放置ゲー廃課金者、転生する!

にがよもぎ

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094話 -いざ、ジュエリア王国へ 3-

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アルス達一行は、サガンから最寄りの宿場町『アンバー』へと足を踏み入れる。前回、ポーロの護衛の時に立ち寄った宿場町である。

「いらっしゃいませー!」

宿場町は活気に溢れており、通りを歩くだけで多方面から接客の声が聞こえる。

「うわぁっ?!」

アルス達が宿場町へと入ると、近くにいた町民らしき男性が驚いた声を上げる。男性が声を上げるのも無理はない。アルスが先頭という事は、ゼロが前に来ているという事だ。ゼロの巨躯に声はそこまで上がらなくとも、他の町民達は目で物語っていた。そんな事には気付かず、アルスは馬上から悲鳴を上げた町民へと話しかける。

「あのー…すいません。ここで草団子が食べられるお店があると思うんですけど…」

「は、はい!!」

「えと……確か…店内は和風で…サヨ?サヤ?って女の人が働いていたと思うんですけど…」

「サヨ………ああ!案内します!」

「え?良いんですか?じゃあお願いします」

町民は多岐に渡る情報量に混乱してしまう。その情報とは、まずゼロが今までに一度も見た事のない大きさだという事。そしてアルスの後ろにいる女性が絶世の美女であるという事。さらには、後続の馬にはそれぞれ異なった美しさを備えた女性が付いているという事。しかも全員は見た事のない衣装を着ている。町民は『どこぞの貴族か何かか?』と勘違いし、『失礼を働いてはいけない』と思い、案内すると口にしたのだった。

町民がアルス達を案内する間、かなりの注目を浴びる。それが気に触るのか偶にゼロが機嫌悪そうに鼻を鳴らす事があった。その度に案内をしている町民は大きく肩を揺らし、アルス達の顔色を伺っていた。

「こ、ここです……」

「ありがとうございます!」

オドオドとする町民に心からの感謝の言葉を述べてからアルス達一行は下馬する。前回は気付かなかったがお店の横には馬小屋がありそこにゼロ達を繋げておく。

「ゼロも何か飯食べるか?」

「……………ブルルッ」

「……………?」

「『要らない』と言っている」

「そっ。……流石に草団子は食べれないもんなぁ」

餡子抜きを頼めば食べれそうだが……一応持ち帰りで頼んどこう。食べなかったら俺が食べれば良いし。

「いらっしゃいませー!!」

ゆっくりと店へと入ると、中は賑わっており店員の声が届く。

「何名様ですかー?」

「5人でーす」

「相席になりますが宜しいですか?」

「相席でも良い?」

「はい。構いません」
「はぁーい!」
「良い」
「良いんじゃない?」

店員に案内された席は座敷で、長い机が置いてあった。そこには何組かの人達が座っており、先に座っていた人が親切に俺達が喋りやすいように席を譲ってくれた。

「すみません…」

「いえいえ。これもこのお店の方針ですから」

年配の夫婦が5人座れるスペースを作ってくれ、俺達は互いの顔が見れる様に座る事が出来た。

「…私は子供のままが良かったかな?」

「喋り方も変えないといけないし、別にこのままで良いんじゃない?」

レインが老夫婦に申し訳なさそうな顔をしながら俺の横に座る。

「あなた達は冒険者ですかな?」

メニューを見ていると、旦那さんから話しかけられる。

「あ、はい」

「私も昔は家内とコンビを組んでいたのですが……5人パーティーで、男一人と言うのは珍しいですな」

「え?ご夫婦でコンビを組んでいたのですか?」

奥さんの横に座っていたチカが返事を返す。

「ええ。私らは王宮勤めだったんですよ。私は魔法専門でしたが、夫は前線に出ていたのですよ」

奥さんが朗らかな表情でチカへと話してくれる。

「…王宮勤めという事は、王都に居たという事か?」

「ええ。そうですよ」

「……コンビを組んでいたと言っていたが、王宮の兵士はそういう隊を組んでいるのか?」

「……あぁ、コンビを組んだのは勤めを辞めてからですよ。出会いは王宮勤めの時でしたが」

「辞めた?何で辞めたの?」

「こら、ローリィ。んな事聞くなよ…」

「ハハハ…気にしないで結構ですよ。私らが辞めたのは『ゆっくりと過ごしたい』と思ったからです」

「ゆっくりと過ごしたい?」

「ええ。私は前線で戦っていたのですが……やはりキツいものがありました。同僚や先輩、後輩も全員が無事という事はありませんでしたし…」

「そうでしたの……。失礼なことを聞いて申し訳ありません」

「気にしないで結構ですよ。その時は私らもそこそこお金が溜まっていましたので、2人でゆっくり生活していこうと思って辞めたのですから」

老夫婦は笑顔を浮かべて色々と話をしてくれる。…言い方は失礼かもしれないが、都落ちをした理由はやはり死を受け入れる事が出来なかったそうだ。それで旦那さんの生まれ故郷に戻り、田畑を耕しながら生活をして行こうと相談しあったらしい。

それとやはり金は多少は必要で、老後のことも考え、2人で比較的危険の少ない依頼を受けていたそうだ。奥さんの方はこの世界では珍しく治癒魔法の適性があり、旦那さんの故郷では大変ありがられたとか。

