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051話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
楽しい夕食をご馳走になったあと、俺達は家へと戻った。レインも喋り疲れたのか、俺の背中でスヤスヤと眠っている。
「楽しかったなー!」
「ええ、素晴らしい夕食でしたわ。今度は私達が夕食に招待しましょう!」
「腕によりをかけて豪華な食事を作る」
「次はいつになるのかなー??」
早くも次にドーン達を招く計画を立てたいると、チカが窓へと駆け寄った。
「…どうしたチカ?」
「『警戒』に反応がありました。…数は多過ぎて数え切れません!」
昨日エルダーリッチと戦った場所に保険として魔法をかけていた。
「…どうやらまた攻めて来たみたいだな」
「ッ!!強大な魔力を探知しました!前回、アルス様が戦った時よりも強い反応です!」
「お前ら急げ!!」
レインをベッドに寝かせ、書き置きを残しておく。すぐさま裏門へと転移する。
「おや?アルスさんじゃないですか?どうしたんです?こんな夜中に」
「敵が現れたみたいだ。数は不明だが前回よりも多いかもしれない。至急、カーバインに伝えろ!!!」
転移先でぼけーっと突っ立っていた兵士を連絡係として走らせる。
「…アルス様、前方におびただしい量の魔物が確認出来ました。殆どがスケルトンのようです」
「わかった。チカとナナはここにいて兵士達と共に戦え。ローリィは俺についてこい!」
「「「了解!!!」」」
俺が言うまでもなくチカ達は完全武装になった。
「ローリィ行くぞ!!!」
強化魔法をかけ俺とローリィは敵陣へと突っ込んで行くのであった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「進軍せよ」
異形のモノの指示に従い、スケルトン達がサガンへと侵攻する。人型のもいれば、獣の様な姿もいる。
「……まさか土壇場で魔王様が計画の変更を仰るとは、思いもよらなかったな」
「ガノン殿。ワレの配下のエルダーリッチが勝手な事をしでかした。誠に申し訳ない」
「良い。…だが、シモベがしくじった後始末はお前が責任を持って実行せよ」
「…ハッ!」
スケルトン達を指揮しているのはガノンであった。横には純然たる髑髏が高位のローブを羽織っていた。
「今回、あの街をお前の軍で半壊するまで追い込め。……お前1人の力で」
「……他の3人はどうしているのでしょうか?」
「魔王城の警備をしている。理由は分からぬが魔王様直々に申しつけられたからな」
「となると…ワレを信頼してこの大役に選んでくださったのだろうか?」
「だろうな。だから、失敗は許されぬぞ?魔王軍四天王の誇りを持って必ず成功させろ」
「御意。……ガノン殿、もしあの街を滅ぼした場合はワレもあちらへ向かった方がいいだろうか?」
「ならぬ。お前はあくまで陽動だ。……まぁ、あちらに人手が足りなくなったら応援を呼ぶとしよう。それまでは、必ず均衡を保つのだぞ?」
「御意。…では、また後でお会い致しましょう…」
「うむ。吉報を持ち帰れ!リッチよ!」
フワリとリッチは宙に浮かび、ユラリユラリとサガン目指して進む。その後ろ姿を見送りながらガノンも行動を起こす。
「…さて、イフリートから借りたドラゴンを呼び出すとするか」
ガノンは裾からベルの様な物を取り出すとチリリンと鳴らす。上空から激しい羽音が聞こえると跳躍しドラゴンの背に乗り彼方へと飛んで行くのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
