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018話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「ガノンよ。進捗の方はどうだ?」
「ハッ!奴等は上手く餌に引っかかっているようです!…しかし、依然中に入ることが出来ず、思うようには進んでおりません!」
薄暗く赤い光が差し込む部屋にて、男2人が会話をしている。1人は椅子に深々と座り、もう1人は片膝をつき、頭を下げている。
「……そうか、やはり予定通りとはいかぬものだな。……まぁ良い。まだ時間はあるのだ。じっくりと機会を伺い、タイミングを逃すな。それまでは餌をばら撒き、注意を背けておけ」
「ハッ!畏まりました!」
膝をついていた男が部屋から出ていくと、残っている男が1人呟く。
「…忌々しい奴等め。計画が成功次第、生き残った奴等は全て消し去ってくれるわ…」
邪悪な笑みと共に、男の薄気味悪い声は部屋へと溶けていくのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
調理した物を持った時、聞き覚えのある懐かしい音楽が俺の脳内に響き渡る。
(は?なんだっけこれ?……レベルアップ音?いや、近いぞ。なんだっけなー…)
肉を持ったまま記憶の海を彷徨う。しばらくして、1つの記憶が見つかった。
「---ッ!ジョブ習得音!!」
慌てて肉を調理台に置き、ステータスを開く。すると、『調理師』と『狩人』の間に『美食家』というジョブが見つかった。
(なんだ…これ?こんなのゲームには無かったぞ?)
ひとまず、『美食家』をタップし内容を見てみると『上級職業』と書かれている。中身の方はまだ???ばっかりだが、Lv1の項目に目を見開く。
(『一般』ってなんだ??まじでどういう意味なの??)
残念ながら詳しい詳細は書かれておらず、謎だけが残る。とりあえず、この『美食家』というジョブに変更し、チカ達の元へと向かう。
「すまん、遅くなった!」
「アルス様、どうかしましたか?先程、調理台の前で棒立ちしていましたが…」
チカが心配そうに声をかけてくれる。ナナ達も同じ気持ちなのか、俺を見つめている。
「ああ…さっきなんか新しいジョブが出てきてさ…。それをちょっと見てたんだ」
チカ達に先程出たばっかりのジョブについて話してみたが、どうやら何も分からないらしい。しかし、1人だけ思い当たる者がいた。
「…マスター。ボクもそれ持ってるかも」
「え?本当か?ちょっと見てもいい?」
ナナから了承を貰い、ナナのステータスを開く。すると、俺と同じ場所に『美食家』というジョブが出ていた。チカ達のを見てみるが、『美食家』というジョブは無かった。
(なぜナナと俺だけ?ローリィはまだしも、チカが出てないと言うことは何か理由があるはず)
理由を探そうとするが、少し時間がかかる。今考えるとチカ達が心配するかもしれないので、後回しにしておく。
「とりあえず、宿屋で考えよう。…ナナ、ありがとな」
「ボク、役に立った?」
「ああ、どうやら俺とナナだけ新しいジョブが出てるみたいだ。理由はまだわかんないけど、鍵にはなりそうだよ」
「そう。良かった。………マスターとお揃い」
最後の方は小さな声だったので聞こえなかったが、役に立ったのは事実だ。お礼として撫でるのは忘れない。
俺達が話している間、コンラッド達はそれぞれ肉を焼き食事をしていた。周囲には良い匂いが広がり、食欲をそそる。
「アルスさん達の分、焼いて置きました!少し焼き過ぎかも知れませんが、これが1番美味しい状態だと思います!」
フィンが俺達の分を焼いてくれてたらしく、それを手渡してくれる。……これ焦げまくりじゃね?
全体的に炭化しているように思えたが、それは見た目だけだったらしく、チラリとコンラッドの肉を見ると微かに焼けた肉の色が見えた。
チカ達は焦げた部分を剥がして食べていたので、それを見習って食べる事にした。
(別に食べなくてもいいんだけどなぁ…。でも渡されたからには食べないとおかしいもんな…)
焦げを剥がし、肉を噛む。口の中に調味料と肉汁が広がり、懐かしい味がした。
(あー……焼肉っぽい味だ。ちょっと調味料が強い感じだけど、これはこれで美味しいな。ってか、狼ってこんな味なんだな…)
もぐもぐと無口で肉を頬張っていく。噛むと旨味が出て、とても美味しく感じる。
…………美味しいだと!?えっ?は?ちょっと待て!
