放置ゲー廃課金者、転生する!

にがよもぎ

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060話

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……へ?今クソって単語が聞こえたけど気の所為かな?

「ミレーユも落ち着いて。王女なんだからクソとか言わないの」

どうやら聞き間違いではなかったようだ。苦笑いを浮かべたラティがキツめに言っていた。

「いくらここが無礼講だとしても王女の品格をだね…

「まぁ!ラティったら、すっかりジジ臭くなっちゃったわね。長年辺境伯の地位にいると辛気臭くなるのかしら?」

「…姉さん落ち着いて」

王女様がこんなんだとは思いもよらなかった。…と思っていたのは俺達だけで、部屋にいる人達は全員苦笑いを浮かべていた。

「…えーっと、とりあえず話を戻さないか?」

空気を変えるべく、ミレーユに話しかける。

「…失礼しました。でも、私は悪くないんですよ?ラティが私に説教染みた--

「はい、その話は終わり!姉さん、他に聞くことあるだろ?」

ソニアに注意され渋々先程の続きを話す。

「…何はともあれ、先程聞いたのには理由があります、ラティから聞いていますよね?」

「派閥の事だよね?」

「ええ。まだアルス様を信用はしておりませんが、かと言って貴族派閥に取り入られるのもあまり良くないのです」

「んで?俺に王派閥に入れと?」

「単刀直入に言えば。…お気持ちはお決まりですか?」

「……うーん。別にどっちの派閥にも興味無いってのがが本音なんだよね。縛られるのは嫌だし、俺は自由にチカ達と暮らして行きたいだけなんだよ。……まぁ、ラティは王派閥みたいだけど他の貴族に対してはあんまり良いイメージは持ってないのも事実だけど」

「なら、こっちでいいじゃねーか。何を迷う必要があるんだ?」

「だから、どっちかの派閥に入った場合に政治関係のゴタゴタや面倒事に巻き込まれたくないんだよ。俺は平穏に暮らしたいの!」

「…お前根性無しだな。男なら覚悟を決めろよ!!」

「ならどっちにも入らん!!面倒なのは嫌だ!!」

「はぁ……。姉さん、コイツはアタシの嫌いなタイプだ。何かあると二言目には『面倒くさい』、『ダルいから』とか言う玉無しの女々しい奴だわ」

た、玉無しだと…!?コイツ、王女だからって言ってもいい事ぐらい分かるはずだろ!?

「…はぁ?それの何処が玉無しなんだよ?俺はやる事はやってるぜ?そんなのもわからねーのか?……はぁ、一国の王女がこんな男みたいな脳筋野郎だとは、下に付く兵士も大変だなぁ」

やれやれだぜ、みたいな態度でソニアに届くぐらいの声量で話す。ま、全員に聞こえるんだけどね。

「は?お前、喧嘩売ってんのか?」

「売ってませんよー?何処が売ってる様に聞こえるんだよ。俺はただ感想を言っているだけだぜ?」

案の定、イラついた表情でソニアは噛み付いてきた。喧嘩を売ってはいるが、俺も大人だ。口論だけで終わらせてやる。

「はぁ!?どこが感想だよ!完全に売ってんじゃねーか!!」

「テメーを見たありのままの感想だよ。王女だかなんだか知らねーが、言葉を選ぶんだな。言ってもいい事と悪い事があるんだ。……ちゃんと勉強しとけよ?実技ばっかりじゃなくてよ。脳 筋 王 女 様 ?」

俺の中では先に火種を作ったのはアッチだ。………けど、ちょっと言い過ぎたかな?仮にも王女なんだし…。

ふと、罵声が飛んで来ない事に疑問を抱く。あの性格じゃ、物が飛んできてもおかしくないと思っていたのだが、実際は違った。

「…え、あ、嘘だろ?……ごめんなさい」

なんとソニアは顔を真っ赤にし唇をキツく噛んでいた。涙を流さない様堪えているのだろうが、スーッと雫が溢れている。

「………アルスさん」

この時のラティの声は違った。冷たいというか、尖ってるというか…。『言葉は凶器になる』って言うけど、刃物そのものだったわ。

ラティだけでなく、チカ達を含めた全員が冷たい目をしていた。分かるよ?俺も第三者視点だったらそうなるよ!?けどさ、先にアイツが言ったのが悪いだろ!?

