーだね!
ちょっと個性的な人を好きになって来たかなっ」
ユイカちゃんは楽しそう答えてた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
JUN-AI ~身がわりラヴァーズ~
よつば猫
ライト文芸
婚約者を亡くしてから、3年。
憧子は淋しさを紛らわせる相手を漁るため、行きつけのクラブに赴き。
そこで響という男から、永遠の片思いをする同士として身代わりの恋人関係を持ちかけられる。
立ち直って欲しいという周りからのプレッシャーから逃げたかった憧子は、響の家にかくまってもらう事を条件に、その関係を承諾し。
次第に愛情が芽生え始めた2人だったが……
表紙は、とわつぎ様のフリーイラストをお借りしています。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
水曜日のパン屋さん
水瀬さら
ライト文芸
些細なことから不登校になってしまった中学三年生の芽衣。偶然立ち寄った店は水曜日だけ営業しているパン屋さんだった。一人でパンを焼くさくらという女性。その息子で高校生の音羽。それぞれの事情を抱えパンを買いにくるお客さんたち。あたたかな人たちと触れ合い、悩み、励まされ、芽衣は少しずつ前を向いていく。
第2回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ラブ・ソングをあなたに
天川 哲
ライト文芸
人生なんて、何もうまくいかない
どん底に底なんてない、そう思っていた
──君に出会うまでは……
リストラ、離婚、借金まみれの中年親父と、歌うたいの少女が織り成す、アンバランスなメロディーライン
「きっと上手くなんていかないかもしれない。でも、前を向くしかないじゃない」
これは、あなたに
ラブ・ソングが届くまでの物語
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる