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報告

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魔法陣を抜けると、セスが仁王立ちしていた。
顔は般若スマイルだ。怖い。
ちゃんと3日後の同じ時間に帰ってきたのに。

でも3日間離れていた今、その般若スマイルさえ愛しい。異世界で不安な時、ずっと側にいてくれたのはセスだから、会えなくて寂しかった。

「セス!ただいま」

俺はセスにぺたりともたれるように抱きつき、少し低めの体温を味わった。優しく抱き返して、俺の後頭部を撫でたセスが視線を合わせてくる。

「おかえりなさい、ソーヤ。辛い目には合いませんでしたか?食事はちゃんとしていましたか?そこの野獣にひどいことされませんでした?」

「ぷっ、ふふふ、セスったら」

思わず笑ってしまった俺の頰に触れ、微笑んだセスの唇が額に落ちる。心配してくれて、そして帰ってきたのを喜んでくれているセスの気持ちがそこからじんわり広がって、体がぽかぽかあったかくなるみたいだ。

「ソーヤ、この薄青い魔力は、どなたの残滓でしょうか…?」

残滓って、なんかエロいよ、セス!
それは蒼士郎の魔力だから誤解、いやディープキスしたばっかりだから誤解じゃない?
いやでもそういう事じゃないんだ、と、俺はセスを見つめて告げた。

「俺の、お父さまに会えました」

すると、セスはちょっと驚いた顔をした。
セスには俺の黒歴史を全部打ち明けてある。生い立ちも、全部。
セスは「そうでしたか」と破顔して、俺をぎゅっと強く抱きしめてくれた。

「血縁上は父だが、向こうでの戸籍上は祖父だ。こっちに転移後は、正式に親子を名乗るつもりらしい」

「…なんですって?」

ジュードの端的な説明に、セスの周りの温度が下がった。その目が『もっと詳しく!』と雄弁に語っている。
俺は一旦セスから離れて、お土産のストールを広げてセスの首にふわっとかけた。

「ソーヤ?」

セスの瞳が和らいだことにほっとしながら、俺の瞳の色を纏った麗姿を一歩下がって見つめる。セス自体、全体的に淡い色だから薄茶は似合わなくはない。けど、うん、ごめん、俺の色、地味だ。

「セスに、と思って、向こうで見つけてきたんだけど…その…」

地味さを気にして口ごもっていると、セスはストールの端を手に取って口づけてから器用に巻き付け、みるみるうちにおしゃれアイテムに変身させた。うわ、一気に似合うわ。

「これで私は、ソーヤのものですね」

うれしそうにそう言うセスに照れるけど、俺もうれしい。
ああもう何が言いたいのかわからなくて、頷いてからもう一度セスに抱き着いた。
唇で甘く噛まれるようなキスを何度も受け止めて、蕩けたため息をついてからようやく体を離す。

「名残惜しいですが、執務室でバリーとライラが待っています。詳しい報告を…団長!」

セスの厳しい声で視線を向けると、ジュードは机に向かって書き物を始めていた。ちらっと見えた感じ、今日図書室で得た内容をまとめているっぽい。ジュードらしくて、ふふっと笑ってしまう。

「行きますよ」と、セスに首根っこを掴まれて立ち上がったジュードを連れ、俺たちは執務室へと移動した。

「ソーヤちゃんおかえり!」、「無事でよかったよ」と、ライラとバリーに迎えられ、異世界、俺の育った世界での3日間の話をする。

そもそも向こうへ渡った主な目的は、俺が元いた世界と決別するためだ。
それが果たされたことと、蒼士郎が1ヶ月後に移住してきてこっちで成り上がるつもりであること、そのあとは門を閉じることを報告した。

「ソーヤちゃん、家族一緒に暮らせるんだ、よかったね」

「私と団長がソーヤに嫁ぐ……その手がありましたか」

「俺も行ってみたかったな、異世界…」

感想も三者三様だ。
門を閉じる件についてはライラからも異論があったが、「最悪、戦争だぞ?」というジュードの一言で押し黙った。

「俺は向こうの知識をまとめたい。ライラ、バリー、再現するための素材や製法について知恵を貸せ」

「では私は、ムラカミ家の身分について根回しをしましょうか」

「身分?」

平民スタートじゃないの?とセスの顔を見ると、楽しそうな笑みを浮かべていた。

「小国や亡国の王族、亡命貴族…この国である程度の身分を保証させるには、何がいいでしょうね。ソーヤの父上で、大きな商会をまとめていたなら品格には問題ないと思いますが、どのような方です?」

「ええと、立ち居振る舞いはセスをもう少し鋭くした感じで、性格は…丁寧な物言いのジュードっぽいです」

「え、それろくでなし?!」

「ライラ!」

正直に言ったら、ろくでなし認定されてしまった。
まあ悪い男って意味では、ろくでなし、なのかな?

「ソウシはしたたかな男だ。セスの用意した設定が多少無茶でも、合わせるくらいはするだろう」

「では遠慮なく盛りましょうか。義理の父になる方ですし…ふふ、面白くなってきましたね」

あっちの世界でもこっちの世界でも、俺の保護者が強いです。
ムラカミ家、あっという間に成り上がっちゃうんじゃなかろうか。
俺もそれに見合う男にならなくちゃ。

「さ、行きましょうか。ソーヤは我が家でしばらく預かりますからね」

「はい?」

俺の肩を抱いたセスが、そうジュードに告げて扉に向かって歩き出す。
ズボンのファスナーについて、ライラやバリーと熱く語り合っていたジュードが「なに?」と顔を上げた。

「ソーヤの言葉遣いや品の良さには問題ありませんが、こちらの世界のマナーやしきたりはまだ知りません。お父上が来る1ヶ月後までに、ある程度の教育は必要でしょう」

「…で、本音は?」

「3日間も団長に独り占めされて、ソーヤが足りません。補充します」

お、おう。セスの直球、萌える。
それにこっちの世界のことを侯爵家で教えてもらえるなんて、願ってもない。

了承のつもりでセスに寄り添うと、肩を抱く手が柔らかくなった。
セスが顔を覗き込んできたので、頷いて返す。

「でも侯爵家預かりとか、ちょっと怖いです」

「ソーヤなら心配いりませんよ。私が付いています」

「ちょ、セス。1ヶ月も連れてかれたら、俺がソーヤ不足になんだろっ」

部屋から出ていこうとする俺たちに、ジュードが声をかけた。セスは顔だけ振り返って、いつもの余裕の笑みを浮かべる。

「出勤の時は連れてきますよ。では、お先に」

なんだか会社にペットを連れて行っちゃう社長さんみたいだ。

あ、そういや俺の立場は、まだペットだっけ。
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