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065話
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「いや、分からん。今まではどのくらいの深さだったんだ?」
「そうだな…。上は15階層、最低は5階層だったかな?王国最高の階層は17層だが、魔物が強すぎて最下層までは行ってはいない」
「ふーん…。なら、まずは5階層を目指す事にするか」
「お前が知っているダンジョンの深さはどれくらいだ?」
「んー…知っている範囲は999階層ぐらいだな。物にもよるけど、10下層で終わるダンジョンは無かったな」
「なっ?!き、きゅうひゃく??!なんだそれは!?一体何処のダンジョンだ?!」
「あー……。えーっと、俺が住んでた国にあったよ」
「なんと!!……流石は勇者の国。猛者どもが数多くいるんだな…」
……しまった。ついゲームの話をしてしまった。ほら、黄色い鳥のヤツとか侍のヤツとか好きだったからさ。あの記憶をそのまま話しちゃった…。
「あー…えーっと、うん、まぁ本当かどうか分かんないけどな。俺も又聞きだったし…」
「そう…なのか?しかし、噂になるという事はそれに近い確証があったのだろう…。凄いことだ…」
「まぁ、噂は噂だ。このダンジョンが深く無いことを祈るしか無いな」
「そうだな…。流石のアタシでも記録を超える深さだと思うと、身が縮むよ…」
「安心しろって。俺が守るから大丈夫さ」
……しかし、『制限付き』のダンジョンか。このパターンは初めてだな。という事は他にも知らないだけで、制限があったダンジョンが存在しているのかもしれないな。下手をすれば、階層毎に制限が変わるかも知れない。……考慮しておくべきだな。
食事の手を止め、無言になっているのを気付いたのかソニアがおずおずと話しかけてきた。
「あ、あのぅ…どうかしたの?アルス?」
「……ん?ああ、ただ考え事してただけだ」
「そう…?何を考えていたの?」
「? …ああ、このダンジョンで剣が使えない事を考えていたんだ。ソニア、他のダンジョンではこんな事あったのか?」
「…いや?覚えている限りではそんな事は書かれてなかったよ。……そう言われてみると奇妙な話だな」
「だろ?……もしかしたら、階層毎に制限が変わるかも知れないし、追加されるかも知れない。これからは、下層に降りる度に確認をしていこうと思う」
「アルスがそう思うならそうなのだろう。……しかし、剣が使えないとなるとアタシはお荷物になってしまうな…」
「そんな事ないさ。魔法だって使えるだろ?」
「使えるには使えるが…。そこまで覚えている訳でも無いからな。威力も宮廷魔導師達と比べれば弱い」
「あ、そうだ。この先何があるか分からないから、お前のステータス上げとかなきゃな」
「ステータス??」
「あー…つまりは武器や防具を変えるって事だ。ソニアは戦士タイプだよな?」
「よく分からんが、戦士と言えば戦士だな」
「弓矢とか使える?」
「試した事はあるが…あまり上手くは無いぞ?」
「……どうすっかなぁ。防御は必須として支援系も欲しいなぁ。……うーん」
リストを見ながらソニアに合いそうな武器や防具を探す。魔法は苦手と言っていたけど、剣以外からっきしっていうのは厳しいな…。
となると…やはり弓矢になりそうだな。ガチガチに防御を固めて弓矢に慣れていって貰うしか無いな。……ん?そういえばこれ試した事無いよな?
