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034話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「アルス様、目を覚ましたみたいですよ」
「おっ?」
チカの声に俺はベッドへと近寄る。目を覚ました子供は虚ろげな目で辺りを見渡している。
「目が覚めたようだな。気分はどうだ?」
俺の言葉に子供はビクッと起き上がり、俺達から離れるように枕元へと逃げる。
「大丈夫、何もしねーよ。だから、そう警戒すんな」
俺のイケメンボイスを聞いても子供はまだ怯えている。いや、むしろ俺の声を聞いたから尚更怯えたとの表現の方が正しい。何故なら俺から目線を外さないからだ。
「安心して?ここにいる人達は貴女に危害は加えないわ」
「………………」
「…ならまずは自己紹介から始めましょうか。私はチカって言うの。この方は私達の主人、アルス様よ」
「………………」
『主人』と聞いて、子供の様子がより一層怯え出した。……あ、もしかして?
「主人って言っても、俺達は冒険者パーティなんだ。決して金で買った訳では無いよ?」
………嘘は言ってない。課金したのは間違いないけど。
俺の言葉にチカ達はキョトンと首を傾げる。説明したいがその前に子供が口を開いた。
「……奴隷商人じゃ無いの?」
…やっぱり。この子供は勘違いしてたみたいだな。
「奴隷商人じゃないよ。チカ達に聞いてごらん?」
「……コイツに買われたんじゃないの?」
「……その表現の仕方は少し頭にくるけど…。私達は金で買われた訳では無いわ。アルス様と出会った時から私達はアルス様に一目惚れしてついて行くことにしたの」
「……………」
「チカは嘘言ってない。ボク達は自分の意思でマスターに着いて行くと決めた」
「うんうん!みんなの言う通りっ!」
チカ達の顔を見て嘘は言ってないと感じたのか、子供の警戒心は少し和らいだようだ。
「……」
「ま、怯えんのも分からないでもない。気が付いたら知らない大人に囲まれてるもんな。けど、俺達はお前に一切危害は加えるつもりはないよ。そこだけは安心しろ」
少しだけまだ疑うような目で見ているが、それは仕方のない事だ。
「ローリィ、さっき頼んだのはもう来てる?」
いくら言葉で伝えても信じないと思うので、話題を変える事にする。
「うん!…はい、キミお腹空いてるでしょ?食べて食べて!」
ローリィが机から持って来たのは宿屋の食堂で頼んだ料理だ。出来立てである為、湯気がまだ昇っている。
「……食べていいの?」
「良い。貴女の為に頼んだ物。遠慮せず食べろ」
「…ナナ、もうちょっと柔らかく言おうな」
「…善処する」
自分の目の前に料理が置かれ、子供は料理と俺達を交互に見る。そして、ゆっくりと料理に手を伸ばす。
「……はぐっ。--ッ!!はぐはぐはぐっ!!」
「さ、食べ終わるまで離れとくか。俺達がいたら集中して食べれないだろうし」
一心不乱に食べている子供から離れ、椅子に座る。あの調子じゃ、まだ食べそうだしボックスから出しとくか。
あっという間に食べ終わった子供に水と団子をチカから渡してもらう。渡した途端にまた一気に食べているので、やはりまだお腹が空いていたのだろう。
水を一気に飲み、汚いゲップと共に子供は満足そうな顔をしていた。…さて、またお話をしようかね。
「腹一杯になったか?まだ足りないなら頼んでくるぞ?」
「…いい。もうお腹いっぱいになった」
「そうか。んじゃ、ちょっとお前の事を聞かせてくれないか?」
「………何?」
「んー…。まずは、ご両親は居ないのか?」
「…死んだ」
「そうか…。いつ頃亡くなったんだ?」
「つい最近。いきなり村を魔物が襲ってきてみんな死んだ」
「…最近か。なら、お前がここに来たのも最近か?」
「うん…。お母さんが僕を逃がしてくれた。でも、僕の目の前でお母さんは魔族に殺された」
「魔族…?」
「…トカゲの様な顔をしていたけど喋っていた。それに二本足で立っていたから多分魔族だと思う」
「…………」
そういやここに来るまでで、村が滅ぼされたって話を聞いた気がするな。つー事はコイツはその村の生き残りって事か。
「…お前、これから先どうするんだ?」
「どうするって?」
「いや、知り合いの人とか保護してくれる人とか居ないのか?」
「…そんなのは居ない。それに帰る家もないし、お金も無い」
…ですよねー。そりゃそうだと分かりきってた事だけどさ、マジでどーすっかなぁ…。それに身の上話を聞いてしまった以上、少し情が湧いてしまった。けれど、俺達が引き取るってもなぁ…。
子供の処遇について悩んでいると、チカ達が子供に話しかけた。
「ところで、貴女のお名前はなんて言うの?」
「…僕の名前は『レイン』。ガガ村の村長の娘、レイン」
「えっ!?はっ!?娘!!?女の子なのっ!?!?」
男の子だと思っていた子供はなんと女の子だった!いや、僕とか言ってるし見た目も男っぽいから驚きなんだけど…。
「…そうだよ?僕はれっきとした女の子だ」
「…チカ、女の子って分かった?」
「ええ。どう見ても女の子じゃないですか」
「…嘘。ナナ達は??」
「知ってた。どう見ても女の子」
「肌綺麗だもんねー!お目目もパッチリだし!」
「えぇ……?絶対わかんねーよ…」
冷静になり考えると、この子供は女の子で、しかも自然な僕っ娘。…あれ?これってある意味レアじゃね??設定とかじゃないよね??
