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ひどい男
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部屋に戻ると真っ暗だった。
そういえば俺はまだ灯りをつけられない。
試してみようかと思ったが、灯りが部屋のどこにあったか思い出せない。
まあいいや。寝よう。
今日はいろんな人に会って、楽しかったけど、疲れた。
俺が執務室に脱いで来た寝巻きや着替えは、団長室に運ばれているはず。
見えないから着替えられないけど。
勘でテーブルのある場所まで行き、ケープとスカーフを椅子にかけた。ズボンは簡単に畳んで椅子の上へ。あとは裸足になってベッドへ直行すればいい。
「?!」
そろそろベッドかな、と思ったあたりで硬いものにつまずいた。
さらにそれを踏んづけて、なすすべなく前方へダイブする。
天蓋から下がる幕が顔を掠めたので、このままいけばベッドだと安心して突っ込んだら、お布団じゃない物の上に落ちた。
「……ってぇな」
「ふわ?!」
なにこれ人?!
誰…って団長室だから団長か!
うん、この不機嫌そうな重低音、聞き覚えあるわ物凄く。
ってか思いっきりボディプレスかましちゃったよ!
「だ、大丈夫…?」
「………お前、か」
団長が深呼吸のように長いため息を吐く。
すぐに退いてあげたいのだが、真っ暗なのでどう動けば負担にならないのかわからない。
手探りで触れると、団長は布団も被らず服を着たまま横たわっていて、俺は胸のあたりに斜めに倒れこんでいる格好だ。
「…動くな。眠い……寝かせろ」
俺がもぞもぞしていると、頭の上の方から団長の気怠い声がした。なんかすごい具合悪そう…?と思ってから、ようやくその体から体温が感じられないことに気づく。服越しだからわからなかった。
肌の出ているところを探して、触れた首筋の冷たさにどきりとする。
カヤの遺体の冷たさを思い出して、全身から血の気が引く気がした。
やめて、トラウマ呼び起こさないで。
どうしよう。とりあえず温めればいいのだろうか。
慌てて布団を手繰り寄せていると、うなじの辺りにばたん、と団長の腕が倒れてきた。
力か入っていない腕はずっしりと重い。
「じっとしてろ、つーの。ただの魔力切れ…寝てれば治る」
そんな症状、俺の世界にはないから!
あれかな、おなかがすいて、とか、顔が濡れて力が出ない、みたいなもんかな。
魔力がないなら補給すればいいんだろうか。え、どうやって?
混乱していると、ベッドの上が少し明るくなって団長の姿が見えた。
光源を探すと俺の手からほんのり光が滲んでいる。
「これって魔力…?」
だとしても、人にあげられるものなのか?
試しにそっと団長に触れると、光はすぐに消えてしまった。
「…ふぅん。ちょっと、舌、出せ」
「え?」
した、の意味が分からないでいると、団長の顔のそばにぐっと引き寄せられた。
多分、舌だな、と思って、よく考えずにべーと出す。
それを生温かく湿ったものにぬるんと舐められて、体がビクンと飛び跳ねた。
「…っ!ふ…ぁ、あ…っ」
出せと言われて素直に出したのは失敗だったかもしれない。
でも俺は、この世にこんないやらしいキスがあるなんて知らなかったんだから、仕方がないじゃないか。
出したままの舌を舐められて、食まれて、すり合わされ、暗闇の中で感覚がそこだけに集中する。
口を塞がれていないから、自分のだらしない喘ぎ声が鮮明で、羞恥に胸がざわざわした。
舌の表面のくぼみをくすぐられると、団長のシャツにしがみついてしまう。
「あ、ゃっ…こぼれ…ぅんっ」
溢れた唾液が零れる、と思ったら、それ見越したように卑猥な音を立てて啜られた。
もう氷のように冷たくはない、少し体温を取り戻した手が下着の上から捏ねるように尻を揉んでくる。
布越しに時折指が割れ目の奥を掠めると、はしたなく腰が揺れた。
「ん、うそ…っ、あ、あっ」
団長に与えられる刺激は、針のように鋭い。あの時も、今も。
無数に刺さって、体中を駆け巡って、はじけて飛び出すイメージだ。
不安定なキスと尻揉みだけなのに、どこまでも昂ってしまいそうで怖い。
もうやだ、と訴えようとしたら、急に口づけの角度が深くなった。
喉の奥まで舌を差し込まれ、絡められて、激しく吸われる。
尻の狭間を悪戯に捏ねる手は、いつのまにか熱かった。
「ン、ん──ッ!」
舌の付け根から扱くように引っ張られると、頭のてっぺんまで電流のような衝撃が駆け抜けた。
次に体中から力が抜けて、具合の悪いはずの団長の上にくずおれてしまう。
固い胸で荒い息をついていると、頭の上からくつくつと笑う悪い男の声がした。
俺はおそるおそる自分の股間を確かめ、ほっと息をつく。
よかった、射精はしてない。いやよくない。
「うそでしょ…」
射精もなしで、まさかキスだけで。
イっちゃっ…?