敵の侵攻スピードは恐るべきものであった。雑魚とは言えど、地中から沢山のスケルトンやゾンビが出てくる。『キリがない』という言葉は正にこの様な事を言うのであろう。
「ご主人様!埒があかないから広範囲ぶっ放してもいい!?」
「さっきも俺がぶっ放したろ!!それでも湧き出てくるんだから無意味なんだって!」
ローリィが前方に強大な魔力を感じたというので道を作る為、エルダーリッチに放った魔法よりも上の魔法をぶっ放した。しかし、理由は分からないのだが一度全滅したスケルトン達は言葉通り『瞬時に』再生し、道を塞いでいった。それに加え、増援と言うべきなのか新たな魔物が続々と出てきている状況だ。
「でもこれじゃ全然前に進めないよ!?」
「地道に進んで行くしか手は無いんじゃ無いか!?それよりも、後ろに敵を逃してねーよな!?」
「さっきから横一列はぶっ殺していってるよ!!取り逃がしは無いよ!」
「ならいい!!ローリィ!チェインするぞ!『餓狼鋼破』だ!!」
『チェイン』。『Destiny』というゲームにはバトルシステムに相手より素早さが3倍以上高い時に発動するギミックがあった。剣技なら剣技同士、魔法なら属性魔法同士が連続して敵に大ダメージを与えるというシステムだ。極稀に技同士が合体し、より強大な魔法となる場合があったが、大体の合体技は解明されつつあった。
「了解!--『餓狼鋼破』!!」
スキルを発動すると俺とローリィの前に居たスケルトン達が全て破壊される。通常ならこれで終わりなのだが、チェインにより強化されたスキルが具現化される。俺がこの技を使ったのには理由があり、このスキルには特殊効果があり、一定数のダメージを受けるまで敵に攻撃し続けるという点だ。
「よし、しばらくはこれで大丈夫だろう。ローリィ、お前が感じた所に急ぐぞ!」
スケルトン如きの攻撃力じゃ、餓狼は倒せないであろう。なので、後続の憂いは無い。心置き無く前にいる敵に集中出来る。
魔の森近くまで来ただろうか。地中から数体湧き出てくるが、一度倒すと復活する事は無かった。怪しい感じを受けるが何より今は速度優先だ。しかし、最後であろう敵を倒した直後、ローリィの焦った声が聞こえた。
「--ッ!ご主人様避けて!!!」
地中から振動が伝わりその場から跳躍し離れる。俺が立っていた場所に下から大剣が突き出ていた。
「あぶなっ!」
大剣が動きを止めると地響きが大きくなる。そして、目の前の砂地が盛り上がり、潜んでいた魔物の姿が露わになった。
「ぅおおおオオオオオオオオオオオオオン」
雄叫びを上げながら俺達目掛け一閃する。その攻撃を回避し魔物を見上げる。
「でっけぇな………」
全長は10mぐらいだろうか。横も縦もデカく、持っている大剣もバカでかい。スケルトンだとは思うが、他のと違いこの魔物は鎧を纏っている。
「……なんだろこの魔物?こんなの見た事ないよ!」
「…多分だと思うけど、『武者髑髏』だろうな。前、王都の図書館で文献を読んだ事がある」
--『武者髑髏』。昔、ジパングに出現した事がある。怨念を残した武士の魂がいくつも混じり合い1つになった姿。その数は100をゆうに超える。剣技はもちろんのこと、防御力、体力ともに桁外れのステータスを持つ。厄介な事に、コイツの攻撃は『呪い』が付与されており、擦り傷1つ与えられると同士討ちを行ってしまうという、迷惑極まりない能力を持っている。ジパングでは、コイツを倒す時に沢山の死傷者が出たらしい。
「…これって強いの?」
「…さぁな。コイツの攻撃に当たると状態異常になるから気をつけるんだぞ?」
「…わかったぁ。接近戦はしないようにするね!」
