放置ゲー廃課金者、転生する!

にがよもぎ

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127話

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♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「いやぁー、すぐに来て頂けるとは!」

「連絡無しに来訪して申し訳ありません」

「いえいえ!私の場合だったら後日になりましたが、息子ならばいつでも時間はありますから」

ジュエリア王国の王都にて、クロトワ家当主、ターコイズの声が屋敷に響き渡る。

元来、王に仕える貴族達は自分の領地に屋敷を構える。王都には用件があった時に宿泊する別荘という形で屋敷を構えていた。だが、このクロトワ家は代々変わり者で王都に自宅を構えていた。自分の領地には才に優れた者を置き、その者に運営を託し当主は報告を聞くだけの立場をとっていた。もちろん、基本的な物は当主が決める。だが、そこからどう潤わせるかは他人任せにしていた。

この様な管理は他の貴族からは馬鹿にされていた。しかし、領民からの支持は厚かった。何故ならばクロトワ家は重税も課さず、優秀な者を発掘する才に恵まれていたからだ。そして何よりクロトワ領地では現代でいう『地産地消』を取り入れていた。言うなればクロトワ領地で殆どの事が出来ていた。流行り物などはやはり栄えている場所に行かなければならないが、食物や生産、農耕に関しては他の領地よりも抜き出ていた。

領民からすれば飢える事もなく税も相場よりも少し安い為、他からの移住に関しても人気があった。そして支持されている最大の理由は『領民を主として』いるからだ。領民の声に耳を傾け、極力希望に添える様行動する姿は皆が尊敬をしていた。

勿論、今までに問題が一度も無かった訳では無い。私腹を肥やそうとする者も居たが、それらはすぐさま領民からの報告が入り、財産を全て没収した上で追放する。更にはクロトワ家と交流を深めている貴族に話を通すので、流民にならざるをえない。文字通り1からのスタートとなるので、その様な事が起きるのは少なかった。

そして、クロトワ家が変わり者と呼ばれる所以ゆえんは、屋敷の立地にあった。他の貴族の様に堂々と建てるのでは無く、外壁の角にひっそりと建てているのだ。初代当主曰く、『隅が落ち着き、出入りが楽だから』との事らしい。出入りが楽というのは、外壁に小さな出口を設けている。これは報告の際に通れる様にしてあるだけで、普段は頑丈に締めてあり、偽装カモフラージュも施されている。この出入口を知っているのは管理者とクロトワ家のみである。

「すぐさま息子をお呼びしましょう。少々お待ち下さい」

ターコイズは近くの使用人に指示を出すとアルスと目を合わせる。

「そう言えばアルス様。ミレーユ様から少しばかり話をお聞きしたのですが、サガンに孤児院をお持ちというのは本当ですかな?」

「ええ。孤児院というか…託児所みたいな場所に近いですけど」

「何故それを持とうと思われたのですか?」

「…元々はラティが持ってたのを譲って貰っただけですよ。理由はありませんよ」

「ゆくゆくは学校にしたいともお聞きしましたが?」

「まぁそのつもりではいますね。いつになるかは分かりませんけど」

「………何故?王都にも学校はあると言うのに?」

「うーん……俺…じゃなくて私も詳しくは知りませんけど、サガンから王都に行くのは遠いですし、何より物価が違います。だったら領地内に建てても良いんじゃ無いかなぁって思いまして」