ソニアの装備を考えているとちょっとした閃きが生まれた。期待はしていないけど、成功したらかなり強化されるものだ。
「ソニア、ちょっとこれ装備出来るか試してくれないか?」
そう言ってソニアにある鎧を渡す。
「……重そうな鎧だな」
「まぁまぁ。とりあえず試してくれ」
鎧を受け取ったソニアはテントに潜り込む。……あ、俺達と違って時間掛かるんだったな。
衣擦れの音を聞きながらソニアが出てくるのを待つ。しばらくして、俺に似たような鎧を纏ってテントから出てくる。
「…着替え終わったぞ」
「違和感とかあるか?」
「いや、全く無い。むしろ、見た目以上に軽いという事が違和感を感じる」
「そうか。……ならさ、申し訳ないんだけど今度は鎧の下にコレを装備してくれないか?その上から鎧を纏ってくれ」
「…美しい服だな。最初からこれを渡してくれれば良かったのでは?」
「まぁ、俺にも考えがあるんだよ。とりあえず装備してみてくれ」
再びソニアはテントへ戻る。先程より衣擦れの音が顕著になり少しだけエロいです…。
リストを見ながら待っているとソニアが出てきた。服の上から鎧を装備している。…違和感は無さそうだし、成功のようだ。
「アルス、これは凄いな!こんなに着ているのに全く重さを感じないぞ!」
「ふむふむ。動きやすさはどうだ?」
「実に動きやすい。前の鎧よりもかなり軽快に動けるぞ!」
「ふーん…。なら、ちょっと実験に付き合ってくれ」
「実験…?」
「ああ。今から俺がこの小石を投げるから避けてみてくれ。……加減はするから安心しろ」
「……痛いのは勘弁してくれ」
「大丈夫。…ちょっとこっちに来てくれ」
ソニアを連れ、部屋の中央へ移動する。手にはピーナッツぐらいの小石を2個持ち、ソニアと距離を取る。
「行くぞー。直感を信じて避けてくれ」
ソニアは俺の右手を注視している。気付かれないように左にも準備をしながら右手の小石をソニアへと飛ばす。
「---ッ!よし!!避けれたぞ!!」
「おお!流石ソニア。素晴らしい回避行動だった--
褒めながら顔に向けて小石を飛ばす。ソニアが気付いた時にはもう発射された後だった。---しかし、普通なら手遅れのはずがソニアはいとも簡単に小石を避けた。
「????」
ソニアは全く気付いて無いようだ。しかし、俺にとってこの実験は大成功であった。
ソニアに最初に渡した鎧は『海神の鎧』という守備に特化した鎧である。ただ、素早さがかなり落ちるため回避が難しくなる。そこで、『みかわしの服』をインナーとして装備出来ないかと考えた。俺達はインナーとして装備する事は出来ない。しかし、ソニアのようなシステムに縛られない人がやるとどうなるか?という実験だった。
実験は成功。性能もしっかりと機能しているようだし、あとは実戦で確認するのみだな。
1人納得していると、ソニアが腑に落ちない表情で尋ねてきた。
「アルス…今アタシが避けれたのはこの鎧のお陰なのか?」
「その鎧というか、服の性能かな?その服は素早さも向上するんだけど、『回避性能』も付いているんだ。視認出来る範囲ならある程度避ける事は出来るんじゃないかな?」
「なんだと!?そんな防具があるのか?!」
「そういうやつなら持ってるよ。けど、ソニアみたいに重ね着する事は出来ないんだよなぁ…」
「そうなのか?」
「俺が着ている鎧の下は、ただの下着さ。あー……相性とかがあるんだろうなぁ…」
あぶねっ!うっかり口を滑らせそうになったぜ…。なんでなんで?って聞かれたら上手く答えられないからな。マジ気をつけなきゃ…。
1人焦っていたが、ソニアは特に何も気付いていなかった。それよりも、今装備している鎧がとても着心地が良いらしく、売ってくれという始末だ。王女が着るには少し不恰好な気がするのだが、とりあえずダンジョンにいる間は貸すことにした。別に必要無いからあげてもいいんだけどね。
装備が出来る事を確認したので、今度は弓矢と盾を渡しておく。盾は背中に掛けることが出来るタイプで『チャージアタック』というスキルも使用出来る。単純に盾を構えて体当たりするスキルだが、防御力が高いほどダメージを与えるので今のソニアには大助かりなスキルなはず。ただ、俺達みたいに使えるかどうかは分からないので、やり方だけ教えておいた。