とまぁ、そんな事を憂いてももはや手遅れ。涙を堪える王女様と冷たい視線を受けている俺。……誰が悪いのかは一目瞭然だ。

「…すみませんでした!!言い過ぎました!!!」

ソニアの近くに出て、勢い良く土下座し謝罪する。土下座でダメなら五体投地までしてやる!

「…うぐっ、うぐっ。………おねぇぢゃぁん」

おいおい泣き出すとかやめてくれよ!てか、何で泣くんだよ!!気が強い女だっただろ!?

「ほんとすいません!!ほんっと!!申し訳ありませんでしたー!!!」

その後は本当大変だった。ラティには静かに怒られ、コンラッドには叩かれ、チカ達には軽蔑の目を向けられ、ニリキナに至っては目があっただけで舌打ちだった。

四面楚歌の状況で俺に出来る事は、謝罪と従う事だけであった。ソニアは泣き止まないし、ミレーユはラティとしか話さないし、ニリキナは抜刀して俺の隣に立ってるし…。

顔を上げずひたすら謝罪する。所々、ラティが俺に話しかけてくるが、返せる言葉は『はい』のみだ。いやぁ、あの言い方で違う言葉を言える奴が居たら連れてきて欲しいよ。脅迫に近い言い方だったよ。マジで。

頭を下げていると、何やら書類を顔の下に置かれた。ニリキナが『黙ってサインしろ』と言うので、内容も読まずサインした。書類が淡く光ると、ご機嫌な声が聞こえてきた。

「よし、これで契約完了だね。ソニア、お疲れ様!」

「…ったく、涙を流すだなんて久し振りだぜ…」

「演技が上手になったのね。……まぁ、普段から父上相手にしてれば上達するわね…」

……は?演技?どういう事だ?

土下座していると、肩を叩かれる。顔を上げると、イケメンスマイルなニリキナが親指を立てていた。

「お疲れアルスさん。そして、ドンマイ」

「……どういう事?」

呆然としている俺にミレーユが話しかける。

「騙してごめんなさいね、アルス様。ラティと相談していたのだけれど、素直に従わなかった場合こうするしか無かったんですの」

「は…?素直にって…どういう事?」

「アハハ、ごめんねアルスさん。ソニアが言った通り、二言目には『ダルい』とか言いそうだったから無理矢理従わせようと思ってね」

「……ハ、嵌めたのか?」

「嵌めたとか人聞きの悪い事言ってんじゃねーよ。アルスが断る事は最初っから出来なかったって事だ。…つまり、出来レースって訳だな」

「……だったら最初からそう言ってくれれば素直に従ったのに…」

「アルスさん、素直に従っても不満タラタラになるでしょ?だったら、強制的に従わせた方が良いと思って」

「……この方法に不満タラタラなんだけど!!!」

どうやら、俺はラティ達の手のひらで踊らされていたみたいだ。俺に負い目を感じさせる事で事を有利に運ぼうと画策したらしい。……正直、そんな回りくどい仕方をするなよ…と思ったのは内緒だ。

