27 / 35
27話
しおりを挟む──魂は世界を超えられると思うんだ。そうでなければ、古くはおとぎ話やファンタジーから繋がる、この異世界ブームの説明がつかないからね。
最愛の弟、玲が、ピンク色した電飾ごてごてのトラックに連れ去られた直後。
茫然としていた薫の頭に、級友が言っていた言葉が蘇った。
──別世界の記憶を持つ魂が、この世界で空想を生み出すのだとしたら、今君がやっているゲームの世界も、現実に存在するのかもしれないよ。
彼の見解について、偏差値70を誇る全国屈指の頭脳を持つクラスメイト達は、激しい議論を交わした。ちょっと疑問に思うととことん突き詰めたくなるのは、知能が高い奴のサガだなと思いながら、によによ眺めていたのを思い出す。
「…五月、ピンクの神だ」
「………え?」
まだショックから抜け切れていない年下の幼馴染の背を、バシーンと叩いて喝を入れる。
「異世界転移、転生物のありとあらゆるものを漁るぞ!必ずどこかに、ピンクの神がいるはずだ…!」
3連休での帰省を利用してマンガ喫茶に立てこもったものの収穫はなく、黄色い朝日に痛む目をこすっていた薫を襲ったのは、オルカルマールが放った忘却の魔力であった。
玲の記憶も、痕跡も、この時世界から消え去ったのだ。
五月はもちろん薫ですらも、玲のことを忘れた。戸籍すらなくなっていたのだから無理もない。
なにか得体のしれない不快感、のようなものは感じていたが、それが何なのかもわからなかった。
すっきりしないまま学校の寮に戻った薫に、級友が数冊の本を届けに来るまでは。
「薫がメールで言ってた異世界系ラノベ、実家から段ボール3箱届いてるけどどうする?とりあえずこれが、ピンクじゃないけど異世界の神がちょっとあたまおかしい系のやつな」
「………!」
異世界、ピンク、神、あたまおかしい、そしてこいつが言っていた、魂は世界を超えるという言葉─。
「………玲。くそ、やられたな。あのピンクトラックめ」
「薫?」
「おまえ、サイコーのイケメンだわ」
玲を忘れさせられていた怒りよりも、あのかわいい弟を思い出せた喜びのほうがはるかに強い。薫の表情から陰りは去り、不敵な笑顔を浮かべていた。
「ああ、まあ、俺は確かにイケメンだね」と苦笑する変わり者の級友に感謝を告げ、薫は次なる作戦を練った。
それは、八百万いるという、自分の国の神に祈ること。
パプアニューギニアの総人口もの神が日本中にひしめいているならば、そこらへんにもいるだろう、と薫は考えた。
ちょうどよく学校の敷地内に、こじんまりとしているが綺麗に祀られた祠がある。
そこに薫は日参した。
異世界の神なんぞに好き勝手させていいのか。
玲を戻せ、できないならば自分を同じ場所へ連れていけ。
あんたたちはあたまのおかしそうなピンクのトラックにも劣るのか、と。
祈りには程遠かったが、毎日毎日豪奢な供え物を持ち込み、脅しや暴言を交えながらも、自分の弟がどんなに素晴らしいか語り続ける薫に、八百万分の一柱である神は面倒になって、折れた。
より力のある八百万分の一柱に相談し、『えーピンクの神がいる世界ー?そんなの無……いや、あったわ!』『じゃあそっちにあいつ引き取ってもらおう』『そうしよう』という決議がなされ、薫は望み通りバインディーディアへと送られたのだ。
「ほんと?じゃあ、兄さまがこっちにいるの?」
シャールから事のいきさつを聞き、玲は空中でふよふよしたまま目をまんまるに見開いた。
シャールが頷くのを確かめて、じわりとその瞳に涙がにじむ。
「そっかぁ…にいさま、来てくれたんだ…えへへ」
頬を零れた涙が、陽光を受けて虹色に光りながら地上へと落ちていく。
シャールは玲の頬をぺしぺししながら、『レイはさみしかったんですか?』とちょっと拗ねたように問う。
私がいるのに?と言外に尋ねているようで、玲はくすっと笑ってしまった。
「シャールがずっと一緒だからさみしくはなかったけど…二度と会えないと思ってた兄さまに会えるんだもの。それがすごく嬉しいの」
『ふ、ふーん。…でも、それが、家族というものなのでしょうかね』
「シャールも家族だよ?」
『ふ、ふ、ふーーーん。そ、それより進まないとっ。今日中にたどり着きませんよっ』
「はぁい。ふふ、ノーランさんに報告したら、兄さまを探さないといけないしね!」
楽し気な笑い声を上げながら、玲とシャールはロータス王国辺境の街を目指して飛んで行った。
11
お気に入りに追加
979
あなたにおすすめの小説
お前らの相手は俺じゃない!
くろさき
BL
大学2年生の鳳 京谷(おおとり きょうや)は、母・父・妹・自分の4人家族の長男。
しかし…ある日子供を庇ってトラック事故で死んでしまう……
暫くして目が覚めると、どうやら自分は赤ん坊で…妹が愛してやまない乙女ゲーム(🌹永遠の愛をキスで誓う)の世界に転生していた!?
※R18展開は『お前らの相手は俺じゃない!』と言う章からになっております。
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
浮気性で流され体質の俺は異世界に召喚されてコロニーの母になる
いちみやりょう
BL
▲ただのエロ▲
「あーあ、誰か1人に絞らなくてもいい世界に行きてーなー」
そう願った俺は雷に打たれて死んでなかば無理やり転生させられた。
その世界はイケメンな男しかいない。
「今、この国にいる子を孕むことができる種族はあなた一人なのです」
そう言って聞かない男に疲弊して俺は結局流された。
でも俺が願った『1人に絞らなくてもいい世界』ってのは絶対こう言うことじゃねぇ
○○に求婚されたおっさん、逃げる・・
相沢京
BL
小さな町でギルドに所属していた30過ぎのおっさんのオレに王都のギルマスから招集命令が下される。
といっても、何か罪を犯したからとかではなくてオレに会いたい人がいるらしい。そいつは事情があって王都から出れないとか、特に何の用事もなかったオレは承諾して王都へと向かうのだった。
しかし、そこに待ち受けていたのは―――・・
俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜
嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
無自覚モテモテ勇者×平凡地味顔ゴリラ系男子の、コメディー要素強めなラブコメBLのつもり。
勇者ユウリと共に旅する仲間の一人である青年、アレクには悩みがあった。それは自分を除くパーティーメンバーが勇者にベタ惚れかつ、鈍感な勇者がさっぱりそれに気づいていないことだ。イケメン勇者が女の子にチヤホヤされているさまは、相手がイケメンすぎて嫉妬の対象でこそないものの、モテない男子にとっては目に毒なのである。
しかしある日、アレクはユウリに二人きりで呼び出され、告白されてしまい……!?
たまには健全な全年齢向けBLを書いてみたくてできた話です。一応、付き合い出す前の両片思いカップルコメディー仕立て……のつもり。他の仲間たちが勇者に言い寄る描写があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる