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よつば猫

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 目に映る景色はいつも、モノクロで歪んで見えた。






罪歌サイカ
今から俺の客が枝連れてくんだけど、お前も付けよ」
そう声掛けて来たのは友人のたくみ

 常にナンバー3入りしてる巧は、こんな風に枝……つまり指名ナシのフリー客を回してくれる。
店では煌って源氏名の巧に誘われて、俺はホストクラブで働いてた。

 罪歌ってのは俺の源氏名。
バカ女達に罪科を下す。
そんなつもりで、漢字と読みを少し変えて付けた名前。

 巧に誘われなくても、この仕事は俺にピッタリだと思ってた。
女ってゆう、バカな生き物に復讐出来る。


「煌~!
今日はこの子の誕生日祝いだから、カフェパ入れてぇ~。あ、ピーチでっ」
得意気にオーダーする巧の指名客。

 連れて来た枝は、誕生日の女も合わせて全部で3人。
お祝いをダシにした売上貢献だろうな。

 安いとはいえシャンパン(スパークリングワイン)を入れたのも、主役を省いた3人で割れば負担が軽くなるし。

 主役以外の枝にとっては想定外の出費だろうけど、その不満も俺らが楽しませれば問題ない訳で。
ずる賢いけど、少しは使える客だ。


結歌ユイカ誕生日おめでとう~!」
乾杯と共に祝いの言葉が飛び交う。

 それも束の間。
巧は人気なだけあって、そのトークもビジュアルも秀逸だ。
すぐにその席の注目を奪って、他のキャストは取り残されないように必死に食らいつく。

 挙句、テーブルマナーが疎かになる。
まぁ、気付いた俺がするからいんだけど。
巧はそれを解ってて、俺を自分の席に呼ぶんだと思う。

 もちろん、それだけじゃないのは解ってる。
売上とか指名に興味ない俺を、サポートしてくれてるんだ。

 仕事はちゃんとする。
だけど、興味はバカ女への罪科だ。
女なんて、みんな同じだろ?
感情的な割に計算高くて。
優しさや思いやりだって、目的の為の計算か、自己陶酔からくる偽善だろ。

 自分が1番で、ここの客同様。
お姫様でいたい、守られたいだけの生き物だよ。
走れメロスだって女じゃ成り立たないよな?
感情に流されて、周りを踏み台にして、自分の為なら何だって裏切る生き物だ。

 だからって、誰にでも罪科を下す訳じゃない。
誰かを陥れたり犠牲にしてまで、ホストにのめり込むバカ女がターゲットだ。

 例えば、ライバルの客を陥れたり、子供を放置して遊んでたり……
例を挙げればキリがないけど。
そんな奴らは色恋営業で惚れさせて、散々金を巻き上げて、使えなくなったら冷酷に切り捨てる。

 そのバカ女な部分を理由に、嫌いになって当然だろ?って。

 自業自得なんだよ。
最も、そんな女は受けた悲しみしか映らなくて。
与えた悲しみなんか理解も出来ないだろうけど。

 その時、枝の1人が煙草を灰皿に押し潰した。
すぐに俺は、右隣の客の話に相槌を打ちながら、新しい灰皿に手を伸ばす。
途端、スッと使用済の灰皿がこっちに寄せられた。

 それはほんの少しの移動だったけど……
俺が無理なく交換出来る位置まで動かされてて。
それをしたのは左隣の、ユイカと呼ばれてた誕生日の女だった。

 驚いて一瞬、右隣の下らない話が頭に入らなかった。
するとちょうどオチの部分だったようで、スルーしてしまった俺に。

「サイカくんって働き者だね。
1番下っ端なの?」
なんて皮肉が向けられた。

「ごめん、無駄に几帳面でさ。
その分、女の子に対してはマメだよ?
てかマリちゃんは、どんなタイプが好き?」

 さっき自己紹介を済ませたその女に、適当な言い訳とフォローを零しながら。
新しい灰皿を上に重ねた使用済の灰皿を、ヘルプの側に寄せると。

「ああっ、すいません!」
ようやく気付いた新人ヘルプが、その役目の怠慢を謝罪して。
新しい灰皿を配置した。

 それを見たマリちゃんは、誰が1番下っ端なのか気付いたようで。
「可愛いイケメン、仕事しろ~」と茶化す。

 まぁホスト慣れしれたら、丸イスに座ってる状況でヘルプだって分かるだろうけど。

「これでも頑張ってるんすよ~。
新人なんで見逃して下さいっ」

「ど~しよっかなぁ?
まっ、顔が好みだから許す!
あっ、サイカくんの方が断然イケメンだけど、私カワイイ系が好みでさ」

「羨ましいな、瞬。
マリちゃんみたいな魅力的な子に、そんな事言われて」
わざと拗ねながらも。
俺はなぜか、マリちゃんの興味がヘルプに向いてホッとした。

 心の中にはユイカという女の、さっきの動作が引っかかってた。

 俺は女のそーゆう行動が嫌いだ。
男に媚びてるようで、いい子ぶってるようで、気が利くアピールのようで……
鬱陶しい。

 だけど、さっきのそれは違った。
笑顔で「はい!」と渡すどころか、ヘルプの瞬と盛り上がっててこっちを視界にも入れてなかった。

 まるで手がぶつかったってくらい自然で。
邪魔だから退けたってくらいさりげなく。
でも自分の前の灰皿じゃない訳で、明らかに俺の作業を補助してくれたものだった。

 しかもその補助はあまりに控えめで……
仕事も奪わず、作業も遮らず、気も使わせず。
話し込んでる状況は、お礼を言う隙すら与えない。

 どんな子なんだろう?
ここまで完璧な気遣いに、興味が湧いた。
すかさず。
話してた瞬に放置されて、席内オンリーになったその左隣に話を振る。

「ユイカちゃんも、可愛い系が好き?」

 こっちを向いたその子をちゃんと見ると。
ものすごくキュートで、芯の強そうな顔をしてた。

 もちろんパッと見もダントツで可愛いかったから、敢えてマリちゃんを可愛いじゃなく魅力的と褒めた。

「ん~、私は……」

「結歌の好みは変わりもんでしょ?
この子ってば、いつもヘンな男ばっか好きになるの!」

 お前に聞いてねぇよ右隣、いいから瞬と話しとけよ。
横ヤリにイラっとするも。

「うん、そーだね!
ちょっと個性的な人を好きになって来たかなっ」
ユイカちゃんは楽しそう答えてた。
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