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057話
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「こんにちはお嬢さん方。そして、サガンの英雄アルス様。お待ちしておりました」
「英雄なんかじゃないです。…それはやめてください」
「これは大変失礼いたしました。…では、辺境伯がお待ちです。こちらへどうぞ」
初老の男性に連れられ門の中へと入る。屋敷と聞いていたが、俺のイメージとは違い、なんというか普通の一軒家であった。
「ほっほっほ。意外でしたかな?」
俺の表情を見た老人が楽しそうに話しかける。
「意外と言っていいのか…。辺境伯と聞いていたので、凄い豪邸だと想像していましたよ」
「貴族のように派手な屋敷を持つのが嫌いでしてね。普通の家で良いと思っていたのですが、住民から見栄えは良くしてくれと懇願され、妥協した末にこの様な屋敷となったんですよ」
「へぇー。住民から愛されているんですね」
「まぁ派手なのがお好きでない方でございますからね」
「……どこかで見た事あると思ってたけど、お爺ちゃん前に荷物運んだ人だよね?」
「…ローリィも思ってた?私も何処かでお会いした気がするのよね…」
「うん。前にボク達が荷物を運んであげた事がある」
「…ん?荷物??」
「覚えていませんか?…最初に顔を売るために住民に色々と話しかけていた時ですよ」
チカにそう言われ思い出してみる。………んー?荷物を運んだ??最初??…ダメだ、思い出せない。
「ほら、リヤカーを引いてお爺ちゃんの家の前まで行った時だよー!」
リヤカー…家の前…荷物運ぶ…。ああ!!あの時か!
「思い出しましたかな?あの時は大変お世話になりました」
「ああ!あの時の!…すいません、すっかり忘れていました…」
「いえいえ、謝る事は御座いませんよ。…あれから皆様方のお話はよく耳にしておりました」
「はは。ちょっと恥ずかしいですね…」
「サガンがあれほどの襲来を受けて無事なのは皆様方のお陰ですよ。本当に感謝しております」
「…いえ。当たり前の事をしただけですから」
「…顔色が優れない様ですね。何か悩み事でも?」
「…何にも無いですよ?」
「…そうですか。よろしければ相談に乗りますが?」
「…いえ、大丈夫です」
「……少々お節介をやいてしまいました。申し訳ございません」
「あ、謝らないでください!…ただ、俺の精神的な部分なので…」
「…辛くなったら相談する事が良いでしょう。アルス様はお強いかも知れませんが、精神的にはまだ幼い。頼るのもまた、強さだと思いますよ」
「……………」
「ほっほ。長生きしている爺の戯言ですよ。…さぁ、中へお入りください」
屋敷の中へ連れられ、辺境伯の部屋へと向かう。屋敷の中も派手ではなく、質素な感じを受ける。ただ、しっかりと調度品は置かれている。
「さぁ、こちらへどうぞ。辺境伯様をお呼び致しますので、中でお待ちください」
辺境伯の部屋へと入ると、本当に辺境伯の部屋なのかと疑った。コンラッドの執務室よりも広い部屋に、仕事をする机と、来客用の机とソファしか置かれてなかった。
「お飲み物もお持ちしますので、どうぞお座りください」
そう言うと、老人は部屋から出て行く。残された俺達は申し訳程度に置かれているソファへと腰を下ろす。
しばらくして、ゆっくりとドアが開く。そこには、整った顔立ちの好青年が立っていた。
「お待たせして申し訳ない」
好青年の手には飲み物とお菓子が乗ったお盆があった。
「あ、手伝いますよ」
ドアに近づき、好青年からお盆を受け取り机へと持っていく。
「すみません。手を煩わせてしまって…」
「いえ、大丈夫ですよ」
飲み物をそれぞれの前に起き、辺境伯の机にも置いておく。
「あのー…辺境伯様は何か用事があったんでしょうか?」
「いえ、少々着替えに手間取ってしまいましてね…。遅れてしまいました」
「そうですか…。俺達は大丈夫なんでゆっくり着替えてくださいとお伝えください」
「?はぁ…。わかりました」
その好青年は腑に落ちない顔をしながらも、机へとスタスタと向かい腰を下ろす。
「?そこは辺境伯様の机じゃないんですか?」
「?ええ、そうですよ?」
「座ったりしたら不味いんじゃないですかね…?」
「??なんでですか?」
「え?だってそこは辺境伯様の机ですよね?」
「ええ、そうですよ??ダメなんですか??」
「え???」
「え???」
いやいや、ダメに決まってるだろ。辺境伯の机に召使いが普通に座ったらアカンでしょ…。人の良い辺境伯でも流石に怒ると思うなぁ…。
好青年になんと言おうか考えていると、何かに気付いたのか青年はいきなり笑い出した。
「あはははっ!なるほど、そういう事ですか!」
「あ、わかっていただけました?良かった…」
「ええ、アルス様が言いたい事は分かりましたよ」
そういうと青年は椅子から立ち上がる。
そうそう!そこは偉い人の席なんだよ!良かったー、気付いてくれて!
