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059話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
純白の馬車が門の前に到着する。後方から立派な鎧を纏った騎士達が馬車を囲む様に整列する。そして、後ろの馬車から見た事のある人物達が姿を現した。
「えっ……ゴードンとジル?」
門の上からだが、はっきりと2人だということが分かった。ゴードンは俺があげたバトルアックスを持ってるし、ジルは高そうなローブを着込んでいる。
俺が何故門の上にいるかというと、高い所からなら魔物の襲撃が見えるからだ。コンラッド的には、ラティと下で待っていた方が良いと言っていたが、ラティがそれを一蹴した。『あの手紙の中身が極秘だった場合、不利な事になるかも知れない。アルスさん達は、僕達に呼ばれるまで上で待機していてくれ』と、派閥関係の事を考えていたようだ。
まぁ、その言い分は一理ある。ただの冒険者が辺境伯とギルマスと一緒に待っていたら、違和感を感じるかもしれないからな。要は大人しくしとけって事だ。
「おや?ジルさんとゴードンさんでは無いですか。此方には何用で?」
「白々しいのぉ。ラティなら予想はついておるじゃろ?」
「さぁ?何のことでしょうか?」
「ヌシこそ腹黒という言葉が似合うと思うんじゃけどなぁ…。ニリキナ、周辺は大丈夫じゃぞ」
純白の馬車に藍色の鎧と兜を装備した兵士が近寄る。そして、ゆっくりと馬車のドアを開ける。
馬車の中から出て来たのは、燃えるような赤色の短髪の兵士であった。鎧も純白で腰に下げたレイピアが太陽の光を反射している。
「ん?あの人も近衛なのか?」
見張りをしていた近くの兵士に尋ねる。
「…え?マジで言ってます?あの御方は第2王女の『ソニア』様っすよ?」
「…嘘だろ?王女様ってお姫様じゃないのか??あんな戦士然とした格好をしてるのか!?」
「ちょっ!声でかいって!……ソニア様は活発な性格でしてね…。実力もかなりなもんなんですよ」
「…仮にも王女様だろ?そんなんで良いのか?」
「…それは俺にはわかんねーっすよ。陛下が何も言わないならそれで良いんじゃないっすかね?」
ソニアと呼ばれた女性は馬車から降りるとキョロキョロと周囲を見渡している。そして、中に声をかけるとゆっくりとまた女性が出てきた。
これまた純白のドレスを着た物語に出てくるような女性だった。髪は薄紫色かな?最初に出てきた女性とは正反対の印象であった。
「…あれが第1王女様?」
「ええ、『ミレーユ』様っす。…やっぱ綺麗だなぁ…」
「そうだな。まさにお姫様って感じだ」
「チカさん達もすげー綺麗っすけど、ミレーユ様は別格っすね」
「そうなのか?…俺にはわからんな」
「…美的センスやばくないすか?…あぁ、チカさん達と居過ぎて目が肥えたんすね…」
「いや、綺麗は綺麗だぞ?…ただ、俺にはチカ達の方が綺麗だと思うけどなぁ」
俺達がくだらない話をしていると、下から声が聞こえた。
「おい!!アルス!!王女様方がお呼びだ!すぐ降りてこい!!」
どうやら何回も俺を呼んでるみたいで、コンラッドの顔は真っ赤であった。
「あ、すまん!すぐ降りてくるよ!!」
階段に向かおうと思ったのだが、なぜか飛び降りるという選択肢が脳内に出てきた。まぁ、漫画などで良くあるシーンだからかな?