「これが貴族の交渉術…」
「勉強になるわね…」
「情に訴えるって事だね…」

チカ達はラティの計画に感心していた。こんな情けない状況で学んで欲しくないと叫びたかったが、後の祭りだ。

「な?ワシより腹黒がおったじゃろ?」

肩を叩かれ振り返ると、悪戯っ子の様な顔をしたジルが立っていた。

「…ジルもこの計画知っていたのか?」

「んにゃ?ぜーんぜん知らんよ?…ただ、ソニア様が普段使わない単語を言ってから妙じゃなーと思っての」

「…水晶持ってんだろ?教えてくれても良いじゃねーか」

「いやぁ、もし勘違いじゃったらアルスに申し訳無いからのぉ!スマンスマン!」

「嘘付け!!ぜってぇー分かってただろ!このクソジジイ!!」

ジルの肩を掴み激しく揺さぶると、腹から出す様な笑い声を上げながらジルは破顔する。

「いやぁー、ヌシのあの土下座は見事じゃったなぁー!!まるで箱に入っているのかと思うくらい綺麗な土下座じゃったわぃ!」

「ムキーーーッ!!クソジジイがぁー!!!」

「ちょっ、落ち着けってアルスさん。老人相手に酷いぞ?」

「うるせー!!コイツ、絶対後でこのネタでからかってくるに決まってる!!その前にこの記憶を消さなきゃならねーんだ!」

「ヤバイってアルスさん!!ちょっ!!それ以上はヤバイ!!それジルさんの首もげちゃう、もげちゃうからーーーー!!」

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

あの後、コンラッドの愛の拳骨を喰らい俺は大人しく正座している。

「ったく…辺境伯様も先に言っておいて下さいよ。私も酷く焦ったんですからね!」

「アハハ、ごめんよコンラッド。けど、君にまで言ってしまうとリアリティが無くなっちゃうからね」

「はぁ…。これからはちゃんと先に教えて下さいね?」

「善処するよ」

どうやらコンラッドはラティにもお怒りらしい。

そりゃそうだろうな、何せ演技だったとしても王女を冒険者が泣かせた責任はギルマスに行くだろうし。

「さて、何はともあれアルスを王派閥に取り込む事が出来た。ラティ、感謝するぞ」

「ソニアの演技も素晴らしかったよ」

「……おい、何和やかな雰囲気になってんだ!俺の意見も聞けよ!!」

「は?アタシを泣かせた奴に意見を求めるとでも?」

「え ん ぎ !!だったんだろーが!!俺は絶対に王派閥に入らないぞ!!決めたったら決めた!!」

「アルス様?言葉遣いは許しましたが、泣かせても良いとは言っておりませんよ?…これは『不敬罪』として処理してもよろしいですのよ?」

「…スミマセンデシタ」

クスクスとチカ達が笑う。その様子にちょっとだけ心の中で泣いた。

「まぁー、アルスが言った言葉に傷付いたのは事実だけどな?アタシ、脳筋でも一応女なんだぜ?」

「…ハイ、重々承知しています…」

「ま、あれほど言われたのは初めてだったけど、アルスの事気に入ったわ。アタシよりも強いだろーしな」

ソニアの言葉に周囲が騒つく。

「それって…そういう事?」

「…ん?違うよ姉さん。新鮮に感じてるだけさ。………………す…気に…ってる…な」

「ん?どうしたんだいソニア?」

「なな何でもねーよ!」

何を動揺してんだコイツ?頭おかしーんじゃねーか?

訝しげにソニアを見ている横で、チカ達の目がスンッとなったのには全く気付かなかった。

「よし、それじゃアルスさん『が』王派閥に入った事だし続きと行こうか」

ラティが外に出て行くと、紅茶を持った使用人と書類を持った使用人を連れてきた。

「まぁ、難しい話になるけど飲みながらでも聞いてよ」

使用人は丁寧に俺の前の地面に紅茶とお菓子を置いてくれる。俺以外は椅子に座りながら、ラティの話を聞いている。

……なんかこういうのもアリかもしれん。

危ない物が芽生える寸前に正気に戻り、紅茶を啜る。ほのかに果物の香りがする上品な紅茶だ。

(あー、美味しい。正座してるとお茶が飲みたくなるよなぁ…)