この様な魔物は『Destiny』には出現した事が無い。という事はこの世界特有の魔物なのであろう。強さも分からないので、慎重に戦う必要がありそうだ。
「何はともあれ、コイツがスケルトン達を操っているんだろうな。ローリィが感じた力はコイツだろ?」
「んー…少し弱い様な気がするけど、多分コイツで間違いないと思う」
「なら、さっさと倒そう。親玉を倒せば雑魚も消滅するだろう」
「オッケー!なら…あたしからするね!」
ローリィは正拳突きの構えを取ると武者髑髏目掛けて気弾を放つ。しかし、目に見えない壁によって攻撃は無力化された。
「ええっ!?障壁持ちなの!?……めんどくさいなぁ!!」
「先に障壁から取り除くか。--『道化師の悪戯』」
手をかざし魔法を発動すると、俺たちの前にカラフルな道化師が現れる。奇怪な笑い声を上げながら道化師は武者髑髏に近付き障壁に体当たりする。ぶつかった箇所が痛かったのか、さすりながら今度はパントマイムの真似事をする。奇怪な声が癪に触ったのか武者髑髏が道化師に向けて剣を薙ぎ払うが、実体が無い為ダメージは入らない。むしろ、攻撃された事に道化師は喜びパントマイムが加速する。道化師が絶頂に達した時、ガラスが割れる様な音が聞こえ道化師は消えていった。
「よし、障壁は剥がれたぞ!『耐性』防具に切り替えたか?」
「もっちろん!これで呪いは効かないよっ!」
「なら今度はこっちの番だな。--行くぞっ!!」
俺達が攻めてきたのが分かったのか、武者髑髏は剣を薙ぎ払う。しかし、完全武装となった俺達には通用しない。
「意外と軽いんだね!もっと重いかと思ってたよ!」
大剣を片手で受け止めローリィはもう片方で武者髑髏の腕を殴る。もげたりはしなかったが痺れたのだろう、武者髑髏は大剣を手放した。
「ひゅー!ローリィすげぇな…」
「顔まで届かないからちょっとしゃがんでくれるかなっ!」
武者髑髏に強烈な足払いをかける。蹴ったとは思えない音を立てながら武者髑髏は片膝をつく。
「『ジャリンガの怒り』!!」
顔の部分が下に来たと同時にローリィはスキルを発動する。顎の部分を的確に左右に揺らす。そのままつま先で蹴り上げると反動で武者髑髏は仰け反る。
「『シャイニングウィザード』!!」
片膝を使い跳躍し膝の部分で武者髑髏のコメカミ部分に思いっきり当てる。骨が砕けた音と共にゆっくりと地面へと倒れていく。
「……えげつねぇ…」
「ご主人様も攻撃してよ!!あたしばっかりじゃん!!」
「すまんすまん。…けど、もう終わりじゃ無いのか?」
倒れた武者髑髏は微動だにしない。
「うーん…まだだと思うな。確実に殺したっていう感覚がしないもん!」
物騒な事を言いながら、ローリィは武者髑髏を睨んでいる。そして、ローリィの言う通り武者髑髏がゆっくりと動き始めた。
「……おいおいマジかよ…。結構ダメージ与えただろ?」
「…うわぁ、コイツ自己再生能力も持ってるんだ…」
ローリィが砕いたコメカミ部分がジワジワと回復していく。その様はジグソーパズルのようで少しだけ体がゾワゾワする。
「んー、やっぱり無属性だと効き目ないのかなぁ?ご主人様ぁー、聖属性で攻撃してよ!」
「わかった。--『聖母の涙』」
音速で剣を振るうと、聖属性を付与した斬撃をいくつも武者髑髏の足目掛け放つ。斬撃が当たるにつれ土煙が起こり、やがて片足を失った武者髑髏が剣でカラダを支える状態になった。
「やっぱり聖属性なら効くんだね!自己再生も起きてないみたいだし、トドメさしちゃおっか!」
「--ッ!ローリィ!避けろ!!!」
土煙の中から鋭く尖った骨がローリィ目掛け飛んでくる。間一髪、回避する事が出来たローリィだが顔は醜く歪んでいた。
