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068話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
アタシは夢を見ているのだろうか。見た事のない巨大な魔物にアルスが1人で立ち向かっている。
アルスが何かをしたかと思ったら、神々しいヒトと邪悪なヒトがアルスの横に出てきた。
その神々しいヒトを見ると酷く安心した。心が安らぐと言った方がいいのかな?何かに優しく包まれたようなそんな感じがした。
けれど、横に立っている邪悪なヒトを見たらその場にうずくまっちゃった。一体何なのアレ!?この世の物とは思えない何かを感じる!
最初にあの巨大な魔物を見た時は死を覚悟した。けど、あのヒトと目を合わせただけでアタシ死ぬ自信がある。……だって、出てきた時に恐怖で少し漏れちゃったもん…。
それからはアタシは、アルスか神々しいヒトしか見ないようにした。神々しいヒトは何か障壁のようなモノを作り出し、魔物が呼び出したヒトを閉じ込めた。邪悪なヒトは嬉々とした表情で障壁の中に入っていった。……チラリと見えたあの表情は忘れられない。
アルスはもう一体のヒトと戦っていた。アルスが戦っているところを始めてみたけれど、次元が違った。アタシの知らない技を使い、アタシの知らないアイテムを使いながらヒトに攻撃していた。
アルスが攻撃している間、ヒトは全然動いていなかった。多分、状態異常攻撃をしているんだろうとは思うけど、あんな化け物みたいなヒトに通じる状態異常攻撃って想像出来ないんだけど…。
アルスを含めたあのヒト達の戦いは、人と魔物が争うという単純なモノでは無かった。…何と言えばいいか、人が登ることができない高みだと思わせる光景だった。
暫く、呼吸をするという事を忘れるくらいに、目の前の光景に目を奪われていた。やがて、アルスと戦っていたヒトの色が変わった。
「何だろう?」
アタシはアルスの忠告を忘れ、その場から出てしまった。すると、アルスと対峙していたヒトが此方へと殺意を向けてきた。
その瞬間、この部屋に満ちていた尋常じゃない殺気に襲われる。……声を出す事も、息を吐く事も出来ないくらいに。
体から何かがゴッソリと抜け出すように、アタシはその場に力無く腰を落とした。
……あぁ、アタシは死ぬんだな。
体が、心が、魂が。アタシに優しく教えてくれる。生に執着する事なく、アタシという全てが死を受け入れている。
「ソニアーーーー!!!!!」
アタシを呼ぶ声が聞こえる。
「アルス…」
声の主は此方へと向かっている。
……あぁ、金色に輝く姿は本当に御伽噺の『勇者様』みたい。最後に貴方を見ることが出来て良かった…。
迫り来る死を、アタシは抵抗する事なく自然に受け入れるのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
---間に合わない!
へたり込んでいるソニアに、夜叉の凶刃が向けられている。この距離では魔法もスキルも夜叉の一撃を止める事は出来ない。
--どうにかしないと。だが、どうやって?
ありとあらゆる事を考える。これ程までに脳がフル回転した事は無いだろう。
「やるしか……ないか」
脳裏に浮かんだ悪手を実行する。だが、これを使った場合、一定時間俺は無防備となる。アスラ達がそれに気付き、俺に攻撃してきたら間違いなく死ぬ。
(…大丈夫!今日の俺は運が良いはず!何せ3%の壁を超えたんだから!)
