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魔力ヤバイ
しおりを挟む俺は歴史書とか、国の仕組み、みたいなものが読みたいのに、団長の部屋は魔法関連の本ばかりだった。
しかもぜーんぶ専門書。
初心者用なら読んでみたいけど、高等魔導書、なんてもの、パラパラ開いてみても、まったくついていけない。
仕方なく、乱雑に置かれた本の整理でもしようと、埃のたまった窓を開けた。
「……おお、ヨーロッパっぼい!」
窓の外は整備された石畳の道に、整えられた草木が生え、100メートルくらい先には高い城壁のような壁がある。視認できる範囲には、門などの出入り口は見えない。
魔法省と言っていたから、壁に囲まれて独立した建物か、いくつかの省庁が広い敷地内に隣接している、みたいな作りなのかな。
窓から顔を出して上を見ると、結構な高層建築だ。ただ天井がものすごく高い作りだから、階数で言えば3~4階建てかもしれない。
気温も日差しもおだやか。季節は春だろうか。
そもそも四季はあるんだろうか。
本の埃を払い、分類して片付けながらも、世界への興味は尽きない。
魔法も面白そうだし、って、俺にも使えるのかな?
もしかしたら帰れるのかもしれないけど、俺はしばらく暮らすであろう団長の部屋を改めて見渡した。
広い部屋に、濃紺の、夜空のような幕が下がった天蓋付きベッド。あの幕、遮光カーテンみたいだな。
調度品と呼べるものはなく、本の他には机と丸テーブルのセット、あとは棚の中に変な道具がいくつか無造作に置いてある。
クローゼットもあり、奥には洗面所、驚くことに水道がある。トイレは洋式で風呂もあり、下水完備のようだ。
うん、悪くない。
ムダなものが少なくて、好きな部屋だな。
空が夕焼けに染まり、本の文字が見えなくなってきた頃、ノックとともにセスがやってきた。
「失礼します。ああ、やっぱり灯の点け方、わかりませんよね」
そう言ってセスは、壁にかかった筒のようなもの、ひとつひとつに触れていく。と、明るい光が灯っていった。
「え?どうなってるんですか?」
「魔力を流すと、灯りが点く仕組みです。ソーヤもやってみますか?」
電気の代わりに魔力、って事か。
やってみたいけど。
「…俺、魔力あるんでしょうか。魔法のない世界だったんですが」
「え」
セスは驚いた顔をして、俺に近づいてきた。
またしても手を取られ、さっきゾワっとしたのを思い出してどきどきしてしまう。
セスの左手が俺の指先を掴み、右手は脈を測るように手首に添えられた。
「私の魔力を流してみますね」
「……っ!……ァ…ッ…!」
ヤバい、声出た。
何かさらさらとしたものが、肌の内側を撫であげながら肘まできた。
だめ、これ、それ以上来ないでくださいほんと。腰くだけそう。
変な声を出した恥ずかしさから目を逸らした俺を、セスがふっと息だけで笑う気配がした。
「…魔力は感じられるようですね。自分の中に、似たような力の流れはありませんか?」
俯いた顔を覗き込まれて、俺は「わかりません」と、か細く答え首を振った。
セスは慰めるように俺の指先をきゅっと握ってから手を離してくれる。
「また違った形で訓練してみましょう。ソーヤ、魔力はけっこうありそうなので」と気遣われ、俺は小さく頷いた。
「では食事にしましょうか。執務室に用意したので、行きましょう」
魔力を感じるのではなく、魔力に感じてしまった恥ずかしい俺の手を取って、セスがそう促した。
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