驚いて肉を飲み込んだ俺は、喉に引っ掛けてしまう。
「----------!」
「だ、大丈夫ですか??アルス様、水です!」
チカから水を貰い一気に飲み干す。塊が食道をゆっくり落ちていくのがわかる。
「ぶはーーーっ!…し、死ぬかと思った…」
口をぬぐい、串に刺してある肉を見つめる。その様子を不思議そうにコンラッド達も見ていた。
「どうしたんですか?…や、やっぱり焦がし過ぎてました??」
「い、いや…思ったより弾力があってな…。ちょっと驚いちゃって…」
…驚いたのは事実だ。だが、内容は違う。その事に思案を巡らせながら、また肉を頬張る。
(…やはり味がする。肉そのものではなく、調味料の味もする。……しかし、何故?)
噛み締めながら思考を重ねる。充分に咀嚼し終えた頃、結論に至る。
(原因として考えられるのは新しいジョブ、『美食家』だろうな。アレに変更してから味が分かったし、まず間違いは無いだろう…。街に帰ったら実験してみるか。『美食家』の有無で変わるかどうかだ)
帰ってからする事が決まったので、俺は食事を楽しむ事に決めた。何せ、味がわかるってだけで、色褪せていた食事がこんなにも素晴らしく感じるからな。『食べる事は幸せ』とはまさにこの事だろう。
「…旨いなぁ。食べるって幸せだわ…」
「マスター。そんなに美味しいのか?」
蕩けきった顔をしていると、ナナが無表情で声をかけてきた。
「ああ、旨いよ。自分で作ったから尚更旨く感じるよ」
「そう……」
ん?微かにだが、ナナが悲しそうな表情しているな。………ああ、これはアレですね?
「でもまぁ、ナナが作ってくれた料理の方が美味しかったな!」
「ッ!…今度また作る」
……ふふふ、正解ルートだったようだな。さすが俺。ほら、ナナも少し口元緩んでるし、間違いないな。
「……またナナにリードされちゃったわ」
「…あたしも料理上手なりたいなぁ。……あ、でもいいや!あたしご主人様とデート出来たし!」
「ええええっ!?どういう事!?ねぇねぇ!!」
何やらチカ達が騒がしいが、それよりも食事が優先だ!
3本目を食べ終わった頃、コンラッドが野営について話しかけてきた。
「食事中すまんな、そろそろ魔物達が出る時間帯だ。見張りを交代で立てようと思うのだが…」
「ああ、見張りね…。別に俺らがやってもいいよ?」
「…いいのか?まぁ、こっちからすれば助かるのだが…」
「チカに頼んで『警報』と『探知』を使うから、いいよ」
俺の言葉にコンラッドは目を見開いた。しかし、深い溜息と共に言葉を繋ぐ。
「……全くお前らときたら。本当に規格外だな…。…まぁいい、それではよろしく頼む」
コンラッドはそう言うと、テントへと戻っていった。食事の片付けをフィン達がしてくれてる間、チカに魔法を頼んでおく。
「アルスさん、片付け終わりましたよ」
「お、ありがと。んじゃー、お前らもさっさと寝ときなよ」
「…本当にいいんですか?凄く助かりはしますけど、アルスさん達に負担がかかりませんか?」
「大丈夫だよ。前も魔法張って寝てたからね」
俺の気楽そうな言葉にフィンは少しだけ微笑む。
「ならお言葉に甘えますね。敵が来たら教えてください」
「その前にやっつけているから大丈夫さ」
俺の言葉を聞いたフィンはテントへと戻っていく。チカも戻ってきたので、テントを取り出し皆を寝かせる。俺の隣を取り合って一悶着あったが、結局前回と同じ場所で寝る事となった。
----そして、夜が明ける。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「しっかし、何にも出なかったなー。やっぱアレで全部だったんだな」
街へ戻る途中、コンラッドに話しかける。
「うむ…。確認出来なかったので、根城にしていた魔物は全て討伐したのだろうな」
「まぁ、昨日だけじゃ判断は出来ないもんな…」
「ポーロ殿からも話を聞いておこう。とりあえず、オアシスは安全になったと伝えてからな」
「後日、また現れたりしたら俺達が行くよ」
「その時はよろしく頼む。……さて、帰ったらお前達のランクアップの書類を書かないとな」
…ああ、確かそんな事言ってたな。『美食家』の件ですっかり忘れてたよ!