安堵したのも束の間、青年は飲み物を持ちながら俺の横に座るという奇行をした。
「???」
「あはははは!すいません、そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。改めまして、私の名前は『ラティクス・ファルマス』。サガンの辺境伯をしております」
「………っええええええええええ!?」
ちょっ!辺境伯!?こんな若いのに!?辺境伯ってもうちょっと歳取ってる人なんじゃないの???俺召使いかと思ってたんだけど!!
俺の驚愕した表情が面白かったのかラティクスはずっと笑っている。
「すすすすいません!!辺境伯様だとは知らずに!!」
「いえいえ。--はぁ、面白かった。まだ顔を合わせていませんでしたから、仕方ないですよ。それに、もう慣れっこですから」
「あばばばばばば。すみません…本当にすいません」
俺は慌てて土下座をしようとする。しかし、ラティクスがさせてくれなかった。
「お気になさらずに。さぁ、お座りください」
ラティクスに促され席に座る。俺の慌て様とは裏腹にチカ達は平然とした顔でお茶を飲んでいた。
「え…。なんでお前らそんな平静なの?」
「一度だけお顔を拝見した事がありますから。…王都での依頼の時ですけど…」
「拝見って言っても、人相書きなんだけどねー」
「うん。それに魔力でも判断出来た」
「…魔力ですか?」
何か引っかかる事があったのか、ラティクスはナナに尋ねる。
「うん。ボクは魔力が分かる。貴方が人よりも凄い魔力を持っているという事が」
「…噂通りの慧眼ですね。御見逸れいたしました」
「ボクにとっては普通の事。凄くはない」
「えぇ………。知ってたなら教えてくれよ…。アホみたいじゃんか」
「アルス様がすぐ近寄りに行ったので知っているものかと思ってました…」
「全然知らなかったよ…」
「まぁまぁ。私は気にしていませんから」
んもー。すげー恥ずかしいじゃんか…。チカ達は冷たいなぁ…。
「…さて、そろそろ本題に入りましょうか」
そう言うとラティクスは姿勢を正す。
「サガンを、住民を救って頂いたことを感謝します。本当に、本当にありがとうございます!」
ラティクスは俺達に、深々と頭を下げる。
「いえ、当たり前の事をしただけですから!頭をあげてください!」
「いえ!これは言葉だけでは伝えきれないのです!」
「伝わりましたから!!頭あげてください!!」
俺の2度目の言葉でゆっくりと頭をあげたラティクスは、澄んだ瞳で俺達へ話しかける。
「色々とお礼をしたいのですが、コンラッドから話は聞いております。…嫌がるでしょうが、感謝の気持ちとして形にしたいのです。何か希望する物はございませんか?」
「えぁー……そういうのは本当にいらないんです…」
「何でも良いんです!」
…いやー、マジで要らないんだよ。それに俺全部救えたわけじゃないし…。
それからは暫く押し問答が続く。頑なに断る俺と頑なに言い続けるラティクス。結局、チカの提案で押し問答は終わりを告げた。
「……辺境伯様、私から希望があるのですが」
「はい!何でも仰ってください!」
「…アルス様も私達も今回の事で金や物は必要としておりません。…しかし、辺境伯様のお気持ちも考えるとなあなあで済ませる問題でも無いと思っております。…そこで提案というか私個人の希望なのですが、今回襲撃の際無くなってしまった人達の記念碑とお墓を作って頂きたいのです。サガンには端っこの方に墓地が御座いますが、少し寂れている様子なので綺麗にして欲しいなと」
