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056話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
ドーンの家の前に辿り着いてからの記憶は無い。俺がどのように謝罪したのか、ヘレナさんがどのような返答をしたのかさえも。ただ、1つだけ言える事は俺が号泣しながらドーンの言葉を伝えたのは覚えている。俺が気付いた時には、自宅のベッドに寝ており心配そうに取り囲んでいるチカ達とコンラッド、フィンの姿が見えた。
「……お?目を覚ましたようだな」
コンラッドが安堵したような声で話しかける。その声にチカ達も反応した。
「ご主人様っ!!」
「アルス様っ!」
「マスター!!」
「…なんでここに?俺はヘレナさんに会いに行ったはずじゃ……」
「…覚えてないんですか?」
「……うん、全然覚えてない」
フィンが深々と溜め息を吐くと、何があったのかを教えてくれた。
「ヘレナさんが僕達を探しに来た所からしかわからないですけど…アルスさん、壊れた人形みたいに泣きじゃくってましたよ?」
「…え??」
「ヘレナさんが言うには、来た時からずーっと謝罪をしてたみたいです。そして、ドーンさんの最後の言葉を伝えた頃から感情の起伏が激しくなったと。ヘレナさんは感謝を告げたかったみたいですが、耳を貸さない状況だったらしく、ドーンさんがよく座ってた椅子に向かってひたすら謝り倒してたとか。流石に怖くなって、アルスさんを叩いたりしたみたいなのですが、それでも壊れたレコードの様に延々と同じ言葉を紡いでいたらしく、埒があかないと思い僕達を呼びに来たと言う事でした」
「実際、お前を見るまでは何を言っているんだと思っていたが、目の当たりにしたら流石の俺も恐怖を覚えたぞ?」
「……え、嘘…。そんなだったのか?」
「…狂気染みていましたね。何も居ない空間に涙ながらに謝っている姿は鳥肌が立ちましたよ」
「…へ、ヘレナさんはなんて言ってた?」
「『今は話せる状態に無いみたいだから、落ち着いたらまた来てください。あと、私は怒ってなんかいませんよ』だそうだ」
「……そうか」
「……アルス様、ローリィから話は聞きました。その心中は察します。けれど、街の人達は誰1人アルス様を責める様な台詞は言っていませんでしたよ?」
「そうだぞ。お前が居なかったら全員死んでもおかしくなかったんだ。……お前をここまで運んでる時、皆心配していたぞ?どうしたんだ?何かあったのか?…ってな」
「…………なんで皆心配してくれるんだ?俺は護りきれなかったんだぞ?普通は怒るものだろう…?」
「…アルスさん、それは違います。魔物の襲撃というのは必ず犠牲が出るんです。アルスさんが来るまでは、街周辺に出た魔物の討伐で亡くなる人はいたんですよ。それが普通だったんです」
「お前のお陰で、死人が出る事が無くなったがな。……というより、お前の考えは贅沢すぎるぞ?」
「…贅沢?なんでだ?」
「こう言っちゃなんだが、何事にも犠牲は出るものだ。全てを救おうなど夢物語だ。…ただ、なまじお前には力がある。それも夢物語で終わるのを実現出来るぐらいのな」
「だからこそ!俺は皆から怨まれるべきだ!激怒されるべきなんだよ!!」
俺は感情任せに叫ぶ。その言葉にコンラッド達はやや呆れたように溜め息をつく。
「……はぁー。レインの言った通りだな。アルスは幼子に戻ったようだ」
「でしょ?アルスったら門の上でもこんな感じだったんだから」
レインの声が聞こえ視線を向けると、レインじゃない人物がいた。
「………え?誰?」
「こんな姿だけどレインだよ?声は変わってないでしょ?」
「えぇ?いや…んん???」
声は確かにレインだ。やや大人びた口調ではあるが、その声は門の上で聞いた声であった。
「……アルス、お前の困惑ぶりはひじょーに分かるぞ。…だがな、そこにいるのは紛れも無いレインなのだ」
「…嘘だろ。レインは子供だったはずだろ!?」
