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030話
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……ん?俺こんな事言う奴だったっけ?
「マスターの言う通り。けど、このお酒はもう少し寝かせた方が良い。より、芳醇で酸味がまろやかになる」
「おお!ナナさん、中々鋭いですね。これは1年物なんですよ。食前酒にはちょうど良いと思いましてね」
「メニューは海産物と聞いた。ならば、8年ものが良い。酸味との相性が抜群に良いはず」
「…素晴らしい!ナナさん、貴女は確かな舌をお持ちだ!まさに料理の時にはそれを頼もうと思っていましたよ!」
…おいおい。ナナ、お前そんなグルメだったか?違和感バリバリ過ぎるだろ…。
…ん?グルメ?そういやジョブあったよな?
こっそりジョブを覗いてみると、なんと新たなモノが表示されていた。
(『グルメ・リポーター』?え?何これ?)
グルメリポーターについて説明文を読んでみる事にした。
(何々?…『通常より食事で効果がアップ。果物系でDEFが更に10%のボーナス』……違う、これじゃねぇ)
下にスクロールすると短い文で書いてあった。
(『『一般』よりも舌が肥えている。転職可能』……ああ、Lvが上がったって事か。にしても…雑じゃね?)
早い話が、ずっとジョブを変えていなかったのでランクアップしたという事か。…え?需要無くね?いや、今の現状的には有難いけどさ、ゲーム的に不必要だろ。よく分からない仕様だが、レアって事なんだろう。最後まで上がれば何かしら役に立つんだろうな
。
「お待たせしました」
店員がワインと料理を持ってきた。想像していた通りまずは刺身からだ。
「うほほ!待ってましたよ!…さぁさぁ、食べましょう!」
この世界に来てから初めて食べる海鮮料理。それは懐かしく感じる味であった。おふくろの味とは聞くが、どちらかというとこれは故郷の味なのであろう。とにかく、全てが美味しかった。無我夢中で俺は食べて行くのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
食事も終わり、今はデザートを食べている。食事に関してはチカ達も大絶賛であった。
「ポーロさんご馳走様でした。とても美味しかったです!」
「「「ご馳走様でしたっ!」」」
「いえいえ、満足して頂いた様でなによりです」
店員が空いた皿を下げていく中、ポーロさんと明日の予定について話し合う。
「アルスさん、明日は少し距離があります。1日かけて次の町へ着くと思いますので、道中は今日と同じ感じで護衛をよろしくお願いします」
「わかりました。同じ感じでと言いますと、速度上昇をかけても良いって事ですよね?」
「ええ。早く着く事に越した事はありませんからね。あ、あと次の町へは入る時に通行証が必要です。アルスさん達の分を今渡しておきますね」
ポーロさんが収納袋から木の板の様な物を取り出す。
「これはサガンから来たという証明になります。アルスさん達は私の護衛ですので別口で入る事になります。これと合わせてギルド証を提示してくださいね」
「わかりました」
通行証を貰い、チカ達に配る。少し厚めの板に溶けた鉄で文字が書いてある。
「決して無くさない様にしてください。追加料金を払うなど無駄金は使いたくありませんから」
ポーロさんはワインを飲み終えると、先に部屋へ戻ると言った。これからの時間は自由時間と伝えられ、俺達は町を歩く事にした。
「んーーーっ!…夜風が心地よいですねぇ」
チカの言う通り、お酒で温まった体に丁度いい気温であった。
「屋台が出てるけど、お前達まだお腹空いてるんじゃないか?」
少し恥ずかしそうにチカ達は俯く。…まぁ、日頃あんなに食べてれば足りないって分かるもんな。
「なら、満足するまで食べ歩きしようか」
チカ達と一緒に屋台を食べ歩きする。それから宿屋に戻ったのは深夜頃となったのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「おはようございますポーロさん」
「おはようございますアルスさん。朝食を取ったら出発しましょうか」
下の食堂に着くとチカ達が待機していた。
「おはようございますアルス様」
「おはようマスター」
「ポーロさんもおはよー!」
「おはようございます皆さん」
「アルス様、朝食はもう頼んでおきました。代金も支払い済みです」
「お!さすがチカ。金は足りた?」
「充分に足りましたわ」