「レイン、私達は今回だけ貴女を助ける事にしたの」
俺が変な事を考えている間にチカは話を進める。
「…僕を助けてくれるんじゃないの?」
「助けてはあげるわ。けれど、貴女を一生面倒を見るって訳では無いの。…アルス様が決めた事なの」
なーんか棘のある言い方に聞こえなくも無いなぁ。
「そう言う事だ。ただ、今回は目の前で殴られてるのが不憫に思ったから--
「お願いっ!!何でもするから!!どうか僕を助けてっ!!!」
レインはベッドの上に跪き頭を下げる。
「今回だけは、だ」
「お願いします!!雑用でも何でもするから、どうか、どうかっ!!!」
「頭を上げろ。そんな事言っても俺の考えは変わんないよ」
「…なら何で、何で助けてくれたの!?あのまま殴られてそのまま死ねばお母さんの所に行けたのに!!……何で、なんで助けたんだよぉ…」
「…………」
レインの言葉が呪詛の様に重く取り憑く。言い表せない気持ちが生まれてしまった。
「………マスター。ちょっといいか?」
ナナに呼ばれ、席を立つ。そのまま廊下へと出るとナナと話をする。
「どうしたんだ?…先に言っとくけど俺の気持ちには変わりはないよ」
「……変えさせるつもりは無い。けど、気付いた事がある」
「気付いた事?」
「あの子…レインは普通の人間では無い。おそらくだが獣人種だと思われる。さっき泣き始めた時、人間とは違う魔力を感じた」
「…ほんとか?」
「確証は無い。けれど、あの時確かに魔力が違った」
ナナの言葉に頭を悩ませる。もし、レインが獣人種だった場合この先の展開が簡単に予想できる。そう考えると、レインが最初に怯えていた理由も分かる。
「……はぁ。ナナの気持ちはよく分かったよ。一応レインに確認を取るよ」
「…すまない」
「いいよ。…ま、助けた時点でこうなる覚悟はしてたからさ」
部屋に戻るとチカ達がレインをあやしていた。グズグズと泣くレインの横でチカ達が辛辣な目で俺を見ている。
「レイン。ちょっと聞きたい事があるんだけど良いかな?」
「……ヒック。…なに」
「レインはさ、もしかして獣人種なのか?」
「……………」
…ビンゴ。言葉では反応しないけど体は反応したな。という事は、先の俺の発言は取り消す事になるな。
「…そうか。なぁ、レイン。さっきチカが言ったと思うけど俺は今回だけ助けるつもりだった」
チカの目がより一層険しくなる。
「けどさ、お前が獣人種だと確信した今、予定は変わったんだ」
泣いていたレインが顔を上げ俺と目を合わせる。
「…このまま放って置くとお前の未来は奴隷売買にかけられる運命だろうな。金が無く、住まいも無ければ自分を売るしか無い。運が良ければまともな買い手が見つかるだろうが、可能性は低いだろう」
「…ご主人様ッ!」
「落ち着け。……そこでだ。俺達が住んでる街、サガンには孤児院がある。そこに連れて行こうと思うんだけど、どうする?」
「……こじいん?」