あと弓矢に関してだが、これは殆ど初心者用の弓矢である。ただ狙って撃つだけだが、補正値として照準を合わせ易い性能になっている。使いこなせるかどうかは知らん。
「……とまぁ、以上になるな。保険として『回復薬』、『魔力回復薬』、『能力向上薬』を2本ずつ渡しておく。盾の後ろ側にポケットがあるはずだから、そこに入れておけば大丈夫かな?説明は終わるけど、質問あるか?」
「…特には無いな。実戦あるのみという事なんだろう?」
「まぁな。俺と模擬戦とかしても良いかも知れないけど、差があり過ぎるからな。まだ魔物と戦った方が覚えやすいかもしれない」
「まぁ、アタシは後衛になるみたいだし頑張ってみるよ。……それにアルスが守ってくれるんでしょ?」
「8割程はね。頑張りたいところだけど、どうなるか分からんからなぁ…」
「ふふっ。そこは任せろって言って欲しい場面なのだがな。…よし、ならば今日はここまでにしよう。習うより慣れろと言うしな」
「だな。それに明日からはハードになると思うからしっかり休息は取っておけよ。あ、水も渡しておく。喉が渇いたら飲むように」
「ふふ、お前は親か何かか?……では、先に休むとしよう。おやすみアルス」
「ああ、おやすみソニア」
ソニアはテントへと戻っていくのを確認した後、火の始末をする。それからフロアに結界を念入りに展開しておき、俺もテントへと入るのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「---ふぅー。やっと見つけたな」
「あぁ…。しかし、段々敵の強さが上がってきた気がするね」
「でも、まだそこまでって感じでは無いだろ?そろそろ弓矢にも慣れてきただろうし」
「お陰様でな。…ったく、アルスがスパルタなどと思いもしなかったなぁー」
「まだまだ軽い方だぞ?お前んとこの兵士はもっとキツイ訓練してたからな」
「……まさに鬼軍曹だね」
「さぁて、後は降りるだけだが…ここで初日みたいに野営しておくか?」
「……今何階層だったか?」
「今は9。次で10階層だな」
「ならばここで野営しておこっか。……はぁー。今日で野営は何日目?」
「そんくらい覚えておけよ…今日で10日目だぞ」
「10日か…。お姉ちゃん心配しているだろうなぁ…」
「そうだなぁ…。チカ達も荒れ狂ってそうだよ…」
「愛されているもんね、アルスは」
「愛されてなんかいねーよ。あいつらはただ俺に忠誠を誓ってるだけだ」
「…そうかな?違う気がするけどね」
俺達がダンジョンに飛ばされてから10日目。実際はどのくらい時間が経っているのかは分からない。ただ、テントで寝て起きてをカウントしていくと10回ということになっている。
10日間も共に過ごしていると、会話がかなり噛み砕いたものとなっている。ソニアの喋り方を見れば分かると思うが、この喋り方がソニアの素らしい。
男勝りの喋り方をする理由は、『王女だから』という事でチヤホヤされたくなかったから。剣の実力もあったのだが、王女だからという理由で戦場に連れていってもらえなかったらしい。苦肉の策で短髪にし、男勝りの口調で兵士達と訓練をしていき、周囲に認められて戦場に行けるようになったとか。そして、数々の武功を挙げて付いた二つ名が『宝石の戦乙女』との事。
正直、二つ名を聞いた時爆笑してソニアにチャージアタックを喰らってしまった。ダメージは入らなかったのだが、反動で壁にめり込んでしまった。俺じゃなかったら間違いなく致命傷だっただろうな…。
最初は口調が崩れたことを隠していたようだが、5、6日の時点で素の口調で話すようになった。取り繕う事に疲れたのか、ダンジョンから出られない事による精神不安定の所為なのかは分からない。俺が冷静でいられたのは、ソニアを護らなければならないという責任感のお陰だった。