変な事を考えながらもジョブを変え、詠唱する。
「--召喚、『全能神』!!」
ゴッソリと体力を奪われ、一時的な行動不能状態に陥る。だが、HPの80%を消費する価値はあった。
金色に輝き、全知全能たる神話の主神が姿を現わす。主神の降臨に大地は震え、この場にいる全ての者が動きを止める。
「ソニアを救え!!」
召喚者の命令に従い、主神は金色の風を纏いながらソニアと夜叉の間に割り込む。狂乱状態に陥っている夜叉は主神が割り込んだ事に気付くが、攻撃の手は止めなかった。
---そして、夜叉の一撃が主神へと突き刺さる。
全ての音が鳴り止んだ。神々は争いを辞め、主神と夜叉の結末を傍観する。そして、主神は夜叉を包み込む様に抱きかかえると、咆哮する。
刹那、空気が揺れ大地は割れる。まるでこの世が激怒しているような錯覚を受ける。
パンッ、と袋菓子を叩いて開けた様な音が聞こえると主神の足元に血溜まりが出来る。そして、役目を終えた主神はスキルを発動し消滅する。
----『全能神の審判』。このスキルは主神が絶命時に発動する。効果はランダムとなっており、未だ全ての効果は判明していない。
正直、このスキルによりこの世界で何が起こるかは本当に分からない。だが、過去使用してきた経験では殆どがHP・MPともに全回復という効果があった。
過去の経験を信じ、俺は主神を召喚した。俺の願い通りに主神はソニアを救った。後は、3%の壁を超えた俺の運を信じるのみ。
「グゴゴゴゴゴッ」
主神が消滅したと同時に、後ろから苦しむ声が聞こえる。
「グガッ!ガガガガガッ…」
「ゴガッ?!」
「ギギギギギギギッ」
苦しむ声は複数聞こえる。行動不能により後ろを見る事が出来ないので、何が起きているのかわからない。
「ギッ、ギザマ何ヲジタァァァァアア!!」
アスラの叫びが聞こえた。そして、俺に何かが刺さる感覚も。
「ぐはっ!!」
目の前が徐々に暗くなる。どうやら、攻撃を喰らったみたいだ。
……ハハハ。ゲームとかで良くある表現だけど、本当に目の前が真っ暗になるんだなぁ。でもさ、バトルに負けて人生終了みたいな表現は中々面白いよな…。
ふと、意識も飛びそうになる中、ソニアが此方へ走ってくるのが微かに見えた。
……何だよ。何泣いてんだお前。……てか、お前そこから出るなってあれほど忠告しだだろ?まだ、アスラは生きてるかもしれねーんだ。大人しくしとけって。
俺の言葉は喉から出る事は無く、そのまま目の前が真っ暗になっていくのであった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♢♢♢♢♢
「やぁ、いきなりだけど元気かい?」
………………
「おや?全然元気じゃ無さそうだね。どうかしたの?」
……………..
「ちょっとー返事ぐらいしてよね?無視はしちゃいけないんだよ?」
…………….
「はぁー…。ちょっとキミに何があったのか見せてもらうね」
……………
「ふんふん、なるほどねー。キミ、剣が刺さって死んじゃったんだねー!」
…………..
「………おや?キミの顔、どこかで見た事あるね?どこであったか知ってる?」
………….
「ずっと無視するだなんて、なんてキミは薄情なヤツなんだ!……でも、気になるなぁ。どこかで見た記憶があるんだよなぁ…」
…………
「…………あーなるほどなるほど。そっか、あの時か!」
………..
「ふむふむ、どうやら誓いは守っているようだね」
……….
「うん!キミは偉いねぇ!花マルをあげちゃうっ!」
………
「え?そんなの要らないって?僕の花マルって中々貰えないんだよー?とっても貴重なんだよー??」
……..
「ほら、つべこべ言わず貰っておきなよ!」
…….
「さぁ、アルス。キミの運命はまだ始まったばかりだ。こんな序盤も序盤で死んでたりしたら、何回も僕が出迎えなきゃいけないじゃないか!そんな面倒な事はさせないで欲しいな!」
……
「良いかい?キミは僕に誓ったんだ。全てを護ると。その誓いを破っちゃうのかい?」
…..
「キミにはまだ護らなければならないモノがいる。その為にキミはまだまだ頑張って働いてもらわないとね!」
….
「……さぁ、花マルを描いてあげるよ。ほら、キミの名前を呼んでいる声が聞こえるでしょ?」
…
「さぁさ、早く蘇りなさいな!……次に会う時はちゃんと会話をしてよね?」
..
「うんうん。会えるのを楽しみにしてるよ!」
.
