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025話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
あれから2週間ほど経った。
この2週間の間、色々な事があった。まずは、翌日朝起きて外に出ると兵士達から元気良く挨拶をされた。中には、弟子入り志願をする奴もいて朝からとても面倒だった。
昼頃になり露店通りに行くと、数々の店主から声をかけられる。チカ達とも店主達がお喋りをしているのを見て、より仲良くなったと思う。すれ違う住民も声をかけてくれるし、気分は地元って感じだった。
その日はブラブラしていただけで1日が終わる。次の日からは、チカ達の希望によって1週間は孤児院と依頼を交互に行き来していた。子供達と遊ぶのは凄く楽しい。たまに言うこと聞かないクソガキがいるけど、まだ拗れてない分マシだと思う。
そして、最後の1週間はほぼ依頼を受けていた。街の周辺に魔物が出るようになったらしく殆どの冒険者が駆り出されていた。カーバインやコンラッドはこの異常発生を『魔物の繁殖期だから仕方ないだろう』と言っていた。出てくるのは俺達にとっては雑魚だったが、他の冒険者や兵士には丁度いい相手だったらしく、俺達が指揮官として戦い方を教えていた。
サガン兵士団には回復役が少ない為、ほぼ防衛戦を教え込んだ。理想は回復、遠距離、近接とバランスが取れていた方が良いが、残念ながら殆どが接近戦を得意とする連中ばかりだった。
勉強になったのが、この世界では技をスキルとは言わないという事。『特技』と言うものに変わっているらしい。戦いを重ねると突然閃く事があるらしく、その時から使えるようになるらしい。俺達に教えて貰いたいという奴らがいるが、俺もどう教えたら良いのか分からないので、何度かスキルを見せて覚えてもらう事にした。……多分、無理だとは思うけど。
そんなこんなで日にちが過ぎた。そして、現在俺は絶賛寝込み中だ。
どうやら疲労からくる風邪を引いたらしい。耐性はあるといえど、精神的なものからは守れないみたいだ。しかも、めんどくさい事に治癒が効かないときた。自力で治すしかなく、俺はベッドの上で安静にしているのであった。
「アルス様…ご気分はどうですか?」
枕元に水を置きながら、心配そうにチカが話しかけてきた。ローリィやナナは、俺の為に買い出しに行っている。
「あ゛ーー……。まだねつがあるっぽい…」
「タオル変えときますね」
新しく冷たいタオルが額に乗る。相当熱があるのか、冷んやりして気持ちいい。
「きもちいい…。ありがとなチカ」
「いえ。…私達がお役に立てればよかったんですけど…」
「いやいや、そんなことないよ。かんびょうしてもらってるし、すごいたすかるよ」
「お腹が空いたり、喉が渇いたらすぐ仰って下さいね」
「うん。ありがと」
…あ、そうだ。これつたえとかなきゃ。
「チカ…。おれがなおるまでメシはかってにたべてくれ。おかねはわたしておくね」
細かい調整が出来ないので、適当に渡す。
「つかいきってもいいからね。…ごめん、ちょっとねるわ」
喋るのが疲れたのか、体温が急上昇したのか分からないが意識が朦朧としてきたので寝ることにする。
「わかりました…。ゆっくり休んでください」
チカの優しい声を聞きながら、俺は夢の世界へと旅立つのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「ねーねー!ナナちゃん、ご主人様にはこれとか必要じゃないかな?」
「それは消化に悪いと思う。流動食の方が良い。例えば…スープとか」
ナナ達は露店通りで買い物をしていた。全てはアルスの為。元気が出る食べ物を探していた。
「お、ナナちゃんにローリィちゃん!今日は2人で買い物かい?」
馴染みの焼き鳥店の店主が、ナナ達に話しかける。
「うん!ご主人様の為に買い物してるんだー!」
「へぇー?旦那の為にかい。……ところで、旦那はどうしたんだい?」