「……記念碑ですか?」
「ええ。今回の件は私達の力が足りず犠牲者が出てしまいました。身内を失った方もおられます。その方々の為に墓地を綺麗にし、未来永劫忘れない為にも残していた方が良いかと」
「…墓地の件については前々から思っていましたのですぐにでも。…しかし、記念碑となると傷跡を残す事になりませんか?」
「…それはわかりません。しかし、亡くなった方がただ魔物に襲われて死んだと考える方が辛いかと思いまして…」
「…………わかりました。色々な人と相談して決めてみます」
「よろしくお願いします」
チカの話を聞いていて素直に凄いと思った。俺の脳みそじゃ、ここまでの事は考えられなかったであろう。
「これが報酬となるかは私にもわかりません…。他に何か欲しい物はありませんか?」
「……………特に何も。というより、チカの考えが凄すぎて感心しました」
「ボクも」
「あたしもー!」
「…分かりました。チカさんの希望に沿って話を進めたいと思います」
ラティクスは手元にあったメモに書き留める。書き終わったのかペンを置くと、次の話をし始めた。
「よし、話をする前に少しお願いがあるのですが…」
「何でしょう?」
「お互い堅苦しい口調は辞めませんか?私としても、貴方達とは仲良くしたいので」
「ええ、ラティクス様がよろしければ大丈夫ですよ」
「よかった。あ、それと僕の事は『ラティ』と呼んで?では、話を続けるね。……今から話をする内容はこの街では僕とコンラッドしか知らない話。他言はしないように」
ラティの口調が真面目なものへと変わる。
「今回、アルスさん達は王都の危機を救った。多少の損害は出たけど、怪我人も最小限で済んだと報告が上がってるんだ。…ただ、アルスさんにとってはあまり良くない話が2つあるんだよねー…」
「……その話って?」
「1つ目は普通の平民からしたら嬉しい事。……アルスさん、陛下が面会を求めています。それも早急に」
「…は?なんで?」
「なんでって…王都を救ったからですよ。それしかないでしょ?」
「俺以外にも兵士達が頑張っただろ??冒険者もさ」
「それは別に終わらせてるみたいなんだよ」
「え、別ってどういう事??」
「戦った冒険者や兵士は陛下から直接お言葉と報酬金を貰ってるよ。…アルスさん達は呼ばれなかった??」
「呼ばれるも何もそんな事聞いてないぞ?」
「あー、じゃあジルが言い忘れてたのかな?アルスさん、王都の外でドラゴン討伐したでしょ?」
「ん?…ああ、倒したけど??」
「…一応言っておくけどね、ドラゴンを倒すってのは凄い事なんだよ?かなりの人数で戦って勝てるかって強さなの。それを1人で倒しちゃったから、陛下も興味を持ったんだと思うな」
「あーそういう事ね。…辞退とか出来ないかな?」
「無理だね。流石のアルスさんでも逃げられないと思うよ?」
「俺敬語とかそういうの出来ないんだぞ…?」
「そこで朗報が1つ。陛下は個人で面会を求めてるんだ」
「尚更無理だろ!!ヤダ!絶対ヤダ!!」
いやいやいやいや。普通に考えてそれは無い。変な喋り方したら不敬罪とか言われそうだし、相手は王様だろ??絶対無理!!