運良く入り口付近にはスペースがあり、そこに降りようと考えた。
「? アルスさん、そっちは階段無い---
兵士の言葉は届かず、そのまま上から飛び降り着地する。80mはある高さから降りるのは普通に考えてイカれてる奴だと思う。
まぁ、俺が飛び降りた事でチカ達も飛び降りるのだが、知らない奴から見れば恐怖だっただろう。サガンの住民は俺の強さを知ってるから、歓声に似た声を出すだけで終わったが、護衛達は違った。
俺が着地した瞬間に抜刀し、王女を守る様に固まる。完全に敵と認識している様だ。…ゴードン達は呆れた様な顔をしているが。
「……ミレーユ王女、ソニア王女。こちらが噂のアルスでございます。後ろに控えるのはパーティメンバーのチカ、ナナ、ローリィでございます」
何事もなかったかの様にラティが説明する。ジル達も王女様に目を向け頷く。
「…ニリキナ、間違いはないか?」
「はっ!間違い御座いません、ソニア様!」
…あー、あの藍色の鎧着てるのはニリキナだったのか。顔隠れてるから全然わからんかったわ。
「…ふーん。ラティ、アイツらをこっちに呼んでよ」
「畏まりました。…アルスさん、お2人の前に」
ラティに呼ばれ兵士達の前まで向かう。警戒している様だが、ジルとニリキナの『よせ』という言葉で大人しくなった。
「…お前ら見えねーじゃんかよ。ちょっと前開けろ」
ソニアの言葉で兵が割れ、腕組みをしたソニアが目に入った。
「お前がアルスか?」
ソニアからの問い掛けに答える前に、ラティに尋ねる。
「…………喋っても大丈夫?」
「…さっきから無言だったのはそういう理由ですか。大丈夫です。喋ってください」
「は、初めましてソニア様!俺…私はアルスと言います。言葉遣いが可笑しいかもしれませんがお許しください!!」
そう言って頭を下げると、チカ達も俺に従い頭を下げる。
「……おい、ニリキナ。アイツ何言ってるんだ?」
「…多分不敬罪に問われる事を心配してるんじゃないですか?俺達と最初の頃話すときもこんな感じでしたから」
ニリキナとソニアが何やらコソコソと話している。対応間違えたかな?と考えたのだが、その考えはソニアの笑い声で否定された。
「--アハハッ!そういうことか!お前、面白い奴だな!気に入ったぞ!」
腰に手を当て豪快に笑うソニア。側では口元に手を添え、肩を震わしているミレーユの姿も見えた。
「お前が余程の口を聞かない限り、不敬罪に問わないから安心しろ」
「はっ!!ありがとうございます!!」
再び頭を下げると、溜息を吐く音が聞こえた。
「…さて、話の続きをしてもいいかのぉ?」
耳を掻きながらジルがダルそうに口を開いた。
「はい。何でしょうか?」
「今日から王女様方はここで滞在予定なのじゃが、腕利きの護衛を求めておられてのぉ。期間は1週間程なのじゃが…コンラッドよ、誰かおらぬか?」
「……はい。でしたら、ここに居るアルス達が適任かと。先の襲撃からサガンと王都を救ったのはこのアルスです」
「ほぉ!?ならば、ヌシらに依頼しようかのぉ?…姫様、この者達がこの街での強者と言うことですが如何なさいますかな?」
「アタシは構わない」
「私もです」
「ならば、ヌシらは本日より姫様方の護衛をするように!…依頼とは言ったがこれは勅命であるから心せよ」
ジルが手に持っていた杖で地面を叩くと、ニリキナが俺達に近寄ってくる。そして、書状を渡すついでに小声で囁く。
「……アルスさん、後で面会したいそうなのでよろしく」
その言葉に俺は何も返事はせず、無表情でその場をやり過ごす。
「では、只今より貴殿はジュエリア王国第1、第2王女様の近衛となる!傷1つ負わせぬよう心せよ!!」
「ハッ!!承りますでございます!!」
片膝をつき、深々と頭を下げる。微かに『ぶふっ』という空気が漏れる音が聞こえたが、きっと気の所為だろう。この流れも前もってラティに教えてもらっていたので、不自然では無いはずだ。………多分。
そうして、王女様達との顔合わせ?は終わり、ラティの屋敷へと向かう事になった。王女様達は馬車の中から顔を覗かせ、住民達に手を振りながら進んでいった。俺達は1番後ろに付いており、周囲を警戒しておく。
まぁ、何事も無く屋敷に辿り着く。貴族派閥の間者が紛れ込むかも知れないというので、屋敷の外には執事を含めた全ての使用人が待っていた。
「「「ようこそおいでくださいました!!!」」」
執事だと思われる男性が先頭に立ち中へと入る。歩き方といい、格好といい、とても品がある。応接室に通され、王女様達とラティが向かい合って座る。ニリキナと俺達は入り口で待機だ。
「ジル…防音を頼む」
ソニアがジルにお願いすると何かを唱える。そして、少し間が空いてミレーユが口火を切る。
「…さて、ラティ。私達が来た理由は分かるわよね?」
「うん、アルスさんを引き込む話でしょ?それに付いては話は通してある。けれど、決めるのはアルスさん本人だ」
……あるぇ??なんでそんなにフランクに話してるの??王女様なんじゃねーの??
