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050話
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せっかく大技が出せる大チャンスだったのに!!しかもちょっと場の雰囲気に酔ってたっていうか、ヒーロー物の台詞も決めた所だったのに!!
子供の様に泣き叫ぶアルスをチカ達はアタフタしながら慰めていた。
「すすすいません、アルス様。兵士達からアルス様が向こうで魔物の軍勢と戦っていると聞いて加勢に来ただけなんです!」
「そ、そう!決してわざとした訳ではない」
「来てみたらご主人様がスケルトンに魔法受けてたから頭きちゃってさ!そんなタイミングだなんて知らなかったのー!ほんとだよー!」
「俺だって思いっきりぶっ放したいんだよー!!……それに、どこまでが危なくないかも調べなきゃいけないし…。やる事が結構あったのに……」
…まぁ、チカ達は俺を思って助けに来てくれた訳だし、文句言うのは辞めておこう。
「…まぁ、ありがとな。本当にヤバかったら全力で戦うからさ、オーバーキルとか助太刀はしなくていいからね?」
「…はい。肝に命じます…」
「もう怒ってないよ。あ、兵士達の所はどうなった?」
「他の冒険者も来たから大丈夫。粗方はマスターが殲滅したから怪我人も少ない。回復魔法で充分だと思う」
「保険としてポーションも10個置いてきたよー!」
「そうか、無事なら良かったよ。………あれ?皆焼肉どうしたの?」
チカ達がここに来ているって事は、昼食はどうなっているんだろう?多分、保護者の誰かに頼んで来たと思うんだけど…。
「コンラッドさんに頼んできましたわ。それと、アルス様が討伐に出掛けたから手伝ってやれと聞きました」
「……ふーん、まぁいいか。ドロップ品ないか調べたら帰ろっか!」
おぞましい戦場をくまなく調べると、おそらくそこにエルダーリッチが立っていただろう場所に魔核があった。ボックスに入れ調べてみるとどうやらこの魔核は加工可能みたいだ。他の魔核と比べてみるが、これだけが加工可能と書いてあった。後でガンテツさんにでも聞いてみよっと。
戦場を元通りにさせ、学校へと戻る。裏門周辺で兵士達の確認をしたが全員無事だった様だ。学校に近づくにつれ肉の焼ける良い匂いと楽しそうな声が聞こえた。
「ただいまー」
「おお、アルス!どうだったか?」
「…………まずはその手に持ってる物を置いてそこに正座しよっか」
コンラッドの右手にはトング、左手には飲み物があった。
「はぁ?何故その様な事をしなければならない?」
「……お前、酒とか呑んでないだろうな?」
疑いの目を向けると、コンラッドの目が泳ぐ。……図星の様だな。
「…魔物の急襲があったというのに、何故君は酒を呑んで焼肉を楽しんでるのかな?ギルマスとして怠慢では無いだろうか?」
「…いや、そのだな……」
「言い訳はちゃんとした姿勢をしてから聞こうか」
俺の目に耐えれなくなったのか、コンラッドは正座の姿勢を取る。トングと酒はナナに預かってもらい釈明をしてもらう。
「……で?言い訳は?納得出来るものでしょうね?」
「…そのぉ…。アルス達が討伐しに行ったから大丈夫だろうなぁと思いましてですね…」
「仮にもギルドマスターですよね?最悪の展開まで考えるのが筋なんじゃないでしょうか?どう思います?」
《アルスの言う通りじゃな。コンラッド、お前はギルマス失格じゃな》
「げぇっ!?腹黒…じゃなくてジルさん!?」
何となくこんな展開になると思い、ジルに連絡を入れておいた。ちなみに、学校に着いてから会話は全て聞かれている。
