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Another World Side:悪いセンパイ
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※1話目、悪いセンパイのセンパイサイドです
◆────────────────────────────────────◆
白い閃光に眩んだ目を開けると、そこには誰もいなかった。
「どういう事だ…」
俺はバイト先の後輩を壁に押さえつけ、後ろからその尻を犯そうとしていた、はずだった。
が、一瞬フラッシュのような光に包まれたと思ったら、後輩、村上蒼夜は煙のようにかき消えていた。
「幻覚…いや、それはないな」
あいつに使ったようなドラッグは、俺は使っていない。 いや、使っていないつもりなだけで、そうじゃないのか。
混乱しながら、一度きつく目を閉じて、開けた。
部屋の中には、クスリでふらつくあいつから無理矢理脱がせた服が落ちている。バイト中は外している腕時計、携帯、財布、靴もある。
部屋の鍵も、窓の鍵も閉まっている。あの一瞬で逃げられた、とは思えない。
消えた、としか考えられない状況に、ただ呆然と立ち尽くした。
「…まずいな」
最初に思いついたのは保身。
消えたあいつに捜索願が出された場合、最後に会ったと証言されるのはこの俺だ。
指紋を付けないよう財布の中身を確かめる。
現金はさほど入っていない。キャッシュカードとクレジットカードは魅力的だが、足がつくものは使えない。札だけ抜いて服の上に放る。
携帯はロックがかかっているし、GPSで捜索されれば面倒なので電源を切る。
次にポケットからはみ出している腕時計に目をとめた。
年代物だが海外ブランドのシリアルナンバーが入った高級品。あいつ自身は価値をよく知らないようだが、マニアなら相当の値をつけるだろう。
『祖父がくれたんです。一度しか会った事ないですけどね』
その時のあいつの表情を、どう言えばいいだろう。
照れたような、でも寂しげな。
はかなくて、きれいな顔で祖父とやらを思うあいつを、引きずり倒して泣かせたくなった。
「クソッ、こんなはずじゃ…」
男でも女でもいい。
小綺麗な奴を見つけたらタラし込んで連れて来い。いい稼ぎになるぞ。
夜の街で出会った身なりの良い男にそう言われて、声をかけたらついて来た、名前も知らない女を何人か売った。
簡単だった。落とせる相手と、落とせない相手は、見ればすぐにわかる。
あいつは、蒼夜は、売るんじゃなく、俺側に堕としたかった。
人当たりは良いが、どこか冷たい、諦めたような目をしていた。
社会に上手く馴染めない奴の顔だ、堕とせる、そう感じた。
学校にも家にも、上手く居場所を作れない。
人付き合いが下手なのかな。
自嘲気味に呟くあいつに、悪いのは周りの奴らで、お前は何も悪くない、学校も家も捨てれば自由だぞと、俺は唆した。
だけどあいつは苦笑しながらも、自分の立ち位置を変えなかった。
明るい方にも行けないくせに、闇にもなびかない。背筋を曲げずに顔を上げる
イライラした。
寂しいくせに、俺じゃなく、独りでいる方を選ぶのが気に入らなかった。
堕ちないやつがいる、とこぼした俺に、偽名だろうが、オダと名乗った男が笑いながら言う。
男も女も同じだと。薬漬けにしてケツから飼い馴らせばいいと。
ノンケがそれだけ執着するようなヤツ、オチたらいっぺん連れてきな、と。
オダにあいつを売るのはごめんだが、差し出された新しいクスリの誘惑に俺は負けた。
蒼夜を犯す。その想像は、俺を簡単に昂らせた。
俺の苛立ちは、あいつを抱きたかったからかと、納得がいった。
そして今夜、バイト上がりの蒼夜を、何気ない風を装って部屋に連れ込んだ、までは良かったが。
「…ハッ、消えたとか、誰が信じるかっつーの」
このまま蒼夜が見つからなければよくて拉致監禁、下手をすれば殺人の容疑までかかるだろう。
なにせこの部屋で足取りが消えた、という証拠ならいくらでもある。
証拠隠滅にオダは頼れない。
お互いヤバくなれば容易に切れるような付き合いだ。
「家出人扱いになりゃ、さほど嗅ぎまわられはしないだろうが…」
叩かれればホコリが出る自覚はある。
だが蒼夜は家族と上手くいっていないようだった。
真剣に探さないでいてくれれば、このままやり過ごすこともできそうな気がする。
気がかりは、この腕時計。
何十年も大切に使い込み、手入れされ、正確に時を刻む。
これだけの思い入れを蒼夜に向ける相手がいるとすれば、厄介だ。
