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013話
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「うぉー人がめっちゃ多いな…。いつもこんな感じなのか?」
「いや…いつも以上に人が多い…。何かあったのか?」
ドーンが掻き分けるように歩いて行く。俺達もその後を追うように人混みに入っていく。
「おーい、おやっさん!今日は人が多いな!何かあったのか!?」
厨房にドーンが声を掛けると、スキンヘッドのおっさんが返事を返す。
「ああん!?…なんだ、お前か。今日から新メニューが入ってんだ!お陰で大忙しさ!」
怒鳴り声を出しながらも、せっせと手を動かしている。おっさんだけでなく、厨房にいる全員が忙しそうに走り回ってる。
「おお!そういやそうだったな!じゃ、とりあえず席に座っとくぜ!」
「おい、ドーン!今は上しか席が空いてねーぞ!後で注文取りに行くから待っててくれ!」
「はいよ!」
厨房のおっさんにドーンは返事を返し、俺達を二階へと連れて行く。螺旋階段を登ると、一階よりは少し少ない人達が食事をしている。
手前の方に席は空いていたのだが、奥の席に俺達を連れて行くと、常連ならではの発言をしてくれた。
「へへ、アルスさん。このテーブルはな、常連が満席の時よく使うんだ。ここに常連が座るのは『暇になったら注文取りに来い』っていう暗黙の了解なのさ。…メシが遅くなるけど、許してくれるかい?」
「別にいいよ、俺は気にしないよ。チカ達はどうだ?」
「構わない」
「あたしもいいよー!」
「さっき食べたので、大丈夫ですわ」
「僕も大丈夫ですよ」
「…悪りぃな。あんまり急がせると、可哀想だからな」
俺はドーンという男に少し好感を覚えた。最初の印象は最悪だったが、元来は優しい男なのだろう。
「ドーン、お前いいヤツだな」
「へっ、俺は兵士団に入る前からこの店にお世話になってるからな。こんくらいは普通だぜ!」
「ドーンさんは、義理とか恩を大事にする人なんですよ。真面目過ぎるのが玉にキズなんですけどね」
「真面目過ぎるとはなんだ!!それが普通だろう!!」
コイツ憎めない性格してんなー。俺も義理や恩は大事にするタイプだし、かなり気に入った!
「だって…真面目過ぎてアルスさん達に迷惑かけたじゃ無いですか」
「うっ……。しかし、アレは
「まぁまぁ、落ち着けって。それに、あの時の話はやめようぜ?」
あの時の話はダメだ。なんでかって?…そりゃ、俺達が悪いからさ!
あの時の話にならないように、俺は慌てて話題を変える。
「そ、そういやさ、ドーンは常連なんだろ?おすすめのメニューなんかを教えてくれよ!」
「おすすめか…。この店は何食べても旨いんだよなぁ…。何か食べたい物とかあるのか?」
「はい!!あたし肉がいい!」
「ボクは牛肉。肉厚のステーキがいい」
「私もステーキが食べたいわ」
…ほんと肉ばっかりだなコイツら。
「お前ら…。野菜とかも食べないと、肌が荒れるぞ?女の子なんだから、そういうの気にした方がいいぞ」
俺の言葉にチカ達はヒソヒソと会話をする。周りが騒がしい為、全く聞こえない。
「…ご主人様ぁ。肌が綺麗な方がいいの?」
「ん?まぁ、汚いよりは綺麗な方がいいな」
再びヒソヒソ話に戻るローリィ。…女性は綺麗な方がいいよな?