「……くも。………くもあたしの顔にッ!!!!」
ローリィの体に赤黒いオーラが湧き出る。
「げっ。『狂戦士化』か!?」
俺が気付いた時にはローリィは武者髑髏の肩に乗っていた。
「--コロス。アトカタモナクコロス」
赤黒く染まった顔に怪しく光る眼。ローリィは素手で武者髑髏の鎧を掴むと強引に剥ぎ取った。
「ゥオオオオオオオオオオオオオオオンンンッ」
鎧だけでなく左の骨までも捥がれ、武者髑髏は断末魔の叫びを上げる。右手でローリィを捕まえようとするが空を切る。
そのままローリィは下に降り、今度は右足の脛当てを剥ぎにかかる。武者髑髏がローリィ目掛け拳を振り下ろすが、その攻撃を避けながら強引に骨ごと捥ぎ取る。膝の骨が露わになり、武者髑髏はバランスを崩す。器用に右手だけで体を支えるが、その隙に左足を今度は破壊し始める。ゴギンボギンと骨と鎧が砕ける音が聞こえる。武者髑髏は口から呪詛の様なモノを吐き出しローリィの行動を阻害しようとするが、狂戦士化となっているローリィには無意味であった。
やがて、左大腿骨から下が綺麗に砕けたのを確認すると、ローリィは跳躍しその高さを活かしたかかと落としを武者髑髏の頭蓋に喰らわせる。
ガツッという石がぶつかった様な音が聞こえると、武者髑髏はうつ伏せに沈む。右手が動いているので、まだ生きているであろう。
そのままローリィは背中に乗り、興奮した声を高らかに上げながら胸椎部分を抜き出していく。そして、腰椎、肋骨を砕きながら見事に頚椎のみを残した。
武者髑髏の眼の光が段々と暗くなっているのを俺はただただ無言で見つめていた。これには理由があり、狂戦士化しているキャラがいる時、行動を起こしてしまうと味方にも攻撃をしてくるからだ。その辺の雑魚ならいざ知らず、ローリィは俺と同じくステータスはカンストしている。武器も最高レアリティなので大ダメージは必至だ。
楽しい夕食をご馳走になったあと、俺達は家へと戻った。レインも喋り疲れたのか、俺の背中でスヤスヤと眠っている。
「楽しかったなー!」
「ええ、素晴らしい夕食でしたわ。今度は私達が夕食に招待しましょう!」
「腕によりをかけて豪華な食事を作る」
「次はいつになるのかなー??」
早くも次にドーン達を招く計画を立てたいると、チカが窓へと駆け寄った。
「…どうしたチカ?」
「『警戒』に反応がありました。…数は多過ぎて数え切れません!」
昨日エルダーリッチと戦った場所に保険として魔法をかけていた。
「…どうやらまた攻めて来たみたいだな」
「ッ!!強大な魔力を探知しました!前回、アルス様が戦った時よりも強い反応です!」
「お前ら急げ!!」
レインをベッドに寝かせ、書き置きを残しておく。すぐさま裏門へと転移する。
「おや?アルスさんじゃないですか?どうしたんです?こんな夜中に」
「敵が現れたみたいだ。数は不明だが前回よりも多いかもしれない。至急、カーバインに伝えろ!!!」
転移先でぼけーっと突っ立っていた兵士を連絡係として走らせる。
「…アルス様、前方におびただしい量の魔物が確認出来ました。殆どがスケルトンのようです」
「わかった。チカとナナはここにいて兵士達と共に戦え。ローリィは俺についてこい!」
「「「了解!!!」」」
俺が言うまでもなくチカ達は完全武装になった。
「ローリィ行くぞ!!!」
強化魔法をかけ俺とローリィは敵陣へと突っ込んで行くのであった。
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「進軍せよ」
異形のモノの指示に従い、スケルトン達がサガンへと侵攻する。人型のもいれば、獣の様な姿もいる。
