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24話
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シマエナガは北海道に生息するエナガの亜種。
体長は12~14㎝と非常に小さく、純白の羽毛と、垂れ気味のつぶらな瞳が愛くるしい野鳥である。
『おお?!ちびっこの体が急に大きくなったぞい?!』
「ピッピさま!」
手のひらの上でぱたぱたと羽を動かす小鳥、シマエナガからピッピの声がして、玲は頬を涙で濡らしたまま喜びの声を上げた。
肩の上で見ていたシャールは、信じられないように何度も瞬きをする。
『……ほ、そのリスっぽい小僧と同じか。悪くはないのう』
ピッピは小首を傾げた後羽ばたいて、玲の頭の上にひらりと降りた。
『…ピッピちゃん、なの……?レイったら、ほんとにあなたって子は……ううぅ…』
オルカルマールのすすり泣きが大気を震わせる。
玲は頭の上のピッピを見上げ、あたたかな羽をそっと撫でた。
「ピッピさま、オルさまの所まで飛べますか?」
シャールは神の間の神気を練ったせいか、オルカルマールの元へ自在に行ける。
もしピッピが自力で行けないようなら、すぐにでもオルカルマールの所へ連れて行ってあげたいのだ。
『ぬ?……おぉ、こりゃすごい、行けるぞい!』
『……私の、お仲間誕生、ですか』
自分の中の力を確認したピッピが興奮に羽を震わせると、まだどこか茫然とした調子でシャールがつぶやく。その顔はなんとなく嬉しそうだ。
「ふたりとも、とってもかわいいです」
玲は満足げに、うふふ、と笑った。
なにせその姿は、玲の大好きな北海道の野生動物ベスト4の姿をしているのだ。
ちなみに残り二種は、ナキウサギとエゾモモンガである。
『ちびっこども、礼を言うぞい。長く生きてもう十分だと思うとったが…また世界を飛び回れるとは、なんともうれしいもんじゃのう』
ピッピはぱたぱたと羽ばたき、玲の頭上を旋回した。
次第に高度を上げ、神の間へ跳ぶために、きらきらとした金色の魔力をまとい始める。
『レイ…ありがと。今度来た時には、アタシとピッピちゃんの夫婦漫才を披露するわね』
『せんわ!』
ツッコミと共に、ひと筋の光を残してピッピは消えた。
幸せな気分に浸りながら、玲はその余韻をじっと見つめている。
『……俺たちのレイはとんでもないな。俺も長く生きているが、レイには驚かされてばかりだ』
「いや、俺たちの、って……まあ、いいか」
キリンの言葉に、エルはふっと吐息だけで笑った。
独占欲を捨てればみんな両想い、といつかシャールは言ったが、キリンはすでにそれを体現しているようだ。
何より今視線の先で、ほわんとした笑顔で空を見上げているのは、創世の古龍を、ひいては世界を救った存在だ。その姿は薄桃色の魔力がきらきらと光って、神々しいほどに美しかった。
自分だけを見てほしい、と、エルはやっぱり考えてしまうが、そのちっぽけな思いよりもずっと、ただひたすらに愛おしさを感じてる。
『ところでルシエル、あれはどうするんだ?』
「あれ、ですか?どれ…ああ」
キリンが角の先でくい、と雷の檻を指す。そこには、一連の事件を引き起こした元凶が囚われていた。
「……なんだか、もうどうでもいいですね」
正直、エルはもう男に対する遺恨どころか、興味すらなかった。
母が生きていた、ということも一端ではあるだろうが、男に使う時間すら惜しい。そんな暇があるなら、玲を見ていたいのだ。
『ハ、同感だ。あんなものよりレイを構いたいな』
エルはキリンの言葉に頷いて、まだぼんやりと佇む玲に歩み寄った。
