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夜の墓場で
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洋の東西を問わず墓地とは厳粛な祈りと鎮魂の場であり、喧騒は似合わない。
しかし月明かりの下、異国で亡くなった者達の眠る丘の上の墓地は、今現在大変な争乱状態にあった。
事の起こりは無軌道な輩による暴走行為。
いわゆる『珍走族』である。
夕刻より集まってきた彼等は、騒音とゴミを撒き散らし、他者に迷惑を掛ける事で興味を引いた気になってご機嫌であった。
とは言っても、その規模は大きくない。定期的に行われる『集会』であり、特別な事は起きない……筈であった。
問題は、その日の午後に到着した某国要人が、知人の眠るこの墓地を明日朝から訪れる予定になっていた事だ。
新聞やテレビなどの各メディアはその事を取り上げてはいたが、興味の無い事には目を向けないのが人というものだ。
まして『自分達の都合が最優先』を地で行っている珍走族である。いつも以上に清掃され、施錠された墓地に続々と集まり、深く考えもせずに入口の錠を工具でネジ切り、手間が掛かった事に腹をたてて手近な墓石を蹴り倒してストレスを発散させる。
そうしていつもの如く、夜半までダラダラしてから周辺道路を好き勝手に走り回ろうという辺りで、警察がやって来た。
いつもなら精々パトカーが一台程度だし、ちょっとからかってやれば寄っても来ないと高を括っていた彼等は、パニックに陥った。
立地的に丘の上に位置し、入口以外はそれなりに高いフェンスで囲まれている外国人墓地。
つまりはそこに登ってくるルートは非常に限られている。
そして、その限られた道を埋めるかの様なパトカーと白バイ。
それどころか、盾持ちの機動隊すら導入された大捕物に、手持ちの棒っきれ、鎖を振り回しゴミを投げつけてもさしたる意味もなく。
逃げ道の無い彼等は、墓地の中をバイクと徒歩で逃げ惑った。
無論、大した走行技術もない、下手をすれば免許さえ持っていない者が事故を起こさない筈もなく、あっちでゴツン、こっちでガチャンと墓石に激突するわ、火も出すわで大変な騒ぎに発展した。
「こ、アマ!っね!っだらあ!」
「何言ってるか、全然判んないっすけど!大人しくするっす!!」
「興奮しているから、怪我させない様にね」
「はいっす!」
「こうむしっこうぼーがいのげんこーはんで、たいほー」
「お、ミドりんはよく覚えたね」
「へへ♪」
何処かからの応援でやって来たのっぽの班長と、元気な女性隊員達。
やたらと活躍した彼等の詳細は、とうとう誰も判らなかった。
そして……
大使となった彼は、半世紀ぶりにかつての伴侶のもとへと足を運べた。
事前に聞いていたより、遥かに整った静かな環境。海からの風も気持ちよく、ゴミ一つ無い墓地はとても気持ちが良い。
聞けば、地元の清掃ボランティアが綺麗にしてくれているという。
「是非、お礼を言いたい」
「それでしたら、あちらにいる方々ですよ」
目を向ければ、穏やかに佇む背の高い男性、よりそう小柄な少女は娘だろうか。10代の少年少女と、柔らかい笑顔の女性。
「さ、まずは……」
「ああ、そうだな。少し離れてくれないか……」
かつて死病に犯された彼女を連れて帰る事が出来なかった事は、50年以上経った今も消えぬ後悔。
だが、海が好きだった彼女の眠る場所が、こんなに素敵だったなら、安心していられる。
「……もう少し待っていてくれ。いずれ私もここで眠るから」
『ゆっくりで良いわ、待っているから…』
【Conditions!】
しかし月明かりの下、異国で亡くなった者達の眠る丘の上の墓地は、今現在大変な争乱状態にあった。
事の起こりは無軌道な輩による暴走行為。
いわゆる『珍走族』である。
夕刻より集まってきた彼等は、騒音とゴミを撒き散らし、他者に迷惑を掛ける事で興味を引いた気になってご機嫌であった。
とは言っても、その規模は大きくない。定期的に行われる『集会』であり、特別な事は起きない……筈であった。
問題は、その日の午後に到着した某国要人が、知人の眠るこの墓地を明日朝から訪れる予定になっていた事だ。
新聞やテレビなどの各メディアはその事を取り上げてはいたが、興味の無い事には目を向けないのが人というものだ。
まして『自分達の都合が最優先』を地で行っている珍走族である。いつも以上に清掃され、施錠された墓地に続々と集まり、深く考えもせずに入口の錠を工具でネジ切り、手間が掛かった事に腹をたてて手近な墓石を蹴り倒してストレスを発散させる。
そうしていつもの如く、夜半までダラダラしてから周辺道路を好き勝手に走り回ろうという辺りで、警察がやって来た。
いつもなら精々パトカーが一台程度だし、ちょっとからかってやれば寄っても来ないと高を括っていた彼等は、パニックに陥った。
立地的に丘の上に位置し、入口以外はそれなりに高いフェンスで囲まれている外国人墓地。
つまりはそこに登ってくるルートは非常に限られている。
そして、その限られた道を埋めるかの様なパトカーと白バイ。
それどころか、盾持ちの機動隊すら導入された大捕物に、手持ちの棒っきれ、鎖を振り回しゴミを投げつけてもさしたる意味もなく。
逃げ道の無い彼等は、墓地の中をバイクと徒歩で逃げ惑った。
無論、大した走行技術もない、下手をすれば免許さえ持っていない者が事故を起こさない筈もなく、あっちでゴツン、こっちでガチャンと墓石に激突するわ、火も出すわで大変な騒ぎに発展した。
「こ、アマ!っね!っだらあ!」
「何言ってるか、全然判んないっすけど!大人しくするっす!!」
「興奮しているから、怪我させない様にね」
「はいっす!」
「こうむしっこうぼーがいのげんこーはんで、たいほー」
「お、ミドりんはよく覚えたね」
「へへ♪」
何処かからの応援でやって来たのっぽの班長と、元気な女性隊員達。
やたらと活躍した彼等の詳細は、とうとう誰も判らなかった。
そして……
大使となった彼は、半世紀ぶりにかつての伴侶のもとへと足を運べた。
事前に聞いていたより、遥かに整った静かな環境。海からの風も気持ちよく、ゴミ一つ無い墓地はとても気持ちが良い。
聞けば、地元の清掃ボランティアが綺麗にしてくれているという。
「是非、お礼を言いたい」
「それでしたら、あちらにいる方々ですよ」
目を向ければ、穏やかに佇む背の高い男性、よりそう小柄な少女は娘だろうか。10代の少年少女と、柔らかい笑顔の女性。
「さ、まずは……」
「ああ、そうだな。少し離れてくれないか……」
かつて死病に犯された彼女を連れて帰る事が出来なかった事は、50年以上経った今も消えぬ後悔。
だが、海が好きだった彼女の眠る場所が、こんなに素敵だったなら、安心していられる。
「……もう少し待っていてくれ。いずれ私もここで眠るから」
『ゆっくりで良いわ、待っているから…』
【Conditions!】
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