俺の表情が語っていたのだろう。ラティは苦笑いしながら話を続ける。
「まぁ諦めてよ。無理っていうのが無理なんだからさ」
「その面会って俺1人で??」
「いや?面会はチカさん達もだよ」
……イケるか?俺は喋らないようにしてチカに丸投げすればギリ大丈夫じゃないか?言葉遣い丁寧だし……。
「とりあえず今月は依頼を受けないようにしててね。陛下にはいつでも大丈夫って伝えておくから」
「……よろしく。んで?2つ目は?」
「2つ目は謁見するって事から生まれた問題なんだけど…。先に簡単に言っておくと、アルスさん達は一部の貴族から狙われているよ」
「………………は?」
「英雄なんかじゃないです。…それはやめてください」
「これは大変失礼いたしました。…では、辺境伯がお待ちです。こちらへどうぞ」
初老の男性に連れられ門の中へと入る。屋敷と聞いていたが、俺のイメージとは違い、なんというか普通の一軒家であった。
「ほっほっほ。意外でしたかな?」
俺の表情を見た老人が楽しそうに話しかける。
「意外と言っていいのか…。辺境伯と聞いていたので、凄い豪邸だと想像していましたよ」
「貴族のように派手な屋敷を持つのが嫌いでしてね。普通の家で良いと思っていたのですが、住民から見栄えは良くしてくれと懇願され、妥協した末にこの様な屋敷となったんですよ」
「へぇー。住民から愛されているんですね」
「まぁ派手なのがお好きでない方でございますからね」
「……どこかで見た事あると思ってたけど、お爺ちゃん前に荷物運んだ人だよね?」
「…ローリィも思ってた?私も何処かでお会いした気がするのよね…」
「うん。前にボク達が荷物を運んであげた事がある」
「…ん?荷物??」
「覚えていませんか?…最初に顔を売るために住民に色々と話しかけていた時ですよ」
チカにそう言われ思い出してみる。………んー?荷物を運んだ??最初??…ダメだ、思い出せない。
「ほら、リヤカーを引いてお爺ちゃんの家の前まで行った時だよー!」
リヤカー…家の前…荷物運ぶ…。ああ!!あの時か!
「思い出しましたかな?あの時は大変お世話になりました」
「ああ!あの時の!…すいません、すっかり忘れていました…」
「いえいえ、謝る事は御座いませんよ。…あれから皆様方のお話はよく耳にしておりました」
「はは。ちょっと恥ずかしいですね…」
「サガンがあれほどの襲来を受けて無事なのは皆様方のお陰ですよ。本当に感謝しております」
「…いえ。当たり前の事をしただけですから」
「…顔色が優れない様ですね。何か悩み事でも?」
「…何にも無いですよ?」
「…そうですか。よろしければ相談に乗りますが?」
「…いえ、大丈夫です」
「……少々お節介をやいてしまいました。申し訳ございません」
「あ、謝らないでください!…ただ、俺の精神的な部分なので…」
「…辛くなったら相談する事が良いでしょう。アルス様はお強いかも知れませんが、精神的にはまだ幼い。頼るのもまた、強さだと思いますよ」
「……………」
「ほっほ。長生きしている爺の戯言ですよ。…さぁ、中へお入りください」
屋敷の中へ連れられ、辺境伯の部屋へと向かう。屋敷の中も派手ではなく、質素な感じを受ける。ただ、しっかりと調度品は置かれている。
「さぁ、こちらへどうぞ。辺境伯様をお呼び致しますので、中でお待ちください」
辺境伯の部屋へと入ると、本当に辺境伯の部屋なのかと疑った。コンラッドの執務室よりも広い部屋に、仕事をする机と、来客用の机とソファしか置かれてなかった。
「お飲み物もお持ちしますので、どうぞお座りください」
そう言うと、老人は部屋から出て行く。残された俺達は申し訳程度に置かれているソファへと腰を下ろす。
しばらくして、ゆっくりとドアが開く。そこには、整った顔立ちの好青年が立っていた。
「お待たせして申し訳ない」
好青年の手には飲み物とお菓子が乗ったお盆があった。
「あ、手伝いますよ」
ドアに近づき、好青年からお盆を受け取り机へと持っていく。
「すみません。手を煩わせてしまって…」
「いえ、大丈夫ですよ」
飲み物をそれぞれの前に起き、辺境伯の机にも置いておく。
「あのー…辺境伯様は何か用事があったんでしょうか?」
「いえ、少々着替えに手間取ってしまいましてね…。遅れてしまいました」
「そうですか…。俺達は大丈夫なんでゆっくり着替えてくださいとお伝えください」
「?はぁ…。わかりました」
その好青年は腑に落ちない顔をしながらも、机へとスタスタと向かい腰を下ろす。
「?そこは辺境伯様の机じゃないんですか?」
「?ええ、そうですよ?」
「座ったりしたら不味いんじゃないですかね…?」
「??なんでですか?」
「え?だってそこは辺境伯様の机ですよね?」
「ええ、そうですよ??ダメなんですか??」
「え???」
「え???」
いやいや、ダメに決まってるだろ。辺境伯の机に召使いが普通に座ったらアカンでしょ…。人の良い辺境伯でも流石に怒ると思うなぁ…。
好青年になんと言おうか考えていると、何かに気付いたのか青年はいきなり笑い出した。
「あはははっ!なるほど、そういう事ですか!」
「あ、わかっていただけました?良かった…」
「ええ、アルス様が言いたい事は分かりましたよ」
そういうと青年は椅子から立ち上がる。
そうそう!そこは偉い人の席なんだよ!良かったー、気付いてくれて!