けれどその横顔の清らかさが眩しくて、声をかけるのをためらってしまう。
「エル!」
玲はエルの姿を見つけると、花がほころぶような笑顔を浮かべた。
羽のような足取りで駆け寄り、エルの戸惑いなど軽く飛び越えてくる。
「エル、ありがとう!」
玲がエルの手を両手で握り、まだ涙の名残に潤んだ瞳で見上げた。
その目には、心からの信頼や感謝が瞬いている。
「エルと精霊さんがいてくれて、本当に、よかった」
竪琴の音色が届くたびに、エルがそこにいて、支えてくれていることが心強かった。
エルの呼びかけに応えた精霊たちは、玲を導いて、手伝ってくれた。
そう、上気した頬で嬉しそうに伝えてくる玲がかわいくて、エルはぎゅっとその細い体を抱きしめた。
「私の方こそ、どれほど礼を言っても足りぬ。ありがとう、レイ」
エルが囁けば、くすぐったそうに身じろいだ玲が、肩のあたりでふふ、と笑って抱き返してくる。
腕の中で淡く輝く宝石のような玲が尊くて、愛しくて、不思議とエルは泣きたくなった。
『…ふむ。おそらくレイに、創世龍の加護が付いたな』
キリンがすんすんと匂いを嗅ぎながら、二人に鼻先を寄せる。
「ああ、レイの魔力に、金のかけらがきらきらして…きれいだ」
「ふえ?」
自分を顧みようにも、玲はエルにくっついているのでよくわからずきょとんとした。
すんすん、となおも鼻を動かしていたキリンが、ふっとエルを見上げる。
『ルシエルも、精霊に関わる称号か何かが付いたはずだ。やつらの匂いが濃い』
『レイもエルも、世界の格付けランキングが上がってますね』
「えー、なんかそう言うと途端にバラエティっぽい…」
玲の言葉に、シャールは『世界があなたたちに感謝ししている証ですよ』と言い換えた。
世界が喜んでくれているのなら良いのかな、と、みななんとなく、晴れ渡った青空を見上げる。
海原は空を映す鏡のように、いつのまにか透き通った青さを取り戻していた。
体長は12~14㎝と非常に小さく、純白の羽毛と、垂れ気味のつぶらな瞳が愛くるしい野鳥である。
『おお?!ちびっこの体が急に大きくなったぞい?!』
「ピッピさま!」
手のひらの上でぱたぱたと羽を動かす小鳥、シマエナガからピッピの声がして、玲は頬を涙で濡らしたまま喜びの声を上げた。
肩の上で見ていたシャールは、信じられないように何度も瞬きをする。
『……ほ、そのリスっぽい小僧と同じか。悪くはないのう』
ピッピは小首を傾げた後羽ばたいて、玲の頭の上にひらりと降りた。
『…ピッピちゃん、なの……?レイったら、ほんとにあなたって子は……ううぅ…』
オルカルマールのすすり泣きが大気を震わせる。
玲は頭の上のピッピを見上げ、あたたかな羽をそっと撫でた。
「ピッピさま、オルさまの所まで飛べますか?」
シャールは神の間の神気を練ったせいか、オルカルマールの元へ自在に行ける。
もしピッピが自力で行けないようなら、すぐにでもオルカルマールの所へ連れて行ってあげたいのだ。
『ぬ?……おぉ、こりゃすごい、行けるぞい!』
『……私の、お仲間誕生、ですか』
自分の中の力を確認したピッピが興奮に羽を震わせると、まだどこか茫然とした調子でシャールがつぶやく。その顔はなんとなく嬉しそうだ。
「ふたりとも、とってもかわいいです」
玲は満足げに、うふふ、と笑った。
なにせその姿は、玲の大好きな北海道の野生動物ベスト4の姿をしているのだ。
ちなみに残り二種は、ナキウサギとエゾモモンガである。
『ちびっこども、礼を言うぞい。長く生きてもう十分だと思うとったが…また世界を飛び回れるとは、なんともうれしいもんじゃのう』
ピッピはぱたぱたと羽ばたき、玲の頭上を旋回した。
