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王制と民主主義

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まさか、エスコートされてるんだろうか。
それとも介護?

「どうぞ」

繋いだ手の意味を勘ぐっているうちに通された部屋は、カーテンが開け放たれ真昼の光に溢れていた。
かなり広くて、社長室のような様相だ。
奥に本棚があって、それを背にして豪華な社長席(仮)、窓際に少しグレードを落とした感じの秘書席(仮)がある。

部屋の真ん中には応接セットが鎮座して、テーブルの上に、先ほどセスが言った『軽食』が乗っていた。

2人前くらいの量の、半分は確かに軽食だ。
サンドイッチや、チーズやなんかが乗ったクラッカーのようなものが半分。
で、残り半分は、ケーキやクッキーなどのスイーツだった。
スイーツ男子、か?

「まずは召し上がってください。いまお茶を淹れますから」

セスが手ずからお茶を淹れてくれる間、俺は「いただきます」と手を合わせた。一口サイズのクラッカーのようなものを口に入れる。

うん、塩気が程よく、バターの風味がして。

「おいしい…です」
「それは良かった。はい、お茶どうぞ」
「ありがとうございます」

お茶は、香りは紅茶だが、色味は黒烏龍茶で、味は玄米茶に近い。なんとも不思議な感じだが、なじみのある味なので助かる。

俺がそれを飲み干すのを見計らって、セスが口を開いた。

「ソーヤの、いただきます、というのは、食前のお祈りですか?」

セスはそう言いながら、ポットからお茶のおかわりを注いでくれる。

「そうですね。元は自然や生き物の恵みに感謝していただく、という意味で、今は祈りというよりは、食前の挨拶として習慣化しています」

説明しながら、サンドイッチを手に取る。
ハムと、葉物野菜と、バターかな?
マヨラーとしてはマヨネーズも入れてほしいところだけど、もしかしたら存在しないかもしれない。

「…ソーヤは言葉遣いも、所作も美しいですね。失礼ですが、上流階級の出でしょうか?」

セスはクッキーを数個食べた後、ジャムタルトのようなものに手を伸ばした。その動作はなめらかで、会話を妨げない。いつの間にそんなに食べたの?!と思ってしまうくらいだ。

セスの言う所作がお行儀のことを言うなら、セスの方がよほど優等生だった。

「経済的には中流です。もし、セスさんの言う『上流』が貴族階級などの特権階級を指すならば、そういった身分制度はありませんでした」

さっきランドルフィア王国、って言ったから、きっと王様の下には貴族的な階級があるのだろう。

俺の予想は当たっているようで、セスは1度驚いたように黙った後、手にしたスイーツも食べずに考え込んでいた。

「では、どのような社会制度で、国を営んでいるのでしょう?難しければ、答えなくて構いませんが」

いや、難しくないよ?みんな小学校で習うよ?
でも簡単に説明するとなれば、やっぱ難しいか。

王国制が一般的なのだとしたら、日本の社会制度はずいぶん未来の考え方になる。
おそらくこの世界の文明、主に社会に関しては、中世から近世に近いのではなかろうか。

「ええと、定められた法のもと、国民すべてが主権者である、という前提の民主制国家です。貧富の差はありますが、身分の差はありません」

セスがぽかんとした。
「そんな事が可能なのでしょうか…?」と疑念を口にする。

俺は続けて、国民が国の代表を選ぶことや、セスの質問に答えるかたちで、三権分立までたっぷり語ってしまった。

「民主主義、ですか。非常に興味深いです。いずれ改めて、他の人間にもご講義願いたいですね」

ええ~、それは、めんどくさそうでいやだな~。
と思ったのが顔に出たのか、セスがふふふっ、と上品に笑う。

「ソーヤは賢者のように博識なのに、表情が豊かで愛らしいですね。まだ成人前にも見えますが…年齢と、職業を聞いても?」

俺は今たぶん赤くなった。
あいらしい、だなんて、今は亡き母親くらいにしか言われたことがない。

ああ、案の定、俺の顔を見てセスが笑いをこらえている。

おかしいな、今までポーカーフェイスだの何考えているかわからないと言われても、表情が豊かだなんて、言われたことないのに。

見知らぬ世界、見知らぬ相手だからこそ。
俺も、俺の知らない俺に、なれるのかもしれない。


◆────────────────────────────────────◆

ことり日記(本編とは関係ありません)

ことりの会社にはスイーツ男子がいる。

『ぼくプリン大好きなんですよー』

と、宴会のデザートに顔をほころばせるのがかわいらしく、みんなでプリンを与えた結果、彼は合計6個をぺろりとたいらげた。
見た目も性格も愛らしい、いまどきのおしゃれさも持つ好青年である。

ことりのなかで彼、アルパカくんは受だ。

だが惜しむらくは、背が高い。185センチある。
わんこ攻……いや、やはり彼はガッと組み敷かれていやよいやよも好きのうちの方がグッとくる。
しかし185センチを組み敷くとなるとおすもうさんとか…うむ、びみょう。

だがある日の来客が、ことりの憂いを取り去った。
アルパカくんより頭半分はでっかい修理屋さんがきたのだ…!

社内の整備はアルパカくんが担当だ。
常に人を見下ろしているアルパカくんが、小首をかしげて修理屋さんを見上げている。
かわいい!かわいいよアルパカくん…!絵面が神!禿萌える!ハゲる!!

「アルパカくん…はぁはぁ、今の人、すんごい大きかったね……」
「いや~、ぼく、こんなに誰かを見上げたの初めてですよー」

アルパカくんの初めて。
萌工エエェェヾ(*`Д´*)ノェェエエ工工

「来週改めて来てくれるそうですが、ぼく出張なんでことりさん対応お願いします」
「…えぇぇ」

ことりはがくりとうなだれた。
もう一度あの神がかった絵面が見たいのに。できれば写真に収めたいのに。

「ことりさんあの人の半分くらいしかないから、相当離れないと、お互いフレームアウトしますね。ははっ」
「アルパカくんは爽やかに人を真っ二つにするよね!」

かわいいのに辛らつ。
彼はことりの萌え心を、がっちり掴んでいる。
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