安堵したのも束の間、青年は飲み物を持ちながら俺の横に座るという奇行をした。
「???」
「あはははは!すいません、そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。改めまして、私の名前は『ラティクス・ファルマス』。サガンの辺境伯をしております」
「………っええええええええええ!?」
ちょっ!辺境伯!?こんな若いのに!?辺境伯ってもうちょっと歳取ってる人なんじゃないの???俺召使いかと思ってたんだけど!!
俺の驚愕した表情が面白かったのかラティクスはずっと笑っている。
「すすすすいません!!辺境伯様だとは知らずに!!」
「いえいえ。--はぁ、面白かった。まだ顔を合わせていませんでしたから、仕方ないですよ。それに、もう慣れっこですから」
「あばばばばばば。すみません…本当にすいません」
俺は慌てて土下座をしようとする。しかし、ラティクスがさせてくれなかった。
「お気になさらずに。さぁ、お座りください」
ラティクスに促され席に座る。俺の慌て様とは裏腹にチカ達は平然とした顔でお茶を飲んでいた。
「え…。なんでお前らそんな平静なの?」
「一度だけお顔を拝見した事がありますから。…王都での依頼の時ですけど…」
「拝見って言っても、人相書きなんだけどねー」
「うん。それに魔力でも判断出来た」
「…魔力ですか?」
何か引っかかる事があったのか、ラティクスはナナに尋ねる。
「うん。ボクは魔力が分かる。貴方が人よりも凄い魔力を持っているという事が」
「…噂通りの慧眼ですね。御見逸れいたしました」
「ボクにとっては普通の事。凄くはない」
「えぇ………。知ってたなら教えてくれよ…。アホみたいじゃんか」
「アルス様がすぐ近寄りに行ったので知っているものかと思ってました…」
「全然知らなかったよ…」
「まぁまぁ。私は気にしていませんから」
んもー。すげー恥ずかしいじゃんか…。チカ達は冷たいなぁ…。
「…さて、そろそろ本題に入りましょうか」
そう言うとラティクスは姿勢を正す。
「サガンを、住民を救って頂いたことを感謝します。本当に、本当にありがとうございます!」
ラティクスは俺達に、深々と頭を下げる。
「いえ、当たり前の事をしただけですから!頭をあげてください!」
「いえ!これは言葉だけでは伝えきれないのです!」
「伝わりましたから!!頭あげてください!!」
俺の2度目の言葉でゆっくりと頭をあげたラティクスは、澄んだ瞳で俺達へ話しかける。
「色々とお礼をしたいのですが、コンラッドから話は聞いております。…嫌がるでしょうが、感謝の気持ちとして形にしたいのです。何か希望する物はございませんか?」
「えぁー……そういうのは本当にいらないんです…」
「何でも良いんです!」
…いやー、マジで要らないんだよ。それに俺全部救えたわけじゃないし…。
それからは暫く押し問答が続く。頑なに断る俺と頑なに言い続けるラティクス。結局、チカの提案で押し問答は終わりを告げた。
「……辺境伯様、私から希望があるのですが」
「はい!何でも仰ってください!」
「…アルス様も私達も今回の事で金や物は必要としておりません。…しかし、辺境伯様のお気持ちも考えるとなあなあで済ませる問題でも無いと思っております。…そこで提案というか私個人の希望なのですが、今回襲撃の際無くなってしまった人達の記念碑とお墓を作って頂きたいのです。サガンには端っこの方に墓地が御座いますが、少し寂れている様子なので綺麗にして欲しいなと」
「……記念碑ですか?」
「ええ。今回の件は私達の力が足りず犠牲者が出てしまいました。身内を失った方もおられます。その方々の為に墓地を綺麗にし、未来永劫忘れない為にも残していた方が良いかと」