「じゃあね、アルス!」
「……行ったみたいですね」
「うん、行ったというより戻ったの方が適切かな?」
「アルスさん、泣いてました?」
「泣いてなかったよ?でも、アルスったら酷いんだよ??ずーっと僕の事無視してたんだよ!?」
「いや…死んでたら喋れないはずですよ?」
「ここじゃ死んでも話せるんですー!キミも僕と喋ったじゃんか!」
「………覚えてないですねー」
「キィィィー!キミも酷い男だなー!最後のお願いを叶えてあげたっていうのに!」
「それは感謝してますよ。…欲を言えば蘇らせてくれれば尚良かったんですけどね…」
「それは無理な話だよー。キミの運命はあそこで終わりだったって何回も説明したでしょー?」
「分かってますって。……では、仕事に戻りましょうか」
「…はーい。今日はどのくらいの量があるの?」
「沢山です。昨日の分も残ってるんですから、もう休憩は無しですよ」
「ヤダー!!僕仕事したくなーい!!」
「我儘言わないで下さいよ。アナタがしなかったら世界のバランスが崩れるんですから!」
「…ちぇっ。わかりましたよーだ」
「あっ!!ちょっと、なんで逃げるんですか!!」
何者かは振り返り、虚空へと呟く。
「アルスさん、今度来たらまた前みたいに喋りましょうね…」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♢♢♢♢♢
「--ス!!---ルスッ!!!」
バチャバチャと何か水の様なモノがかけられている。次にユサユサと体を揺さぶられる。
「起きてッ!起きてよ!!」
ガチャガチャと周囲が煩い。そして、唐突に痛みが走る。
--ガコッ。--ボコッ。--ガツンッ。
その音は鳴り止む事を知らない。段々と意識を取り戻していくと、痛みの強さは拡大していく。
「起きてよぉ……起きてってばぁ……」
「……痛い」
---バコンッ!
「痛いってば!!」
「…………え?」
目を開けると、盾を振りかざしたソニアが目の前にいた。目には大粒の涙を浮かべ、頬には跡が残っている。
「……よぉソニア。すまんが、その盾を下ろしてくれないか?」
---ガンッ!
「…あるす?目を覚ましたの?!」
「……何で叩くんだよ…。今目があったはずだろ?」
「うぇぇぇぇぇぇん!!あるす、アルスゥ!!」
「いだだだだだだだだ!!ヤメッ、止めろって!!!」
錯乱状態のソニアが落ち着くまで時間がかかった。その間、俺はひたすら盾で叩かれていた。
「あーもー!!!死ぬわ!!叩かれて死んじまうわ!!」
振り下ろされる盾を弾き、起き上がる。顔をクシャクシャにしたソニアと目が合う。
「………あるずぅぁぁあああ!」
「うわっ!!」
ソニアが号泣しながら抱き着いてくる。アメフト選手の様なタックルを喰らい、抱きかかえたまま地面へ倒れる。
「うぇぇぇぇぇぇん!!よがっだ、よがっだよ゛ぉぉぉぉ!!」
「あー…よしよし」
再び泣き出したソニアが落ち着くまで、頭を撫でながら待った。しばらくして、胸元で泣いていたソニアから静かな呼吸音が聞こえた。
「……ソニア?」
撫でていた手を止め、肩を揺する。反応は全く無い。
「……え?どゆこと?」
ソニアの状況はソニア自身から伝わった。スーッ、スーッと安らかな寝息が聞こえてきた。
「…嘘だろ?寝てんのか?……この状況で?」
泣きじゃくり過ぎて疲れたのか、ソニアが眼を覚ますことは無かった。ソニアが目覚めるまで、俺はこのままの姿勢で過ごす事となったのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
もぞもぞと胸元で動く気配がした。どうやら、俺もいつのまにか寝てたみたいだ。
「…………」
ピョコっと顔を覗かせたソニアと目が合う。目は充血し、鼻と口の周りには跡が濃く残っている。
「……おはようソニア」
しばし無言となる。ゆっくりとソニアは、俺の顔を撫で胸に手を当て、耳を当てる。
「………生きてる…」
「生きてちゃわりーのか?--グハッ!」
ドンッと胸元を強く殴られる。
「……心配させんなっ!!」
太鼓ゲームの様に胸元を連打される。ポコポコという副詞とは程遠い音がした。
「ちょっ!悪かった!俺が悪かったから!!叩くのやめてくれ!!」
ソニアの手を掴む。連打のお陰でHPが少し削られた気がする。
「………そういえばアスラは?」
「アスラ…?」
「俺が戦っていた敵だよ」
