ぬこ様と僕

荒谷創

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森王の柩と僕①

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クイクイっとレーベンさん斥候が招く。
夜陰に乗じて『森王の柩』まで忍んできていた選抜チームがまるで大蛇の様に連なり、スルスルと迷宮の入口へと向かう。
一見すると単なる森林地帯に見える迷宮ダンジョンが、現在立ち入り禁止となっている『森王の柩』だ。
広大な森林は、何処からでも侵入出来そうに思えるけど、実際は見えない壁に囲まれていて、正面ゲートと呼ばれる二本の巨木の間からしか立ち入る事は出来ない。
『太陽の剣』『巨熊の豪腕』『炎の斧』『ヘキサ』と僕を含む何名かの有志はその壁沿いに入口に近付いていく。
「……(見張り、いませんね)」
「……(行くぞ)」

こんな決死隊みたいな事をやらざるを得ない状態は、勘弁してほしかったんだけど……
僕が立てた仮説はギルドマスターを通じて代官に届き、異例の早さでクロマディ伯爵の所まで報告された。
そして、やってきた伯爵家騎士団の副団長と審議官に事情聴取された訳だけど……
大変だったなぁ……
僕の生家であるドクランテス家にまで問い合わせされちゃって、久しぶりに父上の筆跡を拝見する事になったのは、ちょっと予想外だった。
全体に右上がりで、最後の文字の末尾が極端に跳ね上がる癖字。
『アレックス・ドクランテスを我が一門の者と認める』
ごく簡単な、一言のみの文面。
相変わらず長文を書くのが苦手で、端的な箇条書きっぽい文になるのも父上らしい。
そして、微かに香るのは桃水仙の香水。
母上が身に纏う香り。
封蝋が左に曲がっているのはブレイズの癖だ。
訝しげに僕を見る審議官に、何でもないと告げた声は、我ながら震えていて、情けなかった。
でも、仕方ない。
だって……僕は家族から棄てられた訳じゃ無かったんだ。
そう、思えたのだから。

結論から言えば、嬉しくなったせいで、つい口を滑らせた結果、クロマディ伯爵は提示した可能性のどれもあり得るとして、準備せざるを得なくなっちゃったって訳だ。
諸々の聴取と確認と準備をしている内に、もうすぐ雨の季節になってきてしまっている。
討伐隊は先頃第五回討伐に挑み、失敗してる。
またも隊員の半数が負傷、敗走した……事になってるけど……
迷宮から近い駐屯地の人数やら、消費される物資やらの量は、居る筈の人数より
僕が示唆した可能性の内、二番目以降が該当している可能性が高いと判断した伯爵家は、秘密裏に兵を移動させ始めたけれど、それはまだ静かに行われているだけだ。
このままだと『森王の柩』で召喚された禍物の固定化が済んでしまうかもしれない。そうなれば『森王の柩』はレイド級戦力が必要な割りに、手に入るものが少ない迷宮となってしまう。
当たり前だけど、街としては非常に困る事になる。
そこでギルドマスターと代官は信用出来て、実力のある地元出身者が多い冒険者達によるの討伐を行うと決めたって訳だ。
『太陽の剣』と『巨熊の豪腕』は共にパーティーランク『銅等級』で、このギルドのツートップ。
『炎の斧』と『ヘキサ』は『鉄等級』だ。
そこに薬師ギルドのクラスさんと、伯爵家お抱えの魔法使いであるバランさんリーマンさん、貴重な治癒魔法の使い手であるベルガさんと、おまけで僕が加わって今回の選抜チームとなっている。

あっけない位、簡単に『森王の柩』にたどり着く。
「……わぁ」
おっと、思わず声が出ちゃった。
……なんでか選抜チーム全員に生暖かい目で見られている気がするよ。
でもしょうがないよね?
だって
「……驚いたろ?ここはいつでも昼間だからな」
広がる青空、燦々と降り注ぐ陽光。
恐ろしい禍物の領域の筈の森は、とても穏やかな顔で僕等を迎えてくれていた。














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