「マスター、落ち着いて。魔力的にもこの女性はレインで間違いない」
「……う、そだろ?」
俺の視線の先には美しい女性がいた。身長はチカほどで、髪の毛は黒のロングストレート。綺麗な鼻筋と愛くるしい目はレインそっくりである。それに、服の上からでも分かる巨乳具合。ローリィほどでは無いが、世の中の男が注視するぐらいはある。
「嘘じゃないよ。…ま、信じてもらえないだろうけど」
「……本当にレインなのか?」
「本当だってば。門の上で膝枕してあげたでしょ?」
「何それ。ボク聞いてない」
「待って。レイン、貴女アルス様に膝枕したの!?」
「あたしも聞いてない!!ズルイよレインちゃん!!」
「ふふん。あの時はアルスがとっても可哀想だったから仕方なかったの。……そんな羨ましがるならお姉ちゃん達もした--ちょっと!何するのよ!」
「レイン黙ってついてきなさい」
「大丈夫。悪いようにはしない」
「ちょーっとお話しようねっ!」
チカ達はレインを引き連れ部屋から出て行く。変な雰囲気となったが、それを振り払うかのようにコンラッドが話し始める。
「--んん゛っ。…まぁとにかくあの女性はレインということは間違いない。驚きはしたがな」
「……ええ。僕も初めて見た時は信じられなかったですから」
「……何が何だか。さっきまで子供だったのに…」
「…レインから聞いたが、彼女は特殊な種族らしい。エルフとケットシーの混血だとかなんとか。それ以上は語らなかったので、詳しい事は分からないがな」
「え?…獣人じゃなかったのか?」
「…僕もよく分からないです。『ケットシー』が何なのかも。……ただ、レインさんはこう言ってました。『時期が来たら分かる』と」
「…謎すぎやしないか?」
「本人が多くを語らないから仕方ないだろう。…それに、敵意などは全く無いしな」
「時期が来たら…か。なんかのフラグみたいだな…」
「…お前のたまに言うその『フラグ』とは何だ?暗号か?」
「暗号じゃねーよ。……その、何つーか…説明がめんどくさいな。ただの使い勝手の良い単語ってことだな」
「…よく分からんな。例えばどんな時に使うんだ?」
「えーっとだな……
俺が適当な事を言おうとした時、涙目のレインを連れてチカ達が戻ってくる。
「ただいま戻りました」
「あー……そのー……なんだ。うん、お帰り」
有無を言わさない態度に言葉を詰まらせる。『触れない方が良い』と男達はそう思い、目配せしあった。
「さて、そろそろお暇しようかな。……そうそう、アルス。明日の朝、起きたらギルドへ来い。辺境伯様がお会いしたいそうだ。……『感謝を伝えたい』との事だ」
「……わかった」
「いつまでも幼子のままでいるなよ?…では、また明日」
「おやすみなさいアルスさん」
コンラッド達はチカ達にも挨拶し部屋から出て行く。部屋のドアが閉まった途端、チカ達がベッドへと飛び込んで来た。
「うわっ!!」
「心配しましたわ!!」
「そういう溜め込み方は良くない」
「そうだそうだー!!」
チカ達に思いっきり抱き締められ、何が起きているのかさっぱり分からない。助け舟を貰うべく、レインに視線を向ける。
「お姉ちゃん達、アルスの事凄く心配してたんだよ?それはそれはすごぉーーーーくね?」
「そうか…。ごめんなお前ら」
「「「…………………」」」
返答はない。チカ達はアルスの体に顔を埋め、ギュッと締める事で返事としていた。チカ達の頭を優しく撫でる。
「お姉ちゃん達はね、アルスが悲しいのは凄く嫌なんだって。1人で悩んで欲しくないんだって」
そう言うと、レインはベッドへと腰掛ける。
「アルスは1人じゃない。仲間もいるし、アルスを大事に思ってる人もいる。少しは頼ってもいいんだよ?」
「……………」
「さ、明日は早いしもう寝ようか。…ほら、お姉ちゃん達も寝る仕度をしなさい!」
レインに無理矢理剥がされるように、チカ達は俺から離れていく。着替えが終わり、再度チカ達はベッドへと入ってくる。