《アルスも大変よのぉ。そんな役立たずの所は捨てて、王都に来れば良い》
「そうだな。俺もまさかこんな人だとは思ってもいなかったよ。…ギルドを移動するの考えた方が良さそうだ」
「そ、それは困る!!アルス、いや!アルスさん!どうかサガンに居続けてくれ!!」
《アルス、ちぃーとこのボンクラには灸を据えてやらねばな。…どれ、後はワシに任せてヌシは楽しんでおいで》
会話が切れると、コンラッドはその場でひたすら頭を下げながらジルに説教を受けていた。側から見れば、誰も居ない空間に頭を下げる光景はシュール過ぎる。
「…ま、後はジルに任せとくかな」
コンラッドの異様な姿に場の雰囲気が下がりつつあったが、そこは仕切り直して俺主体となって焼肉を楽しむ。昼食には多くの保護者が集まり、会話が弾んだ。チカ達も母親達と楽しそうに会話をしながら、バンバン肉を焼いていく。一応、初日ということで昼は豪勢にしたという事をちゃんと説明し、出来るだけお弁当を持たせる様にお願いした。正式に学校となれば、子供の数も把握出来るし準備する方も楽だからね。
昼食も終わり、後片付けを子供達と一緒にする。炭なんかの危ないやつは俺達大人がして、皿洗いなんかは子供達にやらせた。残念ながら、庭に水道は通ってないのでナナの水魔法でジャブジャブと洗わせている。
片付けが終わると、仕事がある人は仕事場へ。それ以外の人はお手伝いとして学校に残ってくれた。こちらも人が多い事に越した事は無いので、ここに何があるのかを教え、また手伝いに来てもらう様お願いした。保護者も喜んで了承してくれ、当分の間は人員は足りそうだ。
飯を食べたばかりだというのに、子供達は庭で走り回っている。レインは女友達と絵本を読みに3階へと上がっていった。すると、丁度説教が終わったのか青白い顔をしたコンラッドが俺の元へとやってきた。
「…はぁ、やっと終わった…。長い説教だった…」
「至極当然の事だと思うがな?……そうそう、コンラッドに話したい事があったんだ」
「……ギルドを移る事は許さんぞ?」
「ちげーよ。元々そんな考えは無いから安心しろ。…話ってのは、さっきの討伐の事なんだけどよ」
「…何かあったのか?」
先程のエルダーリッチとの戦いの事をコンラッドに話す。『魔王軍』と言っていた事を話すとコンラッドの顔が険しくなった。
「--って喋ってたんだけどよ、俺も初めて喋る魔物と戦ったし、コンラッドに報告しとこうと思ってな」
「……まさか魔王軍の1人が出てきたのか。となると…一連の魔物の急襲は進行の序章なのかもしれんな」
「めっちゃ攻めてきてるらしいな。けど、実害は無いんだろ?」
「お前のおかげで兵士達も鍛えられているからな。……ただ、魔王軍となるとわからんな」
「……戦ったけど雑魚ばっかりだったぞ?」
「末端はそうだろうな。しかし、言葉が話せるとなると話は別だ。おそらくだが、指揮官級が進行してきているのかも知れぬ」
「…それはマズイ状況か?」
「あくまで戦術として考えるなら非常にマズイ状況だ。戦争でも、まずは戦力の確認をするだろう?今回のが小手調べだと考えると、本体が動き出してもおかしくは無いな」
「…となると近日中に大規模な進行があると?」
「それは分からぬが警戒は最大限にしていた方がいいだろうな。…カーバインに連絡をしなければならぬな」
そういうと、コンラッドは別れを告げ足早に去っていった。魔物の進行というゲームならではの展開に、不謹慎ながらも俺の心は踊っていた。
「…最低だな俺。もしかしたら死人が出るかも知れないってのに、楽しみになっちゃってるよ…」
小さな声で呟く。ドーンなんかが聞いていたら激怒していたに違いない。
