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英雄

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結論。
セスはやっぱりエッチです。

あれから俺は対面座位で貫かれ、両手を拘束され延々乳首だけを責められて、あられもなく泣きまくった。

胸の尖りを舐められ、噛まれ、抓られると、動いてくれないセスを呑み込んだままの穴が収縮して、それがまたひどい快感に繋がる。「もっといやらしくなりなさい」と唆されながら胸への刺激だけで達すれば、今度は「ご褒美ですよ」と後ろを丹念に抉られ嬌声を上げた。そんな調教まがいの行為を耳や手にまで施され、イきすぎた俺は正直記憶が飛んでしまっている。

でもセスに抱きしめられて褒められれば嬉しくなって、くにゃくにゃに甘えてしまう俺も大概だ。もうドM上等。
望んだ通りセスにまみれて、いっそセスの漬物と化した俺はまた起き上がれず、ベッドの中から出勤していくセスを見送る羽目になってしまった。



「ソーヤさま、起きていらっしゃいますか?」

控えめなノックと共に穏やかな声がして、うとうとしていた俺は「はい」と返事をした。執事のレイモンとワゴンを押したメイドが入って来たので、だるい体をゆっくりと起こす。
素早く側に来たレイモンが、枕やクッションを整えて、俺が楽に座れるようにしてくれる。寝間着の上から暖かなガウンを羽織らせてもらって、ほっと息をついた。

「すみません、レイモンさん」

「レイモン、とお呼びください。ソーヤ様は、人を使う事に慣れなくてはいけません」

思いの外厳しい口調で言われ、俺は目を見張ってレイモンを見た。鋭いグレーの眼差しを見つめながら言葉の意味を考える。
レイモンに明確な一線を引かれたようで寂しい気持ちもあるが、セスやジュードと一緒にいたいと思うなら、立ち位置を一段上へと変えなければいけないのかもしれない。

「…わかりました、レイモン。お世話になります」

俺が頷くと、レイモンは優しく微笑んだ。
続けてワゴンを押していたメイドを紹介してくれる。侯爵家に滞在中、彼女が俺の世話をしてくれるらしい。

「キャスと申します」

「ソーヤです。よろしくお願いします、キャス」

くすんだ赤茶色の髪に落ち着いた雰囲気のキャスは、30代くらいだろうか。きっちりと結い上げた髪やキリッとした目元は仕事のできるキャリアウーマンっぽい印象だけど、表情はやわらかい。

給仕されながら朝と昼の間の軽い食事を終え、淹れてもらったお茶を飲む。今日のお茶は薄い黄色で、ほんのりと青い草の香りがした。ハーブティかな。

「ソーヤ様。セオドア様よりお時間をいただきたいと申し出がありましたが、いかがなさいますか?」

セオドア様、というと、セオドア=イーサン=フロイラス、セスのお兄さんだ。
勉強のため、という名目で滞在させてもらっているのに、夜遅くに来て挨拶もそこそこに部屋にこもっていちゃいちゃした挙句、朝も起きてこないとか、俺の印象がいい訳がない。セスがいないのは不安だけど、改めて挨拶させてもらえるならこちらからお願いしたいところだ。

俺の意思を伝えると、レイモンは満足げだった。
「ではご入浴とお召し替えを」と、キャスに寝間着を剥ぎ取られそうになって慌てる。
上の者が下の者の仕事を奪ってはならないと説教されたが、お風呂だけは許してもらった。でも風呂上がりのマッサージと着替えはされるがままで、恥ずかしい思いをしつつもお任せする。

キャスは俺の髪を丁寧に梳りながら、侯爵家や一般的な貴族家で働く者たちの組織系統などを教えてくれた。上位貴族に勤める者は、下位貴族出身者も多いらしい。キャスも男爵家の三女だそうだ。

「初めてお会いした時はかわいらしい印象でしたが、お綺麗になられましたね」

キャスに磨かれた俺をサロンへと案内してくれるレイモンがそう褒めてくれるが、別段変わった気がしなくて照れつつも首をかしげる。魔力を自覚できるようになったから補正でも入るのだろうか。俺としては、かわいいや綺麗より、かっこよくなりたいんだけれど。

「ソーヤ様をお連れしました」

サロンと呼ばれる部屋に入ると、そこは日当たりがよく中庭に面していた。セスの兄セオドアが、椅子から立ち上がって出迎えてくれる。

「呼びたてて申し訳ありません。よくお休みになられましたか?」

「はい、おかげさまで。昨夜はご挨拶もそこそこに大変失礼いたしました」

セオドアの向かいのソファに促され近づくと、クッションがたくさん敷いてあった。
これは、あれか。俺の腰を気遣われているのか。ちらりと表情を伺うと意味深に微笑まれて顔が熱くなる。
平常心、平常心と心で唱えつつ、礼を言ってクッションでふかふかのソファに座った。