チカ達の謎行動に少し悩んでいると、ドーンがおずおずと尋ねてきた。
「あ、あのよう…アルスさんって本当に何者なんだい?」
「え?さっき言っただろ?『亡国の冒険者』だって」
話は随分と前に戻るが、コンラッドに出身地を聞かれた事がある。正直な話をしてみても、信じては貰えないだろうと思い適当に嘘を言った。『魔王国の近くにあった小さな国出身で、侵攻があったのでここに逃げてきた』というアホみたいな嘘だ。
しかし、コンラッドには何か思い当たる節があったらしく、1人納得していた。詳しく追求されなかったので俺はこの嘘を貫いている。
「いや、それは聞いたんだが…。チカ殿達の対応がな…」
「僕もそれ思ってました。『ご主人様』だったり『マスター』だったりと呼び名が違うので…」
…どうしよう。俺の趣味で呼ばせてるなんて言ったら変な目で見られそうだ。でも良い考えが浮かばないぞ…。
「なぁ、もしかしてアルスさんは上の地位にいたのか?例えば亡国の王族とかさ」
「…なるほど。その線はあり得そうですね…」
……いや、そんな事はあり得ません!亡国ってのも嘘だし、俺の趣味なんですよー!!!
すぐさま否定しようとしたのだが、俺よりもチカが口を開くのが早かった。
「アルス様は私達にとって『神様』ですから。王族よりも上ですよ」
「か、神様!?どういう事ですか?」
「そのままの意味。ボク達はマスターにしか従わない」
「ご主人様以上の人は居ないもんねー!」
ぬわあああああ!確かにそうだけど!そうだ け ど !
タイミングが悪いよ!…ほら見ろ。ドーン達の顔が引きつってるじゃんかぁ…
「し、慕われているんですね…」
「慕われてるのか…?それ以上に感じるぞ?」
コソコソと話をするドーン達に、訂正しようと口を開くがタイミングよく店員さんが注文を取りに来た。
「遅くなりましたー!注文をお伺いしますっ!」
メニューが決まってないので、ドーンに任せる事にした。常連らしいし、美味しい物を知ってるだろう。チカ達の希望にそって次々に注文し、店員は一階へと降りていった。
料理が来る間、先程の話は触れずに違う話題で盛り上がっていた。
聞く所によると、ドーンは既婚者らしく、愛妻家らしい。何でも、猛烈にアピールしてくる嫁さんに根負けしたドーンが渋々付き合い始めたらしく、月日を重ねるうちに段々と好きになっていったとの事。しかも嫁さんは超美人で人当たりの良い人らしく、フィンも食事などにお呼ばれするみたいだ。
この話を照れながらもドーンが話していたが、意外と食い付きが良かったのがチカ達だ。熱心にドーンの話を聞き、嫁さんに会いたいとまで言う始末。ドーンも嫁さんを褒められたのが嬉しかったのか二つ返事で了承していた。
チカ達がそんな事を言うのを初めて見たので、俺はかなり驚いたのだが、仲良くなるって事はいい事だと思い尊重しておいた。…『人工知能』とやらが稼働しているのかも知れないしね。
その後は嫁さんの何処に惹かれたのか等の質問に答えていたが、料理が来た事で中断となった。次々と机が埋まって行き、全部揃ったのを確認してから、食事を始めるのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「いやー、食った食った。すげー美味かったぜ!」
(ま、味しないんですけどね!!!)
「だろー?この街1番の店だとオレは思ってるんだ」
「あら?ドーンさんの1番は奥様の手料理では無いのですか?」
「……へへっ、それは比べられねぇ物だぜ、チカさん」
食事中にチカ達とドーンの仲は良くなった。フィンも積極的に話をしていたので、楽しそうだった。…ローリィと話す時は顔赤かったけど。
店を出た俺達は、フィン達と一緒に街を歩き始める。道中、この街に着いて詳しく教えてもらった。
ここは辺境の地らしく、観光地などは無いそうだ。治安は辺境伯が優秀だそうで、スラム街なども無い。就職も兵士として雇うらしく、失業率は極少数らしい。兵士を引退しても、冒険者指南役や冒険者として働く者も居るため、バランスが取れているみたいだ。
「はー、なるほどなぁ。だから、武器屋や食料品が多いのか」
「魔物の肉などはこの街にとって貴重な食料ですし、武器の素材にもなりますからね」
「鍛冶屋とかもあるのか?」
「ええ、3軒ほど。中でも『ガンテツ』は最高峰の職人がいますよ。値段もそれなりに高いですが」
「アルスさん、なんか武器作りたいのか?…腰の物でも充分だと思うがな」
「剣の切れ味が気になるからな。冒険者としては当たり前だろ?」
…嘘だけどね!!課金武器だからそんなの必要無いけど、こういう嘘も必要だと思うの!