「…分かんない。なんか金色の霞に包まれたと思ったら消えてった。…それで、アルスにけ、剣が…」
ふと横を見ると、アスラが使っていた剣が横たわっていた。刃の部分には血がベットリと付いており、これが俺に刺さったのであろう。
「…アルス以外全部消えちゃって、アタシ動ける様になって…、急いでアルスの所に来たら、アルスが呼吸してなくて…」
「……どうやって俺生き返ったんだ?」
「分かんない…。アルスから貰ったアイテムを全部使ったけど、全然起きなかった。…もうダメだと思ってた…」
今まで気付かなかったが、俺の周囲には空になった回復薬と復活の泉、救心の自動人形が散らばっていた。
「…そうか」
何はともあれ、俺は生き延びた。それとも生き返ったと言った方が良いのだろうか?…ま、アスラ達は消滅した様だし結果オーライという事で。
「いてててて…」
「!! アルス!ジッとしてなきゃ!」
「だいじょーぶ!ずっと寝そべってたから節々が凝っただけさ」
立ち上がると、奥の方から眩く光っている何かが見えた。
「…何だろう?」
ソニアと共に光る何かの所へ行くと、巻物の様な物が浮かんでいた。
手に取ろうとすると、その巻物は消えた。だが、自分の中で何かが生まれた様な感じがした。疑問に思い、ステータス画面を開いてみると、ある文字がジョブ欄に浮かんでいた。
「……『八部衆』?」
何のこっちゃ?と首を捻っていると、ガコンッという鍵が降りた音が聞こえた。
「……また敵?」
「いや…。そんな事は無いと思うぞ。ボスを倒したから外に出れる……はず」
ソニアの手を握りながら、扉の前へ移動する。
「……開けるぞ?」
「うん……」
扉の取っ手をゆっくりと握ると、扉は眩しく光り出し俺達を包み込むのであった。
アタシは夢を見ているのだろうか。見た事のない巨大な魔物にアルスが1人で立ち向かっている。
アルスが何かをしたかと思ったら、神々しいヒトと邪悪なヒトがアルスの横に出てきた。
その神々しいヒトを見ると酷く安心した。心が安らぐと言った方がいいのかな?何かに優しく包まれたようなそんな感じがした。
けれど、横に立っている邪悪なヒトを見たらその場にうずくまっちゃった。一体何なのアレ!?この世の物とは思えない何かを感じる!
最初にあの巨大な魔物を見た時は死を覚悟した。けど、あのヒトと目を合わせただけでアタシ死ぬ自信がある。……だって、出てきた時に恐怖で少し漏れちゃったもん…。
それからはアタシは、アルスか神々しいヒトしか見ないようにした。神々しいヒトは何か障壁のようなモノを作り出し、魔物が呼び出したヒトを閉じ込めた。邪悪なヒトは嬉々とした表情で障壁の中に入っていった。……チラリと見えたあの表情は忘れられない。
アルスはもう一体のヒトと戦っていた。アルスが戦っているところを始めてみたけれど、次元が違った。アタシの知らない技を使い、アタシの知らないアイテムを使いながらヒトに攻撃していた。
アルスが攻撃している間、ヒトは全然動いていなかった。多分、状態異常攻撃をしているんだろうとは思うけど、あんな化け物みたいなヒトに通じる状態異常攻撃って想像出来ないんだけど…。
アルスを含めたあのヒト達の戦いは、人と魔物が争うという単純なモノでは無かった。…何と言えばいいか、人が登ることができない高みだと思わせる光景だった。
暫く、呼吸をするという事を忘れるくらいに、目の前の光景に目を奪われていた。やがて、アルスと戦っていたヒトの色が変わった。
「何だろう?」
アタシはアルスの忠告を忘れ、その場から出てしまった。すると、アルスと対峙していたヒトが此方へと殺意を向けてきた。
その瞬間、この部屋に満ちていた尋常じゃない殺気に襲われる。……声を出す事も、息を吐く事も出来ないくらいに。
体から何かがゴッソリと抜け出すように、アタシはその場に力無く腰を落とした。
……あぁ、アタシは死ぬんだな。
体が、心が、魂が。アタシに優しく教えてくれる。生に執着する事なく、アタシという全てが死を受け入れている。
「ソニアーーーー!!!!!」
アタシを呼ぶ声が聞こえる。
「アルス…」
声の主は此方へと向かっている。
……あぁ、金色に輝く姿は本当に御伽噺の『勇者様』みたい。最後に貴方を見ることが出来て良かった…。
迫り来る死を、アタシは抵抗する事なく自然に受け入れるのであった。
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---間に合わない!
