放置ゲー廃課金者、転生する!

にがよもぎ

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064話

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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「ソニア!下がれ!!」

「--ックソ!!」

回し蹴りを使用し魔物を蹴散らす。首、臓物、手足が千切れながらも、魔物達の数に変化は無い。

「何でこんなに多いんだよっ!!」

「アルス!!上ッ!!」

「---ウラァッ!!!」

襲いかかって来た魔物の頭を弾き飛ばす。返り血を浴びるが気にしている暇はない。

「ソニア!俺ごと巻き込んで魔法を放て!!」

「---『フレアウェーブ』!!」

後方から炎の波が押し寄せる。その炎を利用し、再び回し蹴りを放つ。炎に焼かれ炭となった魔物がボロボロと砕かれ、その場に残る。

「後3発は欲しい!出来るか!?」

「任せろ!!」

俺にダメージが無いと分かって、ソニアは全力でぶっ放してくる。それは別に良いんだけど、魔力量は少なめの魔法を使って欲しいんだがなぁ…。

「--つーか!!お前ら邪魔なんだよおおおおお!!」

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「--ハァ、ハァ…。アルス、大丈夫か?」

「おう、余裕だ。…ソニアこそ大丈夫か?」

「ふぅ、…ふぅ…。……少し魔力を使い過ぎた様だ」

「だろうな。…ほれ、これでも飲んで少し休憩するぞ」

ソニアに『キャラメルマキアート』を投げ渡す。体力は微量回復し、魔力は30%回復するアイテムだ。

「助かる。---ふぅ、少し甘いが美味しいな」

「腹が減ったら言えよ?…っていっても、お菓子ぐらいしか無いけど」

「いや、大丈夫だ。食料はなるべく消費しない方がいいだろう」

「……そうだなぁ。どこまで続いてるか分からねーし」

「全くだ。……それにしても、ここは本当にどこなんだろうな」

開けた場所の片隅で休息しながら通路に目を向ける。俺達が今いるところは、四方に通路があり周囲は堅い石で囲まれている。

「……そうだなぁ。『ダンジョン』みたいな所じゃねーのか?」

「これがダンジョンなのか?……アタシも初めて入るから分からん…」

「本とか報告書に特徴書いてなかったのか?目は通してたんだろ?」

「ああ。だが、どれもこれも内部は違うみたいだ。この様な石に囲まれている通路があれば、土で出来た洞窟。草木が生い茂った通路や、水が流れる場所など様々だ。共通していたのは、魔物がかなり多いという事と『階段』があるそうだ」

「……まんまダンジョンじゃねーか」

「アルスはダンジョンに潜った事があるんじゃ無いのか?」

「…あると言えばあるのかな?」

「ならば、アルスがここをダンジョンというのならダンジョンなのだろう。……しかし、何故アタシ達はダンジョンにいるのだろうな?」

「そりゃあ…あの星型のヤツのせいじゃねーか?アレが光ったと思ったら、いつのまにかここに居たし」

「そうだな…。アレは一体何だったんだろうな…」

「…ま、分からねーもんは分からねー。とりあえず、出口を探すのが先だろ?」

「それはそうだが…。しかし、お前は凄く落ち着いているな」

「落ち着いてるっつーか、考えるのが面倒なだけだよ。…それに、ほら。俺強いし?」

「ふふっ…そうだな。お前と一緒だったのは幸運だったな。アルスが居れば、アタシは死ぬ事は無いだろうし」

「魔物の脅威からは守れるけど、それ以外は信用すんなよ?」

「男なら『命がけで守る』と言ったらどうだ?」

「はっ。そんな言わなくても俺はそうするつもりだよぜ?……俺の目が届く所では誰も死なせないさ」

「ふふっ…」

会話の後にはソニアが飲み物を啜る音しか聞こえない。ソニアも連続で魔法を使っていたので、少し疲れているみたいだ。

「俺が見張りしとくから、少し仮眠しておけ」

「いや、大丈夫だ。アタシは--
「無理されてもこっちが困るんだよ。いーから、少し寝とけって」

ソニアに布切れを投げ渡し、無理矢理休ませる。何か言いたそうな雰囲気であったが、俺の考えが変わらない事を悟ってかそのまま瞼を閉じた。

「……さて、今の状況を整理するか」


眩しい光を感じた後、俺とソニアは石造りの行き止まりに居た。何が起きたか分からないままに、魔物達の襲撃を受けた。戦いながら思った事は、今までに戦ったことのない種類の魔物であったという事。