「確かにそうだな。んじゃ、鍛冶屋から行くか!」
ドーンに案内される事15分、見るからに『鍛冶屋』って感じの建物が見えてきた。
「あそこが『ガンテツ』だ。職人が大勢いるが、全員頑固だから口調には気をつけろよ?中に入るかい?」
「そうだな…。ちょっと興味あるし、覗いてみるか」
ドーンに連れられ、中に入った俺達は熱気と騒音に圧倒される。最高峰と言われるだけあって部屋には職人独特の雰囲気がある。まさに、ファンタジーな雰囲気の中、俺はドーンに親方を紹介して貰った。この出会いが運命的なものになるとは、思いもよらないのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
ワシはサガンの鍛冶屋を営んでいる『ガンテツ』という。鍛冶一筋80年、どんな金属からでも武器を作れる自信がある。ワシの店には数多の職人が日々研鑽を積んでおり、この街の最高峰と呼ばれるまでに至った。
だが、最近つまらなくなってきたのじゃ。毎日毎日、同じような素材、武器の作成や研磨に追われ飽きがきてしまったんじゃ。……仕方ない事なのじゃろう。王都に行けば、多数の金属を扱えるじゃろうが、店を捨てるような事は出来ん。
それに、ワシはドワーフ族。鍛冶以外はからっきしなんじゃ。冒険者として生きる事も出来ぬし、このままこの街で朽ち果てていくのじゃろう。
…何やら客が来たようじゃ。あの顔は…ドーンの小僧じゃな。…おや?見慣れぬ顔が見えるが、また武器の研磨じゃろうか?
…まぁ良い。飽きが来たとはいえ、客は客じゃ。最高の逸品に仕上げてやろう。
こうして、ワシはいつもの仕事を受けるべく、ドーンの元へと向かうのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「…なんじゃ?小僧。また武器を壊したのか?」
「壊してはいねーよ!またとか言うな!!」
「お前はいつも壊してはワシの所に来るではないか」
「今日はちげーよ!オレはガン爺を紹介に来たのさ。…アルスさん、この人が親方の『ガンテツ』さんだ」
ドーンに紹介されたのは筋肉隆々の男性だった。おそらくはドワーフだと思う。なにせ、見た目がゲームキャラのまんまだからな。
「初めまして、冒険者のアルスって言います。これからお世話になると思うのでよろしくお願いします」
「うむ、ワシはガンテツじゃ。みんなからは『ガン爺』と呼ばれておるよ。…それで?武器の研磨にでも来たんか?」
「いえ、ドーンに紹介して貰おうと思いまして。面通しは大事ですからね」
「ガハハッ。確かにそうじゃな。冒険者にとって鍛冶屋とは大事な相棒じゃからな」
豪胆な笑い声をあげると、俺をジロジロと見始めた。…この街で出会う人はみんな露骨に見て来るよなー。
「…お主、一体何者なんじゃ?」
ガンテツが鋭い目付きで俺に問いかけてきた。チカ達が反応しないのをみると、敵意は無いみたいだな。
「駆け出しの冒険者ですよ?」
間違った事は言ってないよね?…近々ランクアップするみたいだけど。
「ハッ。その装備で駆け出しじゃと?嘘をつくでない」
「本当ですよ?この前ギルドに登録したばっかりですし」
「ガン爺、アルスさんは嘘言ってないぜ?」