朝食には多すぎる量を食べ終え、俺達は宿屋を出る。荷物も乗せ終わり、あとはポーロさんが来るのを待つだけだ。
「お待たせしました。さぁ、『リムン』へと出発しましょう!」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
王都へ続く道、最後の宿場町『リムン』。この町は『白の町』と呼ばれている。
王都近くとあってか、訪れる人は多い。中央には『癒しの広場』と呼ばれる場所がある。天使をモチーフにした噴水が置かれており、出店や催し物がよく開かれている。
また、この町には『亜人族』も多く見受けられる。猫耳、尻尾、鱗姿など多様な人種が入り乱れているが大きな事件は無い。それは、ジュエリア王国の法の元で亜人族と人間種は等しく平等と定められているからだ。もちろん、亜人種を『奴隷』として扱うのはご法度だ。ただし、表向きは禁止しているが裏では『奴隷売買』が行われている。
注意すべき点は、全ての奴隷が『奴隷』として自分を売買に掛けている点だ。この場合は、亜人種・人間種共に法の元では庇護されない。あくまでも、無理矢理奴隷とする事は禁止しているのだ。
『奴隷売買』が行われているという事で、もちろん貴族の出入りも多い。この町で起きる事件は大体が貴族絡みの事件が多い。当然、巡回している兵士の数も多く、私服巡回する兵士も多い。
この事をポーロから教えて貰いながら、アルス達はリムンへと足を踏み入れるのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「うおー…。すんげぇ人混みだな」
俺の目の前には、数々の店に群がる人々が映っている。
「アルスさん、先程説明した通り貴族にだけは気をつけてくださいね。周囲のざわめきが聞こえたら道を開けてください」
「わかりました。気をつけます」
貴族か…。俺のイメージじゃ、我儘で高慢な奴らなんだろうなぁ。
ポーロさんが、ここで仕入れるものがあると言うので着いて行く。馬は流石に通れないので、信頼できる馬小屋に預けていた。
「お!ポーロさん、久し振りだねぇ!今日はウチで飲んで行くかい?」
「一杯引っ掛けて行きたい所だが私も仕事でね。気が向いたら寄るよ」
「ポーロさんじゃないか!ちょうど良かった!つい昨日新しい商品が手に入ったんだ!良かったら仕入れないかい?」
「おや?それは前言ってたやつかい?…また後で寄らせて貰うよ。私は『リカント』に行かなくちゃならないからね」
「そうかい!なら、また後でな!」
店の前を通るたび、ポーロさんは声をかけられる。という事は、コンラッドも言っていたけどポーロさんは本当に有名な商人なんだなぁ。
サガンの街と違ってこの町の出店には色々な物が出ている。食べ物やアイテムなどに目移りしながらも、ポーロさんの後をついて行く。すると、噴水近くのこじんまりとした一軒家の前で止まった。
「アルスさん、少し商談をしてきます。待っててもらえますか?」
「ええ、勿論です」
「遅くても1時間ぐらいだと思います。その間、その広場で休憩しておいてください」
「わかりました。出店も気になりますし、ぶらついておきますね」
「くれぐれも貴族にだけは気をつけてくださいね?」
そう言うとポーロさんは家の中へと入っていった。
「それじゃ、30分ぐらいぶらつこうか。今通ってきた道で気になるものとかあった?」
「んー!全部!!」
「服屋さんが気になりましたわ」
「食べ物が豊富。全部食べてみたい」
「んー、あんまり時間も無いし今日は食べ歩きにしとくか。今度来た時にでも散策しような」
ご機嫌なチカ達と共に食べ歩きする事にした。良い匂いがあちらこちらからするし、あっという間に時間は過ぎるだろう。
この世界に来て、俺はつくづくラッキーだと思う事がある。それは、俺が金持ちだという事だ。チカ達の食費は勿論の事だが、興味があるものは何でも買えるというのはあまりにも魅力的過ぎる。
チカ達が興味を持ったものはポンポン買い、食べ物も沢山買い漁っていると遠くから違う質のざわめきが聞こえてきた。
「アルス様、これはもしかして…」
「かもな。…みんな、道を開けるぞ」
ざわめきが大きくなるにつれ、人並みが割れていく。その割れ目の部分には、見るからに貴族と分かる格好をした男性が従者を連れ歩いている。
「ふんっ…。小汚い平民どもめ、さっさと道を開けろ」
でっぷりと太った男性は、道を開けている人達に目を向けながらこちらへと歩いてくる。
(うおおおおお!まさにイメージ通りの貴族じゃねーか!!…なんだろう。俺は今すげー感動している!)