「おやすみなさいアルス様。…1人で悩まないでくださいね?」
「おやすみマスター。もっとボク達を頼ってほしい」
「おやすみご主人様。あたし達はいつまでもご主人様と一緒にいるよ!」
優しい笑顔でチカ達は自分達の気持ちを伝えてくれる。
「私も側にいるよ。おやすみアルス」
少しでも俺の近くに来ようと寄り添うように布団に入る。その優しさに涙が出そうになったが、堪える。
「……おやすみ。ありがとな」
笑顔で返答をしチカ達は眠りについた。俺は眠れないだろうと思って、色々と自分の気持ちを考えていたが、いつのまにか眠りについていたのだった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「お姉ちゃん達ー!朝だよー!起きなさーい!!」
レインの声で目を覚ます。目をこすりながら起きると、珍しくチカ達はまだ瞼を閉じたままだった。
「おはようアルス。ついでに、お姉ちゃん達も起こしてくれないかな?」
「おはようレイン」
そのままチカ達を揺すって起こす。
「ほら、お前ら起きろ」
「…うーん…」
珍しく寝起きがゆっくりだ。昨日の事で疲れていたのだろう。
「……あ、おはようございますアルス様」
「おはよう。熟睡出来たか?」
「ええ…。多分…」
言葉を少し濁された様に感じたが、それ以上は聞かずいつもの格好へと着替える。
「ナナお姉ちゃん!朝ご飯作るから起きてよ!!」
「…あと120分…」
「ローリィお姉ちゃんも!!」
「…ご主人様がキスしてくれたら起きる…」
「ズルイ。…ボクもそうしてくれたらすぐ起きる…」
「いや…お前ら起きてるだろ…」
結局、能面のような表情をしたチカがナナ達を起こした。水魔法を使って起こした為、ベッドは水浸しになった。
下に降り朝食を作り全員で食べる。そしてふと思った事を口にする。
「…なぁ、レインは急に大きくなってしまったじゃん。…預かる子供達は驚くんじゃないか?」
「…確かにそうですね」
小学低学年の子が、いきなり高校生になったら誰でも驚くであろう。友達も出来ていただろうし、どうしようかと悩んでいるとその答えをレインが教えてくれる。
「あ、大丈夫。私元に戻れるから」
「…はぁ?元に戻れるってどういう意味だ?」
「そのままの意味よ。…ほらこんな感じに」
レインはボソボソと何かを唱えると光に包まれる。その光が段々と小さくなるとそこには、拾ってきた当初のレインの姿があった。
「…ってな感じね」
「…どうやってるの?そんな魔法をボクは知らない」
「あたしも小さくなりたい!レインちゃん、教えてよ!!」
「教えれないわ。だってこれ魔法じゃないですもの」
「レイン、それはもしかして種族限定の魔法かしら?」
「…うーん。そうとも言えるしそうでもないね。とりあえず言えるのは、この現象は私にしか出来ないという事かな」
「…その格好で大人びた感じだと違和感が凄いな」
「皆の前では口調変えるわよ?アルスお兄ちゃん」
「……そうしてくれ」
どうやらレインには重大な秘密がありそうだ。言葉も濁してるし。…けど、『時期が来たら』って言っていたし気長に待つとしようかな。
後片付けをしながら子ども達の受け入れを始める。今日は復興作業がある為早くから集まっていた。復興作業が出来ないお年寄りも申し訳なさそうに学校へと来ていた。
住民総出で復興作業を行う為、ボランティアの人も居ない。丁度良かったので、そのお年寄り達に子ども達をお願いし、俺達はギルドに行く事を伝えご飯をお願いしておいた。
準備が終わり、コンラッドへ連絡する。すると、ギルドではなく辺境伯の屋敷へと直接向かえと言われた。屋敷の場所を教えてもらい、チカ達と向かう。行くまでに住民からよく話しかけられる。皆、俺達に感謝しか伝えなかった。昨日までの俺だったら愛想笑いしか出来なかっただろう。しかし、心の重荷が少し軽くなった今なら素直に受け止められた。
そして、教えられた屋敷の門の前にどこかで見た老人が立っていたのだった。