「---とまぁ、昔は色々とあったのですが……私らもそろそろお迎えが来てもおかしくない。その前に息子達に会いに行こうと思いましてね…」

老夫婦と会話をしながら注文を済ませ、草団子と抹茶を食べながら話を聞く。

「息子さんは遠くに居るのですか?」

「ええ。今は王都で兵士をしております。……血は争えませんなぁ」

ハハハと優しい笑顔を浮かべる旦那さん。

「本当にそうなんですよ。息子の奥さんも私と同じ部署にいるのよ?」

「素敵ですわ……。親子二代、同じ恋愛をされるだなんて…」

「うんうん。ボクもそんな恋愛をしてみたい」

「……あれ?それじゃあ、お爺さん達は今から王都に行くの?」

「ええ。商人の馬車に乗せてもらいながら向かおうと思ってまして」

「商人の馬車に?…移動手段は持ってないんですか?」

「もう歳ですからね…。馬に乗るのは体力が要るんですよ」

「…ねぇアルス」

レインが俺の腕をつつき、目配せをする。何が言いたいのか悟った俺は返事をする。

「別にそれは良いけどさ…。お爺さん達にも予定があるんじゃねーの?」

「ねぇ、お爺さんお婆さん。王都までの予定は何か考えてるの?」

「予定?……いえ。私らは商人さん頼りですので、これと言った予定はありません」

「どの町に泊まるかは商人さん次第ですからね。その町で美味しいものを食べながらでもと思いまして…」

「……アルス」

「はぁーい。……あのー、お爺さん達が良ければなんですけど、俺達とご一緒に王都まで行きませんか?」

「えぇ?!……いや、流石に冒険者の方々にそんな事をしてもらうのは……」

「そうですわ…。あなた達も依頼があるのでしょう?」

老夫婦は提案にあまり良い反応は返さない。社交辞令みたいな物ではなく、本心から申し訳なさそうに言っているのが分かった。

「いえ。私達も王都に行く予定なんですよ」

「え?」

「ボク達と行けばいい。行き先は同じで、金も要らない」

「そうそう!アル達の後ろは空いてるし!」

「さ、流石にそれは……」

「せっかくだから行きましょうよ。私達も色んな事を聞ける機会ですし」

「ですが……あまり手持ちが無くて…」

「ナナも言いましたけど、俺達は金は要らないですよ。それに、道中の安全は保障します。商人の馬車に乗るよりも安心安全ですよ」

……自分で言うのも何だが、この言い方はスゲー詐欺師みたいな印象だ。まぁ、安全面はマジで保障出来るし、チカ達の魔法があるから暑さ対策なんて必要ない。馬に乗るのも、兵士だったら経験はしてると思うし、何よりこの人達は色々な知識も持ってると思う。そんな話を聞きながら旅するのも良いと思うんだよね。………あ、別に偽善者振ろうとはしてないよ?席を譲ってくれた恩返しみたいなもんだよ。

「どうしましょうアナタ……」

「ううん……」

老夫婦は突然の提案に迷いを見せる。その反応は当然の事だと思うし、だからこそ、この言葉を言う。

「俺達はあんまり土地勘が無いんですよ。だから、王都まで案内してもらえませんか?」

「「………………」」

まぁこれは嘘だけど。でも、『代わりに何かしてくれ』という物は交渉の一つだ。

「そうですわ。それに、私は色々とお話が聞きたいです」

「ボクも」

「あたしもー!おじいさん達の昔の話聞きたーい!」

チカ達が満面の笑みで老夫婦を誘う。老夫婦はその顔を見てか、互いに目を合わせた後、了承の言葉を口にする。

「……申し訳ありませんが、ご一緒してもよろしいですか?」

「喜んで!」

話は纏まり、お勘定を済ませてから外へと出る。ゼロ達の所へ案内すると、老夫婦はゼロを見て口をあんぐりと開けた。

「こ、こんなに大きい馬を見たのは初めてだ……」

「見た目はイカツイですけど、優しい奴なんですよ。……な?ゼロ」

「ブルルッ」

「アル。おじいさん達を乗せてもいーい?」

「ヒヒン!」

「お爺さんはボクの後ろに。お婆さんはローリィの後ろに乗って」

「……馬に乗るのは久しぶりだわ」

「ご主人様ぁー!お婆さん達の鞍をちょーだい!」

「あいよー。……一応、クッション渡しとくわ。お尻が痛くなるかもしれないし」

ナナとローリィの鞍を大きめのものに変え、クッションも渡す。このクッションは『Destiny』の周年記念のイベントアイテムだ。物販のヤツをそのままゲーム内に配布した……つー流れだ。

「んじゃ、次の町で宿でも探すか」

「「「はぁーい!!」」」

ゼロに乗馬しアンバーから出る。もちろん、草団子はお持ち帰りしている。俺達が食べるのもあるが、ニリキナにでも持っていってやろうと思って大量に購入しておいた。

外に出ると太陽は頂点にあり、周囲を照らしている。砂漠にもチラホラ蜃気楼のような物が見えるので、恐らく物凄く熱いと思う。だが、それは普通の人であればの話。

「ナナ、チカ。お爺さん達に魔法掛けといて」

「もう済んでおりますわ」

「暑かったら言って。調節するから」

「………お2人は魔法が使えるのですか」

「? こんなのは簡単。使えない方が信じられない」

「……私にもそんな魔法が使えたら、冒険者生活も続いたかも知れないわねぇ」

「あたしも魔法は得意じゃ無いけど、戦闘なら任して!」

そんなチカ達の様子を伺いながら砂漠を進んでいくのであった。
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