ひっそりと俺の中に種が出来たが、それに気付く事は無かった。

「---ってな具合だね」

…やべ、聞いてなかった。

「……これは本当なのか?だとしたら、アルスを取り入れても意味無いんじゃないか?」

「いや、違うわソニア。アルス様が加わった事で、形勢は拮抗したわ」

「……なるほど。アルスは一種のバランスブレイカーだったわけか」

「そうだね。貴族派閥に取り入られたらお手上げだったけどギリギリ間に合ったからね。何とか戦える状況だよ」

「……なぁ、ニリキナ何の話をしてるんだ?」

「……聞いてなかったんですか?あのですね--

こっそりニリキナから話を聞くと、つまりはこうだ。

貴族派閥はこっそりとクーデターを企んでいるらしい。今の王様になって貴族の権力が低下したからだとか。その貴族が不満を抱える原因となったのが『奴隷売買』だったらしい。それまで奴隷として扱っていたヒト達を一人一人見つけ出し、強制的に奴隷とさせられていたヒトは解放され、非人道的な事をしていた貴族には罰を与えたらしい。それにより没落する貴族が出てきて、徴税が少なくなってしまい、大元である大貴族に不満が溜まったとの事だ。

没落した貴族には多額の賠償金を徴収したが、爵位はそのままにしておいたらしい。王の温情だそうだ。しかし、それが尚更貴族達のプライドを傷つけた様だ。あれよあれよとボスに泣きつき、今に至ったという話であった。

話を聞いた感想は『甘い考えだったのではないか?』というものだった。徹底的にやれば良かったのではないかと思うが、そうしてしまうと領地運営が出来なくなるとの考えだったみたいだ。

まぁ、貴族達が増長してしまったのは先先代の所為みたいだし、尻拭いをする事になったんだろうなぁ…。大変そうだ。

クーデターを防ぐ為にも、バランスを崩さない為にも俺達が必要という事であった。

……てかさ、最初からそう言ってくれれば素直に従ったのに。俺だって事情があるならちゃんと聞くんだからさ…。張本人を蚊帳の外に置くなっつーの!

「てかアルスさん、ソニア様に気に入られちゃいましたね」

「…そうか?そうは思わないんだけど」

「ソニア様が名前で呼ぶのは珍しい事ですよ?俺も1年くらいは『おい』とか『ツリ目』って呼ばれてましたし」

「ツリ目って…。それ悪口じゃねぇか」

「あだ名感覚だと思いますよ?他にもケツアゴとかゲジ眉とかも居ますし…」

「……よくキレなかったな。暴動起きても可笑しく無いレベルだぞ?」

「顔を覚えられたって証明ですからね。そういう感じで呼ばれると皆喜んでましたよ?」

……M気質があるんじゃないだろうか?俺だったら憤慨してるぞ?…って玉無し言われたしな。それがあだ名にならんくて良かった。

それからも、ニリキナからソニアの一面を教えてもらった。ガサツな様で意外としっかりしているとか、料理も相当な腕前だとか。姫が料理って…と思ったのだが、たまーに自分で食べたくなった物を作るらしい。外見とは裏腹に、女の子って感じだな。…失礼だろうけど。

ソニアの事を熱く語るニリキナと話していると、どうやら方針が決まったらしい。蚊帳の外に居たのは俺とニリキナだけで、チカ達はウンウンとしきりに頷いていた。

「とりあえず今日の分は終わりだね。2人はこれからどーするの?食事の準備は出来てるけど」

ラティは2人に問いかける。まぁ王族だしこの街1番の宿屋に泊まらないといけないだろうし、飯もこの街のじゃなぁ…。そもそも一流の店なんてサガンでは経営出来ないし、王族の舌に合う料理なんて出せっこ無いもんな。ラティの所は分かんないけど。

「んー、慰問の意味でも訪れて来たし街を歩く事にするよ。……あ、飯と宿の事なんだがな?----

ソニアの言葉で俺達は目を見開く事となった。なんでそんな事になっているのか全く見当がつかない。ただ、最後にニヤリとジルが悪い顔をしたのは見逃さなかったのであった。
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