ドーンの家の前に辿り着いてからの記憶は無い。俺がどのように謝罪したのか、ヘレナさんがどのような返答をしたのかさえも。ただ、1つだけ言える事は俺が号泣しながらドーンの言葉を伝えたのは覚えている。俺が気付いた時には、自宅のベッドに寝ており心配そうに取り囲んでいるチカ達とコンラッド、フィンの姿が見えた。
「……お?目を覚ましたようだな」
コンラッドが安堵したような声で話しかける。その声にチカ達も反応した。
「ご主人様っ!!」
「アルス様っ!」
「マスター!!」
「…なんでここに?俺はヘレナさんに会いに行ったはずじゃ……」
「…覚えてないんですか?」
「……うん、全然覚えてない」
フィンが深々と溜め息を吐くと、何があったのかを教えてくれた。
「ヘレナさんが僕達を探しに来た所からしかわからないですけど…アルスさん、壊れた人形みたいに泣きじゃくってましたよ?」
「…え??」
「ヘレナさんが言うには、来た時からずーっと謝罪をしてたみたいです。そして、ドーンさんの最後の言葉を伝えた頃から感情の起伏が激しくなったと。ヘレナさんは感謝を告げたかったみたいですが、耳を貸さない状況だったらしく、ドーンさんがよく座ってた椅子に向かってひたすら謝り倒してたとか。流石に怖くなって、アルスさんを叩いたりしたみたいなのですが、それでも壊れたレコードの様に延々と同じ言葉を紡いでいたらしく、埒があかないと思い僕達を呼びに来たと言う事でした」
「実際、お前を見るまでは何を言っているんだと思っていたが、目の当たりにしたら流石の俺も恐怖を覚えたぞ?」
「……え、嘘…。そんなだったのか?」
「…狂気染みていましたね。何も居ない空間に涙ながらに謝っている姿は鳥肌が立ちましたよ」
「…へ、ヘレナさんはなんて言ってた?」
「『今は話せる状態に無いみたいだから、落ち着いたらまた来てください。あと、私は怒ってなんかいませんよ』だそうだ」
「……そうか」
「……アルス様、ローリィから話は聞きました。その心中は察します。けれど、街の人達は誰1人アルス様を責める様な台詞は言っていませんでしたよ?」
「そうだぞ。お前が居なかったら全員死んでもおかしくなかったんだ。……お前をここまで運んでる時、皆心配していたぞ?どうしたんだ?何かあったのか?…ってな」
「…………なんで皆心配してくれるんだ?俺は護りきれなかったんだぞ?普通は怒るものだろう…?」
「…アルスさん、それは違います。魔物の襲撃というのは必ず犠牲が出るんです。アルスさんが来るまでは、街周辺に出た魔物の討伐で亡くなる人はいたんですよ。それが普通だったんです」
「お前のお陰で、死人が出る事が無くなったがな。……というより、お前の考えは贅沢すぎるぞ?」
「…贅沢?なんでだ?」
「こう言っちゃなんだが、何事にも犠牲は出るものだ。全てを救おうなど夢物語だ。…ただ、なまじお前には力がある。それも夢物語で終わるのを実現出来るぐらいのな」
「だからこそ!俺は皆から怨まれるべきだ!激怒されるべきなんだよ!!」
俺は感情任せに叫ぶ。その言葉にコンラッド達はやや呆れたように溜め息をつく。
「……はぁー。レインの言った通りだな。アルスは幼子に戻ったようだ」
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「………え?誰?」
「こんな姿だけどレインだよ?声は変わってないでしょ?」
「えぇ?いや…んん???」
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「……アルス、お前の困惑ぶりはひじょーに分かるぞ。…だがな、そこにいるのは紛れも無いレインなのだ」
「…嘘だろ。レインは子供だったはずだろ!?」
「マスター、落ち着いて。魔力的にもこの女性はレインで間違いない」
「……う、そだろ?」
俺の視線の先には美しい女性がいた。身長はチカほどで、髪の毛は黒のロングストレート。綺麗な鼻筋と愛くるしい目はレインそっくりである。それに、服の上からでも分かる巨乳具合。ローリィほどでは無いが、世の中の男が注視するぐらいはある。