いつもならアルスと一緒なのだが、今日は見当たらない事を疑問に思った店主が問いかける。
「マスターは風邪を引いてしまった。今、チカが看病している」
「ええ!?旦那は寝込んでしまったのかい!?……ふふ、旦那も風邪とか引くんだなぁ。意外だったよ」
「すごい熱で、ウンウンうなされてるんだー。だから、栄養たっぷりの食べ物無いかなーってナナちゃんと探してるの!」
「すごい熱…か。咳とかは出てるのかい?」
「咳は出ていない。熱と汗が凄い」
店主は仕込みの手を止め、何かを思案する。その様子を疑問に思ったナナ達は店主が考え終わるまで待っている。
「…今の時期にその症状が出るってのは珍しいが…。もしかしたら、『砂漠病』にかかったかも知れんな」
「『砂漠病』?なぁにそれ?」
仕込みに戻りながら、店主は砂漠病について話す。
「ああ、砂漠病ってのは『熱、吐き気、ふらつき』が顕著に現れる病気なんだ。サガンは周りが砂漠に囲まれてるから、初めて来た奴らなんかは良くかかるんだよ」
「それはすぐ治るものなのか?」
「んー、個人差があるから何とも言えねぇが、早くて3日、長くて1週間ってとこだな」
「1週間も!?…薬とか無いの?」
「残念ながら薬はねぇんだな。1度でもかかれば免疫が出来るから、とにかく安静にしとくのが1番だな」
「そうか…。安静第一なのか」
店主の話を聞いたナナ達は落ち込む。特効薬などがあれば、すぐにでも買いに行っていただろうが、売っていないと知らされて。
その落ち込み具合に胸を痛めた店主がポツリと希望を漏らす。
「……そういや、『魔の森』に生えている薬草が何にでも効くって聞いた事があるな」
「え!本当!?なんて名前の薬草なの!?」
「す、すまねぇ。俺も噂話で聞いただけなんだよ」
「誰かそれについて詳しい人は居ないのか?」
「んー……。孤児院近くの医者に聞けば分かるかも知れねぇな」
「わかった!聞きに行ってみる!!ありがとねっ!」
店主の話を聞いたナナ達は急いで孤児院へと向かう。道中、住民に場所を教えて貰い、医者が住む場所へと
辿り着いた。
「ここだよね?……ごめんくださーい!!」
逸る気持ちでドアを少し強めに叩いてしまう。ローリィの力で叩かれたドアは少し鈍い音を立ててしまう。
「ローリィ、少し落ち着いて。壊してしまったら迷惑がかかる」
「…ごみん。慌てちゃって」
「その気持ちは凄く分かる。でも、落ち着いて」
ナナに注意を受けていると、ドアが鈍い音を立てながらゆっくりと開く。
「どうかしましたか?」
ドアから出て来たのは、白衣を着た若い女性であった。
「あ…。えーっと、ここはお医者さんの家で間違いないですよね??」
「はい。ここは『サガン診療所』ですよ。何かご用ですか?」
「知り合いから、『魔の森』に生える薬草の事を知っていると聞いて来た。その薬草について教えて欲しい」
「薬草…?…ああ、『マンドラゴラ』の事ですか?」
「んー、分かんないんだけど、砂漠病に効くっていう薬草の事!」
「ああ、でしたらマンドラゴラで間違いないですわ。…誰か砂漠病にかかったのですか?」
「うん!あたし達のご主人様がその砂漠病ってヤツにかかったかも知れないの!」
「そうですか…。そのご主人様は診察は受けてます?」
「いや、まだ受けていない。今日の朝方から急に熱が出ていた」
「それなら、1度診察した方が良いかも知れませんわね。よろしければ、私が診察しましょうか?」
「してもらった方がいいよね?ナナちゃん」
「うん。ボク達では判断出来ないから、その道のプロに任せた方が良い」
「でしたら、今すぐ準備して来ます。ちょっと待っててくださいね」
女性は診療所へと戻ると、診察道具を持って出てくる。
「お待たせしました。では、案内をお願いします」
ナナ達は女性を連れて、足早に宿屋へと戻るのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「チカちゃん!お医者さん連れて来たよ!」
「しーっ!!今ちょうど眠った所なんですから、静かにっ!」
