放置ゲー廃課金者、転生する!

にがよもぎ

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132話

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「……アルス様。単刀直入に申し上げます」

グラスを持ちながらターコイズ様が口を開く。

「アルス様が王派閥に居るというのをお聞きしましたが、それはアルス様本人が決めた事なのでしょうか?」

ターコイズ様は俺の目を見ながら真剣な表情を浮かべる。その問いにどう答えるか迷ったが、本音を口にすることにした。

「…まぁ成り行きでというのが事実ですね」

「成り行きとは?」

「正直、私は王派閥だの貴族派閥だのと興味はございません。まつりごとに巻き込まれるのは真っ平御免ですね」

「………」

「ですが、縁というものがありまして。それを利用する事は構わないと思っております」

「……では王派閥に味方する訳では無いと?」

「政治的な意味では介入は絶対にしません。ですが、武力となると参加するでしょうね」

酒を一口呑み、喉を潤してから再度口を開く。

「私もソニアやミレーユから話は聞いておりますが、それはそれという気持ちが大きいです。私は自由に生きたい性格なので縛られたく無いのです」

「…ですが爵位を与えられた時点で…」

「それは仕方ないんじゃないんですか?曲がりにも何も王都を救ってしまったので」

「…では王派閥にも肩入れはしないと?」

「………どうですかね?ソニアにもミレーユにもお世話になってますし…力を貸して欲しいと言われれば貸しますよ」

「では貴族派閥から貸して欲しいと言われたら?」

「今のところはお断りですね。恩もありませんし、私が出会った最初の貴族は嫌いな人間でしたので」

「…………ふむ」

ターコイズ様は顎に手を当て思案している。俺が今言ったことは嘘ではない。本当に政治とか興味ないけど、この世界に転生してから出会った人々が王派閥だったってな事だけだ。ラティもだし、ソニア、ミレーユは勿論のこと。言っちゃなんだけど、右も左も分からない俺に色々と教えてくれたのが王派閥の人達だったってことだ。

けど、もし貴族派閥が世話をしてくれたら話は変わってただろう。恩には恩で返さないとダメだしね。だが、俺には優先順位ってものがある。それはが幸せになれるかっつー話だ。別に派閥に属さなくても俺達は自由に行動出来るし、テンプレだけどどっかに国を興す事もやろうと思えば出来る。集まるかどうかは別問題だけど。

未だ考えているターコイズ様を観察しながら酒を呑む。誠意な話には誠意で返すよ?俺だって。

「……一つ質問があります。もし、アルス様が今から先に貴族派閥から何か手助けをされた場合、そちら側に付く可能性はありますか?」

「内容によりますね。けど、今のところはソニア側に居た方が居心地が良いのでそうそう鞍替えはしないでしょうね」

「……具体的な内容はどんなものでしょう?」

「さぁ?金銭だとしても私は困っておりませんし、興味は有りませんので」

「金銭で靡かないのは知っております。……失礼な話ですが、アルス様がサガンで行った全ての事は耳にしております」

「だとすれば簡単では無いでしょうか?私は恩を受ければ絶対に返します。それだけは譲れません」

「……例えばの話、サガンに物資や金銭が大量に届いたとします。それでサガンが潤ったならば、アルス様に恩を売ったとなりますか?」

「ハハッ、成りませんよ。それはラティの領地ですから。私には関係の無い事です」

「…………なるほど」

「私からも質問しても?」

「なんでしょうか?」

「私はターコイズ様の事をミレーユから聞いております。どんな人物なのかと。その上でお聞きしたいのですが、私からの話を聞いてどうされようとお考えなのですか?」

「………………」

ターコイズ様が蝙蝠だと聞いている。けれど、ターコイズ様がどの様な人物なのかを俺は知りたい。知略は絶対に勝ち目は無いのは分かってるが、本質を知りたいのだ。

「ふぅ……どうやらアルス様は本音を語ってくれたようですね」

ターコイズ様は柔らかな笑みを浮かべるとグラスに酒を注ぎ口を開いた。

「……私はアルス様の弱点を探そうと考えておりました」

「弱点?」

「弱み…と言うべきでしょうかね。アルス様がどのような事をされたら寝返ってしまうのかを遠回しに聞こうと思ってました」

「………」

「ですが、アルス様の話を聞いて理解しましたよ。アルス様は自分に正直な方なのですね」

「我儘なだけですよ?」

「いえ。それと大事にしているものも分かりました。人との繋がりを大事にされているのですね」

ターコイズ様は酒を一気に呑み込むと節目がちに話し始める。

「私が昼間に出掛けたのは貴族派閥からの呼び出しでした。アルス様をどうしたらこちら側に引き込めるかというね。貴族派閥もあの式典を見て民達がどういう印象を受けたのかを理解したのでしょう。アルス様を引き込めれば王派閥にも痛手となるし、貴族派閥からすれば民達の支持も手に入る。一石二鳥って訳ですね」