自分でもよく分からない気持ちを抱えながら、その日は過ぎていくのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
魔物の急襲から4日後。あれから大規模な進行は全く無かった。小さな群れなどが兵士達と小競り合いをしているが、それ以外目立った事は起きていない。
コンラッドはカーバインと話をし、裏門、正門に倍以上の人員を配置していた。ギルドにも依頼を張り出しており、冒険者と兵士達でサガンの防衛を行なっていた。
そして、俺達はというとドーンの家でヘレナとフィンと楽しく話をしていた。
「ヘレナさん、性別はどっちかわかったの?」
「先生が言うには男の子みたい。ドーンったら聞いた時、小踊りしていたのよ?」
「ばっ!オレはそんな事してねぇよ!!」
「それだけ嬉しかったんですよヘレナさん。もう名前は決めたんですか?」
「ううん、まだ模索中なの。女の子だったらチカちゃん達みたいな名前にしようと思ってたんだけどね」
「それは光栄。けど、名前は一生のモノ。大事に大切に考えるべき」
「でもさ、あたし達の名前が使われてるって考えたら凄く嬉しいよね!可愛がっちゃいそう!!」
「そうね。1文字でも入っているって考えたら…ね?けれども、私達の名前をそのまま使う訳でも無いし、まだ決まってないんだから尚早よ?」
お腹をさすりながらヘレナさんは、チカ達を微笑んで眺めている。俺達男衆はというと、魔物の件について話し合っていた。
「…なぁ、アルスさん。近々進行があるって言われてるんだけどよ、そこんとこどーなってんだ?」
「…俺が分かる訳無いだろ?けど、警戒するに越した事は無いだろ」
「そうですよ…。もし大軍が攻めてきたら住民が巻き込まれちゃうんですよ?」
「……そんな事は絶対にさせねぇ。ヘレナと子供は俺が守る!」
「それフラグだから辞めろ…。まぁ、俺達も居るし安心しとけよ。B+は伊達じゃ無いんだぜ?」
「…アルスさん達の実力は知ってますけど…何があるか分かりませんからね。自分の身は自分で守りますよ!」
「ヤバいってなったら学校に避難しろよ?あそこの守りは俺達で盤石にしているからな」
「そうならない事を願うばかりだぜ…」
重い会話をしていたせいか、雰囲気が沈んでる。空気を変えるべく、話を振る。
「…あ、そういやお土産買ってきたんだった」
ボックスからお土産を全て取り出す。
「…アルスさん、多過ぎませんか?」
「チカ達も選んだからな。…えーっと、これは生まれてくる子供の玩具とタオルなんかだな。俺からはこの『ベビーカー』をプレゼントだ。特注品だぞ?」
子供雑貨のお店には、ベビーカーは売ってなかった。店員に言っても『何言ってんだコイツ?』みたいな顔をされたので多分この世界には存在しないんだろう。
そのまま王都の鍛冶屋に向かい、どんな仕組みかを伝え作ってもらった。まぁ、機能性は保証しないが見た目だけはベビーカーそのものだ。
「えーっと…これがチカから、この2つはナナから。ローリィからはこのお人形さんだ」
まだ生まれてないが、店員オススメの玩具をチカ達は購入した。
「あ、それとフィンとドーンにもあるぞ?…ほら、これだ」
ボックスから装備一式を取り出す。一応、王都に売っていた武器なんかを購入してきた。ドーンだけのつもりだったが、フィンも後衛のリーダーに昇格したみたいだしついでに買ってきた。
「うわぁ!!こんな良い物がお土産ですか!?」
「お前らが装備してるヤツは貧弱そうだからな。上に立つ者は見栄えがしっかりしてなきゃ着いてこないからな」
「アルスさん…お土産ってレベルじゃないぜ?これ」
「お前は父親になったんだし、前線で戦うだろ?防御力上げなきゃ息子の顔を見ずに死んじまうだろ?」