「…おい、ニリキナ。あんな喋り方して大丈夫なのか?」
隣にいたニリキナにこっそり聞く。
「…アルスさん知らないんですか?ラティ辺境伯は大臣の甥っ子で王女様方と幼馴染なんですよ?」
「え!?そうなの…?知らんかった…」
それを聞いてマジマジとラティを見つめる。金もあり地位もあり、顔も良くて、幼馴染の王女様が居る。……なんてラノベの主人公なのだろうか。
俺が変なことを考えている間に話は進む。
「お前が話したって事は信用は出来る奴なんだな?」
「信用も何も信頼しているよソニア。彼が居なければ、サガンも王都も滅びてた筈だろうしね」
「……それは否定しねぇけどよ。貴族の息がかかってる可能性は?」
「コンラッドに調べて貰ってるよ。けど、何一つ見つかってないよ。……見てみる?」
ラティはコンラッドから紙の束を受け取り、2人の前に置く。ソニアが手に取り、パラパラとめくっていく。
「……ざっとだが、怪しいのは無さそうだな」
「…もうソニア。貴女の頭じゃ無理なんだから、私に見せなさいよ」
速読なのかわからないが、ミレーユは素早くめくっていく。やがて、最後のページを読み終わり元の場所へ戻す。
「内容は大体理解しました。評判といい功績といい文句のつけようがありませんね」
「文句があったら面白いんだけどね。…それで?書類審査は合格かな?」
「合格ですね。あとは面談ね」
「…なぁ姉さん、後で内容教えてくれよ」
「はいはい…。では、ラティこちらに呼んでくれるかしら?」
「アルスさん、チカさん達もこちらへどうぞ」
招かれるままにラティの隣に座ろうとしたが、無表情のコンラッドに腕を掴まれ、ラティの後ろに立った。
(着席は許されないのか…)
まぁ、礼儀なんぞ分からんしこれが正解なら従うしか無い。薄笑いを浮かべたラティが話をする。
「さてと、君達が会いたがってたアルスさん達だよ」
2人から品定めを受けているような視線を感じる。あまり好意的では無いようだ。
「…ふーん、優男にしか見えないけど本当に強いのか?」
「ソニア、君1人でドラゴンの首を跳ねる事が出来るのかい?」
「…出来ねぇな。そういやそうだったな」
「質問をよろしいですか?アルス様」
ミレーユの言葉に頷きで返す。
「…喋っても構いませんのよ?」
「…いいんですか?」
「ええ、どんな言葉遣いだろうがこの場では許します。ありのままのアルス様でお話しください」
……罠か?タメ口で話しかけて『はい不敬罪!』とかならないよな?
俺の表情を見てか、ソニアが『タメ口でいいよ』と言ってくれる。
「…それじゃあ、言葉を崩します…崩すよ」
「はい。では単刀直入に聞きます。これまで貴族と交流はございますか?」
「……うーん、交流は無いんですけどトラブルみたいな事はありました」
「その貴族の名前はわかりますか?」
「えーっと………あ、確かトーケルとか言う貴族だった」
「……トーケル?ファルマス家のですか?」
「それは覚えてないんだけど、確かお付きの戦士の名前がダーウェントとか言ってた気がする」
「…そのトーケルとはどの様なトラブルに?」
「トラブルっつーか、そこまで被害は出てないんだけどチカがエルフなんだけど、それで奴隷がどーたらこーたらって」
「……ラティ知ってた?」
「噂ではね。ちょくちょく顔を出しに行ったけど、そんな事は無かったよ。表面上は」
「…そう。やはり内偵を出した方が良さそうね」
ミレーユとラティが何やら不穏な顔をしている。
「…それで?お前、奴隷売買に関わってるのか?」
「関わってないよ。奴隷売買がある事も初めて知ったし、チカとはずっと一緒だよ」
「ふーん…。あとよ気になったんだが、お前のパーティは何故女ばかりなんだ?ハーレムが目的なのか?」
「……んなこたぁねーよ。いやマジで!」
否定は出来ない。せめてゲームの中だけでも女の子と遊びたかったとは言えない。……男なら誰でも夢見るはずだ!