ドアを急いで開けると、ローリィはチカに怒られてしまう。
「…ごめんなさい」
「あそこに寝ているのがボク達のマスター。診察してもらえるか?」
「ええ。もちろんですよ」
ナナが女性をアルスの元へと連れて行く。
「…少し失礼しますね」
女性は何やらリトマス紙の様な物を取り出すと、アルスの口へと近づける。
「……よし。あとは5分程置いておいたら分かると思います」
アルスの口からはリトマス紙の様な物が出ている。それが唾液で少し濡れていく。
「これは…?」
「これは診察で使う道具なのですが、砂漠病かもとお聞きしましたので持って来ました。この紙が桃色に変化すると砂漠病って事になりますね」
「そうなんですか…」
チカ達にとって、長い長い5分であった。沈黙の中、アルスの咥えている紙に変化が現れた。
「あっ…。先生、色が!!」
「…どうやら砂漠病で間違い無さそうですね」
咥えている紙を取ると、女性は砂漠病と診断する。
「そうか。…なら、これに効くという薬草について教えて欲しい」
「…安静にしていれば治る病ですよ?」
「ご主人様が苦しんでいる姿を見たくないの!早く治るなら、その薬草を取りに行きたい!」
ローリィの雰囲気に押されたのか、女性は黙ってしまう。
「ローリィ、少し落ち着きなさい。威圧が漏れているわよ」
「あ…ごめん。またやっちゃった…」
チカの指摘にローリィは気持ちを落ち着かせる。雰囲気が柔らかくなったのを感じた女性は深呼吸をする。
「ごめんなさい先生…。ローリィは悪気があった訳では無いんです」
「い、いえ…。大丈夫です。少し驚いただけですから」
何度か深呼吸をした女性は、チカ達に目を向け口を開く。
「…マンドラゴラについて詳しく聞きたいと仰ってましたね?…えーっと…」
「あ、自己紹介が遅れました。私はチカです。この子がローリィで、あの子はナナですわ」
「私はクリスティーナ。クリスって呼んでください」
「それで、クリス。そのマンドラゴラについて教えて欲しい」
「はい。…マンドラゴラは『魔の森』の中心部に生えている薬草の根の部分の事です。このマンドラゴラは、処方すると他の病気にも効く万能薬となっています」
クリスはスラスラとマンドラゴラについて話す。その姿はまさに医者である。
「…ただ、『魔の森』は危険な所でしてここ何年かは足を踏み入れていないんです。依頼で出す時もありますが、受けてくれる冒険者がいないものでして…」
「その『魔の森』にはどんな魔物が出るのでしょうか?」
「スケルトンなどのアンデッドが出るそうです。厄介な事にスケルトンの上位、スケルトンソルジャーも出るそうです」
「…そうですか。ありがとうございます」
話を聞いたチカ達は目配せし合い席を立つ。
「…まさか3人だけで『魔の森』に行くつもりですか?」
「ええ。そこにしかマンドラゴラとやらは生えてないんでしょう?」
「そうですけど…」
「ならば行くしかない。ボク達の知っているスケルトンならば余裕」
「あんな骨野郎は砕けばいいだけだもんね!」
「…いやいやいや!貴女達だけで!?…正気ですか!?」
クリスは目を大きく見開きながら問い掛ける。
「大丈夫。ボク達は強い。スケルトン如きには手こずらない」
「せ、せめて他の冒険者と一緒に行ってはどうです!?森は暗く、方向感覚が狂うと言われてますよ!?」
「クリスさん、ご安心を。私達はそういう場所でも行けるように色々と手段がありますの」
「それに、チカちゃんはエルフだしね!森で迷う事は120%あり得ないもんね!」
「……エ、エルフですか…。なら森での行動は大丈夫でしょうけど…」
「それじゃボク達はもう行く。クリス、マスターの看病を任せても良いか?」
いつの間にか装備を変えている事に驚きながらも、クリスは了承する。
「は、はい。責任を持って看病しますわ」
「よろしくお願いしますね?」
そう言うと、チカ達は部屋から出て行く。あまりの決断力、行動力にクリスは驚きを隠せない。
「…行っちゃった…。それにしても…エルフですって?…一体この方達はどういう繋がりなのかしら?」