「縁起でもねぇ事を言うなよ…。けど、嬉しいぜ!早速装備しても良いか?」
「違和感あったら教えろよ?すぐ交換してくるから」
ウキウキとした表情でドーン達は着替える。サイズも合っていたらしく、見た目はバッチリだ。
「すごい!僕、こんなの装備したの初めてです!」
「オレもだ!この鎧、見た目よりも軽いんだな!」
「似合ってるよ2人とも。これで、生半可な魔物相手でも大丈夫だろうな」
「…しっかし、これ高かっただろ?これ貰っても良いのかい?」
「良いんだよ。お前らに死なれちゃ寝覚めが悪いからね」
「ありがとうございますアルスさん!僕、とっても幸せです!」
「あ、その防具はローリィが選んだ物だぞ?杖はナナが最適なのを選んでたよ。ちゃんとお礼言っとけよ?」
「オ、オレのは誰が選んだんだ?」
「お前のは残念ながら俺のチョイスだ。……そんなあからさまにガッカリすんなよ」
何はともあれ、2人の防御力と攻撃力は上がったはず。防衛においては多少生存率は上がったはずだ。
ドーンは早速ヘレナさんに自慢しにいった。ヘレナさんもお礼を言ってくれて、買って良かったと思った。フィンはナナ達に感謝を伝えた後、何かお礼をすると言っていた。2人とも気にしなくて良いよと言っていたが、フィンは頑なにすると言い張っていた。
「ふふふ。…そういえばアルスさん達とご飯を食べる約束を前にしてましたね。良ければ今晩、我が家で食べたいってくださいな」
「おお!そうだった!アルスさん、お礼も兼ねてご馳走するぜ!ヘレナの料理は絶品なんだよ!」
「なら僕が今晩の食費は出しますよ!」
「そうかい?ならお言葉に甘えようかな?」
そのまま俺達はドーンの家で夕食をご馳走となった。ヘレナさんが台所に立ち、チカ達が手伝いをする。最初はドーンがウロチョロと手伝っていたのだが、ヘレナさんに『邪魔!』と一喝され、大人しく俺とフィンの元へと帰ってきた。男共はする事が無い為、少しの酒を呑みながら食事を待ちわびるのであった。
子供の様に泣き叫ぶアルスをチカ達はアタフタしながら慰めていた。
「すすすいません、アルス様。兵士達からアルス様が向こうで魔物の軍勢と戦っていると聞いて加勢に来ただけなんです!」
「そ、そう!決してわざとした訳ではない」
「来てみたらご主人様がスケルトンに魔法受けてたから頭きちゃってさ!そんなタイミングだなんて知らなかったのー!ほんとだよー!」
「俺だって思いっきりぶっ放したいんだよー!!……それに、どこまでが危なくないかも調べなきゃいけないし…。やる事が結構あったのに……」
…まぁ、チカ達は俺を思って助けに来てくれた訳だし、文句言うのは辞めておこう。
「…まぁ、ありがとな。本当にヤバかったら全力で戦うからさ、オーバーキルとか助太刀はしなくていいからね?」
「…はい。肝に命じます…」
「もう怒ってないよ。あ、兵士達の所はどうなった?」
「他の冒険者も来たから大丈夫。粗方はマスターが殲滅したから怪我人も少ない。回復魔法で充分だと思う」
「保険としてポーションも10個置いてきたよー!」
「そうか、無事なら良かったよ。………あれ?皆焼肉どうしたの?」
チカ達がここに来ているって事は、昼食はどうなっているんだろう?多分、保護者の誰かに頼んで来たと思うんだけど…。
「コンラッドさんに頼んできましたわ。それと、アルス様が討伐に出掛けたから手伝ってやれと聞きました」
「……ふーん、まぁいいか。ドロップ品ないか調べたら帰ろっか!」
おぞましい戦場をくまなく調べると、おそらくそこにエルダーリッチが立っていただろう場所に魔核があった。ボックスに入れ調べてみるとどうやらこの魔核は加工可能みたいだ。他の魔核と比べてみるが、これだけが加工可能と書いてあった。後でガンテツさんにでも聞いてみよっと。