へたり込んでいるソニアに、夜叉の凶刃が向けられている。この距離では魔法もスキルも夜叉の一撃を止める事は出来ない。
--どうにかしないと。だが、どうやって?
ありとあらゆる事を考える。これ程までに脳がフル回転した事は無いだろう。
「やるしか……ないか」
脳裏に浮かんだ悪手を実行する。だが、これを使った場合、一定時間俺は無防備となる。アスラ達がそれに気付き、俺に攻撃してきたら間違いなく死ぬ。
(…大丈夫!今日の俺は運が良いはず!何せ3%の壁を超えたんだから!)
変な事を考えながらもジョブを変え、詠唱する。
「--召喚、『全能神』!!」
ゴッソリと体力を奪われ、一時的な行動不能状態に陥る。だが、HPの80%を消費する価値はあった。
金色に輝き、全知全能たる神話の主神が姿を現わす。主神の降臨に大地は震え、この場にいる全ての者が動きを止める。
「ソニアを救え!!」
召喚者の命令に従い、主神は金色の風を纏いながらソニアと夜叉の間に割り込む。狂乱状態に陥っている夜叉は主神が割り込んだ事に気付くが、攻撃の手は止めなかった。
---そして、夜叉の一撃が主神へと突き刺さる。
全ての音が鳴り止んだ。神々は争いを辞め、主神と夜叉の結末を傍観する。そして、主神は夜叉を包み込む様に抱きかかえると、咆哮する。
刹那、空気が揺れ大地は割れる。まるでこの世が激怒しているような錯覚を受ける。
パンッ、と袋菓子を叩いて開けた様な音が聞こえると主神の足元に血溜まりが出来る。そして、役目を終えた主神はスキルを発動し消滅する。
----『全能神の審判』。このスキルは主神が絶命時に発動する。効果はランダムとなっており、未だ全ての効果は判明していない。
正直、このスキルによりこの世界で何が起こるかは本当に分からない。だが、過去使用してきた経験では殆どがHP・MPともに全回復という効果があった。
過去の経験を信じ、俺は主神を召喚した。俺の願い通りに主神はソニアを救った。後は、3%の壁を超えた俺の運を信じるのみ。
「グゴゴゴゴゴッ」
主神が消滅したと同時に、後ろから苦しむ声が聞こえる。
「グガッ!ガガガガガッ…」
「ゴガッ?!」
「ギギギギギギギッ」
苦しむ声は複数聞こえる。行動不能により後ろを見る事が出来ないので、何が起きているのかわからない。
「ギッ、ギザマ何ヲジタァァァァアア!!」
アスラの叫びが聞こえた。そして、俺に何かが刺さる感覚も。
「ぐはっ!!」
目の前が徐々に暗くなる。どうやら、攻撃を喰らったみたいだ。
……ハハハ。ゲームとかで良くある表現だけど、本当に目の前が真っ暗になるんだなぁ。でもさ、バトルに負けて人生終了みたいな表現は中々面白いよな…。
ふと、意識も飛びそうになる中、ソニアが此方へ走ってくるのが微かに見えた。
……何だよ。何泣いてんだお前。……てか、お前そこから出るなってあれほど忠告しだだろ?まだ、アスラは生きてるかもしれねーんだ。大人しくしとけって。
俺の言葉は喉から出る事は無く、そのまま目の前が真っ暗になっていくのであった。
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「やぁ、いきなりだけど元気かい?」
………………
「おや?全然元気じゃ無さそうだね。どうかしたの?」
……………..