「…チッ。うざってぇ奴が来やがった」
「…やめとけ。聞こえたら面倒な事になるぞ」
「…今日も奴隷を買いに来たんだろうな」
「…またか?この前も買ったばかりだろ」
「…ファルマス家に買われた奴隷は長生きできねーだろ?」
耳を澄ましてみると聞こえてくるのは悪評ばかり。人々の顔を見る限り、好かれていないのは確かだ。
「…ヒソヒソとうるさいな。ダーウェントよ、少し黙らせよ」
「…トーケル様。流石にこの場で騒ぐとお父上様に迷惑がかかります」
「ふんっ…。まぁ、もう暫くの辛抱だ。我慢するか」
トーケルと呼ばれた男は俺達の近くを通るその時、お決まりの面倒事が起きてしまった。
「おんやー!?こんな所にエルフがいるじゃないか?」
汚い声が聞こえたと思うとトーケルはチカへ話しかける。
「おいそこのエルフ。お前はここで何をしてるんだ?」
「…エルフ?もしかして私の事ですか?」
「ここにはお前しかエルフはいないだろう?」
「私にはチカという名前があります。その種族名を呼ぶのはやめてください」
「なまえー?ひゃひゃ、お前には名前があるのか?奴隷の分際で生意気だな」
「奴隷…?私が奴隷なのですか?」
「おや?奴隷では無いのか?」
「奴隷ではありません。私は冒険者です」
「冒険者…。エルフが冒険者、か。…ひゃひゃひゃ、珍しいヤツもいるもんだ」
トーケルはチカを舐め回す様に視線を上下させる。
「そのスタイルといい、美貌といい…。冒険者には勿体無いな。…おい、エルフよ。オレ様の専属ならないか?」
…何言ってんだこいつ??ちょっと意味わかんないんですけど。
「お断りします」
「お前は冒険者なのだろう?なら、金に困っているんだろう。ちまちまと小遣い程度の金を稼ぐよりオレ様の所で稼いだ方がいいぞ?」
「別にお金には困ってませんわ」
「なら何故冒険者などという下賎な職業についたのだ?お前の美貌があれば楽に稼げるというのに」
「アルス様に着いて行くと決めたからです。私は…いえ、私達はアルス様と共に生きると決めておりますから」
「アルス…?なんだ、お前には主人がいるのか?」
「ええ。この世で最も大事な御方です」
チカの言葉を聞いたトーケルが周囲を見回す。品定めをしている様な目が動く中、ピタリと俺の所で止まる。
「お前がこのエルフの主人か?」
「…主人という者では無いですが、まぁそうですね」
「ふん…。貴様も冒険者なのか。いや、答えなくてもいい。その格好を見れば誰でも分かる」
トーケルは何かを考えている。やがて、考えがまとまったのか口を開く。
「貴様、金に困っていないか?困っているならそこのエルフをオレ様が買い取ろう。金額は貴様の言い値でいいぞ」
その言葉に俺は唖然とした。いやいやいや、ほんと何言ってんのコイツ??頭に蛆でも湧いてんじゃねーか?