「そっちの代わりに、魔力どばっと出してたぞ」
「う、うわー!なにそれ意味わかんない!!」
魔力っていったい何なの!精液の代わりに出るもんなの?!
俺なんて灯りもつけられない初心者なのに、しかもどうしてこの人回復してるのか。
「団長こそ、ほんとは淫魔ってやつじゃ…」
出会い頭に言われたことを思い出して、そっくりそのままお返ししたい気分だ。
人間らしい体温に戻ったのは良かったけど、俺にいたずらして魔力補充するなんておよそ人間らしくない。
「お前がそうなら、よかったのにな」
「え?」
聞き返そうと顔を上げると、大きな手が頭を撫でた。
「もう寝ろ」
言葉と同時に、あたたかい何かが触れられたところから浸透してくる。
あ、これきっと眠らされるやつだ。
「ずるい…っ」
ほら、急にぐんぐんと眠気がきた。魔法ずるい。魔法卑怯。
団長には聞きたいこと、いっぱいあるのに。
「まだ、名前、も。知らな…」
「お、結構抵抗するな。そういやお前、なんて名だ?」
俺が必死に睡魔と戦っているのに、団長は楽しそうで憎たらしい。
力の入らない拳でぽかっと胸を殴り、「そうや」と自分の名を口にする。
「そうや、か。なにか意味があるのか?」
さすが、言語に突出してる、と言われるだけある。
発音は俺の言った通りそのままだし、名前の意味なんて初めて聞かれた。
ちょっと口元が緩んでしまう。
「…ん、あお…あおい、よる、って書いて、蒼夜…」
だめだ。気を抜いたら、眠い。もう呂律が回らない。
団長の魔力に流されて意識が持っていかれそうになる。
ふっと力が抜けてしまったところで「蒼夜」と呟く完璧な発音が聞こえて、胸がきゅっと締め付けられた。
くそ、まだだ、まだ試合は終わっていない。
「だんちょ、は?」
「くく…ほんとにがんばるな、お前。俺は…ジュードだ」
がんばったご褒美、とでも言うように団長は名乗り、よしよしと俺の頭を撫でた。
ジュード、か。やっと聞けた。
俺の中でイケオジでも団長でもない、ジュードという1人の人間の存在が確立される。
「ジュ、ん…」
早速名前を口に乗せようとしたら、やわらかいキスで邪魔された。
しかもまたあったかくて眠気を増す魔力がそこから流れてくる。
やっぱりずるい。ずるくて、ひどい男だ。
ずっと知りたかったんだから、名前くらい呼ばせてくれたっていいじゃないか。
なのに、抱き寄せてくる腕は大切なものを扱うように、優しい。
心地よくて、もうだめだ。瞼がくっついて離れない。
「蒼夜。必ずお前を、家に帰してやる」
俺が眠ったと思ったのか、ジュードの腕に力がこもり、こめかみに触れた唇が真摯な声で囁いた。
それはとても切ない響きで俺の心に刺さって、苦しい。
この苦しさの意味を、俺はきちんと考えなければいけない。
そう思った瞬間、俺の意識はぷつりと途切れた。
そういえば俺はまだ灯りをつけられない。
試してみようかと思ったが、灯りが部屋のどこにあったか思い出せない。
まあいいや。寝よう。
今日はいろんな人に会って、楽しかったけど、疲れた。
俺が執務室に脱いで来た寝巻きや着替えは、団長室に運ばれているはず。
見えないから着替えられないけど。
勘でテーブルのある場所まで行き、ケープとスカーフを椅子にかけた。ズボンは簡単に畳んで椅子の上へ。あとは裸足になってベッドへ直行すればいい。
「?!」
そろそろベッドかな、と思ったあたりで硬いものにつまずいた。
さらにそれを踏んづけて、なすすべなく前方へダイブする。
天蓋から下がる幕が顔を掠めたので、このままいけばベッドだと安心して突っ込んだら、お布団じゃない物の上に落ちた。
「……ってぇな」
「ふわ?!」
なにこれ人?!
