異世界に転移したら魔術師団長のペットになりました

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侯爵家

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セスの家に向かう馬車の中で、最初の挨拶の仕方だけ教えてもらった。胸に手をあて片足を引く。それだけだ。

セスのおうちは、フロイラス侯爵家。
つまりセスのフルネームはセス=フロイラス。

直系は母親で父親は入り婿さんらしい。お兄さんが1人、妹さんが1人で、男性陣は内務省勤務、女性陣は社交シーズンじゃない事もあり、領地にいるそうだ。

「…ン、ぅん…セ、ス…は、ぁっ…」

おしゃべりしながらも、セスの唇は俺を器用にあやす。口内に浸入してくるわけでもないのに、食んだり軽く吸われたりを繰り返すだけで、くすぐったさに息が上がってしまった。

「かわいいですね、餌をねだるひな鳥みたいな顔をして…」

「んっ…ふふ、じゃあセスは、俺の親鳥ですね…ぁ…」

セスの手をきゅっと掴むと、指を絡められて握り直される。指の間はセスが開発した性感帯なので、感じてしまいため息のような声が零れた。セスの緑金の眼差しと体温と、体に浸透してくる魔力を心地よく感じながら、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。

「セスが俺に、甘えていいって、1人で立たなくていいって刷り込んでくれたから、今の幸せな俺になれた。うまく言えないけど、セスが俺の殻を割って、外に出してくれたんです」

「ではソーヤを育てるのは、私の役目ですね」

「セスを幸せにできるようになりたいから、いろんな事、教えてください」

挨拶やマナーもだけど、魔法やこの国の事、この世界の事も。セスの優しい羽根に護られるだけの俺でいたくないから。

「私はもうこんなにも幸せなのに、ソーヤは欲張りですね」

願いを込めてセスに口付けると、顎を取られ、親指でゆっくりなぞるように唇を開かされる。続く深いキスを、陶然と目を閉じて受け入れた。セスの巧みなキスに翻弄されて、ねだる吐息がどんどん零れる。

「あぁ…ん…っ…セス、ん、んッ…」

俺が欲張りなのは、セスとジュードのせい。2人が空っぽだった俺を満たして、新しい俺にしてくれた。
だから俺は2人にもらったものを返したいし、たくさん学んで、対等に並び立てるようになりたい。

「…かわいいソーヤ。今夜は、たっぷり房事のレッスンをしましょうね」

ん?ぼうじ?って房事?

目を開けてセスを見ると、大層良い笑顔で微笑んでいた。わあ、なんだか背中がゾクゾクするよ。

「セス様、おかえりなさいませ」

いちゃいちゃしているうちに、あっという間にフロイラス家の邸についた。
王都の構成は、王城周辺に貴族の邸が立ち並ぶ貴族街、壁があって、その外側に街が扇状に広がっているのだそうだ。

以前会った執事のレイモンを始め、フットマン、メイド数人が出迎えてくれ、それぞれの紹介や仕事の役割を教えてもらう。その後はセスの父兄にご挨拶だ。事前に連絡してあったと見えて、話はスムーズだった。

厳格そうな侯爵はセスにはあまり似ていない。お兄さんもお父さん似だけど、セスっぽい雰囲気もあるから、セスはお母さん似なんだろうな。

ぼんやりと考えていたら、「この子が我が家で躾けることになった、ジュード殿下のペットです」とセスに紹介され、吹き出しそうになった。

ジュード、殿下なんだ。そうなんだ。そうか、王弟の子も王子にあたるから殿下か。うっく、似合わない。
「ソーヤと申します」なんてかしこまって挨拶してみたけど、顔と声が笑ってしまったのは許してほしい。

「滞在中、ご不便な事があれば、遠慮なく愚息にお申し付け下さい」

侯爵に厳しい顔のまま丁寧にお辞儀をされ、驚いてしまう。
ぽかんと口を開けていた俺が面白かったのか、くすくすと笑いながらも、セスのお兄さんが説明してくれる。
曰く、ジュードのペット=王族の持ち物なので、それを預かるのは栄誉でもあるが、侯爵家的に丁重にならざるを得ない、という事らしい。でもそんな高価な壺みたいに扱われても困る。俺、勉強しに来たのに。

なので「俺自身は何者でもありません。気軽にご指導をお願いします」と頭を下げた。
すると瞠目した侯爵が、「彼に躾の必要があるのか?」とセスに問う。

「ペットとしてならば十分ですが、団長…殿下は、ソーヤの成人を待って、正式な婚姻も考えておられますので」

「…なんだと?」

「ちなみに父上、私もです」

笑顔のセスがさらっと投げた爆弾発言で、侯爵が白目をむいた。
俺も心の準備ができていなかったので、じわじわと顔が熱くなる。

むしろ俺が『息子さんをください』って言わなきゃならなかったのでは。

「…セス?それはジュード殿下と、セスと、ソーヤ君の3人で婚姻を結びたい、ということかな?」

「さすが兄上、その通りです。詳しくは明日にでも相談しますね」

兄と弟、含みのある笑顔がよく似ていた。
侯爵は白目をむいたままだが、お兄さんの方は楽しそうなので何よりだ。

っていうか俺、こんなぼんやり突っ立ってていいのだろうかと、傍らのセスをうかがう。
微笑んだまま頷いたセスが、「では父上、兄上、遅い時間にありがとうございました。本日はこれで失礼いたしますね」と言い、俺の肩を抱いてさっさと踵を返そうとした。慌てて俺も暇を告げる。

「ああ、また明日」

と、閉まる扉の向こうでセスのお兄さんがにこやかに手を振っていた。
ええっと、小姑さんには認めてもらえた、の、かな?
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