デカイ蟷螂や、大蝙蝠。毛むくじゃらの猿みたいな魔物、二足歩行だが手が3本もあるよく分からない魔物。その他にも居たのだが、それぞれ共通して言えることは無駄にタフだった。下半身が弾け飛んでも上半身は動いているし、襲ってくる。首を跳ねても体は元気と、まるでゾンビゲームの様であった。

あと、最初に気付いたのだがここでは何故か『剣』が使用出来ない。腰にぶら下がってはいるのだが、抜く事が出来なかった。襲撃を受けた際、迎撃しようとした時に抜けない事に慌てていたが、ソニアが魔法を魔物にぶっ放した。それで魔法が使えると分かり、とりあえずは魔法主体で戦っていった。

ソニアもそれに気付いた様で、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。魔法はあまり得意では無いと前に言っていたので、瞬間的に自分の役割を考えたのだろう。

それから通路を辿り、マーキングなんぞ考えもしなかった俺達は適当に通路を進んでいった。ちょこちょことジョブを変えながら戦っていると、戦士系統のジョブは使えない事が分かった。剣技スキルも不可で、魔法あるいは体技のみ使用可能であった。

あと、重大な事も発覚した。それは、ここでは転移は出来ないという事。ソニアが持っている転移結晶も同様で使用しても俺達は外に出る事は無かった。もちろん、その時に課金アイテムも使用したのだが同様であった。…つまり、出口を探すまでは出られないという事だ。

うろうろと道を彷徨っていると、開けた場所に入った途端魔物の大群がそこにいた。ソニアがあまりの多さに硬直し動けなくなってしまったので、仕方なく抱き抱え後方が安全な所へと逃げる事が出来た。そのまま蹴散らしながら進み、落ち着いたソニアが戦線に復帰して今に至るという事だ。

「……やっぱりここはダンジョンだろうな。さっきのは多分…モンスターハウスだろ」

某商人の冒険をプレイしていた時の記憶が蘇る。BGMもいきなり変わるし、幼い時にはマジで恐怖だったよ…。

仮にここがダンジョンだとしたら、罠がある可能性を考慮しなければならない。落とし穴とかの類でも、ゲームの世界ではショボいダメージで済むが、現実はヤバいだろうし…特に地雷とかな。今でこそ思うが、普通の人間が地雷踏んで五体満足で居られるわけねーだろ!!

「はぁー……。ゲームの世界を体験するとこんなにもドキドキするんだな…。ゲームの主人公ってすげぇわ…」

それから暫くはひたすら考え事に没頭していた。まず、すべき事は出口を探す事。ってのは当たり前なので、ここを拠点にしつつフロアを探索するしかない。出口が見つかれば良し、その階段とやらが見つかれば、それはその時に考える。…あとはソニアの安全だな。王女だし、死なせたりしたらマジでヤバいどころの騒ぎじゃ済まないだろうし…。