「困って無いですし、それは遠慮させていただきます」
「そうか…。ダーウェント、帰るぞ」
俺の言葉を聞いたトーケルは意外にもあっさり引いた。ダーウェントと呼ばれた従者がこちらに頭を下げるとトーケルに着いていった。
「なんだぁ?拍子抜けするなぁ」
2人を見送りながら呟くと、周囲の人達が声を掛けてくる。
「おい、アンタ!悪いことは言わねぇ、さっさとこの町から出た方がいいぜ!」
「そうよ!あのろくでなしが何をしてくるか分からないわよ!」
「あいつそんなに偉いんですか?」
「…アンタ知らないのかい?アイツの親はこのジュエリア王国の大臣なんだ!」
「親の七光りでいつも威張ってるのよ!!けど、アイツは無駄に頭がキレるからね!アンタ達に何をしてくるかわからないわ!」
んーなるほど。安定の嫌われ貴族なんだな、アイツ。町の人達の言葉も何か真実味があるし、素直に従っておこう。
「…分かりました。急いで町を出ます」
「それがいい!あと、アンタはこのお嬢さん方を守ってやれよ?何をしてくるか分かんないんだからな!」
俺達は急いでポーロさんの所へと戻る。ちょうど、ポーロさんも出て来たのでタイミングが良かった。
「おや?どうしました?そんなに慌てて」
「すいませんポーロさん。急いでこの町から出たいのですが…」
俺の言葉でポーロさんは何かに気づいた様だ。
「…わかりました。話は後で聞くとして、急ぎ出発しましょう」
俺は急いで馬を取りに行き、ポーロさんを乗せ王都へと向かう事にした。本来ならここで一泊する予定だったのだが、俺のせいで崩れてしまった。
俺達が門へと向かってると、町の人達が話しかける。大体の人があの場にいた人から聞いたのだろう。話しかけてくれる言葉は殆どが急げというものだった。
町を出た俺達は全体に速度上昇を掛け、インビジブルも使い、さっさと王都へと向かうのであった。
「マスターの言う通り。けど、このお酒はもう少し寝かせた方が良い。より、芳醇で酸味がまろやかになる」
「おお!ナナさん、中々鋭いですね。これは1年物なんですよ。食前酒にはちょうど良いと思いましてね」
「メニューは海産物と聞いた。ならば、8年ものが良い。酸味との相性が抜群に良いはず」
「…素晴らしい!ナナさん、貴女は確かな舌をお持ちだ!まさに料理の時にはそれを頼もうと思っていましたよ!」
…おいおい。ナナ、お前そんなグルメだったか?違和感バリバリ過ぎるだろ…。
…ん?グルメ?そういやジョブあったよな?
こっそりジョブを覗いてみると、なんと新たなモノが表示されていた。
(『グルメ・リポーター』?え?何これ?)
グルメリポーターについて説明文を読んでみる事にした。
(何々?…『通常より食事で効果がアップ。果物系でDEFが更に10%のボーナス』……違う、これじゃねぇ)
下にスクロールすると短い文で書いてあった。
(『『一般』よりも舌が肥えている。転職可能』……ああ、Lvが上がったって事か。にしても…雑じゃね?)