クリスの疑問に答える者は無く、言葉だけが部屋へと響くのであった。
あれから2週間ほど経った。
この2週間の間、色々な事があった。まずは、翌日朝起きて外に出ると兵士達から元気良く挨拶をされた。中には、弟子入り志願をする奴もいて朝からとても面倒だった。
昼頃になり露店通りに行くと、数々の店主から声をかけられる。チカ達とも店主達がお喋りをしているのを見て、より仲良くなったと思う。すれ違う住民も声をかけてくれるし、気分は地元って感じだった。
その日はブラブラしていただけで1日が終わる。次の日からは、チカ達の希望によって1週間は孤児院と依頼を交互に行き来していた。子供達と遊ぶのは凄く楽しい。たまに言うこと聞かないクソガキがいるけど、まだ拗れてない分マシだと思う。
そして、最後の1週間はほぼ依頼を受けていた。街の周辺に魔物が出るようになったらしく殆どの冒険者が駆り出されていた。カーバインやコンラッドはこの異常発生を『魔物の繁殖期だから仕方ないだろう』と言っていた。出てくるのは俺達にとっては雑魚だったが、他の冒険者や兵士には丁度いい相手だったらしく、俺達が指揮官として戦い方を教えていた。
サガン兵士団には回復役が少ない為、ほぼ防衛戦を教え込んだ。理想は回復、遠距離、近接とバランスが取れていた方が良いが、残念ながら殆どが接近戦を得意とする連中ばかりだった。
勉強になったのが、この世界では技をスキルとは言わないという事。『特技』と言うものに変わっているらしい。戦いを重ねると突然閃く事があるらしく、その時から使えるようになるらしい。俺達に教えて貰いたいという奴らがいるが、俺もどう教えたら良いのか分からないので、何度かスキルを見せて覚えてもらう事にした。……多分、無理だとは思うけど。
そんなこんなで日にちが過ぎた。そして、現在俺は絶賛寝込み中だ。
どうやら疲労からくる風邪を引いたらしい。耐性はあるといえど、精神的なものからは守れないみたいだ。しかも、めんどくさい事に治癒が効かないときた。自力で治すしかなく、俺はベッドの上で安静にしているのであった。
「アルス様…ご気分はどうですか?」
枕元に水を置きながら、心配そうにチカが話しかけてきた。ローリィやナナは、俺の為に買い出しに行っている。
「あ゛ーー……。まだねつがあるっぽい…」
「タオル変えときますね」
新しく冷たいタオルが額に乗る。相当熱があるのか、冷んやりして気持ちいい。
「きもちいい…。ありがとなチカ」
「いえ。…私達がお役に立てればよかったんですけど…」
「いやいや、そんなことないよ。かんびょうしてもらってるし、すごいたすかるよ」
「お腹が空いたり、喉が渇いたらすぐ仰って下さいね」
「うん。ありがと」
…あ、そうだ。これつたえとかなきゃ。
「チカ…。おれがなおるまでメシはかってにたべてくれ。おかねはわたしておくね」
細かい調整が出来ないので、適当に渡す。
「つかいきってもいいからね。…ごめん、ちょっとねるわ」
喋るのが疲れたのか、体温が急上昇したのか分からないが意識が朦朧としてきたので寝ることにする。
「わかりました…。ゆっくり休んでください」
チカの優しい声を聞きながら、俺は夢の世界へと旅立つのであった。
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「ねーねー!ナナちゃん、ご主人様にはこれとか必要じゃないかな?」
「それは消化に悪いと思う。流動食の方が良い。例えば…スープとか」
ナナ達は露店通りで買い物をしていた。全てはアルスの為。元気が出る食べ物を探していた。
「お、ナナちゃんにローリィちゃん!今日は2人で買い物かい?」
馴染みの焼き鳥店の店主が、ナナ達に話しかける。
「うん!ご主人様の為に買い物してるんだー!」
「へぇー?旦那の為にかい。……ところで、旦那はどうしたんだい?」
いつもならアルスと一緒なのだが、今日は見当たらない事を疑問に思った店主が問いかける。
「マスターは風邪を引いてしまった。今、チカが看病している」