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「……本当にレインなのか?」
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「何それ。ボク聞いてない」
「待って。レイン、貴女アルス様に膝枕したの!?」
「あたしも聞いてない!!ズルイよレインちゃん!!」
「ふふん。あの時はアルスがとっても可哀想だったから仕方なかったの。……そんな羨ましがるならお姉ちゃん達もした--ちょっと!何するのよ!」
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「大丈夫。悪いようにはしない」
「ちょーっとお話しようねっ!」
チカ達はレインを引き連れ部屋から出て行く。変な雰囲気となったが、それを振り払うかのようにコンラッドが話し始める。
「--んん゛っ。…まぁとにかくあの女性はレインということは間違いない。驚きはしたがな」
「……ええ。僕も初めて見た時は信じられなかったですから」
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「…レインから聞いたが、彼女は特殊な種族らしい。エルフとケットシーの混血だとかなんとか。それ以上は語らなかったので、詳しい事は分からないがな」
「え?…獣人じゃなかったのか?」
「…僕もよく分からないです。『ケットシー』が何なのかも。……ただ、レインさんはこう言ってました。『時期が来たら分かる』と」
「…謎すぎやしないか?」
「本人が多くを語らないから仕方ないだろう。…それに、敵意などは全く無いしな」
「時期が来たら…か。なんかのフラグみたいだな…」
「…お前のたまに言うその『フラグ』とは何だ?暗号か?」
「暗号じゃねーよ。……その、何つーか…説明がめんどくさいな。ただの使い勝手の良い単語ってことだな」
「…よく分からんな。例えばどんな時に使うんだ?」
「えーっとだな……
俺が適当な事を言おうとした時、涙目のレインを連れてチカ達が戻ってくる。
「ただいま戻りました」
「あー……そのー……なんだ。うん、お帰り」
有無を言わさない態度に言葉を詰まらせる。『触れない方が良い』と男達はそう思い、目配せしあった。
「さて、そろそろお暇しようかな。……そうそう、アルス。明日の朝、起きたらギルドへ来い。辺境伯様がお会いしたいそうだ。……『感謝を伝えたい』との事だ」
「……わかった」
「いつまでも幼子のままでいるなよ?…では、また明日」
「おやすみなさいアルスさん」
コンラッド達はチカ達にも挨拶し部屋から出て行く。部屋のドアが閉まった途端、チカ達がベッドへと飛び込んで来た。
「うわっ!!」
「心配しましたわ!!」
「そういう溜め込み方は良くない」
「そうだそうだー!!」
チカ達に思いっきり抱き締められ、何が起きているのかさっぱり分からない。助け舟を貰うべく、レインに視線を向ける。
「お姉ちゃん達、アルスの事凄く心配してたんだよ?それはそれはすごぉーーーーくね?」
「そうか…。ごめんなお前ら」
「「「…………………」」」
返答はない。チカ達はアルスの体に顔を埋め、ギュッと締める事で返事としていた。チカ達の頭を優しく撫でる。
「お姉ちゃん達はね、アルスが悲しいのは凄く嫌なんだって。1人で悩んで欲しくないんだって」
そう言うと、レインはベッドへと腰掛ける。
「アルスは1人じゃない。仲間もいるし、アルスを大事に思ってる人もいる。少しは頼ってもいいんだよ?」
「……………」
「さ、明日は早いしもう寝ようか。…ほら、お姉ちゃん達も寝る仕度をしなさい!」
レインに無理矢理剥がされるように、チカ達は俺から離れていく。着替えが終わり、再度チカ達はベッドへと入ってくる。
「おやすみなさいアルス様。…1人で悩まないでくださいね?」