意外とやる事あるんだなーとか、考えていると通路の奥から石が跳ね返る音と足音が聞こえた。

すぐに結界を貼り、息を殺してその場に待機する。バレる事は無いとは思うが用心の為戦える準備はしておく。

息がつまる様な時間。現実には1分も経っていないだろうが、俺には10分程に感じた。その足音はこちらから遠ざかっていき、完全に聞こえなくなると安堵の溜息をつく。

「…………ふぅー。俺1人だったら出来るんだけどなぁ」

ソニアを見ながら小さく呟く。別に嫌味とかそんな気持ちで言ったわけではないが、ほんのちょっとだけお荷物だなと感じていたのは事実だ。



---やがて、ソニアがゆっくりと目を覚ます。脳味噌が覚醒するとともに、慌てて周囲を警戒する。

「お?目が覚めたか?」

「…アルスか。すまない、完全に寝ていた様だ」

「ぐっすり眠れたか?」

「……まあまあ寝れた様だ。アタシはどのくらい寝ていたのだ?」

「うーん…2、3時間くらいかな?」

「なっ!?そんなに寝ていたのか!?」

「それほど疲れていたんだろ?まー、休むまでひたすら戦闘だったからしょうがねーよ」

「次はアタシが見張りをしよう。アルスも少し仮眠を取れ」

「俺はいいよ。そこまで疲れてないし」

「しかし…」

「それにお前に見張りとか、そんなあぶねー事させられねーよ」

「そうか…」

「さて、もうちょいしたら探索するぞ。俺の考えがあっていれば階段が見つかるはずだ」

「……それはダンジョンという事か?」

「多分な。確証は持てないけど、今のところはそう思ってる。これで、階段が見つかれば確定だ」

「そうか。…ならば、すぐ探すとしよう」

「まぁ、待てよ。とりあえず、その飲み物を飲み終わってからにしよーぜ」

意気揚々に立ち上がったソニアだったが、渋々座り飲み物を飲む。甘い味が心地良かったのか、ソニアの表情が軽くなった。

……よかった。あのままのテンションで探索したらすぐ根をあげるだろうし、空回りしそうだったんだよなぁ…。

そんな思惑があったとはつゆ知らず、ソニアはゆっくりと飲み物を飲むのであった。

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「はい、こっちも駄目でしたー」

三叉路の足元に大きく印を付ける。剣が使えないため、足でバツを刻むだけだが。

「はぁ…。これで粗方探索はしたと思うのだがな…」

休憩を終え、俺達はしらみつぶしに通路を歩きまくった。広間の様な場所に出たり、罠があったりと俺の中でのダンジョン説は確信を持ちつつあった。

「そうだなー。あとは隠し部屋とかあるかもしれんなぁ…」

「隠し部屋だと?それはどうやって見分けるのだ?」

「壁叩いたりとかかな…?」

「壁か…。叩きながらもう一度歩くか?」

「…いや、やめておこう。それだと罠に引っかかるかも知れない」

「……さっきの落とし穴とかだな。あの時は本当に死ぬかと思ったよ…」

三叉路を探索中、ソニアが何かを踏んで落ちそうになった。その時はたまたま密着するぐらい側にいたので、すぐに手を引っ張ることができた。

「離れるのは危険って分かったし、予防とは行かないまでも命綱を付けたからな」

俺とソニアの腰にはロープが巻かれている。落とし穴に引っかかった場合は、すぐさま片方が反応出来る様にだ。……まぁ、俺は大丈夫だとしてソニアはさっきから罠に引っかかってるからな。それはもう、ドジっ子ですか?と言わんばかりに。