「今朝、大体の事情はセスから聞きました。今日は僕から、国や殿下の事をお教えしたいと思いますが、よろしいですか?」

「はい、よろしくお願いします。差し支えなければ、セスやフロイラス家のお話も聞きたいです」

セオドアが頷くと、レイモンの手でお茶が運ばれた。
一口飲んで喉を潤してから、セオドアが口を開く。

「君は、ジュード殿下とセスについてどのくらい知っていますか?」

じっと見つめられながら、俺は少し考えた。
セオドアの瞳は金茶色だ。造作は侯爵似でも、表情の作り方とか、ところどころセスっぽい。

「魔術師団の団長と副団長で、ジュードは国王陛下の甥、セスは侯爵家次男。あとは、ええと、あ、ジュードは継承権があって、三位…?」

「…継承権は、三位で間違いありませんよ。他の誰かに聞いたのですか?」

「いいえ、本人からです。いらないものだと言っていたので、俺も聞き流していました」

セオドアは一瞬目を見開いてから苦笑した。
一度お茶に口を付けたものの、笑いがこみ上げるらしく「くっ」と喉の奥で息を噛み殺している。
え、俺そんな面白いこと言ったかな。なんだろう、価値観の違い?

そりゃ国に仕える次期侯爵にとって王位継承順位は重要かもしれないけど、好きな人と対等になりたい俺としては、あまり付加価値はない方がいい。
たとえジュードやセスが何者でも、追いつく努力はするけどね。

「こほん、失礼。では、それ以外のことは?」

「それ以外、ですか?性格、とか?」

「…く、ふぐっ……ぶふっ!」

性格とか魔力の色とか、他に俺のが知ってることと言えばプライベートなことばかりだから、人に語るのはいやだなあ、とぼんやり考えていたら、とうとうセオドアが吹き出した。
最初は少々強面の顔で腹黒い時のセスみたいに笑うから、警戒されてるんだと思って怖かったけど、こらえきれずに息を詰まらせながら笑っている姿を見てほっとした。なんとなく和んでしまったので、セオドアの息が整うまでのんびりお茶を飲む。

「…殿下の地位に、興味はない?」

お、敬語がなくなった。この方が気が楽だ。

「ないです。努力で越えられない壁なんて、忌々しいだけです」

俺はカップを置いてため息をついた。
魔術師団の団長と副団長ってだけなら、魔法の勉強を頑張れば2人の支えになれるかもしれない。俺は魔力だけはけっこうあるみたいだから、側にいればあの時のような魔力切れくらいは阻止できるはずだ。たぶん。

でも王位継承権第三位とかになると、どうすれば釣り合うのかわからない。ジュード自身王族とは関わりたくなさそうだったし、捨てられるものなら捨ててほしいよ継承権。

「はあ…本気で言ってるんだねえ」

呆れているのか感心しているのか判別つかない呟きに、俺は頷いて応えた。

「魔術師団の団長と副団長なだけでもおなかいっぱいですよ…」

「じゃあ君にとっては残念なお知らせになるのかな。殿下とセスは、この国の英雄でもあるんだよね。十数年前、隣国が攻めてきた時に、ほぼ二人だけで撃退しちゃったから」

「…戦、争?が、あるんですか…?」

俺はすいっと血の気が引くのを感じた。
ジュードとセスが戦場に立つ、というのが恐ろしい。英雄とかどうだっていいし、英雄なんかじゃなくていい。
人間同士が命のやり取りをする不毛な行為で、大事な人が傷つくなんて絶対に嫌だ。

「戦争は嫌い?顔色が悪いね…殿下とセスが心配なんだ?」

こくりと深く頷く俺に、レイモンがお茶のお代わりを入れてくれた。カップに両手で触れると、指先が冷えていたのかすごく温かさを感じた。

「安心して。『英雄』の活躍のおかげで、少なくとも彼らが魔術師団を率いている間は、うちに戦争を仕掛けるような国は出てこないと思うから」

「え…どういうことでしょうか」

十数年前、だったら、ジュードもセスも10代前半のはず。日本で言えば中学生だ。
その中学生男子が、一体全体何をやらかせば英雄と呼ばれた挙句他国から一目置かれるようになるのか。

お茶のお代わりを求めたセオドアは、「殿下の生い立ちにも関わることだから長くなるよ」と前置いてから語り始めた。
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