その日からソニアは1人で寝る事を拒んだ。正確に言えば、別々に寝ていても知らず知らずのうちに俺のテントに勝手に入ってくるようになった。『添い寝』というのではなく、ただ同じテントで寝るという事だ。……それに、添い寝なんかしたら後々が怖い気がする。
「---ルス、アルス!」
ふいにソニアが声をかけている事に気がついた。遠慮がちにだが、肩も揺らしていた。
「…あぁ、すまん。ちょっとボーってしてた」
「疲れたの?今日は早めに寝とく?」
「疲れては無いよ。……早く最下層に着かないかなーって考えてた」
「…そうだねぇ。10階層ぐらいで終わりになってくれれば嬉しいんだけどね」
「キリも良いし、ちょっと期待しちゃうよなぁ。…さ、さっさと飯食って寝るとするか」
「さんせー!!今日は何を作ってくれるのー??」
「安定の焼肉だよ。もう野菜は無くなったからな」
「……そろそろ違うの食べたいんですけど」
「無茶言うな!魔物からも肉しか剥ぎ取れないし、お前がそこら辺に生えてるキノコは絶対食べたくないって言ったからだろ!」
「てへっ」
「……はぁ。外に出たら美味いもん食べに行こうな」
「……それはアタシと2人っきりで?」
「皆でだよ!王女と2人っきりとか外野が煩そうだしな」
「…アタシは2人だけでもいいんだけどなー」
「王城でなら良いんじゃないか?街で食べるとなると、流石に無理だろうし…」
「そうだね!確かにウチなら大丈夫そうだね!」
「あー……早く外に出て酒飲みたい」
話を終え、食事の準備に取り掛かる。金網の代わりに3日目に倒した亀みたいな魔物の甲羅を使用している。これがとても便利で、裏返せばスープを作る鍋にもなるし表の部分は鉄板の代わりになる。投げてダメージを与える事も出来るので、良い拾い物をしたと喜んだ。
パチパチ、ジュージューと肉が焼ける音を聞きながら明日の予定について話し合う。……とは言っても初日に話した内容の繰り返しである。ただ、明日には10階層。もしかしたら出口があるかもしれない…と希望が出てきた為、外に出たら何をしたいか、何をするかと妄想で盛り上がっていた。あーだこーだと花を咲かせているとソニアが不意にあくびを漏らした。
「…そろそろ寝るとするか」
「あひゃひまら眠くないよ!」
「なんだって??…ま、いいや。寝るぞ」
「ちぇーっ。わかったぁー」
火の始末を終えると、さも当然のようにソニアは俺が寝るテントに入ってきた。一応、ソニアの分も出しているのだがもはや入るつもりは無いようだ。無論、追い出す事もしない。何故なら聞きゃしないからね。
「おやすみアルス!」
「はい、おやすみ」
明日には終わりが見えるかも、という淡い希望を持ちながら眠りにつくのであった。
「そうだな…。上は15階層、最低は5階層だったかな?王国最高の階層は17層だが、魔物が強すぎて最下層までは行ってはいない」
「ふーん…。なら、まずは5階層を目指す事にするか」
「お前が知っているダンジョンの深さはどれくらいだ?」
「んー…知っている範囲は999階層ぐらいだな。物にもよるけど、10下層で終わるダンジョンは無かったな」
「なっ?!き、きゅうひゃく??!なんだそれは!?一体何処のダンジョンだ?!」
「あー……。えーっと、俺が住んでた国にあったよ」
「なんと!!……流石は勇者の国。猛者どもが数多くいるんだな…」
……しまった。ついゲームの話をしてしまった。ほら、黄色い鳥のヤツとか侍のヤツとか好きだったからさ。あの記憶をそのまま話しちゃった…。
「あー…えーっと、うん、まぁ本当かどうか分かんないけどな。俺も又聞きだったし…」
「そう…なのか?しかし、噂になるという事はそれに近い確証があったのだろう…。凄いことだ…」
「まぁ、噂は噂だ。このダンジョンが深く無いことを祈るしか無いな」
「そうだな…。流石のアタシでも記録を超える深さだと思うと、身が縮むよ…」
「安心しろって。俺が守るから大丈夫さ」
……しかし、『制限付き』のダンジョンか。このパターンは初めてだな。という事は他にも知らないだけで、制限があったダンジョンが存在しているのかもしれないな。下手をすれば、階層毎に制限が変わるかも知れない。……考慮しておくべきだな。