戦場を元通りにさせ、学校へと戻る。裏門周辺で兵士達の確認をしたが全員無事だった様だ。学校に近づくにつれ肉の焼ける良い匂いと楽しそうな声が聞こえた。
「ただいまー」
「おお、アルス!どうだったか?」
「…………まずはその手に持ってる物を置いてそこに正座しよっか」
コンラッドの右手にはトング、左手には飲み物があった。
「はぁ?何故その様な事をしなければならない?」
「……お前、酒とか呑んでないだろうな?」
疑いの目を向けると、コンラッドの目が泳ぐ。……図星の様だな。
「…魔物の急襲があったというのに、何故君は酒を呑んで焼肉を楽しんでるのかな?ギルマスとして怠慢では無いだろうか?」
「…いや、そのだな……」
「言い訳はちゃんとした姿勢をしてから聞こうか」
俺の目に耐えれなくなったのか、コンラッドは正座の姿勢を取る。トングと酒はナナに預かってもらい釈明をしてもらう。
「……で?言い訳は?納得出来るものでしょうね?」
「…そのぉ…。アルス達が討伐しに行ったから大丈夫だろうなぁと思いましてですね…」
「仮にもギルドマスターですよね?最悪の展開まで考えるのが筋なんじゃないでしょうか?どう思います?」
《アルスの言う通りじゃな。コンラッド、お前はギルマス失格じゃな》
「げぇっ!?腹黒…じゃなくてジルさん!?」
何となくこんな展開になると思い、ジルに連絡を入れておいた。ちなみに、学校に着いてから会話は全て聞かれている。
《アルスも大変よのぉ。そんな役立たずの所は捨てて、王都に来れば良い》
「そうだな。俺もまさかこんな人だとは思ってもいなかったよ。…ギルドを移動するの考えた方が良さそうだ」
「そ、それは困る!!アルス、いや!アルスさん!どうかサガンに居続けてくれ!!」
《アルス、ちぃーとこのボンクラには灸を据えてやらねばな。…どれ、後はワシに任せてヌシは楽しんでおいで》
会話が切れると、コンラッドはその場でひたすら頭を下げながらジルに説教を受けていた。側から見れば、誰も居ない空間に頭を下げる光景はシュール過ぎる。
「…ま、後はジルに任せとくかな」
コンラッドの異様な姿に場の雰囲気が下がりつつあったが、そこは仕切り直して俺主体となって焼肉を楽しむ。昼食には多くの保護者が集まり、会話が弾んだ。チカ達も母親達と楽しそうに会話をしながら、バンバン肉を焼いていく。一応、初日ということで昼は豪勢にしたという事をちゃんと説明し、出来るだけお弁当を持たせる様にお願いした。正式に学校となれば、子供の数も把握出来るし準備する方も楽だからね。
昼食も終わり、後片付けを子供達と一緒にする。炭なんかの危ないやつは俺達大人がして、皿洗いなんかは子供達にやらせた。残念ながら、庭に水道は通ってないのでナナの水魔法でジャブジャブと洗わせている。
片付けが終わると、仕事がある人は仕事場へ。それ以外の人はお手伝いとして学校に残ってくれた。こちらも人が多い事に越した事は無いので、ここに何があるのかを教え、また手伝いに来てもらう様お願いした。保護者も喜んで了承してくれ、当分の間は人員は足りそうだ。
飯を食べたばかりだというのに、子供達は庭で走り回っている。レインは女友達と絵本を読みに3階へと上がっていった。すると、丁度説教が終わったのか青白い顔をしたコンラッドが俺の元へとやってきた。
「…はぁ、やっと終わった…。長い説教だった…」
「至極当然の事だと思うがな?……そうそう、コンラッドに話したい事があったんだ」
「……ギルドを移る事は許さんぞ?」
「ちげーよ。元々そんな考えは無いから安心しろ。…話ってのは、さっきの討伐の事なんだけどよ」