俺の言葉にドーンも賛同してくれる。それを聞いたガンテツが、深い溜息を吐きながら口を開く。
「…その武器、鎧含めて駆け出しが装備するものでは無いわ。ワシの師匠さえも見た事は無いじゃろうて」
「いや…いつも以上に人が多い…。何かあったのか?」
ドーンが掻き分けるように歩いて行く。俺達もその後を追うように人混みに入っていく。
「おーい、おやっさん!今日は人が多いな!何かあったのか!?」
厨房にドーンが声を掛けると、スキンヘッドのおっさんが返事を返す。
「ああん!?…なんだ、お前か。今日から新メニューが入ってんだ!お陰で大忙しさ!」
怒鳴り声を出しながらも、せっせと手を動かしている。おっさんだけでなく、厨房にいる全員が忙しそうに走り回ってる。
「おお!そういやそうだったな!じゃ、とりあえず席に座っとくぜ!」
「おい、ドーン!今は上しか席が空いてねーぞ!後で注文取りに行くから待っててくれ!」
「はいよ!」
厨房のおっさんにドーンは返事を返し、俺達を二階へと連れて行く。螺旋階段を登ると、一階よりは少し少ない人達が食事をしている。
手前の方に席は空いていたのだが、奥の席に俺達を連れて行くと、常連ならではの発言をしてくれた。
「へへ、アルスさん。このテーブルはな、常連が満席の時よく使うんだ。ここに常連が座るのは『暇になったら注文取りに来い』っていう暗黙の了解なのさ。…メシが遅くなるけど、許してくれるかい?」
「別にいいよ、俺は気にしないよ。チカ達はどうだ?」
「構わない」
「あたしもいいよー!」
「さっき食べたので、大丈夫ですわ」
「僕も大丈夫ですよ」
「…悪りぃな。あんまり急がせると、可哀想だからな」
俺はドーンという男に少し好感を覚えた。最初の印象は最悪だったが、元来は優しい男なのだろう。
「ドーン、お前いいヤツだな」
「へっ、俺は兵士団に入る前からこの店にお世話になってるからな。こんくらいは普通だぜ!」
「ドーンさんは、義理とか恩を大事にする人なんですよ。真面目過ぎるのが玉にキズなんですけどね」
「真面目過ぎるとはなんだ!!それが普通だろう!!」
コイツ憎めない性格してんなー。俺も義理や恩は大事にするタイプだし、かなり気に入った!
「だって…真面目過ぎてアルスさん達に迷惑かけたじゃ無いですか」
「うっ……。しかし、アレは
「まぁまぁ、落ち着けって。それに、あの時の話はやめようぜ?」
あの時の話はダメだ。なんでかって?…そりゃ、俺達が悪いからさ!
あの時の話にならないように、俺は慌てて話題を変える。
「そ、そういやさ、ドーンは常連なんだろ?おすすめのメニューなんかを教えてくれよ!」
「おすすめか…。この店は何食べても旨いんだよなぁ…。何か食べたい物とかあるのか?」
「はい!!あたし肉がいい!」
「ボクは牛肉。肉厚のステーキがいい」
「私もステーキが食べたいわ」
…ほんと肉ばっかりだなコイツら。
「お前ら…。野菜とかも食べないと、肌が荒れるぞ?女の子なんだから、そういうの気にした方がいいぞ」
俺の言葉にチカ達はヒソヒソと会話をする。周りが騒がしい為、全く聞こえない。
「…ご主人様ぁ。肌が綺麗な方がいいの?」
「ん?まぁ、汚いよりは綺麗な方がいいな」
再びヒソヒソ話に戻るローリィ。…女性は綺麗な方がいいよな?