「ちょっとー返事ぐらいしてよね?無視はしちゃいけないんだよ?」
…………….
「はぁー…。ちょっとキミに何があったのか見せてもらうね」
……………
「ふんふん、なるほどねー。キミ、剣が刺さって死んじゃったんだねー!」
…………..
「………おや?キミの顔、どこかで見た事あるね?どこであったか知ってる?」
………….
「ずっと無視するだなんて、なんてキミは薄情なヤツなんだ!……でも、気になるなぁ。どこかで見た記憶があるんだよなぁ…」
…………
「…………あーなるほどなるほど。そっか、あの時か!」
………..
「ふむふむ、どうやら誓いは守っているようだね」
……….
「うん!キミは偉いねぇ!花マルをあげちゃうっ!」
………
「え?そんなの要らないって?僕の花マルって中々貰えないんだよー?とっても貴重なんだよー??」
……..
「ほら、つべこべ言わず貰っておきなよ!」
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「さぁ、アルス。キミの運命はまだ始まったばかりだ。こんな序盤も序盤で死んでたりしたら、何回も僕が出迎えなきゃいけないじゃないか!そんな面倒な事はさせないで欲しいな!」
……
「良いかい?キミは僕に誓ったんだ。全てを護ると。その誓いを破っちゃうのかい?」
…..
「キミにはまだ護らなければならないモノがいる。その為にキミはまだまだ頑張って働いてもらわないとね!」
….
「……さぁ、花マルを描いてあげるよ。ほら、キミの名前を呼んでいる声が聞こえるでしょ?」
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「さぁさ、早く蘇りなさいな!……次に会う時はちゃんと会話をしてよね?」
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「うんうん。会えるのを楽しみにしてるよ!」
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「じゃあね、アルス!」
「……行ったみたいですね」
「うん、行ったというより戻ったの方が適切かな?」
「アルスさん、泣いてました?」
「泣いてなかったよ?でも、アルスったら酷いんだよ??ずーっと僕の事無視してたんだよ!?」
「いや…死んでたら喋れないはずですよ?」
「ここじゃ死んでも話せるんですー!キミも僕と喋ったじゃんか!」
「………覚えてないですねー」
「キィィィー!キミも酷い男だなー!最後のお願いを叶えてあげたっていうのに!」
「それは感謝してますよ。…欲を言えば蘇らせてくれれば尚良かったんですけどね…」
「それは無理な話だよー。キミの運命はあそこで終わりだったって何回も説明したでしょー?」
「分かってますって。……では、仕事に戻りましょうか」
「…はーい。今日はどのくらいの量があるの?」
「沢山です。昨日の分も残ってるんですから、もう休憩は無しですよ」
「ヤダー!!僕仕事したくなーい!!」
「我儘言わないで下さいよ。アナタがしなかったら世界のバランスが崩れるんですから!」
「…ちぇっ。わかりましたよーだ」
「あっ!!ちょっと、なんで逃げるんですか!!」
何者かは振り返り、虚空へと呟く。
「アルスさん、今度来たらまた前みたいに喋りましょうね…」
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「--ス!!---ルスッ!!!」
バチャバチャと何か水の様なモノがかけられている。次にユサユサと体を揺さぶられる。
「起きてッ!起きてよ!!」
ガチャガチャと周囲が煩い。そして、唐突に痛みが走る。
--ガコッ。--ボコッ。--ガツンッ。
その音は鳴り止む事を知らない。段々と意識を取り戻していくと、痛みの強さは拡大していく。
「起きてよぉ……起きてってばぁ……」
「……痛い」
---バコンッ!
「痛いってば!!」
「…………え?」
目を開けると、盾を振りかざしたソニアが目の前にいた。目には大粒の涙を浮かべ、頬には跡が残っている。
「……よぉソニア。すまんが、その盾を下ろしてくれないか?」
---ガンッ!