早い話が、ずっとジョブを変えていなかったのでランクアップしたという事か。…え?需要無くね?いや、今の現状的には有難いけどさ、ゲーム的に不必要だろ。よく分からない仕様だが、レアって事なんだろう。最後まで上がれば何かしら役に立つんだろうな
。
「お待たせしました」
店員がワインと料理を持ってきた。想像していた通りまずは刺身からだ。
「うほほ!待ってましたよ!…さぁさぁ、食べましょう!」
この世界に来てから初めて食べる海鮮料理。それは懐かしく感じる味であった。おふくろの味とは聞くが、どちらかというとこれは故郷の味なのであろう。とにかく、全てが美味しかった。無我夢中で俺は食べて行くのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
食事も終わり、今はデザートを食べている。食事に関してはチカ達も大絶賛であった。
「ポーロさんご馳走様でした。とても美味しかったです!」
「「「ご馳走様でしたっ!」」」
「いえいえ、満足して頂いた様でなによりです」
店員が空いた皿を下げていく中、ポーロさんと明日の予定について話し合う。
「アルスさん、明日は少し距離があります。1日かけて次の町へ着くと思いますので、道中は今日と同じ感じで護衛をよろしくお願いします」
「わかりました。同じ感じでと言いますと、速度上昇をかけても良いって事ですよね?」
「ええ。早く着く事に越した事はありませんからね。あ、あと次の町へは入る時に通行証が必要です。アルスさん達の分を今渡しておきますね」
ポーロさんが収納袋から木の板の様な物を取り出す。
「これはサガンから来たという証明になります。アルスさん達は私の護衛ですので別口で入る事になります。これと合わせてギルド証を提示してくださいね」
「わかりました」
通行証を貰い、チカ達に配る。少し厚めの板に溶けた鉄で文字が書いてある。
「決して無くさない様にしてください。追加料金を払うなど無駄金は使いたくありませんから」
ポーロさんはワインを飲み終えると、先に部屋へ戻ると言った。これからの時間は自由時間と伝えられ、俺達は町を歩く事にした。
「んーーーっ!…夜風が心地よいですねぇ」
チカの言う通り、お酒で温まった体に丁度いい気温であった。
「屋台が出てるけど、お前達まだお腹空いてるんじゃないか?」
少し恥ずかしそうにチカ達は俯く。…まぁ、日頃あんなに食べてれば足りないって分かるもんな。
「なら、満足するまで食べ歩きしようか」
チカ達と一緒に屋台を食べ歩きする。それから宿屋に戻ったのは深夜頃となったのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「おはようございますポーロさん」
「おはようございますアルスさん。朝食を取ったら出発しましょうか」
下の食堂に着くとチカ達が待機していた。
「おはようございますアルス様」
「おはようマスター」
「ポーロさんもおはよー!」
「おはようございます皆さん」
「アルス様、朝食はもう頼んでおきました。代金も支払い済みです」
「お!さすがチカ。金は足りた?」
「充分に足りましたわ」
朝食には多すぎる量を食べ終え、俺達は宿屋を出る。荷物も乗せ終わり、あとはポーロさんが来るのを待つだけだ。
「お待たせしました。さぁ、『リムン』へと出発しましょう!」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
王都へ続く道、最後の宿場町『リムン』。この町は『白の町』と呼ばれている。
王都近くとあってか、訪れる人は多い。中央には『癒しの広場』と呼ばれる場所がある。天使をモチーフにした噴水が置かれており、出店や催し物がよく開かれている。