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「え?さっき言っただろ?『亡国の冒険者』だって」
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しかし、コンラッドには何か思い当たる節があったらしく、1人納得していた。詳しく追求されなかったので俺はこの嘘を貫いている。
「いや、それは聞いたんだが…。チカ殿達の対応がな…」
「僕もそれ思ってました。『ご主人様』だったり『マスター』だったりと呼び名が違うので…」
…どうしよう。俺の趣味で呼ばせてるなんて言ったら変な目で見られそうだ。でも良い考えが浮かばないぞ…。
「なぁ、もしかしてアルスさんは上の地位にいたのか?例えば亡国の王族とかさ」
「…なるほど。その線はあり得そうですね…」
……いや、そんな事はあり得ません!亡国ってのも嘘だし、俺の趣味なんですよー!!!
すぐさま否定しようとしたのだが、俺よりもチカが口を開くのが早かった。
「アルス様は私達にとって『神様』ですから。王族よりも上ですよ」
「か、神様!?どういう事ですか?」
「そのままの意味。ボク達はマスターにしか従わない」
「ご主人様以上の人は居ないもんねー!」
ぬわあああああ!確かにそうだけど!そうだ け ど !
タイミングが悪いよ!…ほら見ろ。ドーン達の顔が引きつってるじゃんかぁ…
「し、慕われているんですね…」
「慕われてるのか…?それ以上に感じるぞ?」
コソコソと話をするドーン達に、訂正しようと口を開くがタイミングよく店員さんが注文を取りに来た。
「遅くなりましたー!注文をお伺いしますっ!」
メニューが決まってないので、ドーンに任せる事にした。常連らしいし、美味しい物を知ってるだろう。チカ達の希望にそって次々に注文し、店員は一階へと降りていった。
料理が来る間、先程の話は触れずに違う話題で盛り上がっていた。
聞く所によると、ドーンは既婚者らしく、愛妻家らしい。何でも、猛烈にアピールしてくる嫁さんに根負けしたドーンが渋々付き合い始めたらしく、月日を重ねるうちに段々と好きになっていったとの事。しかも嫁さんは超美人で人当たりの良い人らしく、フィンも食事などにお呼ばれするみたいだ。
この話を照れながらもドーンが話していたが、意外と食い付きが良かったのがチカ達だ。熱心にドーンの話を聞き、嫁さんに会いたいとまで言う始末。ドーンも嫁さんを褒められたのが嬉しかったのか二つ返事で了承していた。
チカ達がそんな事を言うのを初めて見たので、俺はかなり驚いたのだが、仲良くなるって事はいい事だと思い尊重しておいた。…『人工知能』とやらが稼働しているのかも知れないしね。
その後は嫁さんの何処に惹かれたのか等の質問に答えていたが、料理が来た事で中断となった。次々と机が埋まって行き、全部揃ったのを確認してから、食事を始めるのであった。
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「いやー、食った食った。すげー美味かったぜ!」
(ま、味しないんですけどね!!!)
「だろー?この街1番の店だとオレは思ってるんだ」
「あら?ドーンさんの1番は奥様の手料理では無いのですか?」
「……へへっ、それは比べられねぇ物だぜ、チカさん」
食事中にチカ達とドーンの仲は良くなった。フィンも積極的に話をしていたので、楽しそうだった。…ローリィと話す時は顔赤かったけど。
店を出た俺達は、フィン達と一緒に街を歩き始める。道中、この街に着いて詳しく教えてもらった。
ここは辺境の地らしく、観光地などは無いそうだ。治安は辺境伯が優秀だそうで、スラム街なども無い。就職も兵士として雇うらしく、失業率は極少数らしい。兵士を引退しても、冒険者指南役や冒険者として働く者も居るため、バランスが取れているみたいだ。
「はー、なるほどなぁ。だから、武器屋や食料品が多いのか」
「魔物の肉などはこの街にとって貴重な食料ですし、武器の素材にもなりますからね」
「鍛冶屋とかもあるのか?」
「ええ、3軒ほど。中でも『ガンテツ』は最高峰の職人がいますよ。値段もそれなりに高いですが」
「アルスさん、なんか武器作りたいのか?…腰の物でも充分だと思うがな」
「剣の切れ味が気になるからな。冒険者としては当たり前だろ?」
…嘘だけどね!!課金武器だからそんなの必要無いけど、こういう嘘も必要だと思うの!