「……まさか土壇場で魔王様が計画の変更を仰るとは、思いもよらなかったな」
「ガノン殿。ワレの配下のエルダーリッチが勝手な事をしでかした。誠に申し訳ない」
「良い。…だが、シモベがしくじった後始末はお前が責任を持って実行せよ」
「…ハッ!」
スケルトン達を指揮しているのはガノンであった。横には純然たる髑髏が高位のローブを羽織っていた。
「今回、あの街をお前の軍で半壊するまで追い込め。……お前1人の力で」
「……他の3人はどうしているのでしょうか?」
「魔王城の警備をしている。理由は分からぬが魔王様直々に申しつけられたからな」
「となると…ワレを信頼してこの大役に選んでくださったのだろうか?」
「だろうな。だから、失敗は許されぬぞ?魔王軍四天王の誇りを持って必ず成功させろ」
「御意。……ガノン殿、もしあの街を滅ぼした場合はワレもあちらへ向かった方がいいだろうか?」
「ならぬ。お前はあくまで陽動だ。……まぁ、あちらに人手が足りなくなったら応援を呼ぶとしよう。それまでは、必ず均衡を保つのだぞ?」
「御意。…では、また後でお会い致しましょう…」
「うむ。吉報を持ち帰れ!リッチよ!」
フワリとリッチは宙に浮かび、ユラリユラリとサガン目指して進む。その後ろ姿を見送りながらガノンも行動を起こす。
「…さて、イフリートから借りたドラゴンを呼び出すとするか」
ガノンは裾からベルの様な物を取り出すとチリリンと鳴らす。上空から激しい羽音が聞こえると跳躍しドラゴンの背に乗り彼方へと飛んで行くのであった。
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敵の侵攻スピードは恐るべきものであった。雑魚とは言えど、地中から沢山のスケルトンやゾンビが出てくる。『キリがない』という言葉は正にこの様な事を言うのであろう。
「ご主人様!埒があかないから広範囲ぶっ放してもいい!?」
「さっきも俺がぶっ放したろ!!それでも湧き出てくるんだから無意味なんだって!」
ローリィが前方に強大な魔力を感じたというので道を作る為、エルダーリッチに放った魔法よりも上の魔法をぶっ放した。しかし、理由は分からないのだが一度全滅したスケルトン達は言葉通り『瞬時に』再生し、道を塞いでいった。それに加え、増援と言うべきなのか新たな魔物が続々と出てきている状況だ。
「でもこれじゃ全然前に進めないよ!?」
「地道に進んで行くしか手は無いんじゃ無いか!?それよりも、後ろに敵を逃してねーよな!?」
「さっきから横一列はぶっ殺していってるよ!!取り逃がしは無いよ!」
「ならいい!!ローリィ!チェインするぞ!『餓狼鋼破』だ!!」
『チェイン』。『Destiny』というゲームにはバトルシステムに相手より素早さが3倍以上高い時に発動するギミックがあった。剣技なら剣技同士、魔法なら属性魔法同士が連続して敵に大ダメージを与えるというシステムだ。極稀に技同士が合体し、より強大な魔法となる場合があったが、大体の合体技は解明されつつあった。
「了解!--『餓狼鋼破』!!」
スキルを発動すると俺とローリィの前に居たスケルトン達が全て破壊される。通常ならこれで終わりなのだが、チェインにより強化されたスキルが具現化される。俺がこの技を使ったのには理由があり、このスキルには特殊効果があり、一定数のダメージを受けるまで敵に攻撃し続けるという点だ。
「よし、しばらくはこれで大丈夫だろう。ローリィ、お前が感じた所に急ぐぞ!」
スケルトン如きの攻撃力じゃ、餓狼は倒せないであろう。なので、後続の憂いは無い。心置き無く前にいる敵に集中出来る。