食事の手を止め、無言になっているのを気付いたのかソニアがおずおずと話しかけてきた。
「あ、あのぅ…どうかしたの?アルス?」
「……ん?ああ、ただ考え事してただけだ」
「そう…?何を考えていたの?」
「? …ああ、このダンジョンで剣が使えない事を考えていたんだ。ソニア、他のダンジョンではこんな事あったのか?」
「…いや?覚えている限りではそんな事は書かれてなかったよ。……そう言われてみると奇妙な話だな」
「だろ?……もしかしたら、階層毎に制限が変わるかも知れないし、追加されるかも知れない。これからは、下層に降りる度に確認をしていこうと思う」
「アルスがそう思うならそうなのだろう。……しかし、剣が使えないとなるとアタシはお荷物になってしまうな…」
「そんな事ないさ。魔法だって使えるだろ?」
「使えるには使えるが…。そこまで覚えている訳でも無いからな。威力も宮廷魔導師達と比べれば弱い」
「あ、そうだ。この先何があるか分からないから、お前のステータス上げとかなきゃな」
「ステータス??」
「あー…つまりは武器や防具を変えるって事だ。ソニアは戦士タイプだよな?」
「よく分からんが、戦士と言えば戦士だな」
「弓矢とか使える?」
「試した事はあるが…あまり上手くは無いぞ?」
「……どうすっかなぁ。防御は必須として支援系も欲しいなぁ。……うーん」
リストを見ながらソニアに合いそうな武器や防具を探す。魔法は苦手と言っていたけど、剣以外からっきしっていうのは厳しいな…。
となると…やはり弓矢になりそうだな。ガチガチに防御を固めて弓矢に慣れていって貰うしか無いな。……ん?そういえばこれ試した事無いよな?
ソニアの装備を考えているとちょっとした閃きが生まれた。期待はしていないけど、成功したらかなり強化されるものだ。
「ソニア、ちょっとこれ装備出来るか試してくれないか?」
そう言ってソニアにある鎧を渡す。
「……重そうな鎧だな」
「まぁまぁ。とりあえず試してくれ」
鎧を受け取ったソニアはテントに潜り込む。……あ、俺達と違って時間掛かるんだったな。
衣擦れの音を聞きながらソニアが出てくるのを待つ。しばらくして、俺に似たような鎧を纏ってテントから出てくる。
「…着替え終わったぞ」
「違和感とかあるか?」
「いや、全く無い。むしろ、見た目以上に軽いという事が違和感を感じる」
「そうか。……ならさ、申し訳ないんだけど今度は鎧の下にコレを装備してくれないか?その上から鎧を纏ってくれ」
「…美しい服だな。最初からこれを渡してくれれば良かったのでは?」
「まぁ、俺にも考えがあるんだよ。とりあえず装備してみてくれ」
再びソニアはテントへ戻る。先程より衣擦れの音が顕著になり少しだけエロいです…。
リストを見ながら待っているとソニアが出てきた。服の上から鎧を装備している。…違和感は無さそうだし、成功のようだ。
「アルス、これは凄いな!こんなに着ているのに全く重さを感じないぞ!」
「ふむふむ。動きやすさはどうだ?」
「実に動きやすい。前の鎧よりもかなり軽快に動けるぞ!」
「ふーん…。なら、ちょっと実験に付き合ってくれ」
「実験…?」
「ああ。今から俺がこの小石を投げるから避けてみてくれ。……加減はするから安心しろ」
「……痛いのは勘弁してくれ」
「大丈夫。…ちょっとこっちに来てくれ」
ソニアを連れ、部屋の中央へ移動する。手にはピーナッツぐらいの小石を2個持ち、ソニアと距離を取る。
「行くぞー。直感を信じて避けてくれ」
ソニアは俺の右手を注視している。気付かれないように左にも準備をしながら右手の小石をソニアへと飛ばす。
「---ッ!よし!!避けれたぞ!!」
「おお!流石ソニア。素晴らしい回避行動だった--
褒めながら顔に向けて小石を飛ばす。ソニアが気付いた時にはもう発射された後だった。---しかし、普通なら手遅れのはずがソニアはいとも簡単に小石を避けた。
「????」
ソニアは全く気付いて無いようだ。しかし、俺にとってこの実験は大成功であった。