「…墓地の件については前々から思っていましたのですぐにでも。…しかし、記念碑となると傷跡を残す事になりませんか?」
「…それはわかりません。しかし、亡くなった方がただ魔物に襲われて死んだと考える方が辛いかと思いまして…」
「…………わかりました。色々な人と相談して決めてみます」
「よろしくお願いします」
チカの話を聞いていて素直に凄いと思った。俺の脳みそじゃ、ここまでの事は考えられなかったであろう。
「これが報酬となるかは私にもわかりません…。他に何か欲しい物はありませんか?」
「……………特に何も。というより、チカの考えが凄すぎて感心しました」
「ボクも」
「あたしもー!」
「…分かりました。チカさんの希望に沿って話を進めたいと思います」
ラティクスは手元にあったメモに書き留める。書き終わったのかペンを置くと、次の話をし始めた。
「よし、話をする前に少しお願いがあるのですが…」
「何でしょう?」
「お互い堅苦しい口調は辞めませんか?私としても、貴方達とは仲良くしたいので」
「ええ、ラティクス様がよろしければ大丈夫ですよ」
「よかった。あ、それと僕の事は『ラティ』と呼んで?では、話を続けるね。……今から話をする内容はこの街では僕とコンラッドしか知らない話。他言はしないように」
ラティの口調が真面目なものへと変わる。
「今回、アルスさん達は王都の危機を救った。多少の損害は出たけど、怪我人も最小限で済んだと報告が上がってるんだ。…ただ、アルスさんにとってはあまり良くない話が2つあるんだよねー…」
「……その話って?」
「1つ目は普通の平民からしたら嬉しい事。……アルスさん、陛下が面会を求めています。それも早急に」
「…は?なんで?」
「なんでって…王都を救ったからですよ。それしかないでしょ?」
「俺以外にも兵士達が頑張っただろ??冒険者もさ」
「それは別に終わらせてるみたいなんだよ」
「え、別ってどういう事??」
「戦った冒険者や兵士は陛下から直接お言葉と報酬金を貰ってるよ。…アルスさん達は呼ばれなかった??」
「呼ばれるも何もそんな事聞いてないぞ?」
「あー、じゃあジルが言い忘れてたのかな?アルスさん、王都の外でドラゴン討伐したでしょ?」
「ん?…ああ、倒したけど??」
「…一応言っておくけどね、ドラゴンを倒すってのは凄い事なんだよ?かなりの人数で戦って勝てるかって強さなの。それを1人で倒しちゃったから、陛下も興味を持ったんだと思うな」
「あーそういう事ね。…辞退とか出来ないかな?」
「無理だね。流石のアルスさんでも逃げられないと思うよ?」
「俺敬語とかそういうの出来ないんだぞ…?」
「そこで朗報が1つ。陛下は個人で面会を求めてるんだ」
「尚更無理だろ!!ヤダ!絶対ヤダ!!」
いやいやいやいや。普通に考えてそれは無い。変な喋り方したら不敬罪とか言われそうだし、相手は王様だろ??絶対無理!!
俺の表情が語っていたのだろう。ラティは苦笑いしながら話を続ける。
「まぁ諦めてよ。無理っていうのが無理なんだからさ」
「その面会って俺1人で??」
「いや?面会はチカさん達もだよ」
……イケるか?俺は喋らないようにしてチカに丸投げすればギリ大丈夫じゃないか?言葉遣い丁寧だし……。
「とりあえず今月は依頼を受けないようにしててね。陛下にはいつでも大丈夫って伝えておくから」
「……よろしく。んで?2つ目は?」
「2つ目は謁見するって事から生まれた問題なんだけど…。先に簡単に言っておくと、アルスさん達は一部の貴族から狙われているよ」
「………………は?」
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