誰…って団長室だから団長か!
うん、この不機嫌そうな重低音、聞き覚えあるわ物凄く。
ってか思いっきりボディプレスかましちゃったよ!
「だ、大丈夫…?」
「………お前、か」
団長が深呼吸のように長いため息を吐く。
すぐに退いてあげたいのだが、真っ暗なのでどう動けば負担にならないのかわからない。
手探りで触れると、団長は布団も被らず服を着たまま横たわっていて、俺は胸のあたりに斜めに倒れこんでいる格好だ。
「…動くな。眠い……寝かせろ」
俺がもぞもぞしていると、頭の上の方から団長の気怠い声がした。なんかすごい具合悪そう…?と思ってから、ようやくその体から体温が感じられないことに気づく。服越しだからわからなかった。
肌の出ているところを探して、触れた首筋の冷たさにどきりとする。
カヤの遺体の冷たさを思い出して、全身から血の気が引く気がした。
やめて、トラウマ呼び起こさないで。
どうしよう。とりあえず温めればいいのだろうか。
慌てて布団を手繰り寄せていると、うなじの辺りにばたん、と団長の腕が倒れてきた。
力か入っていない腕はずっしりと重い。
「じっとしてろ、つーの。ただの魔力切れ…寝てれば治る」
そんな症状、俺の世界にはないから!
あれかな、おなかがすいて、とか、顔が濡れて力が出ない、みたいなもんかな。
魔力がないなら補給すればいいんだろうか。え、どうやって?
混乱していると、ベッドの上が少し明るくなって団長の姿が見えた。
光源を探すと俺の手からほんのり光が滲んでいる。
「これって魔力…?」
だとしても、人にあげられるものなのか?
試しにそっと団長に触れると、光はすぐに消えてしまった。
「…ふぅん。ちょっと、舌、出せ」
「え?」
した、の意味が分からないでいると、団長の顔のそばにぐっと引き寄せられた。
多分、舌だな、と思って、よく考えずにべーと出す。
それを生温かく湿ったものにぬるんと舐められて、体がビクンと飛び跳ねた。
「…っ!ふ…ぁ、あ…っ」
出せと言われて素直に出したのは失敗だったかもしれない。
でも俺は、この世にこんないやらしいキスがあるなんて知らなかったんだから、仕方がないじゃないか。
出したままの舌を舐められて、食まれて、すり合わされ、暗闇の中で感覚がそこだけに集中する。
口を塞がれていないから、自分のだらしない喘ぎ声が鮮明で、羞恥に胸がざわざわした。
舌の表面のくぼみをくすぐられると、団長のシャツにしがみついてしまう。
「あ、ゃっ…こぼれ…ぅんっ」
溢れた唾液が零れる、と思ったら、それ見越したように卑猥な音を立てて啜られた。
もう氷のように冷たくはない、少し体温を取り戻した手が下着の上から捏ねるように尻を揉んでくる。
布越しに時折指が割れ目の奥を掠めると、はしたなく腰が揺れた。
「ん、うそ…っ、あ、あっ」
団長に与えられる刺激は、針のように鋭い。あの時も、今も。
無数に刺さって、体中を駆け巡って、はじけて飛び出すイメージだ。
不安定なキスと尻揉みだけなのに、どこまでも昂ってしまいそうで怖い。
もうやだ、と訴えようとしたら、急に口づけの角度が深くなった。
喉の奥まで舌を差し込まれ、絡められて、激しく吸われる。
尻の狭間を悪戯に捏ねる手は、いつのまにか熱かった。
「ン、ん──ッ!」
舌の付け根から扱くように引っ張られると、頭のてっぺんまで電流のような衝撃が駆け抜けた。
次に体中から力が抜けて、具合の悪いはずの団長の上にくずおれてしまう。
固い胸で荒い息をついていると、頭の上からくつくつと笑う悪い男の声がした。
俺はおそるおそる自分の股間を確かめ、ほっと息をつく。
よかった、射精はしてない。いやよくない。
「うそでしょ…」
射精もなしで、まさかキスだけで。
イっちゃっ…?