魔の森近くまで来ただろうか。地中から数体湧き出てくるが、一度倒すと復活する事は無かった。怪しい感じを受けるが何より今は速度優先だ。しかし、最後であろう敵を倒した直後、ローリィの焦った声が聞こえた。
「--ッ!ご主人様避けて!!!」
地中から振動が伝わりその場から跳躍し離れる。俺が立っていた場所に下から大剣が突き出ていた。
「あぶなっ!」
大剣が動きを止めると地響きが大きくなる。そして、目の前の砂地が盛り上がり、潜んでいた魔物の姿が露わになった。
「ぅおおおオオオオオオオオオオオオオン」
雄叫びを上げながら俺達目掛け一閃する。その攻撃を回避し魔物を見上げる。
「でっけぇな………」
全長は10mぐらいだろうか。横も縦もデカく、持っている大剣もバカでかい。スケルトンだとは思うが、他のと違いこの魔物は鎧を纏っている。
「……なんだろこの魔物?こんなの見た事ないよ!」
「…多分だと思うけど、『武者髑髏』だろうな。前、王都の図書館で文献を読んだ事がある」
--『武者髑髏』。昔、ジパングに出現した事がある。怨念を残した武士の魂がいくつも混じり合い1つになった姿。その数は100をゆうに超える。剣技はもちろんのこと、防御力、体力ともに桁外れのステータスを持つ。厄介な事に、コイツの攻撃は『呪い』が付与されており、擦り傷1つ与えられると同士討ちを行ってしまうという、迷惑極まりない能力を持っている。ジパングでは、コイツを倒す時に沢山の死傷者が出たらしい。
「…これって強いの?」
「…さぁな。コイツの攻撃に当たると状態異常になるから気をつけるんだぞ?」
「…わかったぁ。接近戦はしないようにするね!」
この様な魔物は『Destiny』には出現した事が無い。という事はこの世界特有の魔物なのであろう。強さも分からないので、慎重に戦う必要がありそうだ。
「何はともあれ、コイツがスケルトン達を操っているんだろうな。ローリィが感じた力はコイツだろ?」
「んー…少し弱い様な気がするけど、多分コイツで間違いないと思う」
「なら、さっさと倒そう。親玉を倒せば雑魚も消滅するだろう」
「オッケー!なら…あたしからするね!」
ローリィは正拳突きの構えを取ると武者髑髏目掛けて気弾を放つ。しかし、目に見えない壁によって攻撃は無力化された。
「ええっ!?障壁持ちなの!?……めんどくさいなぁ!!」
「先に障壁から取り除くか。--『道化師の悪戯』」
手をかざし魔法を発動すると、俺たちの前にカラフルな道化師が現れる。奇怪な笑い声を上げながら道化師は武者髑髏に近付き障壁に体当たりする。ぶつかった箇所が痛かったのか、さすりながら今度はパントマイムの真似事をする。奇怪な声が癪に触ったのか武者髑髏が道化師に向けて剣を薙ぎ払うが、実体が無い為ダメージは入らない。むしろ、攻撃された事に道化師は喜びパントマイムが加速する。道化師が絶頂に達した時、ガラスが割れる様な音が聞こえ道化師は消えていった。
「よし、障壁は剥がれたぞ!『耐性』防具に切り替えたか?」
「もっちろん!これで呪いは効かないよっ!」
「なら今度はこっちの番だな。--行くぞっ!!」
俺達が攻めてきたのが分かったのか、武者髑髏は剣を薙ぎ払う。しかし、完全武装となった俺達には通用しない。
「意外と軽いんだね!もっと重いかと思ってたよ!」
大剣を片手で受け止めローリィはもう片方で武者髑髏の腕を殴る。もげたりはしなかったが痺れたのだろう、武者髑髏は大剣を手放した。
「ひゅー!ローリィすげぇな…」
「顔まで届かないからちょっとしゃがんでくれるかなっ!」
武者髑髏に強烈な足払いをかける。蹴ったとは思えない音を立てながら武者髑髏は片膝をつく。
「『ジャリンガの怒り』!!」