「確かにそうだな。んじゃ、鍛冶屋から行くか!」
ドーンに案内される事15分、見るからに『鍛冶屋』って感じの建物が見えてきた。
「あそこが『ガンテツ』だ。職人が大勢いるが、全員頑固だから口調には気をつけろよ?中に入るかい?」
「そうだな…。ちょっと興味あるし、覗いてみるか」
ドーンに連れられ、中に入った俺達は熱気と騒音に圧倒される。最高峰と言われるだけあって部屋には職人独特の雰囲気がある。まさに、ファンタジーな雰囲気の中、俺はドーンに親方を紹介して貰った。この出会いが運命的なものになるとは、思いもよらないのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
ワシはサガンの鍛冶屋を営んでいる『ガンテツ』という。鍛冶一筋80年、どんな金属からでも武器を作れる自信がある。ワシの店には数多の職人が日々研鑽を積んでおり、この街の最高峰と呼ばれるまでに至った。
だが、最近つまらなくなってきたのじゃ。毎日毎日、同じような素材、武器の作成や研磨に追われ飽きがきてしまったんじゃ。……仕方ない事なのじゃろう。王都に行けば、多数の金属を扱えるじゃろうが、店を捨てるような事は出来ん。
それに、ワシはドワーフ族。鍛冶以外はからっきしなんじゃ。冒険者として生きる事も出来ぬし、このままこの街で朽ち果てていくのじゃろう。
…何やら客が来たようじゃ。あの顔は…ドーンの小僧じゃな。…おや?見慣れぬ顔が見えるが、また武器の研磨じゃろうか?
…まぁ良い。飽きが来たとはいえ、客は客じゃ。最高の逸品に仕上げてやろう。
こうして、ワシはいつもの仕事を受けるべく、ドーンの元へと向かうのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「…なんじゃ?小僧。また武器を壊したのか?」
「壊してはいねーよ!またとか言うな!!」
「お前はいつも壊してはワシの所に来るではないか」
「今日はちげーよ!オレはガン爺を紹介に来たのさ。…アルスさん、この人が親方の『ガンテツ』さんだ」
ドーンに紹介されたのは筋肉隆々の男性だった。おそらくはドワーフだと思う。なにせ、見た目がゲームキャラのまんまだからな。
「初めまして、冒険者のアルスって言います。これからお世話になると思うのでよろしくお願いします」
「うむ、ワシはガンテツじゃ。みんなからは『ガン爺』と呼ばれておるよ。…それで?武器の研磨にでも来たんか?」
「いえ、ドーンに紹介して貰おうと思いまして。面通しは大事ですからね」
「ガハハッ。確かにそうじゃな。冒険者にとって鍛冶屋とは大事な相棒じゃからな」
豪胆な笑い声をあげると、俺をジロジロと見始めた。…この街で出会う人はみんな露骨に見て来るよなー。
「…お主、一体何者なんじゃ?」
ガンテツが鋭い目付きで俺に問いかけてきた。チカ達が反応しないのをみると、敵意は無いみたいだな。
「駆け出しの冒険者ですよ?」
間違った事は言ってないよね?…近々ランクアップするみたいだけど。
「ハッ。その装備で駆け出しじゃと?嘘をつくでない」
「本当ですよ?この前ギルドに登録したばっかりですし」
「ガン爺、アルスさんは嘘言ってないぜ?」
俺の言葉にドーンも賛同してくれる。それを聞いたガンテツが、深い溜息を吐きながら口を開く。
「…その武器、鎧含めて駆け出しが装備するものでは無いわ。ワシの師匠さえも見た事は無いじゃろうて」
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