「……ふむ。それは領民のためにと言う事ですか?」

「うーん……結果的にはそうなったみたいですけど…私の場合は思いつきでしたからねぇ。あまり深くは考えてなかったです」

「か、考えていなかった?……フフフッ、アハハハハッ!」

何が面白かったのかターコイズは腹を抱えて笑う。アルスが困惑しているとターコイズが呼吸を置いてから口を開く。

「すみません……真っ当な理由がある物だと思っていたので」

「なんかすいません…」

「いえいえ。ただ、学校を作るというのは良い発想ですね。私も真似をしようかと思いましたよ」

「? 領地に学校は無いんですか?」

「ええ。お恥ずかしい話ですが、設立に関しての資金が足りませんので…。まぁ、幸いにも私の領地は王都に近いので通わせる事も出来ますからね」

「………あー、そっかぁ。通わせる事になるのかぁ」

「? どうかされましたか?」

「ターコイズ様の言葉を聞いて少し思い付いただけですよ」

「何を思いつかれたのですかな?」

「学校を建設したら寮を造ろうかなって」

「り、りょう!?」

「サガンの場合は領地内にあるから要らないですけど、自分の領地に造るとしたら、有ったほうがいいなと思って」

「……………なんと面白い方だ」

「? 何か言いました?」

「いえ。……おや、やっと来たようですね」

ターコイズとアルスが雑談をしていると使用人と男の子がこちらへと向かってくる。

「パパ!お呼び-----

男の子はターコイズの隣に立つアルスの顔を見ると言葉を詰まらせる。

「ベリル。アルス様がお前に稽古を付けに来てくださったぞ。ほら、挨拶なさい」

ターコイズに促され、男の子は緊張した面持ちで姿勢を正し口を開く。

「は、初めまして!!ジュエリア王国の英雄アルス!!クワトロ家長男ベリルと言います!!!!!!」

「は、初めましてベリル様」

『噛んだな』とは口にしない。むしろ、仰々しい称号に困りながらもアルスはベリルの高さまで腰を下ろし笑みを浮かべる。

「ターコイズ様、奥様から言伝が…」
「ん?」

使用人がターコイズへと耳打ちをしている間、アルスは何を話そうか迷っていた。……だが。

「凡人ではありますが、ボク…わ、私はアルス様のようにドラゴンを一撃で仕留め、サガンに侵攻してきた魔王軍を追い払ったような勇猛果敢で慈愛に満ちた男になりたいのです!!1週間という短い間ですが、どんな厳しい稽古にも耐えて見せます!!!よろしくお願いします!!!!」

「ち、ちょっと落ち着いて。…ね?」

目を輝かせ、若干頬を赤らめながら早口で喋るベリルにアルスは落ち着くよう優しく声を掛ける。

(……ミレーユから話は聞いていたけど、どんだけ美化されてんだよ俺)

「え、えーっと………とりあえず1週間よろしくお願いしますねベリル様」

「アルス様!!!」

「は、はい!!」

「ボクに敬称など付けないでください!!アルス様はボクの師匠、先生の立場なのですから!呼び捨てでお呼びください!!!言葉も普段通りでお願い致します!!!!!!!」

「…そ、それは無理な話なんですが……」

「…すいませんアルス様。ベリル、アルス様も立場という物があるんだ。困らせてはいけないよ?」

「!!! ご、ごめんなさいアルス様!!!!」

「い、いえお気になさらず……」

アルスは初めて自分に憧れを持つ純粋な目を向けられた事に戸惑いを隠せなかった。

「ベリル、パパとの約束だ。アルス様を困らせない様にな?」

「はい!!!」

(いやー……そんなの目の前で言わんでくれよ。困るっつーの…)

そんな事を考えているとターコイズがアルスへと向き直り口を開く。

「アルス様、非常に申し訳ないのですが、ご相談がございまして……」

「? なんでしょう?」

「その………妻がチカ様達と買い物に行きたいと………」

「買い物…ですか?」

「はい………」

「……って事だけどチカ?」

「断る理由がありませんわ。ご一緒させて頂きます」
「貴族の買い物には興味がある」
「どんなの買うんだろうねー?」

「……だそうです」

「良かった………。では妻を呼ぶので少々お待ちを…」

それからアルス達はベリルとターコイズとしばし雑談を交わす。ターコイズはチカ達とも話したかったようで、チカ達の質問責めにも快く応じてくれた。ベリルはベリルでアルスと喋れる事に緊張しているのか、度々堅苦しい言葉遣いで喋っていたので、こっそりと『ベリル様が普段通り喋ってくれるなら、俺も普段通り喋りますよ』と耳打ちしておいた。

ターコイズの奥方が到着し、挨拶を一通り済ませると女性陣は徒歩で屋敷から出て行った。ターコイズもこの後予定があるそうで、使用人を何人か置いて屋敷へと戻って行った。

「………忙しい人だなぁ」

「パパはいっつも忙しいんです。でも、ボクとも遊んでくれるので大好きです!」

「フフッ……ベリル様は良い子ですね」

「それじゃアルス!早速稽古を宜しくお願いします!!」

「分かりました。……ではまずはベリル様がどの位の強さなのかを見たいので、手合わせをしましょうか」

「はいっ!!!」

ベリルの元気ある返事を聞きながら、アルスはベリルに稽古を付けていくのであった。
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