また、この町には『亜人族』も多く見受けられる。猫耳、尻尾、鱗姿など多様な人種が入り乱れているが大きな事件は無い。それは、ジュエリア王国の法の元で亜人族と人間種は等しく平等と定められているからだ。もちろん、亜人種を『奴隷』として扱うのはご法度だ。ただし、表向きは禁止しているが裏では『奴隷売買』が行われている。
注意すべき点は、全ての奴隷が『奴隷』として自分を売買に掛けている点だ。この場合は、亜人種・人間種共に法の元では庇護されない。あくまでも、無理矢理奴隷とする事は禁止しているのだ。
『奴隷売買』が行われているという事で、もちろん貴族の出入りも多い。この町で起きる事件は大体が貴族絡みの事件が多い。当然、巡回している兵士の数も多く、私服巡回する兵士も多い。
この事をポーロから教えて貰いながら、アルス達はリムンへと足を踏み入れるのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「うおー…。すんげぇ人混みだな」
俺の目の前には、数々の店に群がる人々が映っている。
「アルスさん、先程説明した通り貴族にだけは気をつけてくださいね。周囲のざわめきが聞こえたら道を開けてください」
「わかりました。気をつけます」
貴族か…。俺のイメージじゃ、我儘で高慢な奴らなんだろうなぁ。
ポーロさんが、ここで仕入れるものがあると言うので着いて行く。馬は流石に通れないので、信頼できる馬小屋に預けていた。
「お!ポーロさん、久し振りだねぇ!今日はウチで飲んで行くかい?」
「一杯引っ掛けて行きたい所だが私も仕事でね。気が向いたら寄るよ」
「ポーロさんじゃないか!ちょうど良かった!つい昨日新しい商品が手に入ったんだ!良かったら仕入れないかい?」
「おや?それは前言ってたやつかい?…また後で寄らせて貰うよ。私は『リカント』に行かなくちゃならないからね」
「そうかい!なら、また後でな!」
店の前を通るたび、ポーロさんは声をかけられる。という事は、コンラッドも言っていたけどポーロさんは本当に有名な商人なんだなぁ。
サガンの街と違ってこの町の出店には色々な物が出ている。食べ物やアイテムなどに目移りしながらも、ポーロさんの後をついて行く。すると、噴水近くのこじんまりとした一軒家の前で止まった。
「アルスさん、少し商談をしてきます。待っててもらえますか?」
「ええ、勿論です」
「遅くても1時間ぐらいだと思います。その間、その広場で休憩しておいてください」
「わかりました。出店も気になりますし、ぶらついておきますね」
「くれぐれも貴族にだけは気をつけてくださいね?」
そう言うとポーロさんは家の中へと入っていった。
「それじゃ、30分ぐらいぶらつこうか。今通ってきた道で気になるものとかあった?」
「んー!全部!!」
「服屋さんが気になりましたわ」
「食べ物が豊富。全部食べてみたい」
「んー、あんまり時間も無いし今日は食べ歩きにしとくか。今度来た時にでも散策しような」
ご機嫌なチカ達と共に食べ歩きする事にした。良い匂いがあちらこちらからするし、あっという間に時間は過ぎるだろう。
この世界に来て、俺はつくづくラッキーだと思う事がある。それは、俺が金持ちだという事だ。チカ達の食費は勿論の事だが、興味があるものは何でも買えるというのはあまりにも魅力的過ぎる。
チカ達が興味を持ったものはポンポン買い、食べ物も沢山買い漁っていると遠くから違う質のざわめきが聞こえてきた。
「アルス様、これはもしかして…」
「かもな。…みんな、道を開けるぞ」
ざわめきが大きくなるにつれ、人並みが割れていく。その割れ目の部分には、見るからに貴族と分かる格好をした男性が従者を連れ歩いている。
「ふんっ…。小汚い平民どもめ、さっさと道を開けろ」
でっぷりと太った男性は、道を開けている人達に目を向けながらこちらへと歩いてくる。
(うおおおおお!まさにイメージ通りの貴族じゃねーか!!…なんだろう。俺は今すげー感動している!)
