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27話

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──魂は世界を超えられると思うんだ。そうでなければ、古くはおとぎ話やファンタジーから繋がる、この異世界ブームの説明がつかないからね。

最愛の弟、玲が、ピンク色した電飾ごてごてのトラックに連れ去られた直後。
茫然としていた薫の頭に、級友が言っていた言葉が蘇った。

──別世界の記憶を持つ魂が、この世界で空想を生み出すのだとしたら、今君がやっているゲームの世界も、現実に存在するのかもしれないよ。

彼の見解について、偏差値70を誇る全国屈指の頭脳を持つクラスメイト達は、激しい議論を交わした。ちょっと疑問に思うととことん突き詰めたくなるのは、知能が高い奴のサガだなと思いながら、によによ眺めていたのを思い出す。

「…五月、ピンクの神だ」
「………え?」

まだショックから抜け切れていない年下の幼馴染の背を、バシーンと叩いて喝を入れる。

「異世界転移、転生物のありとあらゆるものを漁るぞ!必ずどこかに、ピンクの神がいるはずだ…!」

3連休での帰省を利用してマンガ喫茶に立てこもったものの収穫はなく、黄色い朝日に痛む目をこすっていた薫を襲ったのは、オルカルマールが放った忘却の魔力であった。

玲の記憶も、痕跡も、この時世界から消え去ったのだ。

五月はもちろん薫ですらも、玲のことを忘れた。戸籍すらなくなっていたのだから無理もない。
なにか得体のしれない不快感、のようなものは感じていたが、それが何なのかもわからなかった。

すっきりしないまま学校の寮に戻った薫に、級友が数冊の本を届けに来るまでは。

「薫がメールで言ってた異世界系ラノベ、実家から段ボール3箱届いてるけどどうする?とりあえずこれが、ピンクじゃないけど異世界の神がちょっとあたまおかしい系のやつな」
「………!」

異世界、ピンク、神、あたまおかしい、そしてこいつが言っていた、魂は世界を超えるという言葉─。

「………玲。くそ、やられたな。あのピンクトラックめ」
「薫?」
「おまえ、サイコーのイケメンだわ」

玲を忘れさせられていた怒りよりも、あのかわいい弟を思い出せた喜びのほうがはるかに強い。薫の表情から陰りは去り、不敵な笑顔を浮かべていた。
「ああ、まあ、俺は確かにイケメンだね」と苦笑する変わり者の級友に感謝を告げ、薫は次なる作戦を練った。

それは、八百万いるという、自分の国の神に祈ること。
パプアニューギニアの総人口もの神が日本中にひしめいているならば、そこらへんにもいるだろう、と薫は考えた。
ちょうどよく学校の敷地内に、こじんまりとしているが綺麗に祀られた祠がある。
そこに薫は日参した。

異世界の神なんぞに好き勝手させていいのか。
玲を戻せ、できないならば自分を同じ場所へ連れていけ。
あんたたちはあたまのおかしそうなピンクのトラックにも劣るのか、と。

祈りには程遠かったが、毎日毎日豪奢な供え物を持ち込み、脅しや暴言を交えながらも、自分の弟がどんなに素晴らしいか語り続ける薫に、八百万分の一柱である神は面倒になって、折れた。

より力のある八百万分の一柱に相談し、『えーピンクの神がいる世界ー?そんなの無……いや、あったわ!』『じゃあそっちにあいつ引き取ってもらおう』『そうしよう』という決議がなされ、薫は望み通りバインディーディアへと送られたのだ。


「ほんと?じゃあ、兄さまがこっちにいるの?」
シャールから事のいきさつを聞き、玲は空中でふよふよしたまま目をまんまるに見開いた。
シャールが頷くのを確かめて、じわりとその瞳に涙がにじむ。
「そっかぁ…にいさま、来てくれたんだ…えへへ」
頬を零れた涙が、陽光を受けて虹色に光りながら地上へと落ちていく。
シャールは玲の頬をぺしぺししながら、『レイはさみしかったんですか?』とちょっと拗ねたように問う。
私がいるのに?と言外に尋ねているようで、玲はくすっと笑ってしまった。
「シャールがずっと一緒だからさみしくはなかったけど…二度と会えないと思ってた兄さまに会えるんだもの。それがすごく嬉しいの」
『ふ、ふーん。…でも、それが、家族というものなのでしょうかね』
「シャールも家族だよ?」
『ふ、ふ、ふーーーん。そ、それより進まないとっ。今日中にたどり着きませんよっ』
「はぁい。ふふ、ノーランさんに報告したら、兄さまを探さないといけないしね!」
楽し気な笑い声を上げながら、玲とシャールはロータス王国辺境の街を目指して飛んで行った。
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