「レインみたいに親が居ない子供を預ける場所さ。でも、そこはちゃんとご飯も出るし遊び相手も沢山いるし、勉強だって教えて貰えるかも知れないな」
「ここよりは…安全?」
「安全だとも。…レインが問題を起こさなければね」
「……………今決めないとダメ?」
「んー…今決めて欲しい所だけど、あいにく俺達は今依頼を受けている最中なんだ。どんくらい時間がかかるかわからないけど、レインがその孤児院に行きたいって言うならその間、俺達が面倒を見るって約束するよ」
俺が喋っている間、話を理解していったチカ達の表情が変わっていく。先程までの目が嘘の様に変わっていく様に苦笑してしまう。
「つまり、その孤児院に行くか、そのまま今の生活を続けるかってことだ。…俺としては孤児院に行くって言った方が良いと思うけどな」
「…レイン。言ってる意味わかる?」
「…分かんない」
「私達と一緒に居たいなら孤児院に行くべきよ。その間、私達が貴女をずっと守るわ」
「そうそう!あたし達と居れば美味しいご飯も食べれるし、ふかふかのお布団でも寝れるんだよ!」
「…マスターはレインを助けたいって言ってる。ここは孤児院に行くって言うべき」
チカ達の言葉を理解したのかレインの顔がみるみる晴れていく。
「…僕行く!その孤児院に行きたい!」
「…わかった。それがレインの気持ちなら尊重するよ。……チカ、細かい事は丸投げして良い?」
「喜んで承りますわ!」
はぁー。まぁ、獣人種だろーが人間種だろーが助けるつもりはあった。けど、これからを考えると簡単に助ける訳にはいかないんだよ。俺達は冒険者だし、助けた人がどうなっていくのかは責任が取れない。そう教えるつもりだったけど、助けた時点で結末は決まっていた様なもんだ。
チカ達がレインと楽しそうに話しているのを横目で見ながら上を見上げる。
…俺前世じゃ、子持ちでも無かったしどうすりゃ良いんだろ。それに普通の子供じゃないし、どう育てていいかわかんねーなぁ…。
これから先の事を考えながら、俺は深い溜息をつくのであった。
「アルス様、目を覚ましたみたいですよ」
「おっ?」
チカの声に俺はベッドへと近寄る。目を覚ました子供は虚ろげな目で辺りを見渡している。
「目が覚めたようだな。気分はどうだ?」
俺の言葉に子供はビクッと起き上がり、俺達から離れるように枕元へと逃げる。
「大丈夫、何もしねーよ。だから、そう警戒すんな」
俺のイケメンボイスを聞いても子供はまだ怯えている。いや、むしろ俺の声を聞いたから尚更怯えたとの表現の方が正しい。何故なら俺から目線を外さないからだ。
「安心して?ここにいる人達は貴女に危害は加えないわ」
「………………」
「…ならまずは自己紹介から始めましょうか。私はチカって言うの。この方は私達の主人、アルス様よ」
「………………」
『主人』と聞いて、子供の様子がより一層怯え出した。……あ、もしかして?