「あー…Dにランクアップだったっけ?」
「D+だ。早くCにあげたいんだがな…」
そんな事言われても、そっちの事情はわからんからなぁ…。それよりも、早く街の住人に顔を売っておかないとな!
「アルスさん、おめでとうございます。こんなに早くランクアップなんて、サガンでの最速記録じゃないですか?」
「そうだな。俺がギルマスになってからは初めての事だ。……辺境伯様にも言っておかなければな」
何やら政治臭い会話が続きそうなので、その場からそっと離れ、チカ達と合流する。
「……お帰りなさい。アルス様」
「……お帰り」
なんだかチカ達が冷たい。俺なんかしたっけ?
「お、おう、ただいま。……なんで不機嫌なの?」
「……さぁ?別に怒ってなんかいませんわ」
で た よ 。俺の嫌いな会話No.1のやつ。こういうのって大概めんどくさいんだよな!
「いやいや、怒ってるだろ…。俺なんかした?」
「……自分の胸に聞いてみるといい」
ダメだ。コイツら理由を話さないぞ?……自分の胸に聞いてみろって言われても、思いつかないんだよなぁ…。
「……ローリィ。なんでアイツら怒ってんの?理由知ってる?」
無愛想なチカ達とは違い、普段通りの笑顔を見せているローリィに話しかける。
「んー……わかんないっ!」
あらら、ローリィも知らないのか…。誰か知ってる奴いないかなー?
フィンにでも聞いてみようと、コンラッド達の所に向かおうとした時、ローリィが思い出したかのように話してきた。
「あっ!!そういえば、昨日の夜にチカちゃん達に『ご主人様とデートした話』を聞かれたなー!」
……はっ??デート??何の事??
「その話したら、2人とも凄い顔してたー!!」
「ちょっ、待って!……デートって何の話??」
「昨日魔物を狩りに行った時の話だよー?ご主人様、あたしと散歩したかったって言ってたじゃん!」
……ああー。確かにそれは言ったな。けど、デートって言ってなくね?
「ご主人様と一緒に、夜空が綺麗な所を散歩出来て幸せだったなー!また、デートしようねっ!」
無邪気な笑顔を見せるローリィとは反対に俺は物凄く険しい表情になった。
(ああああああ。アレはローリィ的にはデートだったのか…。それをどっちかに言ったんだな…。…なるほど。そういう事か…)
「お、おう…機会があったらな…」
不機嫌になっている理由がわかっちゃったので、おずおずとチカ達の元へと向かう。先程見た時は不機嫌に見えたのだが、今では般若の様に見える。
「あ、あのー…チカさん…ナナさん…?」
「「………………」」
む、無言だ。怖すぎる!!
「そのー…なんて言えばいいか…す、すいません…」
「「……………………」」
ヒィッ!!目付きが鋭くなった!!
俺を冷たく睨んでいたチカ達だったが、溜息を吐くと、チカが口を開いてくれた。
「……アルス様。私達がなぜ怒っているのかわかりましたか?」
「は、はひぃ!…ローリィと散歩したからです!!」
「……あ゛?」
うおおおおおおおお!ナナの凄み方マジ怖えええええ!!
「……散歩ではなく『デート』と聞きましたけど?」
「い、いや、俺は散歩のつもりだったんだよ?それをローリィが勘違いしちゃったみたいでさ…」
「……ふーん」
ヤバいヤバい!!何か正解のルートは無いか!?このままではヤバい!!