「おやすみマスター。もっとボク達を頼ってほしい」
「おやすみご主人様。あたし達はいつまでもご主人様と一緒にいるよ!」
優しい笑顔でチカ達は自分達の気持ちを伝えてくれる。
「私も側にいるよ。おやすみアルス」
少しでも俺の近くに来ようと寄り添うように布団に入る。その優しさに涙が出そうになったが、堪える。
「……おやすみ。ありがとな」
笑顔で返答をしチカ達は眠りについた。俺は眠れないだろうと思って、色々と自分の気持ちを考えていたが、いつのまにか眠りについていたのだった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「お姉ちゃん達ー!朝だよー!起きなさーい!!」
レインの声で目を覚ます。目をこすりながら起きると、珍しくチカ達はまだ瞼を閉じたままだった。
「おはようアルス。ついでに、お姉ちゃん達も起こしてくれないかな?」
「おはようレイン」
そのままチカ達を揺すって起こす。
「ほら、お前ら起きろ」
「…うーん…」
珍しく寝起きがゆっくりだ。昨日の事で疲れていたのだろう。
「……あ、おはようございますアルス様」
「おはよう。熟睡出来たか?」
「ええ…。多分…」
言葉を少し濁された様に感じたが、それ以上は聞かずいつもの格好へと着替える。
「ナナお姉ちゃん!朝ご飯作るから起きてよ!!」
「…あと120分…」
「ローリィお姉ちゃんも!!」
「…ご主人様がキスしてくれたら起きる…」
「ズルイ。…ボクもそうしてくれたらすぐ起きる…」
「いや…お前ら起きてるだろ…」
結局、能面のような表情をしたチカがナナ達を起こした。水魔法を使って起こした為、ベッドは水浸しになった。
下に降り朝食を作り全員で食べる。そしてふと思った事を口にする。
「…なぁ、レインは急に大きくなってしまったじゃん。…預かる子供達は驚くんじゃないか?」
「…確かにそうですね」
小学低学年の子が、いきなり高校生になったら誰でも驚くであろう。友達も出来ていただろうし、どうしようかと悩んでいるとその答えをレインが教えてくれる。
「あ、大丈夫。私元に戻れるから」
「…はぁ?元に戻れるってどういう意味だ?」
「そのままの意味よ。…ほらこんな感じに」
レインはボソボソと何かを唱えると光に包まれる。その光が段々と小さくなるとそこには、拾ってきた当初のレインの姿があった。
「…ってな感じね」
「…どうやってるの?そんな魔法をボクは知らない」
「あたしも小さくなりたい!レインちゃん、教えてよ!!」
「教えれないわ。だってこれ魔法じゃないですもの」
「レイン、それはもしかして種族限定の魔法かしら?」
「…うーん。そうとも言えるしそうでもないね。とりあえず言えるのは、この現象は私にしか出来ないという事かな」
「…その格好で大人びた感じだと違和感が凄いな」
「皆の前では口調変えるわよ?アルスお兄ちゃん」
「……そうしてくれ」
どうやらレインには重大な秘密がありそうだ。言葉も濁してるし。…けど、『時期が来たら』って言っていたし気長に待つとしようかな。
後片付けをしながら子ども達の受け入れを始める。今日は復興作業がある為早くから集まっていた。復興作業が出来ないお年寄りも申し訳なさそうに学校へと来ていた。
住民総出で復興作業を行う為、ボランティアの人も居ない。丁度良かったので、そのお年寄り達に子ども達をお願いし、俺達はギルドに行く事を伝えご飯をお願いしておいた。
準備が終わり、コンラッドへ連絡する。すると、ギルドではなく辺境伯の屋敷へと直接向かえと言われた。屋敷の場所を教えてもらい、チカ達と向かう。行くまでに住民からよく話しかけられる。皆、俺達に感謝しか伝えなかった。昨日までの俺だったら愛想笑いしか出来なかっただろう。しかし、心の重荷が少し軽くなった今なら素直に受け止められた。
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