「怪しいなぁ…。この報告書によれば小さい子供もいるんだろ?しかも女の子」
「…保護しただけだよ。親も居ないみたいだし、ここで育てようと思ってな」
「ロリコンなのか?」
「違うわ!!!」
「まぁまぁ、アルスさん落ち着いて。ソニアもからかうなよ」
「アタシはどーも面が良い奴は信用ならん。アタシより強ければ認めるんだがな」
「……それってソニアの婿になる人の話でしょ?」
「そうだけど…。姉さんもそう思わないか?貴族は面だけは良い奴等が多いじゃねーか」
「一概には言えないわよ?……まぁ、大半が中身が糞ですけど」
純白の馬車が門の前に到着する。後方から立派な鎧を纏った騎士達が馬車を囲む様に整列する。そして、後ろの馬車から見た事のある人物達が姿を現した。
「えっ……ゴードンとジル?」
門の上からだが、はっきりと2人だということが分かった。ゴードンは俺があげたバトルアックスを持ってるし、ジルは高そうなローブを着込んでいる。
俺が何故門の上にいるかというと、高い所からなら魔物の襲撃が見えるからだ。コンラッド的には、ラティと下で待っていた方が良いと言っていたが、ラティがそれを一蹴した。『あの手紙の中身が極秘だった場合、不利な事になるかも知れない。アルスさん達は、僕達に呼ばれるまで上で待機していてくれ』と、派閥関係の事を考えていたようだ。
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「さぁ?何のことでしょうか?」
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馬車の中から出て来たのは、燃えるような赤色の短髪の兵士であった。鎧も純白で腰に下げたレイピアが太陽の光を反射している。
「ん?あの人も近衛なのか?」
見張りをしていた近くの兵士に尋ねる。
「…え?マジで言ってます?あの御方は第2王女の『ソニア』様っすよ?」
「…嘘だろ?王女様ってお姫様じゃないのか??あんな戦士然とした格好をしてるのか!?」
「ちょっ!声でかいって!……ソニア様は活発な性格でしてね…。実力もかなりなもんなんですよ」
「…仮にも王女様だろ?そんなんで良いのか?」
「…それは俺にはわかんねーっすよ。陛下が何も言わないならそれで良いんじゃないっすかね?」
ソニアと呼ばれた女性は馬車から降りるとキョロキョロと周囲を見渡している。そして、中に声をかけるとゆっくりとまた女性が出てきた。
これまた純白のドレスを着た物語に出てくるような女性だった。髪は薄紫色かな?最初に出てきた女性とは正反対の印象であった。
「…あれが第1王女様?」
「ええ、『ミレーユ』様っす。…やっぱ綺麗だなぁ…」
「そうだな。まさにお姫様って感じだ」
「チカさん達もすげー綺麗っすけど、ミレーユ様は別格っすね」
「そうなのか?…俺にはわからんな」
「…美的センスやばくないすか?…あぁ、チカさん達と居過ぎて目が肥えたんすね…」
「いや、綺麗は綺麗だぞ?…ただ、俺にはチカ達の方が綺麗だと思うけどなぁ」
俺達がくだらない話をしていると、下から声が聞こえた。
「おい!!アルス!!王女様方がお呼びだ!すぐ降りてこい!!」
どうやら何回も俺を呼んでるみたいで、コンラッドの顔は真っ赤であった。
「あ、すまん!すぐ降りてくるよ!!」
階段に向かおうと思ったのだが、なぜか飛び降りるという選択肢が脳内に出てきた。まぁ、漫画などで良くあるシーンだからかな?