「そっちの代わりに、魔力どばっと出してたぞ」
「う、うわー!なにそれ意味わかんない!!」
魔力っていったい何なの!精液の代わりに出るもんなの?!
俺なんて灯りもつけられない初心者なのに、しかもどうしてこの人回復してるのか。
「団長こそ、ほんとは淫魔ってやつじゃ…」
出会い頭に言われたことを思い出して、そっくりそのままお返ししたい気分だ。
人間らしい体温に戻ったのは良かったけど、俺にいたずらして魔力補充するなんておよそ人間らしくない。
「お前がそうなら、よかったのにな」
「え?」
聞き返そうと顔を上げると、大きな手が頭を撫でた。
「もう寝ろ」
言葉と同時に、あたたかい何かが触れられたところから浸透してくる。
あ、これきっと眠らされるやつだ。
「ずるい…っ」
ほら、急にぐんぐんと眠気がきた。魔法ずるい。魔法卑怯。
団長には聞きたいこと、いっぱいあるのに。
「まだ、名前、も。知らな…」
「お、結構抵抗するな。そういやお前、なんて名だ?」
俺が必死に睡魔と戦っているのに、団長は楽しそうで憎たらしい。
力の入らない拳でぽかっと胸を殴り、「そうや」と自分の名を口にする。
「そうや、か。なにか意味があるのか?」
さすが、言語に突出してる、と言われるだけある。
発音は俺の言った通りそのままだし、名前の意味なんて初めて聞かれた。
ちょっと口元が緩んでしまう。
「…ん、あお…あおい、よる、って書いて、蒼夜…」
だめだ。気を抜いたら、眠い。もう呂律が回らない。
団長の魔力に流されて意識が持っていかれそうになる。
ふっと力が抜けてしまったところで「蒼夜」と呟く完璧な発音が聞こえて、胸がきゅっと締め付けられた。
くそ、まだだ、まだ試合は終わっていない。
「だんちょ、は?」
「くく…ほんとにがんばるな、お前。俺は…ジュードだ」
がんばったご褒美、とでも言うように団長は名乗り、よしよしと俺の頭を撫でた。
ジュード、か。やっと聞けた。
俺の中でイケオジでも団長でもない、ジュードという1人の人間の存在が確立される。
「ジュ、ん…」
早速名前を口に乗せようとしたら、やわらかいキスで邪魔された。
しかもまたあったかくて眠気を増す魔力がそこから流れてくる。
やっぱりずるい。ずるくて、ひどい男だ。
ずっと知りたかったんだから、名前くらい呼ばせてくれたっていいじゃないか。
なのに、抱き寄せてくる腕は大切なものを扱うように、優しい。
心地よくて、もうだめだ。瞼がくっついて離れない。
「蒼夜。必ずお前を、家に帰してやる」
俺が眠ったと思ったのか、ジュードの腕に力がこもり、こめかみに触れた唇が真摯な声で囁いた。
それはとても切ない響きで俺の心に刺さって、苦しい。
この苦しさの意味を、俺はきちんと考えなければいけない。
そう思った瞬間、俺の意識はぷつりと途切れた。
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