「主人って言っても、俺達は冒険者パーティなんだ。決して金で買った訳では無いよ?」
………嘘は言ってない。課金したのは間違いないけど。
俺の言葉にチカ達はキョトンと首を傾げる。説明したいがその前に子供が口を開いた。
「……奴隷商人じゃ無いの?」
…やっぱり。この子供は勘違いしてたみたいだな。
「奴隷商人じゃないよ。チカ達に聞いてごらん?」
「……コイツに買われたんじゃないの?」
「……その表現の仕方は少し頭にくるけど…。私達は金で買われた訳では無いわ。アルス様と出会った時から私達はアルス様に一目惚れしてついて行くことにしたの」
「……………」
「チカは嘘言ってない。ボク達は自分の意思でマスターに着いて行くと決めた」
「うんうん!みんなの言う通りっ!」
チカ達の顔を見て嘘は言ってないと感じたのか、子供の警戒心は少し和らいだようだ。
「……」
「ま、怯えんのも分からないでもない。気が付いたら知らない大人に囲まれてるもんな。けど、俺達はお前に一切危害は加えるつもりはないよ。そこだけは安心しろ」
少しだけまだ疑うような目で見ているが、それは仕方のない事だ。
「ローリィ、さっき頼んだのはもう来てる?」
いくら言葉で伝えても信じないと思うので、話題を変える事にする。
「うん!…はい、キミお腹空いてるでしょ?食べて食べて!」
ローリィが机から持って来たのは宿屋の食堂で頼んだ料理だ。出来立てである為、湯気がまだ昇っている。
「……食べていいの?」
「良い。貴女の為に頼んだ物。遠慮せず食べろ」
「…ナナ、もうちょっと柔らかく言おうな」
「…善処する」
自分の目の前に料理が置かれ、子供は料理と俺達を交互に見る。そして、ゆっくりと料理に手を伸ばす。
「……はぐっ。--ッ!!はぐはぐはぐっ!!」
「さ、食べ終わるまで離れとくか。俺達がいたら集中して食べれないだろうし」
一心不乱に食べている子供から離れ、椅子に座る。あの調子じゃ、まだ食べそうだしボックスから出しとくか。
あっという間に食べ終わった子供に水と団子をチカから渡してもらう。渡した途端にまた一気に食べているので、やはりまだお腹が空いていたのだろう。
水を一気に飲み、汚いゲップと共に子供は満足そうな顔をしていた。…さて、またお話をしようかね。
「腹一杯になったか?まだ足りないなら頼んでくるぞ?」
「…いい。もうお腹いっぱいになった」
「そうか。んじゃ、ちょっとお前の事を聞かせてくれないか?」
「………何?」
「んー…。まずは、ご両親は居ないのか?」
「…死んだ」
「そうか…。いつ頃亡くなったんだ?」
「つい最近。いきなり村を魔物が襲ってきてみんな死んだ」
「…最近か。なら、お前がここに来たのも最近か?」
「うん…。お母さんが僕を逃がしてくれた。でも、僕の目の前でお母さんは魔族に殺された」
「魔族…?」
「…トカゲの様な顔をしていたけど喋っていた。それに二本足で立っていたから多分魔族だと思う」
「…………」
そういやここに来るまでで、村が滅ぼされたって話を聞いた気がするな。つー事はコイツはその村の生き残りって事か。
「…お前、これから先どうするんだ?」
「どうするって?」
「いや、知り合いの人とか保護してくれる人とか居ないのか?」
「…そんなのは居ない。それに帰る家もないし、お金も無い」
…ですよねー。そりゃそうだと分かりきってた事だけどさ、マジでどーすっかなぁ…。それに身の上話を聞いてしまった以上、少し情が湧いてしまった。けれど、俺達が引き取るってもなぁ…。
子供の処遇について悩んでいると、チカ達が子供に話しかけた。
「ところで、貴女のお名前はなんて言うの?」
「…僕の名前は『レイン』。ガガ村の村長の娘、レイン」
「えっ!?はっ!?娘!!?女の子なのっ!?!?」
男の子だと思っていた子供はなんと女の子だった!いや、僕とか言ってるし見た目も男っぽいから驚きなんだけど…。
「…そうだよ?僕はれっきとした女の子だ」
「…チカ、女の子って分かった?」
「ええ。どう見ても女の子じゃないですか」
「…嘘。ナナ達は??」
「知ってた。どう見ても女の子」
「肌綺麗だもんねー!お目目もパッチリだし!」
「えぇ……?絶対わかんねーよ…」
冷静になり考えると、この子供は女の子で、しかも自然な僕っ娘。…あれ?これってある意味レアじゃね??設定とかじゃないよね??