次第に高度を上げ、神の間へ跳ぶために、きらきらとした金色の魔力をまとい始める。
『レイ…ありがと。今度来た時には、アタシとピッピちゃんの夫婦漫才を披露するわね』
『せんわ!』
ツッコミと共に、ひと筋の光を残してピッピは消えた。
幸せな気分に浸りながら、玲はその余韻をじっと見つめている。
『……俺たちのレイはとんでもないな。俺も長く生きているが、レイには驚かされてばかりだ』
「いや、俺たちの、って……まあ、いいか」
キリンの言葉に、エルはふっと吐息だけで笑った。
独占欲を捨てればみんな両想い、といつかシャールは言ったが、キリンはすでにそれを体現しているようだ。
何より今視線の先で、ほわんとした笑顔で空を見上げているのは、創世の古龍を、ひいては世界を救った存在だ。その姿は薄桃色の魔力がきらきらと光って、神々しいほどに美しかった。
自分だけを見てほしい、と、エルはやっぱり考えてしまうが、そのちっぽけな思いよりもずっと、ただひたすらに愛おしさを感じてる。
『ところでルシエル、あれはどうするんだ?』
「あれ、ですか?どれ…ああ」
キリンが角の先でくい、と雷の檻を指す。そこには、一連の事件を引き起こした元凶が囚われていた。
「……なんだか、もうどうでもいいですね」
正直、エルはもう男に対する遺恨どころか、興味すらなかった。
母が生きていた、ということも一端ではあるだろうが、男に使う時間すら惜しい。そんな暇があるなら、玲を見ていたいのだ。
『ハ、同感だ。あんなものよりレイを構いたいな』
エルはキリンの言葉に頷いて、まだぼんやりと佇む玲に歩み寄った。
けれどその横顔の清らかさが眩しくて、声をかけるのをためらってしまう。
「エル!」
玲はエルの姿を見つけると、花がほころぶような笑顔を浮かべた。
羽のような足取りで駆け寄り、エルの戸惑いなど軽く飛び越えてくる。
「エル、ありがとう!」
玲がエルの手を両手で握り、まだ涙の名残に潤んだ瞳で見上げた。
その目には、心からの信頼や感謝が瞬いている。
「エルと精霊さんがいてくれて、本当に、よかった」
竪琴の音色が届くたびに、エルがそこにいて、支えてくれていることが心強かった。
エルの呼びかけに応えた精霊たちは、玲を導いて、手伝ってくれた。
そう、上気した頬で嬉しそうに伝えてくる玲がかわいくて、エルはぎゅっとその細い体を抱きしめた。
「私の方こそ、どれほど礼を言っても足りぬ。ありがとう、レイ」
エルが囁けば、くすぐったそうに身じろいだ玲が、肩のあたりでふふ、と笑って抱き返してくる。
腕の中で淡く輝く宝石のような玲が尊くて、愛しくて、不思議とエルは泣きたくなった。
『…ふむ。おそらくレイに、創世龍の加護が付いたな』
キリンがすんすんと匂いを嗅ぎながら、二人に鼻先を寄せる。
「ああ、レイの魔力に、金のかけらがきらきらして…きれいだ」
「ふえ?」
自分を顧みようにも、玲はエルにくっついているのでよくわからずきょとんとした。
すんすん、となおも鼻を動かしていたキリンが、ふっとエルを見上げる。
『ルシエルも、精霊に関わる称号か何かが付いたはずだ。やつらの匂いが濃い』
『レイもエルも、世界の格付けランキングが上がってますね』
「えー、なんかそう言うと途端にバラエティっぽい…」
玲の言葉に、シャールは『世界があなたたちに感謝ししている証ですよ』と言い換えた。
世界が喜んでくれているのなら良いのかな、と、みななんとなく、晴れ渡った青空を見上げる。
海原は空を映す鏡のように、いつのまにか透き通った青さを取り戻していた。
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