「んもー!!チカちゃん達怒りすぎ!!ご主人様困ってるじゃんか!」
泣きそうになっている俺を助けてくれた女神はローリィだった。
「…あら?何か用ですか?」
チカの冷たい言葉にローリィは肩をすくめると、俺の耳元で囁く。
「ご主人様…チカちゃん達は自分もデートして欲しいんだよ。あたしだけデートしたってのが許せないんだよきっと!」
…ええー?そういうことなの??本当にそのルートで間違いない?
「そ、そうなのか?」
「そうだと思うよ?あたしだってそう思うし!」
「……ゴホンっ!何をヒソヒソと話をしているのかしら?」
「……仲が良いけど、そういうの良くないと思う」
アカン。般若を通り越したバケモンがいる。…ええいっ!ローリィを信じるしかないっ!!
「あー……ローリィとデートしたのは悪かった。…それでさ、街に帰ったら一緒に食べ歩きとかしないか?」
「「……………………………」」
あれ?違ったのか?……ローリィ!!話が違うぞ!!
「ご主人様…『デート』って言わないと…」
「もも、勿論、デートをな!チカと俺、ナナと俺って感じで!」
「…本当にですか?」
「2人っきりか?」
「う、うん!そりゃデートだからな!」
チカ達は顔を見合わせると、笑顔で振り返った。
「約束ですからね!!!」
「…嘘ついたら殲滅魔法だから」
……ふぅーーー。どうやら生存ルートを選んだ様だな。生きた心地がしなかったよ……。ってかさ、これって『忠誠心』とは別物じゃね??
約束は必ず守ると2人に誓うと、チカ達はご機嫌になり普段通りに戻ってくれた。何故かコンラッドが生暖かい目でこちらを見ていたのだが、訳が分からない。
そんなこんなで、俺の精神を生贄に捧げながら、俺達一行はサガンの街へ戻るのであった。
「ガノンよ。進捗の方はどうだ?」
「ハッ!奴等は上手く餌に引っかかっているようです!…しかし、依然中に入ることが出来ず、思うようには進んでおりません!」
薄暗く赤い光が差し込む部屋にて、男2人が会話をしている。1人は椅子に深々と座り、もう1人は片膝をつき、頭を下げている。
「……そうか、やはり予定通りとはいかぬものだな。……まぁ良い。まだ時間はあるのだ。じっくりと機会を伺い、タイミングを逃すな。それまでは餌をばら撒き、注意を背けておけ」
「ハッ!畏まりました!」
膝をついていた男が部屋から出ていくと、残っている男が1人呟く。
「…忌々しい奴等め。計画が成功次第、生き残った奴等は全て消し去ってくれるわ…」
邪悪な笑みと共に、男の薄気味悪い声は部屋へと溶けていくのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
調理した物を持った時、聞き覚えのある懐かしい音楽が俺の脳内に響き渡る。
(は?なんだっけこれ?……レベルアップ音?いや、近いぞ。なんだっけなー…)
肉を持ったまま記憶の海を彷徨う。しばらくして、1つの記憶が見つかった。
「---ッ!ジョブ習得音!!」
慌てて肉を調理台に置き、ステータスを開く。すると、『調理師』と『狩人』の間に『美食家』というジョブが見つかった。
(なんだ…これ?こんなのゲームには無かったぞ?)
ひとまず、『美食家』をタップし内容を見てみると『上級職業』と書かれている。中身の方はまだ???ばっかりだが、Lv1の項目に目を見開く。
(『一般』ってなんだ??まじでどういう意味なの??)