「ええ!?旦那は寝込んでしまったのかい!?……ふふ、旦那も風邪とか引くんだなぁ。意外だったよ」
「すごい熱で、ウンウンうなされてるんだー。だから、栄養たっぷりの食べ物無いかなーってナナちゃんと探してるの!」
「すごい熱…か。咳とかは出てるのかい?」
「咳は出ていない。熱と汗が凄い」
店主は仕込みの手を止め、何かを思案する。その様子を疑問に思ったナナ達は店主が考え終わるまで待っている。
「…今の時期にその症状が出るってのは珍しいが…。もしかしたら、『砂漠病』にかかったかも知れんな」
「『砂漠病』?なぁにそれ?」
仕込みに戻りながら、店主は砂漠病について話す。
「ああ、砂漠病ってのは『熱、吐き気、ふらつき』が顕著に現れる病気なんだ。サガンは周りが砂漠に囲まれてるから、初めて来た奴らなんかは良くかかるんだよ」
「それはすぐ治るものなのか?」
「んー、個人差があるから何とも言えねぇが、早くて3日、長くて1週間ってとこだな」
「1週間も!?…薬とか無いの?」
「残念ながら薬はねぇんだな。1度でもかかれば免疫が出来るから、とにかく安静にしとくのが1番だな」
「そうか…。安静第一なのか」
店主の話を聞いたナナ達は落ち込む。特効薬などがあれば、すぐにでも買いに行っていただろうが、売っていないと知らされて。
その落ち込み具合に胸を痛めた店主がポツリと希望を漏らす。
「……そういや、『魔の森』に生えている薬草が何にでも効くって聞いた事があるな」
「え!本当!?なんて名前の薬草なの!?」
「す、すまねぇ。俺も噂話で聞いただけなんだよ」
「誰かそれについて詳しい人は居ないのか?」
「んー……。孤児院近くの医者に聞けば分かるかも知れねぇな」
「わかった!聞きに行ってみる!!ありがとねっ!」
店主の話を聞いたナナ達は急いで孤児院へと向かう。道中、住民に場所を教えて貰い、医者が住む場所へと
辿り着いた。
「ここだよね?……ごめんくださーい!!」
逸る気持ちでドアを少し強めに叩いてしまう。ローリィの力で叩かれたドアは少し鈍い音を立ててしまう。
「ローリィ、少し落ち着いて。壊してしまったら迷惑がかかる」
「…ごみん。慌てちゃって」
「その気持ちは凄く分かる。でも、落ち着いて」
ナナに注意を受けていると、ドアが鈍い音を立てながらゆっくりと開く。
「どうかしましたか?」
ドアから出て来たのは、白衣を着た若い女性であった。
「あ…。えーっと、ここはお医者さんの家で間違いないですよね??」
「はい。ここは『サガン診療所』ですよ。何かご用ですか?」
「知り合いから、『魔の森』に生える薬草の事を知っていると聞いて来た。その薬草について教えて欲しい」
「薬草…?…ああ、『マンドラゴラ』の事ですか?」
「んー、分かんないんだけど、砂漠病に効くっていう薬草の事!」
「ああ、でしたらマンドラゴラで間違いないですわ。…誰か砂漠病にかかったのですか?」
「うん!あたし達のご主人様がその砂漠病ってヤツにかかったかも知れないの!」
「そうですか…。そのご主人様は診察は受けてます?」
「いや、まだ受けていない。今日の朝方から急に熱が出ていた」
「それなら、1度診察した方が良いかも知れませんわね。よろしければ、私が診察しましょうか?」
「してもらった方がいいよね?ナナちゃん」
「うん。ボク達では判断出来ないから、その道のプロに任せた方が良い」
「でしたら、今すぐ準備して来ます。ちょっと待っててくださいね」
女性は診療所へと戻ると、診察道具を持って出てくる。
「お待たせしました。では、案内をお願いします」
ナナ達は女性を連れて、足早に宿屋へと戻るのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「チカちゃん!お医者さん連れて来たよ!」
「しーっ!!今ちょうど眠った所なんですから、静かにっ!」
ドアを急いで開けると、ローリィはチカに怒られてしまう。
「…ごめんなさい」
「あそこに寝ているのがボク達のマスター。診察してもらえるか?」
「ええ。もちろんですよ」