ソニアに最初に渡した鎧は『海神の鎧』という守備に特化した鎧である。ただ、素早さがかなり落ちるため回避が難しくなる。そこで、『みかわしの服』をインナーとして装備出来ないかと考えた。俺達はインナーとして装備する事は出来ない。しかし、ソニアのようなシステムに縛られない人がやるとどうなるか?という実験だった。
実験は成功。性能もしっかりと機能しているようだし、あとは実戦で確認するのみだな。
1人納得していると、ソニアが腑に落ちない表情で尋ねてきた。
「アルス…今アタシが避けれたのはこの鎧のお陰なのか?」
「その鎧というか、服の性能かな?その服は素早さも向上するんだけど、『回避性能』も付いているんだ。視認出来る範囲ならある程度避ける事は出来るんじゃないかな?」
「なんだと!?そんな防具があるのか?!」
「そういうやつなら持ってるよ。けど、ソニアみたいに重ね着する事は出来ないんだよなぁ…」
「そうなのか?」
「俺が着ている鎧の下は、ただの下着さ。あー……相性とかがあるんだろうなぁ…」
あぶねっ!うっかり口を滑らせそうになったぜ…。なんでなんで?って聞かれたら上手く答えられないからな。マジ気をつけなきゃ…。
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あと弓矢に関してだが、これは殆ど初心者用の弓矢である。ただ狙って撃つだけだが、補正値として照準を合わせ易い性能になっている。使いこなせるかどうかは知らん。
「……とまぁ、以上になるな。保険として『回復薬』、『魔力回復薬』、『能力向上薬』を2本ずつ渡しておく。盾の後ろ側にポケットがあるはずだから、そこに入れておけば大丈夫かな?説明は終わるけど、質問あるか?」
「…特には無いな。実戦あるのみという事なんだろう?」
「まぁな。俺と模擬戦とかしても良いかも知れないけど、差があり過ぎるからな。まだ魔物と戦った方が覚えやすいかもしれない」
「まぁ、アタシは後衛になるみたいだし頑張ってみるよ。……それにアルスが守ってくれるんでしょ?」
「8割程はね。頑張りたいところだけど、どうなるか分からんからなぁ…」
「ふふっ。そこは任せろって言って欲しい場面なのだがな。…よし、ならば今日はここまでにしよう。習うより慣れろと言うしな」
「だな。それに明日からはハードになると思うからしっかり休息は取っておけよ。あ、水も渡しておく。喉が渇いたら飲むように」
「ふふ、お前は親か何かか?……では、先に休むとしよう。おやすみアルス」
「ああ、おやすみソニア」
ソニアはテントへと戻っていくのを確認した後、火の始末をする。それからフロアに結界を念入りに展開しておき、俺もテントへと入るのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「---ふぅー。やっと見つけたな」
「あぁ…。しかし、段々敵の強さが上がってきた気がするね」
「でも、まだそこまでって感じでは無いだろ?そろそろ弓矢にも慣れてきただろうし」
「お陰様でな。…ったく、アルスがスパルタなどと思いもしなかったなぁー」
「まだまだ軽い方だぞ?お前んとこの兵士はもっとキツイ訓練してたからな」
「……まさに鬼軍曹だね」
「さぁて、後は降りるだけだが…ここで初日みたいに野営しておくか?」
「……今何階層だったか?」
「今は9。次で10階層だな」
「ならばここで野営しておこっか。……はぁー。今日で野営は何日目?」
「そんくらい覚えておけよ…今日で10日目だぞ」
「10日か…。お姉ちゃん心配しているだろうなぁ…」
「そうだなぁ…。チカ達も荒れ狂ってそうだよ…」
「愛されているもんね、アルスは」
「愛されてなんかいねーよ。あいつらはただ俺に忠誠を誓ってるだけだ」
「…そうかな?違う気がするけどね」
俺達がダンジョンに飛ばされてから10日目。実際はどのくらい時間が経っているのかは分からない。ただ、テントで寝て起きてをカウントしていくと10回ということになっている。
10日間も共に過ごしていると、会話がかなり噛み砕いたものとなっている。ソニアの喋り方を見れば分かると思うが、この喋り方がソニアの素らしい。