残念ながら詳しい詳細は書かれておらず、謎だけが残る。とりあえず、この『美食家』というジョブに変更し、チカ達の元へと向かう。
「すまん、遅くなった!」
「アルス様、どうかしましたか?先程、調理台の前で棒立ちしていましたが…」
チカが心配そうに声をかけてくれる。ナナ達も同じ気持ちなのか、俺を見つめている。
「ああ…さっきなんか新しいジョブが出てきてさ…。それをちょっと見てたんだ」
チカ達に先程出たばっかりのジョブについて話してみたが、どうやら何も分からないらしい。しかし、1人だけ思い当たる者がいた。
「…マスター。ボクもそれ持ってるかも」
「え?本当か?ちょっと見てもいい?」
ナナから了承を貰い、ナナのステータスを開く。すると、俺と同じ場所に『美食家』というジョブが出ていた。チカ達のを見てみるが、『美食家』というジョブは無かった。
(なぜナナと俺だけ?ローリィはまだしも、チカが出てないと言うことは何か理由があるはず)
理由を探そうとするが、少し時間がかかる。今考えるとチカ達が心配するかもしれないので、後回しにしておく。
「とりあえず、宿屋で考えよう。…ナナ、ありがとな」
「ボク、役に立った?」
「ああ、どうやら俺とナナだけ新しいジョブが出てるみたいだ。理由はまだわかんないけど、鍵にはなりそうだよ」
「そう。良かった。………マスターとお揃い」
最後の方は小さな声だったので聞こえなかったが、役に立ったのは事実だ。お礼として撫でるのは忘れない。
俺達が話している間、コンラッド達はそれぞれ肉を焼き食事をしていた。周囲には良い匂いが広がり、食欲をそそる。
「アルスさん達の分、焼いて置きました!少し焼き過ぎかも知れませんが、これが1番美味しい状態だと思います!」
フィンが俺達の分を焼いてくれてたらしく、それを手渡してくれる。……これ焦げまくりじゃね?
全体的に炭化しているように思えたが、それは見た目だけだったらしく、チラリとコンラッドの肉を見ると微かに焼けた肉の色が見えた。
チカ達は焦げた部分を剥がして食べていたので、それを見習って食べる事にした。
(別に食べなくてもいいんだけどなぁ…。でも渡されたからには食べないとおかしいもんな…)
焦げを剥がし、肉を噛む。口の中に調味料と肉汁が広がり、懐かしい味がした。
(あー……焼肉っぽい味だ。ちょっと調味料が強い感じだけど、これはこれで美味しいな。ってか、狼ってこんな味なんだな…)
もぐもぐと無口で肉を頬張っていく。噛むと旨味が出て、とても美味しく感じる。
…………美味しいだと!?えっ?は?ちょっと待て!
驚いて肉を飲み込んだ俺は、喉に引っ掛けてしまう。
「----------!」
「だ、大丈夫ですか??アルス様、水です!」
チカから水を貰い一気に飲み干す。塊が食道をゆっくり落ちていくのがわかる。
「ぶはーーーっ!…し、死ぬかと思った…」
口をぬぐい、串に刺してある肉を見つめる。その様子を不思議そうにコンラッド達も見ていた。
「どうしたんですか?…や、やっぱり焦がし過ぎてました??」
「い、いや…思ったより弾力があってな…。ちょっと驚いちゃって…」
…驚いたのは事実だ。だが、内容は違う。その事に思案を巡らせながら、また肉を頬張る。
(…やはり味がする。肉そのものではなく、調味料の味もする。……しかし、何故?)
噛み締めながら思考を重ねる。充分に咀嚼し終えた頃、結論に至る。
(原因として考えられるのは新しいジョブ、『美食家』だろうな。アレに変更してから味が分かったし、まず間違いは無いだろう…。街に帰ったら実験してみるか。『美食家』の有無で変わるかどうかだ)
帰ってからする事が決まったので、俺は食事を楽しむ事に決めた。何せ、味がわかるってだけで、色褪せていた食事がこんなにも素晴らしく感じるからな。『食べる事は幸せ』とはまさにこの事だろう。
「…旨いなぁ。食べるって幸せだわ…」
「マスター。そんなに美味しいのか?」
蕩けきった顔をしていると、ナナが無表情で声をかけてきた。
「ああ、旨いよ。自分で作ったから尚更旨く感じるよ」
「そう……」
ん?微かにだが、ナナが悲しそうな表情しているな。………ああ、これはアレですね?