「レイン、私達は今回だけ貴女を助ける事にしたの」
俺が変な事を考えている間にチカは話を進める。
「…僕を助けてくれるんじゃないの?」
「助けてはあげるわ。けれど、貴女を一生面倒を見るって訳では無いの。…アルス様が決めた事なの」
なーんか棘のある言い方に聞こえなくも無いなぁ。
「そう言う事だ。ただ、今回は目の前で殴られてるのが不憫に思ったから--
「お願いっ!!何でもするから!!どうか僕を助けてっ!!!」
レインはベッドの上に跪き頭を下げる。
「今回だけは、だ」
「お願いします!!雑用でも何でもするから、どうか、どうかっ!!!」
「頭を上げろ。そんな事言っても俺の考えは変わんないよ」
「…なら何で、何で助けてくれたの!?あのまま殴られてそのまま死ねばお母さんの所に行けたのに!!……何で、なんで助けたんだよぉ…」
「…………」
レインの言葉が呪詛の様に重く取り憑く。言い表せない気持ちが生まれてしまった。
「………マスター。ちょっといいか?」
ナナに呼ばれ、席を立つ。そのまま廊下へと出るとナナと話をする。
「どうしたんだ?…先に言っとくけど俺の気持ちには変わりはないよ」
「……変えさせるつもりは無い。けど、気付いた事がある」
「気付いた事?」
「あの子…レインは普通の人間では無い。おそらくだが獣人種だと思われる。さっき泣き始めた時、人間とは違う魔力を感じた」
「…ほんとか?」
「確証は無い。けれど、あの時確かに魔力が違った」
ナナの言葉に頭を悩ませる。もし、レインが獣人種だった場合この先の展開が簡単に予想できる。そう考えると、レインが最初に怯えていた理由も分かる。
「……はぁ。ナナの気持ちはよく分かったよ。一応レインに確認を取るよ」
「…すまない」
「いいよ。…ま、助けた時点でこうなる覚悟はしてたからさ」
部屋に戻るとチカ達がレインをあやしていた。グズグズと泣くレインの横でチカ達が辛辣な目で俺を見ている。
「レイン。ちょっと聞きたい事があるんだけど良いかな?」
「……ヒック。…なに」
「レインはさ、もしかして獣人種なのか?」
「……………」
…ビンゴ。言葉では反応しないけど体は反応したな。という事は、先の俺の発言は取り消す事になるな。
「…そうか。なぁ、レイン。さっきチカが言ったと思うけど俺は今回だけ助けるつもりだった」
チカの目がより一層険しくなる。
「けどさ、お前が獣人種だと確信した今、予定は変わったんだ」
泣いていたレインが顔を上げ俺と目を合わせる。
「…このまま放って置くとお前の未来は奴隷売買にかけられる運命だろうな。金が無く、住まいも無ければ自分を売るしか無い。運が良ければまともな買い手が見つかるだろうが、可能性は低いだろう」
「…ご主人様ッ!」
「落ち着け。……そこでだ。俺達が住んでる街、サガンには孤児院がある。そこに連れて行こうと思うんだけど、どうする?」
「……こじいん?」
「レインみたいに親が居ない子供を預ける場所さ。でも、そこはちゃんとご飯も出るし遊び相手も沢山いるし、勉強だって教えて貰えるかも知れないな」
「ここよりは…安全?」
「安全だとも。…レインが問題を起こさなければね」
「……………今決めないとダメ?」
「んー…今決めて欲しい所だけど、あいにく俺達は今依頼を受けている最中なんだ。どんくらい時間がかかるかわからないけど、レインがその孤児院に行きたいって言うならその間、俺達が面倒を見るって約束するよ」
俺が喋っている間、話を理解していったチカ達の表情が変わっていく。先程までの目が嘘の様に変わっていく様に苦笑してしまう。
「つまり、その孤児院に行くか、そのまま今の生活を続けるかってことだ。…俺としては孤児院に行くって言った方が良いと思うけどな」
「…レイン。言ってる意味わかる?」
「…分かんない」
「私達と一緒に居たいなら孤児院に行くべきよ。その間、私達が貴女をずっと守るわ」
「そうそう!あたし達と居れば美味しいご飯も食べれるし、ふかふかのお布団でも寝れるんだよ!」
「…マスターはレインを助けたいって言ってる。ここは孤児院に行くって言うべき」
チカ達の言葉を理解したのかレインの顔がみるみる晴れていく。
「…僕行く!その孤児院に行きたい!」
「…わかった。それがレインの気持ちなら尊重するよ。……チカ、細かい事は丸投げして良い?」
「喜んで承りますわ!」
はぁー。まぁ、獣人種だろーが人間種だろーが助けるつもりはあった。けど、これからを考えると簡単に助ける訳にはいかないんだよ。俺達は冒険者だし、助けた人がどうなっていくのかは責任が取れない。そう教えるつもりだったけど、助けた時点で結末は決まっていた様なもんだ。
チカ達がレインと楽しそうに話しているのを横目で見ながら上を見上げる。
…俺前世じゃ、子持ちでも無かったしどうすりゃ良いんだろ。それに普通の子供じゃないし、どう育てていいかわかんねーなぁ…。
これから先の事を考えながら、俺は深い溜息をつくのであった。
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