「…何かあったのか?」
先程のエルダーリッチとの戦いの事をコンラッドに話す。『魔王軍』と言っていた事を話すとコンラッドの顔が険しくなった。
「--って喋ってたんだけどよ、俺も初めて喋る魔物と戦ったし、コンラッドに報告しとこうと思ってな」
「……まさか魔王軍の1人が出てきたのか。となると…一連の魔物の急襲は進行の序章なのかもしれんな」
「めっちゃ攻めてきてるらしいな。けど、実害は無いんだろ?」
「お前のおかげで兵士達も鍛えられているからな。……ただ、魔王軍となるとわからんな」
「……戦ったけど雑魚ばっかりだったぞ?」
「末端はそうだろうな。しかし、言葉が話せるとなると話は別だ。おそらくだが、指揮官級が進行してきているのかも知れぬ」
「…それはマズイ状況か?」
「あくまで戦術として考えるなら非常にマズイ状況だ。戦争でも、まずは戦力の確認をするだろう?今回のが小手調べだと考えると、本体が動き出してもおかしくは無いな」
「…となると近日中に大規模な進行があると?」
「それは分からぬが警戒は最大限にしていた方がいいだろうな。…カーバインに連絡をしなければならぬな」
そういうと、コンラッドは別れを告げ足早に去っていった。魔物の進行というゲームならではの展開に、不謹慎ながらも俺の心は踊っていた。
「…最低だな俺。もしかしたら死人が出るかも知れないってのに、楽しみになっちゃってるよ…」
小さな声で呟く。ドーンなんかが聞いていたら激怒していたに違いない。
自分でもよく分からない気持ちを抱えながら、その日は過ぎていくのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
魔物の急襲から4日後。あれから大規模な進行は全く無かった。小さな群れなどが兵士達と小競り合いをしているが、それ以外目立った事は起きていない。
コンラッドはカーバインと話をし、裏門、正門に倍以上の人員を配置していた。ギルドにも依頼を張り出しており、冒険者と兵士達でサガンの防衛を行なっていた。
そして、俺達はというとドーンの家でヘレナとフィンと楽しく話をしていた。
「ヘレナさん、性別はどっちかわかったの?」
「先生が言うには男の子みたい。ドーンったら聞いた時、小踊りしていたのよ?」
「ばっ!オレはそんな事してねぇよ!!」
「それだけ嬉しかったんですよヘレナさん。もう名前は決めたんですか?」
「ううん、まだ模索中なの。女の子だったらチカちゃん達みたいな名前にしようと思ってたんだけどね」
「それは光栄。けど、名前は一生のモノ。大事に大切に考えるべき」
「でもさ、あたし達の名前が使われてるって考えたら凄く嬉しいよね!可愛がっちゃいそう!!」
「そうね。1文字でも入っているって考えたら…ね?けれども、私達の名前をそのまま使う訳でも無いし、まだ決まってないんだから尚早よ?」
お腹をさすりながらヘレナさんは、チカ達を微笑んで眺めている。俺達男衆はというと、魔物の件について話し合っていた。
「…なぁ、アルスさん。近々進行があるって言われてるんだけどよ、そこんとこどーなってんだ?」
「…俺が分かる訳無いだろ?けど、警戒するに越した事は無いだろ」
「そうですよ…。もし大軍が攻めてきたら住民が巻き込まれちゃうんですよ?」
「……そんな事は絶対にさせねぇ。ヘレナと子供は俺が守る!」
「それフラグだから辞めろ…。まぁ、俺達も居るし安心しとけよ。B+は伊達じゃ無いんだぜ?」
「…アルスさん達の実力は知ってますけど…何があるか分かりませんからね。自分の身は自分で守りますよ!」
「ヤバいってなったら学校に避難しろよ?あそこの守りは俺達で盤石にしているからな」