「でもまぁ、ナナが作ってくれた料理の方が美味しかったな!」
「ッ!…今度また作る」
……ふふふ、正解ルートだったようだな。さすが俺。ほら、ナナも少し口元緩んでるし、間違いないな。
「……またナナにリードされちゃったわ」
「…あたしも料理上手なりたいなぁ。……あ、でもいいや!あたしご主人様とデート出来たし!」
「ええええっ!?どういう事!?ねぇねぇ!!」
何やらチカ達が騒がしいが、それよりも食事が優先だ!
3本目を食べ終わった頃、コンラッドが野営について話しかけてきた。
「食事中すまんな、そろそろ魔物達が出る時間帯だ。見張りを交代で立てようと思うのだが…」
「ああ、見張りね…。別に俺らがやってもいいよ?」
「…いいのか?まぁ、こっちからすれば助かるのだが…」
「チカに頼んで『警報』と『探知』を使うから、いいよ」
俺の言葉にコンラッドは目を見開いた。しかし、深い溜息と共に言葉を繋ぐ。
「……全くお前らときたら。本当に規格外だな…。…まぁいい、それではよろしく頼む」
コンラッドはそう言うと、テントへと戻っていった。食事の片付けをフィン達がしてくれてる間、チカに魔法を頼んでおく。
「アルスさん、片付け終わりましたよ」
「お、ありがと。んじゃー、お前らもさっさと寝ときなよ」
「…本当にいいんですか?凄く助かりはしますけど、アルスさん達に負担がかかりませんか?」
「大丈夫だよ。前も魔法張って寝てたからね」
俺の気楽そうな言葉にフィンは少しだけ微笑む。
「ならお言葉に甘えますね。敵が来たら教えてください」
「その前にやっつけているから大丈夫さ」
俺の言葉を聞いたフィンはテントへと戻っていく。チカも戻ってきたので、テントを取り出し皆を寝かせる。俺の隣を取り合って一悶着あったが、結局前回と同じ場所で寝る事となった。
----そして、夜が明ける。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「しっかし、何にも出なかったなー。やっぱアレで全部だったんだな」
街へ戻る途中、コンラッドに話しかける。
「うむ…。確認出来なかったので、根城にしていた魔物は全て討伐したのだろうな」
「まぁ、昨日だけじゃ判断は出来ないもんな…」
「ポーロ殿からも話を聞いておこう。とりあえず、オアシスは安全になったと伝えてからな」
「後日、また現れたりしたら俺達が行くよ」
「その時はよろしく頼む。……さて、帰ったらお前達のランクアップの書類を書かないとな」
…ああ、確かそんな事言ってたな。『美食家』の件ですっかり忘れてたよ!
「あー…Dにランクアップだったっけ?」
「D+だ。早くCにあげたいんだがな…」
そんな事言われても、そっちの事情はわからんからなぁ…。それよりも、早く街の住人に顔を売っておかないとな!
「アルスさん、おめでとうございます。こんなに早くランクアップなんて、サガンでの最速記録じゃないですか?」
「そうだな。俺がギルマスになってからは初めての事だ。……辺境伯様にも言っておかなければな」
何やら政治臭い会話が続きそうなので、その場からそっと離れ、チカ達と合流する。
「……お帰りなさい。アルス様」
「……お帰り」
なんだかチカ達が冷たい。俺なんかしたっけ?
「お、おう、ただいま。……なんで不機嫌なの?」
「……さぁ?別に怒ってなんかいませんわ」
で た よ 。俺の嫌いな会話No.1のやつ。こういうのって大概めんどくさいんだよな!
「いやいや、怒ってるだろ…。俺なんかした?」
「……自分の胸に聞いてみるといい」
ダメだ。コイツら理由を話さないぞ?……自分の胸に聞いてみろって言われても、思いつかないんだよなぁ…。
「……ローリィ。なんでアイツら怒ってんの?理由知ってる?」
無愛想なチカ達とは違い、普段通りの笑顔を見せているローリィに話しかける。
「んー……わかんないっ!」
あらら、ローリィも知らないのか…。誰か知ってる奴いないかなー?