「………………」

「しかし、アルス様の言葉を聞いて貴族派閥には引き込めないなと理解しましたよ。彼等は金品や見栄でしか人を判断出来ませんから」

「…分かりませんよ?私だってなびくかも知れません」

「いや。の場合は違うだろうね」

ターコイズ様が口調を変える。

「君の場合は人……それも身近な人に影響があれば変わるだろう。それは悪い意味でも良い意味でも。君を取り込む為には外堀から埋めなければならないな…」

ターコイズ様の言う通りだ。ぶっちゃけると俺に何かしても全く意味は無い。まぁ多少は心は動くだろうが、それは俺の采配に委ねられる。しかし、例えばチカ達がお世話になったとしたら?俺は有難いと思い、その人の為に何かするだろう。………レインが良い例だ。

「……よし分かった。これで貴族派閥に話ができるよ」

ターコイズ様は満足気に頷くとお代わりを注ぐ。

「その話とは?」

「貴族派閥には嘘の情報を流そうと思ってね。君には賄賂なんかは通じないだろうし、色仕掛けも…無駄だろうしね」

「………いや、色仕掛けはちょっと…自信ない…」

「ん?何か言ったかい?」

「い、いえ、何も!」

「? それでね、ちょっと嘘の情報を流すついでにやってもらいたいことがあるんだ」

「面倒ごとならお断りですよ?」

「まぁ面倒だと言えば面倒だろうけど、貴族派閥を手の平で転がすには必要な事…かな?」

「??」

「恐らく私が嘘の情報を流すとする。その効果は素早く現れるだろう。彼等はそういった動きはとても優れているからね。けれど、私の流す情報は君が言った話に装飾を施すだけ。相手がどう受け止めるかは知った事では無い」

「……つまり?」

「私が流した情報を鵜呑みにして行動に移すとすれば、金品で釣ろうとするだろう。しかし、君がそれで動く事はないと先程聞いた。だが、貴族というものは見返りを求めるのだよ。それが面倒ごとという訳さ」

「…俺に何をしろと?」

「その時は私が教えるよ。だから、君は早まった真似をしないで欲しい。私の地位も保ちつつ、貴族派閥の顔も立てないといけないからね」

ターコイズ様は酒を飲み干すと意地の悪い笑みを浮かべた。何を考えているのかは分からないが、そういった知略は任せようと思う。……………正直言えば、俺がこんな事をスラスラと話せたのはのお陰だからなぁ。

ターコイズ様にミレーユ達と会った後、ベリル様に稽古を付ける以外にも話を聞いていた。ターコイズ様がどんな人物でどんな事をしているかを。そして、どんな話をすれば良いかを。

基本的には包み隠さず自分の意見を話して良いと言われていた。嘘偽りを話そうがターコイズ様には見破られてしまうからとも。……まぁ腹芸が出来ないから仕方ないと言われたけどね。そんなん無理でしょ!

ただ、俺がミレーユ達と話し合い『王派閥に属した』という事は言わないようにと釘を刺された。そんな事は口にしなくても分かってるだろうし、第三者の耳があるかも知れない。それはターコイズ様にとっては致命的な事に繋がるらしく、曖昧な表現で誤魔化すように言われており、その上での回答が『興味ない』という事だ。………まぁ、本音だから良いんだけど。

「これから少しバタバタすると思うが、君は自発的に動かないで欲しい。出来れば私を経由して欲しいのだが………出来るかね?」

「…ええ。勿論です」

「助かるよ。………それじゃ話は変わるんだけどね?ベリルの将来についてなんだが、私はベリルに---

真面目な話は唐突に終わる。ちょっと唐突過ぎて面食らったが、それ以降この話は出て来なかったのでターコイズ様の中で纏まったのだろう。そして俺はターコイズ様からベリル様の将来についての熱弁を長々と聞くのであった。
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