「うぅ…アタシのせいで迷惑をかける…」

「なぁーに、別に気にしちゃいないさ。…ただ、無闇矢鱈に触んなよ?矢がいきなり飛んできた時は焦ったぞ」

そこに出っ張りがあるから避けろよ?と先に言ったにも関わらず、ソニアはその出っ張りを踏んづけた。その瞬間に矢が飛んで来たので慌てて白刃どりしたのであった。

「……本当にごめんね…」

「いいってば。……さて、残すはこの分かれ道だけだが…どっちに進む?」

「アルスに任せる…」

「んじゃ、右で。もし無かったら戻って左側を探索。階段が無かったら……落とし穴に入るかな」

「お、落とし穴に入るのか?!……死ぬかも知れないんだぞ!?」

「だって…隠し部屋を探すってなったら時間めちゃくちゃかかるぞ?」

「その方が安全ではないか!?死ぬかも知れないよりはマシだろう!」

「うーん…確かに深い落とし穴なのかわからんもんなぁ。なら、どっちも探して無かったら隠し部屋を探そうか」

「そうしよう。うん、その方が絶対良いよ!」

「…………さっきからずーっと思ってたんだけどさ、聞いてもいい?」

「ん?なんだ?」

「いや、さっきからちょくちょく口調が違うというか…。男勝りな喋り方が崩れている様に感じるんだけど…」

「む?そんな事は無いぞ?」

「…あそ。ならいいんだけど…」

長い通路を用心しながら進むと、少し開けた場所に出た。ぐるりと見渡すと、壁側にポッカリと穴が開いているのに気付いた。

「お、アレかな?」

スタスタと進んでいくと、壁側には階段があった。残念ながら、その階段は下り専門ではあったが。

「…これが階段か。下りしかないようだが、登りは無いのか?」

「…俺が知っているダンジョンだと、最下層まで行かないと登りの階段が出現しないと思うなぁ」

「……どういう事だ?」

「いや、俺が知っているダンジョンは最下層に辿り着くか、ボスを倒すかしないと出れない仕様なはず」

「……それは!?そんなダンジョンがあるのか?!」

「あくまでも想像だけどね。…まぁ、下りしか見かけなかったって事はひたすら降りるしか道は無いな」

階段を覗き込むと、灯などの親切心は無く、ただの暗闇が待機している。微かに声が聞こえる事から下にも魔物がいるのだろう。

「さて、どうする?このまま降りてある程度探索してから休憩するか、一旦此処で休憩するか、どっちがいい?」

「……ここで休憩しないか?アタシは少し疲れた」

「ん。なら、ここでとりあえず休憩な。都合のいい事に此処は一方通行だし、結界を張っておくか」

「…何か手伝える事は無いか?」

「んー…なら、火を起こしておいて。枯れ木が落ちてるし此処で食事も取ろう」

「火など焚いては不味くないか…?」

「飯食うぐらいの時間なら大丈夫じゃね?…それに休憩って言ったけど、一旦野営した方が良さそうだしな…」

「や、野営!?魔物が攻めて来たらどうする!!」

「だーかーら、結界張るから大丈夫だって。俺より弱い魔物は入れないようにしておくし、気付かれないようにもしとくから大丈夫だよ」

「…アタシなら大丈夫だ!少し休むだけで充分だ!」

「……その顔でよく言えるな。まぁ、四六時中気を張ってたんだから、疲れて当然か。……よし、今日はここで野営!!決定!!」

ソニアは何か言いたそうだったが、有無を言わせず今日はここで野営をする事にした。岩や土などが剥き出しとなっている地面を掃除し、寝床を確保する。ダメ元でテントを出せるか確認すると無事に使えた。テントでゆっくりと寝れると思うと、気持ち的に楽になれた。

ソニアは、手際良く焚き火の準備をしていた。しかし、俺がテントを取り出すと上ずった声で尋ねてきた。

「ア、アルス?!もしかして、それに今日は寝るのか!?」

「はぁ?当たり前だろ?こんな汚い地面に寝れるかよ!」

「そそそそそれは、そうなのだが…」

「ほら、これはお前の分。コテージ程では無いけど、1人で寝るには十分な広さだぞ」

「…アタシ1人で寝るのか?」

「は?そうに決まってんだろ??」

「ア、アタシはてっきり2人で寝るものかと…」

「いやいやいや。流石に王女と2人っきりで寝るとか無理に決まってんだろ?」

「…そ、そうか」

「? なんだその表情は?…もしかして、テントは嫌だった??」

「…ふぅー。いや、大丈夫だ。……うん、十分な広さだな」

テントを覗き込みながらソニアは1人頷いていた。ソニアが使うテントの近くにもう1つ取り出し、調理に取り掛かる。リストを見ると、食料はあまり十分な量を揃えてない。ダンジョンにどれだけ滞在するのかが分からないので、最悪の場合魔物を狩りながら肉を調達するかもしれない。

「…ソニア、俺が持っている食料の量が多めに見積もって1ヶ月分しか無い。ダンジョン内の魔物の肉を調達しなきゃならないかもしれないけど、そうなっても良いか?」

「うむ、食料は重要だからな。まぁ、食べれそうな物にしてくれるとありがたい」

「そこら辺は大丈夫。ジョブで変えて判断していくから」

ソニアと喋りながら調理を始める。ここで問題が起きたのだが、俺が作る料理は大人数用という事。つまりは、チカ達を含めた量になるという事だった。試行錯誤して、2人分になるようにシステムを変え無事に作り終える事が出来た。

「……なぁ、アルス。お前はこのダンジョンがどこまで深いか分かるか?」
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