ナナが女性をアルスの元へと連れて行く。
「…少し失礼しますね」
女性は何やらリトマス紙の様な物を取り出すと、アルスの口へと近づける。
「……よし。あとは5分程置いておいたら分かると思います」
アルスの口からはリトマス紙の様な物が出ている。それが唾液で少し濡れていく。
「これは…?」
「これは診察で使う道具なのですが、砂漠病かもとお聞きしましたので持って来ました。この紙が桃色に変化すると砂漠病って事になりますね」
「そうなんですか…」
チカ達にとって、長い長い5分であった。沈黙の中、アルスの咥えている紙に変化が現れた。
「あっ…。先生、色が!!」
「…どうやら砂漠病で間違い無さそうですね」
咥えている紙を取ると、女性は砂漠病と診断する。
「そうか。…なら、これに効くという薬草について教えて欲しい」
「…安静にしていれば治る病ですよ?」
「ご主人様が苦しんでいる姿を見たくないの!早く治るなら、その薬草を取りに行きたい!」
ローリィの雰囲気に押されたのか、女性は黙ってしまう。
「ローリィ、少し落ち着きなさい。威圧が漏れているわよ」
「あ…ごめん。またやっちゃった…」
チカの指摘にローリィは気持ちを落ち着かせる。雰囲気が柔らかくなったのを感じた女性は深呼吸をする。
「ごめんなさい先生…。ローリィは悪気があった訳では無いんです」
「い、いえ…。大丈夫です。少し驚いただけですから」
何度か深呼吸をした女性は、チカ達に目を向け口を開く。
「…マンドラゴラについて詳しく聞きたいと仰ってましたね?…えーっと…」
「あ、自己紹介が遅れました。私はチカです。この子がローリィで、あの子はナナですわ」
「私はクリスティーナ。クリスって呼んでください」
「それで、クリス。そのマンドラゴラについて教えて欲しい」
「はい。…マンドラゴラは『魔の森』の中心部に生えている薬草の根の部分の事です。このマンドラゴラは、処方すると他の病気にも効く万能薬となっています」
クリスはスラスラとマンドラゴラについて話す。その姿はまさに医者である。
「…ただ、『魔の森』は危険な所でしてここ何年かは足を踏み入れていないんです。依頼で出す時もありますが、受けてくれる冒険者がいないものでして…」
「その『魔の森』にはどんな魔物が出るのでしょうか?」
「スケルトンなどのアンデッドが出るそうです。厄介な事にスケルトンの上位、スケルトンソルジャーも出るそうです」
「…そうですか。ありがとうございます」
話を聞いたチカ達は目配せし合い席を立つ。
「…まさか3人だけで『魔の森』に行くつもりですか?」
「ええ。そこにしかマンドラゴラとやらは生えてないんでしょう?」
「そうですけど…」
「ならば行くしかない。ボク達の知っているスケルトンならば余裕」
「あんな骨野郎は砕けばいいだけだもんね!」
「…いやいやいや!貴女達だけで!?…正気ですか!?」
クリスは目を大きく見開きながら問い掛ける。
「大丈夫。ボク達は強い。スケルトン如きには手こずらない」
「せ、せめて他の冒険者と一緒に行ってはどうです!?森は暗く、方向感覚が狂うと言われてますよ!?」
「クリスさん、ご安心を。私達はそういう場所でも行けるように色々と手段がありますの」
「それに、チカちゃんはエルフだしね!森で迷う事は120%あり得ないもんね!」
「……エ、エルフですか…。なら森での行動は大丈夫でしょうけど…」
「それじゃボク達はもう行く。クリス、マスターの看病を任せても良いか?」
いつの間にか装備を変えている事に驚きながらも、クリスは了承する。
「は、はい。責任を持って看病しますわ」
「よろしくお願いしますね?」
そう言うと、チカ達は部屋から出て行く。あまりの決断力、行動力にクリスは驚きを隠せない。
「…行っちゃった…。それにしても…エルフですって?…一体この方達はどういう繋がりなのかしら?」
クリスの疑問に答える者は無く、言葉だけが部屋へと響くのであった。
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