顔の部分が下に来たと同時にローリィはスキルを発動する。顎の部分を的確に左右に揺らす。そのままつま先で蹴り上げると反動で武者髑髏は仰け反る。
「『シャイニングウィザード』!!」
片膝を使い跳躍し膝の部分で武者髑髏のコメカミ部分に思いっきり当てる。骨が砕けた音と共にゆっくりと地面へと倒れていく。
「……えげつねぇ…」
「ご主人様も攻撃してよ!!あたしばっかりじゃん!!」
「すまんすまん。…けど、もう終わりじゃ無いのか?」
倒れた武者髑髏は微動だにしない。
「うーん…まだだと思うな。確実に殺したっていう感覚がしないもん!」
物騒な事を言いながら、ローリィは武者髑髏を睨んでいる。そして、ローリィの言う通り武者髑髏がゆっくりと動き始めた。
「……おいおいマジかよ…。結構ダメージ与えただろ?」
「…うわぁ、コイツ自己再生能力も持ってるんだ…」
ローリィが砕いたコメカミ部分がジワジワと回復していく。その様はジグソーパズルのようで少しだけ体がゾワゾワする。
「んー、やっぱり無属性だと効き目ないのかなぁ?ご主人様ぁー、聖属性で攻撃してよ!」
「わかった。--『聖母の涙』」
音速で剣を振るうと、聖属性を付与した斬撃をいくつも武者髑髏の足目掛け放つ。斬撃が当たるにつれ土煙が起こり、やがて片足を失った武者髑髏が剣でカラダを支える状態になった。
「やっぱり聖属性なら効くんだね!自己再生も起きてないみたいだし、トドメさしちゃおっか!」
「--ッ!ローリィ!避けろ!!!」
土煙の中から鋭く尖った骨がローリィ目掛け飛んでくる。間一髪、回避する事が出来たローリィだが顔は醜く歪んでいた。
「……くも。………くもあたしの顔にッ!!!!」
ローリィの体に赤黒いオーラが湧き出る。
「げっ。『狂戦士化』か!?」
俺が気付いた時にはローリィは武者髑髏の肩に乗っていた。
「--コロス。アトカタモナクコロス」
赤黒く染まった顔に怪しく光る眼。ローリィは素手で武者髑髏の鎧を掴むと強引に剥ぎ取った。
「ゥオオオオオオオオオオオオオオオンンンッ」
鎧だけでなく左の骨までも捥がれ、武者髑髏は断末魔の叫びを上げる。右手でローリィを捕まえようとするが空を切る。
そのままローリィは下に降り、今度は右足の脛当てを剥ぎにかかる。武者髑髏がローリィ目掛け拳を振り下ろすが、その攻撃を避けながら強引に骨ごと捥ぎ取る。膝の骨が露わになり、武者髑髏はバランスを崩す。器用に右手だけで体を支えるが、その隙に左足を今度は破壊し始める。ゴギンボギンと骨と鎧が砕ける音が聞こえる。武者髑髏は口から呪詛の様なモノを吐き出しローリィの行動を阻害しようとするが、狂戦士化となっているローリィには無意味であった。
やがて、左大腿骨から下が綺麗に砕けたのを確認すると、ローリィは跳躍しその高さを活かしたかかと落としを武者髑髏の頭蓋に喰らわせる。
ガツッという石がぶつかった様な音が聞こえると、武者髑髏はうつ伏せに沈む。右手が動いているので、まだ生きているであろう。
そのままローリィは背中に乗り、興奮した声を高らかに上げながら胸椎部分を抜き出していく。そして、腰椎、肋骨を砕きながら見事に頚椎のみを残した。
武者髑髏の眼の光が段々と暗くなっているのを俺はただただ無言で見つめていた。これには理由があり、狂戦士化しているキャラがいる時、行動を起こしてしまうと味方にも攻撃をしてくるからだ。その辺の雑魚ならいざ知らず、ローリィは俺と同じくステータスはカンストしている。武器も最高レアリティなので大ダメージは必至だ。
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