「そうならない事を願うばかりだぜ…」
重い会話をしていたせいか、雰囲気が沈んでる。空気を変えるべく、話を振る。
「…あ、そういやお土産買ってきたんだった」
ボックスからお土産を全て取り出す。
「…アルスさん、多過ぎませんか?」
「チカ達も選んだからな。…えーっと、これは生まれてくる子供の玩具とタオルなんかだな。俺からはこの『ベビーカー』をプレゼントだ。特注品だぞ?」
子供雑貨のお店には、ベビーカーは売ってなかった。店員に言っても『何言ってんだコイツ?』みたいな顔をされたので多分この世界には存在しないんだろう。
そのまま王都の鍛冶屋に向かい、どんな仕組みかを伝え作ってもらった。まぁ、機能性は保証しないが見た目だけはベビーカーそのものだ。
「えーっと…これがチカから、この2つはナナから。ローリィからはこのお人形さんだ」
まだ生まれてないが、店員オススメの玩具をチカ達は購入した。
「あ、それとフィンとドーンにもあるぞ?…ほら、これだ」
ボックスから装備一式を取り出す。一応、王都に売っていた武器なんかを購入してきた。ドーンだけのつもりだったが、フィンも後衛のリーダーに昇格したみたいだしついでに買ってきた。
「うわぁ!!こんな良い物がお土産ですか!?」
「お前らが装備してるヤツは貧弱そうだからな。上に立つ者は見栄えがしっかりしてなきゃ着いてこないからな」
「アルスさん…お土産ってレベルじゃないぜ?これ」
「お前は父親になったんだし、前線で戦うだろ?防御力上げなきゃ息子の顔を見ずに死んじまうだろ?」
「縁起でもねぇ事を言うなよ…。けど、嬉しいぜ!早速装備しても良いか?」
「違和感あったら教えろよ?すぐ交換してくるから」
ウキウキとした表情でドーン達は着替える。サイズも合っていたらしく、見た目はバッチリだ。
「すごい!僕、こんなの装備したの初めてです!」
「オレもだ!この鎧、見た目よりも軽いんだな!」
「似合ってるよ2人とも。これで、生半可な魔物相手でも大丈夫だろうな」
「…しっかし、これ高かっただろ?これ貰っても良いのかい?」
「良いんだよ。お前らに死なれちゃ寝覚めが悪いからね」
「ありがとうございますアルスさん!僕、とっても幸せです!」
「あ、その防具はローリィが選んだ物だぞ?杖はナナが最適なのを選んでたよ。ちゃんとお礼言っとけよ?」
「オ、オレのは誰が選んだんだ?」
「お前のは残念ながら俺のチョイスだ。……そんなあからさまにガッカリすんなよ」
何はともあれ、2人の防御力と攻撃力は上がったはず。防衛においては多少生存率は上がったはずだ。
ドーンは早速ヘレナさんに自慢しにいった。ヘレナさんもお礼を言ってくれて、買って良かったと思った。フィンはナナ達に感謝を伝えた後、何かお礼をすると言っていた。2人とも気にしなくて良いよと言っていたが、フィンは頑なにすると言い張っていた。
「ふふふ。…そういえばアルスさん達とご飯を食べる約束を前にしてましたね。良ければ今晩、我が家で食べたいってくださいな」
「おお!そうだった!アルスさん、お礼も兼ねてご馳走するぜ!ヘレナの料理は絶品なんだよ!」
「なら僕が今晩の食費は出しますよ!」
「そうかい?ならお言葉に甘えようかな?」
そのまま俺達はドーンの家で夕食をご馳走となった。ヘレナさんが台所に立ち、チカ達が手伝いをする。最初はドーンがウロチョロと手伝っていたのだが、ヘレナさんに『邪魔!』と一喝され、大人しく俺とフィンの元へと帰ってきた。男共はする事が無い為、少しの酒を呑みながら食事を待ちわびるのであった。
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