運良く入り口付近にはスペースがあり、そこに降りようと考えた。
「? アルスさん、そっちは階段無い---
兵士の言葉は届かず、そのまま上から飛び降り着地する。80mはある高さから降りるのは普通に考えてイカれてる奴だと思う。
まぁ、俺が飛び降りた事でチカ達も飛び降りるのだが、知らない奴から見れば恐怖だっただろう。サガンの住民は俺の強さを知ってるから、歓声に似た声を出すだけで終わったが、護衛達は違った。
俺が着地した瞬間に抜刀し、王女を守る様に固まる。完全に敵と認識している様だ。…ゴードン達は呆れた様な顔をしているが。
「……ミレーユ王女、ソニア王女。こちらが噂のアルスでございます。後ろに控えるのはパーティメンバーのチカ、ナナ、ローリィでございます」
何事もなかったかの様にラティが説明する。ジル達も王女様に目を向け頷く。
「…ニリキナ、間違いはないか?」
「はっ!間違い御座いません、ソニア様!」
…あー、あの藍色の鎧着てるのはニリキナだったのか。顔隠れてるから全然わからんかったわ。
「…ふーん。ラティ、アイツらをこっちに呼んでよ」
「畏まりました。…アルスさん、お2人の前に」
ラティに呼ばれ兵士達の前まで向かう。警戒している様だが、ジルとニリキナの『よせ』という言葉で大人しくなった。
「…お前ら見えねーじゃんかよ。ちょっと前開けろ」
ソニアの言葉で兵が割れ、腕組みをしたソニアが目に入った。
「お前がアルスか?」
ソニアからの問い掛けに答える前に、ラティに尋ねる。
「…………喋っても大丈夫?」
「…さっきから無言だったのはそういう理由ですか。大丈夫です。喋ってください」
「は、初めましてソニア様!俺…私はアルスと言います。言葉遣いが可笑しいかもしれませんがお許しください!!」
そう言って頭を下げると、チカ達も俺に従い頭を下げる。
「……おい、ニリキナ。アイツ何言ってるんだ?」
「…多分不敬罪に問われる事を心配してるんじゃないですか?俺達と最初の頃話すときもこんな感じでしたから」
ニリキナとソニアが何やらコソコソと話している。対応間違えたかな?と考えたのだが、その考えはソニアの笑い声で否定された。
「--アハハッ!そういうことか!お前、面白い奴だな!気に入ったぞ!」
腰に手を当て豪快に笑うソニア。側では口元に手を添え、肩を震わしているミレーユの姿も見えた。
「お前が余程の口を聞かない限り、不敬罪に問わないから安心しろ」
「はっ!!ありがとうございます!!」
再び頭を下げると、溜息を吐く音が聞こえた。
「…さて、話の続きをしてもいいかのぉ?」
耳を掻きながらジルがダルそうに口を開いた。
「はい。何でしょうか?」
「今日から王女様方はここで滞在予定なのじゃが、腕利きの護衛を求めておられてのぉ。期間は1週間程なのじゃが…コンラッドよ、誰かおらぬか?」
「……はい。でしたら、ここに居るアルス達が適任かと。先の襲撃からサガンと王都を救ったのはこのアルスです」
「ほぉ!?ならば、ヌシらに依頼しようかのぉ?…姫様、この者達がこの街での強者と言うことですが如何なさいますかな?」
「アタシは構わない」
「私もです」
「ならば、ヌシらは本日より姫様方の護衛をするように!…依頼とは言ったがこれは勅命であるから心せよ」
ジルが手に持っていた杖で地面を叩くと、ニリキナが俺達に近寄ってくる。そして、書状を渡すついでに小声で囁く。
「……アルスさん、後で面会したいそうなのでよろしく」
その言葉に俺は何も返事はせず、無表情でその場をやり過ごす。
「では、只今より貴殿はジュエリア王国第1、第2王女様の近衛となる!傷1つ負わせぬよう心せよ!!」
「ハッ!!承りますでございます!!」
片膝をつき、深々と頭を下げる。微かに『ぶふっ』という空気が漏れる音が聞こえたが、きっと気の所為だろう。この流れも前もってラティに教えてもらっていたので、不自然では無いはずだ。………多分。
そうして、王女様達との顔合わせ?は終わり、ラティの屋敷へと向かう事になった。王女様達は馬車の中から顔を覗かせ、住民達に手を振りながら進んでいった。俺達は1番後ろに付いており、周囲を警戒しておく。
まぁ、何事も無く屋敷に辿り着く。貴族派閥の間者が紛れ込むかも知れないというので、屋敷の外には執事を含めた全ての使用人が待っていた。
「「「ようこそおいでくださいました!!!」」」
執事だと思われる男性が先頭に立ち中へと入る。歩き方といい、格好といい、とても品がある。応接室に通され、王女様達とラティが向かい合って座る。ニリキナと俺達は入り口で待機だ。
「ジル…防音を頼む」
ソニアがジルにお願いすると何かを唱える。そして、少し間が空いてミレーユが口火を切る。
「…さて、ラティ。私達が来た理由は分かるわよね?」
「うん、アルスさんを引き込む話でしょ?それに付いては話は通してある。けれど、決めるのはアルスさん本人だ」
……あるぇ??なんでそんなにフランクに話してるの??王女様なんじゃねーの??