「…チッ。うざってぇ奴が来やがった」
「…やめとけ。聞こえたら面倒な事になるぞ」
「…今日も奴隷を買いに来たんだろうな」
「…またか?この前も買ったばかりだろ」
「…ファルマス家に買われた奴隷は長生きできねーだろ?」
耳を澄ましてみると聞こえてくるのは悪評ばかり。人々の顔を見る限り、好かれていないのは確かだ。
「…ヒソヒソとうるさいな。ダーウェントよ、少し黙らせよ」
「…トーケル様。流石にこの場で騒ぐとお父上様に迷惑がかかります」
「ふんっ…。まぁ、もう暫くの辛抱だ。我慢するか」
トーケルと呼ばれた男は俺達の近くを通るその時、お決まりの面倒事が起きてしまった。
「おんやー!?こんな所にエルフがいるじゃないか?」
汚い声が聞こえたと思うとトーケルはチカへ話しかける。
「おいそこのエルフ。お前はここで何をしてるんだ?」
「…エルフ?もしかして私の事ですか?」
「ここにはお前しかエルフはいないだろう?」
「私にはチカという名前があります。その種族名を呼ぶのはやめてください」
「なまえー?ひゃひゃ、お前には名前があるのか?奴隷の分際で生意気だな」
「奴隷…?私が奴隷なのですか?」
「おや?奴隷では無いのか?」
「奴隷ではありません。私は冒険者です」
「冒険者…。エルフが冒険者、か。…ひゃひゃひゃ、珍しいヤツもいるもんだ」
トーケルはチカを舐め回す様に視線を上下させる。
「そのスタイルといい、美貌といい…。冒険者には勿体無いな。…おい、エルフよ。オレ様の専属ならないか?」
…何言ってんだこいつ??ちょっと意味わかんないんですけど。
「お断りします」
「お前は冒険者なのだろう?なら、金に困っているんだろう。ちまちまと小遣い程度の金を稼ぐよりオレ様の所で稼いだ方がいいぞ?」
「別にお金には困ってませんわ」
「なら何故冒険者などという下賎な職業についたのだ?お前の美貌があれば楽に稼げるというのに」
「アルス様に着いて行くと決めたからです。私は…いえ、私達はアルス様と共に生きると決めておりますから」
「アルス…?なんだ、お前には主人がいるのか?」
「ええ。この世で最も大事な御方です」
チカの言葉を聞いたトーケルが周囲を見回す。品定めをしている様な目が動く中、ピタリと俺の所で止まる。
「お前がこのエルフの主人か?」
「…主人という者では無いですが、まぁそうですね」
「ふん…。貴様も冒険者なのか。いや、答えなくてもいい。その格好を見れば誰でも分かる」
トーケルは何かを考えている。やがて、考えがまとまったのか口を開く。
「貴様、金に困っていないか?困っているならそこのエルフをオレ様が買い取ろう。金額は貴様の言い値でいいぞ」
その言葉に俺は唖然とした。いやいやいや、ほんと何言ってんのコイツ??頭に蛆でも湧いてんじゃねーか?
「困って無いですし、それは遠慮させていただきます」
「そうか…。ダーウェント、帰るぞ」
俺の言葉を聞いたトーケルは意外にもあっさり引いた。ダーウェントと呼ばれた従者がこちらに頭を下げるとトーケルに着いていった。
「なんだぁ?拍子抜けするなぁ」
2人を見送りながら呟くと、周囲の人達が声を掛けてくる。
「おい、アンタ!悪いことは言わねぇ、さっさとこの町から出た方がいいぜ!」
「そうよ!あのろくでなしが何をしてくるか分からないわよ!」
「あいつそんなに偉いんですか?」
「…アンタ知らないのかい?アイツの親はこのジュエリア王国の大臣なんだ!」
「親の七光りでいつも威張ってるのよ!!けど、アイツは無駄に頭がキレるからね!アンタ達に何をしてくるかわからないわ!」
んーなるほど。安定の嫌われ貴族なんだな、アイツ。町の人達の言葉も何か真実味があるし、素直に従っておこう。
「…分かりました。急いで町を出ます」
「それがいい!あと、アンタはこのお嬢さん方を守ってやれよ?何をしてくるか分かんないんだからな!」
俺達は急いでポーロさんの所へと戻る。ちょうど、ポーロさんも出て来たのでタイミングが良かった。
「おや?どうしました?そんなに慌てて」
「すいませんポーロさん。急いでこの町から出たいのですが…」
俺の言葉でポーロさんは何かに気づいた様だ。
「…わかりました。話は後で聞くとして、急ぎ出発しましょう」
俺は急いで馬を取りに行き、ポーロさんを乗せ王都へと向かう事にした。本来ならここで一泊する予定だったのだが、俺のせいで崩れてしまった。
俺達が門へと向かってると、町の人達が話しかける。大体の人があの場にいた人から聞いたのだろう。話しかけてくれる言葉は殆どが急げというものだった。
町を出た俺達は全体に速度上昇を掛け、インビジブルも使い、さっさと王都へと向かうのであった。
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続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
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