フィンにでも聞いてみようと、コンラッド達の所に向かおうとした時、ローリィが思い出したかのように話してきた。
「あっ!!そういえば、昨日の夜にチカちゃん達に『ご主人様とデートした話』を聞かれたなー!」
……はっ??デート??何の事??
「その話したら、2人とも凄い顔してたー!!」
「ちょっ、待って!……デートって何の話??」
「昨日魔物を狩りに行った時の話だよー?ご主人様、あたしと散歩したかったって言ってたじゃん!」
……ああー。確かにそれは言ったな。けど、デートって言ってなくね?
「ご主人様と一緒に、夜空が綺麗な所を散歩出来て幸せだったなー!また、デートしようねっ!」
無邪気な笑顔を見せるローリィとは反対に俺は物凄く険しい表情になった。
(ああああああ。アレはローリィ的にはデートだったのか…。それをどっちかに言ったんだな…。…なるほど。そういう事か…)
「お、おう…機会があったらな…」
不機嫌になっている理由がわかっちゃったので、おずおずとチカ達の元へと向かう。先程見た時は不機嫌に見えたのだが、今では般若の様に見える。
「あ、あのー…チカさん…ナナさん…?」
「「………………」」
む、無言だ。怖すぎる!!
「そのー…なんて言えばいいか…す、すいません…」
「「……………………」」
ヒィッ!!目付きが鋭くなった!!
俺を冷たく睨んでいたチカ達だったが、溜息を吐くと、チカが口を開いてくれた。
「……アルス様。私達がなぜ怒っているのかわかりましたか?」
「は、はひぃ!…ローリィと散歩したからです!!」
「……あ゛?」
うおおおおおおおお!ナナの凄み方マジ怖えええええ!!
「……散歩ではなく『デート』と聞きましたけど?」
「い、いや、俺は散歩のつもりだったんだよ?それをローリィが勘違いしちゃったみたいでさ…」
「……ふーん」
ヤバいヤバい!!何か正解のルートは無いか!?このままではヤバい!!
「んもー!!チカちゃん達怒りすぎ!!ご主人様困ってるじゃんか!」
泣きそうになっている俺を助けてくれた女神はローリィだった。
「…あら?何か用ですか?」
チカの冷たい言葉にローリィは肩をすくめると、俺の耳元で囁く。
「ご主人様…チカちゃん達は自分もデートして欲しいんだよ。あたしだけデートしたってのが許せないんだよきっと!」
…ええー?そういうことなの??本当にそのルートで間違いない?
「そ、そうなのか?」
「そうだと思うよ?あたしだってそう思うし!」
「……ゴホンっ!何をヒソヒソと話をしているのかしら?」
「……仲が良いけど、そういうの良くないと思う」
アカン。般若を通り越したバケモンがいる。…ええいっ!ローリィを信じるしかないっ!!
「あー……ローリィとデートしたのは悪かった。…それでさ、街に帰ったら一緒に食べ歩きとかしないか?」
「「……………………………」」
あれ?違ったのか?……ローリィ!!話が違うぞ!!
「ご主人様…『デート』って言わないと…」
「もも、勿論、デートをな!チカと俺、ナナと俺って感じで!」
「…本当にですか?」
「2人っきりか?」
「う、うん!そりゃデートだからな!」
チカ達は顔を見合わせると、笑顔で振り返った。
「約束ですからね!!!」
「…嘘ついたら殲滅魔法だから」
……ふぅーーー。どうやら生存ルートを選んだ様だな。生きた心地がしなかったよ……。ってかさ、これって『忠誠心』とは別物じゃね??
約束は必ず守ると2人に誓うと、チカ達はご機嫌になり普段通りに戻ってくれた。何故かコンラッドが生暖かい目でこちらを見ていたのだが、訳が分からない。
そんなこんなで、俺の精神を生贄に捧げながら、俺達一行はサガンの街へ戻るのであった。
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リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!


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