「…蒼夜」
俺は苦々しい思いを抱きながら、手の中の時計を握りしめた。
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白い閃光に眩んだ目を開けると、そこには誰もいなかった。
「どういう事だ…」
俺はバイト先の後輩を壁に押さえつけ、後ろからその尻を犯そうとしていた、はずだった。
が、一瞬フラッシュのような光に包まれたと思ったら、後輩、村上蒼夜は煙のようにかき消えていた。
「幻覚…いや、それはないな」
あいつに使ったようなドラッグは、俺は使っていない。 いや、使っていないつもりなだけで、そうじゃないのか。
混乱しながら、一度きつく目を閉じて、開けた。
部屋の中には、クスリでふらつくあいつから無理矢理脱がせた服が落ちている。バイト中は外している腕時計、携帯、財布、靴もある。
部屋の鍵も、窓の鍵も閉まっている。あの一瞬で逃げられた、とは思えない。
消えた、としか考えられない状況に、ただ呆然と立ち尽くした。
「…まずいな」
最初に思いついたのは保身。
消えたあいつに捜索願が出された場合、最後に会ったと証言されるのはこの俺だ。
指紋を付けないよう財布の中身を確かめる。
現金はさほど入っていない。キャッシュカードとクレジットカードは魅力的だが、足がつくものは使えない。札だけ抜いて服の上に放る。
携帯はロックがかかっているし、GPSで捜索されれば面倒なので電源を切る。
次にポケットからはみ出している腕時計に目をとめた。
年代物だが海外ブランドのシリアルナンバーが入った高級品。あいつ自身は価値をよく知らないようだが、マニアなら相当の値をつけるだろう。
『祖父がくれたんです。一度しか会った事ないですけどね』
その時のあいつの表情を、どう言えばいいだろう。
照れたような、でも寂しげな。
はかなくて、きれいな顔で祖父とやらを思うあいつを、引きずり倒して泣かせたくなった。
「クソッ、こんなはずじゃ…」
男でも女でもいい。
小綺麗な奴を見つけたらタラし込んで連れて来い。いい稼ぎになるぞ。
夜の街で出会った身なりの良い男にそう言われて、声をかけたらついて来た、名前も知らない女を何人か売った。
簡単だった。落とせる相手と、落とせない相手は、見ればすぐにわかる。
あいつは、蒼夜は、売るんじゃなく、俺側に堕としたかった。
人当たりは良いが、どこか冷たい、諦めたような目をしていた。
社会に上手く馴染めない奴の顔だ、堕とせる、そう感じた。
学校にも家にも、上手く居場所を作れない。
人付き合いが下手なのかな。
自嘲気味に呟くあいつに、悪いのは周りの奴らで、お前は何も悪くない、学校も家も捨てれば自由だぞと、俺は唆した。
だけどあいつは苦笑しながらも、自分の立ち位置を変えなかった。
明るい方にも行けないくせに、闇にもなびかない。背筋を曲げずに顔を上げる
イライラした。
寂しいくせに、俺じゃなく、独りでいる方を選ぶのが気に入らなかった。
堕ちないやつがいる、とこぼした俺に、偽名だろうが、オダと名乗った男が笑いながら言う。
男も女も同じだと。薬漬けにしてケツから飼い馴らせばいいと。
ノンケがそれだけ執着するようなヤツ、オチたらいっぺん連れてきな、と。
オダにあいつを売るのはごめんだが、差し出された新しいクスリの誘惑に俺は負けた。
蒼夜を犯す。その想像は、俺を簡単に昂らせた。
俺の苛立ちは、あいつを抱きたかったからかと、納得がいった。
そして今夜、バイト上がりの蒼夜を、何気ない風を装って部屋に連れ込んだ、までは良かったが。
「…ハッ、消えたとか、誰が信じるかっつーの」
このまま蒼夜が見つからなければよくて拉致監禁、下手をすれば殺人の容疑までかかるだろう。
なにせこの部屋で足取りが消えた、という証拠ならいくらでもある。
証拠隠滅にオダは頼れない。
お互いヤバくなれば容易に切れるような付き合いだ。
「家出人扱いになりゃ、さほど嗅ぎまわられはしないだろうが…」
叩かれればホコリが出る自覚はある。
だが蒼夜は家族と上手くいっていないようだった。
真剣に探さないでいてくれれば、このままやり過ごすこともできそうな気がする。
気がかりは、この腕時計。
何十年も大切に使い込み、手入れされ、正確に時を刻む。
これだけの思い入れを蒼夜に向ける相手がいるとすれば、厄介だ。
「…蒼夜」
俺は苦々しい思いを抱きながら、手の中の時計を握りしめた。
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