「…あるす?目を覚ましたの?!」
「……何で叩くんだよ…。今目があったはずだろ?」
「うぇぇぇぇぇぇん!!あるす、アルスゥ!!」
「いだだだだだだだだ!!ヤメッ、止めろって!!!」
錯乱状態のソニアが落ち着くまで時間がかかった。その間、俺はひたすら盾で叩かれていた。
「あーもー!!!死ぬわ!!叩かれて死んじまうわ!!」
振り下ろされる盾を弾き、起き上がる。顔をクシャクシャにしたソニアと目が合う。
「………あるずぅぁぁあああ!」
「うわっ!!」
ソニアが号泣しながら抱き着いてくる。アメフト選手の様なタックルを喰らい、抱きかかえたまま地面へ倒れる。
「うぇぇぇぇぇぇん!!よがっだ、よがっだよ゛ぉぉぉぉ!!」
「あー…よしよし」
再び泣き出したソニアが落ち着くまで、頭を撫でながら待った。しばらくして、胸元で泣いていたソニアから静かな呼吸音が聞こえた。
「……ソニア?」
撫でていた手を止め、肩を揺する。反応は全く無い。
「……え?どゆこと?」
ソニアの状況はソニア自身から伝わった。スーッ、スーッと安らかな寝息が聞こえてきた。
「…嘘だろ?寝てんのか?……この状況で?」
泣きじゃくり過ぎて疲れたのか、ソニアが眼を覚ますことは無かった。ソニアが目覚めるまで、俺はこのままの姿勢で過ごす事となったのであった。
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もぞもぞと胸元で動く気配がした。どうやら、俺もいつのまにか寝てたみたいだ。
「…………」
ピョコっと顔を覗かせたソニアと目が合う。目は充血し、鼻と口の周りには跡が濃く残っている。
「……おはようソニア」
しばし無言となる。ゆっくりとソニアは、俺の顔を撫で胸に手を当て、耳を当てる。
「………生きてる…」
「生きてちゃわりーのか?--グハッ!」
ドンッと胸元を強く殴られる。
「……心配させんなっ!!」
太鼓ゲームの様に胸元を連打される。ポコポコという副詞とは程遠い音がした。
「ちょっ!悪かった!俺が悪かったから!!叩くのやめてくれ!!」
ソニアの手を掴む。連打のお陰でHPが少し削られた気がする。
「………そういえばアスラは?」
「アスラ…?」
「俺が戦っていた敵だよ」
「…分かんない。なんか金色の霞に包まれたと思ったら消えてった。…それで、アルスにけ、剣が…」
ふと横を見ると、アスラが使っていた剣が横たわっていた。刃の部分には血がベットリと付いており、これが俺に刺さったのであろう。
「…アルス以外全部消えちゃって、アタシ動ける様になって…、急いでアルスの所に来たら、アルスが呼吸してなくて…」
「……どうやって俺生き返ったんだ?」
「分かんない…。アルスから貰ったアイテムを全部使ったけど、全然起きなかった。…もうダメだと思ってた…」
今まで気付かなかったが、俺の周囲には空になった回復薬と復活の泉、救心の自動人形が散らばっていた。
「…そうか」
何はともあれ、俺は生き延びた。それとも生き返ったと言った方が良いのだろうか?…ま、アスラ達は消滅した様だし結果オーライという事で。
「いてててて…」
「!! アルス!ジッとしてなきゃ!」
「だいじょーぶ!ずっと寝そべってたから節々が凝っただけさ」
立ち上がると、奥の方から眩く光っている何かが見えた。
「…何だろう?」
ソニアと共に光る何かの所へ行くと、巻物の様な物が浮かんでいた。
手に取ろうとすると、その巻物は消えた。だが、自分の中で何かが生まれた様な感じがした。疑問に思い、ステータス画面を開いてみると、ある文字がジョブ欄に浮かんでいた。
「……『八部衆』?」
何のこっちゃ?と首を捻っていると、ガコンッという鍵が降りた音が聞こえた。
「……また敵?」
「いや…。そんな事は無いと思うぞ。ボスを倒したから外に出れる……はず」
ソニアの手を握りながら、扉の前へ移動する。
「……開けるぞ?」
「うん……」
扉の取っ手をゆっくりと握ると、扉は眩しく光り出し俺達を包み込むのであった。
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そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!


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