男勝りの喋り方をする理由は、『王女だから』という事でチヤホヤされたくなかったから。剣の実力もあったのだが、王女だからという理由で戦場に連れていってもらえなかったらしい。苦肉の策で短髪にし、男勝りの口調で兵士達と訓練をしていき、周囲に認められて戦場に行けるようになったとか。そして、数々の武功を挙げて付いた二つ名が『宝石の戦乙女』との事。
正直、二つ名を聞いた時爆笑してソニアにチャージアタックを喰らってしまった。ダメージは入らなかったのだが、反動で壁にめり込んでしまった。俺じゃなかったら間違いなく致命傷だっただろうな…。
最初は口調が崩れたことを隠していたようだが、5、6日の時点で素の口調で話すようになった。取り繕う事に疲れたのか、ダンジョンから出られない事による精神不安定の所為なのかは分からない。俺が冷静でいられたのは、ソニアを護らなければならないという責任感のお陰だった。
その日からソニアは1人で寝る事を拒んだ。正確に言えば、別々に寝ていても知らず知らずのうちに俺のテントに勝手に入ってくるようになった。『添い寝』というのではなく、ただ同じテントで寝るという事だ。……それに、添い寝なんかしたら後々が怖い気がする。
「---ルス、アルス!」
ふいにソニアが声をかけている事に気がついた。遠慮がちにだが、肩も揺らしていた。
「…あぁ、すまん。ちょっとボーってしてた」
「疲れたの?今日は早めに寝とく?」
「疲れては無いよ。……早く最下層に着かないかなーって考えてた」
「…そうだねぇ。10階層ぐらいで終わりになってくれれば嬉しいんだけどね」
「キリも良いし、ちょっと期待しちゃうよなぁ。…さ、さっさと飯食って寝るとするか」
「さんせー!!今日は何を作ってくれるのー??」
「安定の焼肉だよ。もう野菜は無くなったからな」
「……そろそろ違うの食べたいんですけど」
「無茶言うな!魔物からも肉しか剥ぎ取れないし、お前がそこら辺に生えてるキノコは絶対食べたくないって言ったからだろ!」
「てへっ」
「……はぁ。外に出たら美味いもん食べに行こうな」
「……それはアタシと2人っきりで?」
「皆でだよ!王女と2人っきりとか外野が煩そうだしな」
「…アタシは2人だけでもいいんだけどなー」
「王城でなら良いんじゃないか?街で食べるとなると、流石に無理だろうし…」
「そうだね!確かにウチなら大丈夫そうだね!」
「あー……早く外に出て酒飲みたい」
話を終え、食事の準備に取り掛かる。金網の代わりに3日目に倒した亀みたいな魔物の甲羅を使用している。これがとても便利で、裏返せばスープを作る鍋にもなるし表の部分は鉄板の代わりになる。投げてダメージを与える事も出来るので、良い拾い物をしたと喜んだ。
パチパチ、ジュージューと肉が焼ける音を聞きながら明日の予定について話し合う。……とは言っても初日に話した内容の繰り返しである。ただ、明日には10階層。もしかしたら出口があるかもしれない…と希望が出てきた為、外に出たら何をしたいか、何をするかと妄想で盛り上がっていた。あーだこーだと花を咲かせているとソニアが不意にあくびを漏らした。
「…そろそろ寝るとするか」
「あひゃひまら眠くないよ!」
「なんだって??…ま、いいや。寝るぞ」
「ちぇーっ。わかったぁー」
火の始末を終えると、さも当然のようにソニアは俺が寝るテントに入ってきた。一応、ソニアの分も出しているのだがもはや入るつもりは無いようだ。無論、追い出す事もしない。何故なら聞きゃしないからね。
「おやすみアルス!」
「はい、おやすみ」
明日には終わりが見えるかも、という淡い希望を持ちながら眠りにつくのであった。
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そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

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