「…おい、ニリキナ。あんな喋り方して大丈夫なのか?」
隣にいたニリキナにこっそり聞く。
「…アルスさん知らないんですか?ラティ辺境伯は大臣の甥っ子で王女様方と幼馴染なんですよ?」
「え!?そうなの…?知らんかった…」
それを聞いてマジマジとラティを見つめる。金もあり地位もあり、顔も良くて、幼馴染の王女様が居る。……なんてラノベの主人公なのだろうか。
俺が変なことを考えている間に話は進む。
「お前が話したって事は信用は出来る奴なんだな?」
「信用も何も信頼しているよソニア。彼が居なければ、サガンも王都も滅びてた筈だろうしね」
「……それは否定しねぇけどよ。貴族の息がかかってる可能性は?」
「コンラッドに調べて貰ってるよ。けど、何一つ見つかってないよ。……見てみる?」
ラティはコンラッドから紙の束を受け取り、2人の前に置く。ソニアが手に取り、パラパラとめくっていく。
「……ざっとだが、怪しいのは無さそうだな」
「…もうソニア。貴女の頭じゃ無理なんだから、私に見せなさいよ」
速読なのかわからないが、ミレーユは素早くめくっていく。やがて、最後のページを読み終わり元の場所へ戻す。
「内容は大体理解しました。評判といい功績といい文句のつけようがありませんね」
「文句があったら面白いんだけどね。…それで?書類審査は合格かな?」
「合格ですね。あとは面談ね」
「…なぁ姉さん、後で内容教えてくれよ」
「はいはい…。では、ラティこちらに呼んでくれるかしら?」
「アルスさん、チカさん達もこちらへどうぞ」
招かれるままにラティの隣に座ろうとしたが、無表情のコンラッドに腕を掴まれ、ラティの後ろに立った。
(着席は許されないのか…)
まぁ、礼儀なんぞ分からんしこれが正解なら従うしか無い。薄笑いを浮かべたラティが話をする。
「さてと、君達が会いたがってたアルスさん達だよ」
2人から品定めを受けているような視線を感じる。あまり好意的では無いようだ。
「…ふーん、優男にしか見えないけど本当に強いのか?」
「ソニア、君1人でドラゴンの首を跳ねる事が出来るのかい?」
「…出来ねぇな。そういやそうだったな」
「質問をよろしいですか?アルス様」
ミレーユの言葉に頷きで返す。
「…喋っても構いませんのよ?」
「…いいんですか?」
「ええ、どんな言葉遣いだろうがこの場では許します。ありのままのアルス様でお話しください」
……罠か?タメ口で話しかけて『はい不敬罪!』とかならないよな?
俺の表情を見てか、ソニアが『タメ口でいいよ』と言ってくれる。
「…それじゃあ、言葉を崩します…崩すよ」
「はい。では単刀直入に聞きます。これまで貴族と交流はございますか?」
「……うーん、交流は無いんですけどトラブルみたいな事はありました」
「その貴族の名前はわかりますか?」
「えーっと………あ、確かトーケルとか言う貴族だった」
「……トーケル?ファルマス家のですか?」
「それは覚えてないんだけど、確かお付きの戦士の名前がダーウェントとか言ってた気がする」
「…そのトーケルとはどの様なトラブルに?」
「トラブルっつーか、そこまで被害は出てないんだけどチカがエルフなんだけど、それで奴隷がどーたらこーたらって」
「……ラティ知ってた?」
「噂ではね。ちょくちょく顔を出しに行ったけど、そんな事は無かったよ。表面上は」
「…そう。やはり内偵を出した方が良さそうね」
ミレーユとラティが何やら不穏な顔をしている。
「…それで?お前、奴隷売買に関わってるのか?」
「関わってないよ。奴隷売買がある事も初めて知ったし、チカとはずっと一緒だよ」
「ふーん…。あとよ気になったんだが、お前のパーティは何故女ばかりなんだ?ハーレムが目的なのか?」
「……んなこたぁねーよ。いやマジで!」
否定は出来ない。せめてゲームの中だけでも女の子と遊びたかったとは言えない。……男なら誰でも夢見るはずだ!
「怪しいなぁ…。この報告書によれば小さい子供もいるんだろ?しかも女の子」
「…保護しただけだよ。親も居ないみたいだし、ここで育てようと思ってな」
「ロリコンなのか?」
「違うわ!!!」
「まぁまぁ、アルスさん落ち着いて。ソニアもからかうなよ」
「アタシはどーも面が良い奴は信用ならん。アタシより強ければ認めるんだがな」
「……それってソニアの婿になる人の話でしょ?」
「そうだけど…。姉さんもそう思わないか?貴族は面だけは良い奴等が多いじゃねーか」
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